転界録:リムル・テンペスト オラリオ編   作:るにゃは

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こんな短期間でこんなにも見てくれる方が居ることに驚いています。
もしめんどくさくなければ評価も頂けると嬉しいです。

今後も頑張って参ります


第五話「女神の胸に帰る場所」

──オラリオ地下、ダンジョン第3階層。

 

リムルは壁際に身を潜めながら、音を立てずに呼吸を整えていた。視線の先、通路の曲がり角に二体のゴブリンと一体の異常個体らしきコボルトがうろついている。

 

《敵性存在の動きに変化あり。先ほどから一定のパターンを繰り返しており、誘導の可能性を警告》

 

「ふぅん……俺をおびき寄せたいのか?」

 

《その可能性が高いです。第三階層においては稀に知能の高い個体が現れることがあります。過信は禁物》

 

「了解。じゃあ……いつもどおり、手早く終わらせるよ」

 

 

 

リムルは足音一つ立てずに踏み出した。闇の中で彼女の影がすっと流れ、魔物たちの死角を突いて一瞬で距離を詰める。

 

──一閃。

 

短剣の刃が静かにゴブリンの咽喉を裂き、次の瞬間には風刃が発動。コボルトの脚を切断すると、苦痛の叫びすら出る前にリムルの手がその首を断ち落とした。

 

残る一体のゴブリンが気づいたが、リムルが視線を向けたときにはもう遅かった。

 

「おやすみ」

 

短く呟き、背後からの一撃で沈黙させる。戦闘時間、約6秒。被弾なし。魔石も、きれいな形で回収できた。

 

《処理完了。リムル様の動作速度は平均値の4.2倍。敵性存在との反応差は極めて大きいです》

 

「ありがと、シエル。……でも、まだ本気出してないけどね」

 

《承知しております。現状では“冒険者としての信頼構築”が最優先事項と認識しております》

 

「そう。俺は“新参者”で、“普通の冒険者”。それを忘れちゃダメ」

 

 

 

立ち上がり、血のついた短剣を布で拭くと、リムルはそっと壁に背を預けた。ダンジョンの冷気が肌を撫でる。

 

さっきまで戦っていたとは思えないほど静かな空間。深呼吸ひとつ。心の乱れはない。

 

けれど、ほんの少し、胸の奥にざらついた感情があった。

 

 

 

「……シエル。俺さ、やっぱり“生きてる”って感じるの、戦ってる時なんだよな」

 

《それはリムル様が“変化”の中に生きる存在だからです。安定よりも流動を好む傾向が強い》

 

「そっか……それなら、ここも悪くないかもな」

 

 

 

ふと、ーーたちの顔が脳裏に浮かんだ。

 

ーーーー、ーーー、ーーー、ーーー……それに、ーーーーー。みんな今、どうしてるんだろう。俺が突然消えて、あいつら、どれだけ探してるだろう。

 

でも、それを考えたところで、今はどうにもならない。

 

今の自分には“帰る手段”がない。だったら──

 

 

 

《リムル様。思考に感情の波が確認されました。警告:過剰な自己抑制は後の精神的負荷に繋がります》

 

「……大丈夫。ちゃんと分かってるさ。俺がいなくて心配してるやつらのためにも、ここで立ち止まるわけにはいかないからな」

 

 

 

そう言って、リムルは肩の埃を払うように軽く手を払った。

 

そして、すぐに次の通路へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

地上。日が傾き始めたころ、バベルの出入口にひとりの少女が姿を現した。

 

灰銀の髪に蒼色の瞳、小柄な身体に軽装の革鎧。まだ新人と呼ばれるほどの装備と雰囲気──だが、その瞳は確かに生きていた。

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

「リムルっ!」

 

 

 

その声を聞き、飛び出すようにヘスティアが駆け寄ってきた。神の身でありながら、彼女は平然と人混みをかき分けてくる。

 

そして、ずん、と胸に飛び込むように抱きついた。

 

 

 

「もーっ、無事でよかった! ダンジョン、どうだった? ケガはない? ご飯はちゃんと食べた? 水は飲んだ?!」

 

 

 

「ヘスティア、落ち着けって! 俺、そんなにやらかしてないから!」

 

 

 

「でもボク心配で……! 初心者が一人で潜るなんて、やっぱりほんとは止めたかったんだよ……!」

 

 

 

涙をにじませながら見上げてくる女神の瞳に、リムルは照れたように笑って見せた。

 

 

 

「ありがとな、ヘスティア。でも、大丈夫。ちゃんと稼いできたし、無傷だし。……これ、今日の魔石」

 

 

 

リムルは手持ちの袋を差し出す。そこには、形も大きさも整った魔石が十数個。ヘスティアはそれを見て、目を丸くした。

 

 

 

「……え、これ、第一階層じゃなくて、もっと下でしょ!? どうしてそんなに──」

 

 

 

「ふふん、俺、器用だからな?」

 

 

 

「もう、変に自信満々なところも……嫌いじゃないけどさ」

 

 

 

リムルはヘスティアの頭をそっと撫でた。小さな神の髪はさらりとしていて、撫で心地が良い。

 

 

 

「なっ、なに撫でてんのさーっ!」

 

 

 

「いや、可愛いから」

 

 

 

「~~~っ! ボクのこと女神だと思ってないでしょ!!」

 

 

 

そんな他愛もないやり取りを交わしながら、二人はファミリアの本拠へと帰路についた。

 

 

 

新しい世界で、新しい日々が始まっていた。

 

だけど、どこかでリムルは感じていた。

 

──このままじゃ終わらない。

 

──自分がこの世界に飛ばされた理由、それが“偶然”ではないと。

 

そして、その答えはきっと、“この先”にあるのだろう。

 

 

 

「……なあ、シエル」

 

《どうぞ、リムル様》

 

 

 

「今日の戦い、評価するならどのくらい?」

 

《現在の制限状態下における動作効率は98.2%。敵への対処も理想的でした。戦闘評価:Sクラス相当》

 

「……やっぱ、俺って天才かも?」

 

《事実です》

 

 

 

くすくす、と笑いながらリムルは空を見上げた。

 

深まる黄昏の中、小さな胸に確かな決意を灯しながら。

 

──これは、“魔王”としてではなく、“冒険者”としての物語。

 

その始まりは、今ようやく一歩を踏み出したばかりだ。

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