基本お昼の12時投稿ですのでお願いします。
「ふぅ……」
陽の傾いたオラリオの街並みに、リムルは肩の力を抜きつつ歩いていた。
ダンジョン第一層を二往復。魔石の数は計十二個。怪我はなし。
収穫としては上々だが、それ以上に“異世界のダンジョン”というものを五感で確かめられたことが大きい。
「やっぱ、ここのダンジョンは《迷宮》ってより、なんか生き物っぽいよな……」
《同意します。内部環境の再生速度、魔素の循環、構造変化率、いずれも自然発生とは思えません。人工物の可能性が高いです》
「創造主不在って話だけど……いったい誰がこんな化け物空間を作ったんだか」
独り言を呟きながら、リムルはギルド本部がある大通りを抜け、神々のホームが点在する地区──“神月区”へと歩を進めていく。
帰り道のついでにバベルの外周を回り、荷物の少ない路地を抜けていくのは、もう習慣になりつつあった。
と──その途中だった。
「あの、すみません!僕、ファミリアを探してて……!」
どこかから、慌てた少年の声が聞こえた。
(ん……?)
その声の方へと視線を向けると、見慣れた神殿の前──そこには、門の外でうろたえる白髪の少年の姿があった。
年の頃は十四、五歳。全身を包む薄汚れた旅装。擦り切れたマントに、手製と思われるナイフが腰に下げられている。
(旅人か……いや、冒険者志望って感じか?)
目の前の神──派手な衣を纏った男性神が、眉をひそめながら手を払うのが見えた。
「悪いがな、小僧。ウチのファミリアは今、新人をとってねぇの。帰んな」
「そ、そんな……!どこに行っても門前払いで……っ!」
「泣き言は聞かねぇ。強くなりてぇなら、まずは運を鍛えな」
男神は薄く笑いながら、神殿の扉をバタンと閉める。
置いていかれた少年は、肩を落としたまま動かず、俯いていた。
「……ふぅん」
リムルは小さく鼻を鳴らす。
《精神状態:失望、焦燥、軽度の恐怖反応。行動予測──同様の門前払いを複数回経験済み。自尊心の低下傾向あり》
(ま、見て見ぬふりするのは性に合わないしな)
リムルは小走りに近づき、少年のすぐ横に立った。
「よう。落ち込んでるとこ悪いけど、ここ、通り道なんだよね。どいてくれる?」
「えっ……あ、ご、ごめんなさい……!」
はっと顔を上げた少年は、慌てて一歩下がった。
その目は紅玉のように澄んでいて、しかしどこか怯えたような影を帯びていた。
(ずいぶん純粋そうなやつだな……。あー、ダメだ。放っとけねぇわ、こういうの)
「……名前は?」
「え? えと、ベル・クラネルっていいます……」
「ふぅん。リムル=テンペスト。……で、ファミリア探し中ってこと?」
「はい……っ! 冒険者になりたくて、田舎からオラリオに来たんですけど……その……全然入れてくれなくて……」
「そりゃそうだろ。お前、素人まるだしじゃん」
リムルはストレートに言い放った。
ベルは「うっ……」と顔をしかめたが、それでも反論せず、唇を噛んだ。
《彼の生命反応に異常はありません。肉体は健康体。筋力、敏捷、耐久すべて並以下。精神力のみ突出》
(やっぱ身体はまだまだか……でも、芯はあるな)
「なあ、ベル。運良くファミリアに入れたとして、その後はどうするんだ?」
「……ダンジョンに潜って、モンスターを倒して、レベルアップして……強くなって……誰かを守れる冒険者に、なりたいです」
「ふーん。誰かって?」
ベルは少しだけ口ごもり、それでも目を逸らさず言った。
「……まだ、いないです。でも、いつか、そういう人に出会える気がするんです」
その声に、リムルはほんの僅かに目を細める。
(“誰か”のために、ってやつか。……昔の俺みたいなこと言うな)
しばしの沈黙。
夕焼けに染まる道の上で、銀髪と白髪の影が交差する。
「お前さ、ヘスティア・ファミリアって知ってる?」
「え……? 名前だけは。……すごく、小さなファミリアだって……」
「うん、現状構成員ひとり。でも、そこは悪くない神様だよ。……人を見る目もあるし」
「えっ、まさか、リムルさんはそこの……?」
「そう。“俺”はそこの所属」
ベルが目を見開く。その表情には、驚きと、そして少しの希望が浮かんでいた。
「……紹介、してくれるんですか……?」
「別に紹介ってほどじゃねぇよ。入れるかどうかは本人の意思次第だし。神様が会ってみたいと思うかどうか……それだけだ」
リムルは肩をすくめ、先を歩き出す。
「来るなら来な。ヘスティア様が断る可能性もあるけど……お前、何回門前払いされたって、もう怖くねぇだろ?」
ベルの目が、ぐっと力強くなった。
迷いはなかった。
「……行きます!」
その声とともに、白髪の少年はリムルの背を追って駆け出す。
◆
ヘスティアのホーム──小さな一軒家。
玄関の前で、リムルは振り返った。
「さ、あとは運次第だな」
「は、はい……!」
呼び鈴を鳴らすと、すぐに中から足音が聞こえ、玄関が開いた。
「おかえり、リムル……って、あれ? その子は?」
「あー、道端で拾った。名前はベル・クラネル。ファミリア探しててさ、悪い奴じゃなさそうだったから、連れてきた」
ヘスティアは目をぱちくりと瞬かせた後、そっとベルに目を向けた。
「……キミが、ベルくん?」
「は、はいっ! ベル・クラネルです! どうか、僕を……いえ、僕を、ヘスティア・ファミリアに入れてください!」
おどおどとしながらも、ベルは深く頭を下げた。
リムルはその様子を後ろから見つめながら、心の中で呟く。
(さあ、どうする……? ヘスティア様)
そしてその瞬間、オラリオに一つの“火種”が落とされた。
──銀と紅の邂逅。それはやがて、冒険譚の起点となる。
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