転界録:リムル・テンペスト オラリオ編   作:るにゃは

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第七話「神の選択──ヘスティアの微笑み」

「……ふーん、なるほどねぇ」

 

ベルの挨拶を聞いたヘスティアは、腕を組んで彼をじっと見つめる。

 

その視線は真剣で、けれど厳しさはない。むしろ、神らしからぬ親しみと温かさが混じっていた。

 

「オラリオに来たばっかりで、右も左もわからないってわけだ?」

 

「……はい。ギルドに登録はしました。でも……ファミリアに入らないと、冒険者にはなれないって……」

 

「うん、そりゃそうだ。神の恩恵《ファルナ》がなければ、スキルもステータスも発現しないからね」

 

そう言いながら、ヘスティアは振り返ってリムルを見る。

 

「……で、リムル。君がわざわざ連れてきたってことは、それなりの見込みがあるって思ったの?」

 

「いや、正直戦力としてはゼロだよ。剣もろくに振れなさそうだし」

 

「……それ、僕の前で言いますか……?」

 

しゅんと肩を落とすベルに、リムルはにやりと笑った。

 

「でもさ、あの子、何度も門前払いされても諦めてなかった。しかも“誰かのために強くなりたい”って、口先だけじゃなく本気で言ってた。……そこが気に入ったんだよ」

 

その言葉に、ベルは驚いたようにリムルを見た。

 

「リムルさん……」

 

「自分でも言ったろ。お前、まだまだ素人だって。でも、それを恥じずに受け止めて、それでも前に進もうとしてる。その“心”をヘスティア様にも見てほしかったんだ」

 

ヘスティアは黙って二人のやり取りを見つめていたが、やがてふっと笑った。

 

「ふふっ、……よし。じゃあ、聞かせて、ベルくん」

 

「は、はいっ!」

 

「――本気で、ボクの眷属になりたいって思ってる?」

 

ベルは一瞬の迷いもなく、真っ直ぐヘスティアを見据えた。

 

「はい! 僕は、ヘスティア様のファミリアで、冒険者になりたいです!」

 

「ふーん……いいね」

 

ぱんっと手を打つヘスティア。次の瞬間、にっこりと笑って言った。

 

「――じゃあ、ようこそ。今日からベル・クラネルは、ヘスティア・ファミリアの一員だよ」

 

「えっ……ええっ!?」

 

「えっ、もう決まり……!?」

 

ベルは目を丸くし、リムルも思わず肩をすくめた。

 

「さすがヘスティア様。決断が早い……」

 

「だって、気に入っちゃったんだもん。目がいい。心もいい。素直で、嘘がない。ちょっとボクに似てるかも?」

 

「それ、自分で言う……?」

 

「うっさい。だいたいね、今のボクたち、君しか戦力いないの! そろそろ新メンバーが欲しかったんだよ!」

 

そう言って胸を張るヘスティアに、ベルは唖然としながらも、徐々に顔を綻ばせていった。

 

「……ありがとうございます……っ。本当に、ありがとうございます……!」

 

目尻に涙を浮かべながら深く頭を下げるベル。

 

リムルはそれを見ながら、そっと視線を逸らす。

 

(……良かったな、ベル)

 

《感情検知:安堵、喜び、微細な高揚感。生理反応安定中》

 

(うん、俺も一安心だよ。……けど、油断はできないな)

 

《同意。今後の行動において、彼の成長速度と潜在力に注意すべきです》

 

(ああ。神の眷属になったことで、ベルは“この世界のルール”に本格的に関わる。……何が起こってもおかしくない)

 

ふと、リムルはベルを見やった。

 

その横顔には、不安もあるが、期待と決意が確かに宿っていた。

 

「なあ、ベル」

 

「はい?」

 

「明日、少し早起きできるか?」

 

「えっ? はい、たぶん……できますけど」

 

「なら、ダンジョンに連れてってやるよ。俺が手取り足取り、冒険者のいろはを叩き込んでやる」

 

「ええっ!? いきなりですか!?」

 

「いきなりだよ。明日から、お前の“冒険”が始まるんだからな」

 

リムルは笑った。

 

ベルは戸惑いながらも、その顔に期待をにじませて、頷いた。

 

 

 

 

その夜。

 

ベルはホームの片隅に与えられた布団で、緊張と興奮の入り混じったまま眠りについた。

 

そのすぐ隣。窓辺に座って外を見つめるリムルは、月明かりを受けて静かに目を細める。

 

「……やっぱり、この世界は面白いな」

 

《はい。刺激と変化に満ちています》

 

「シエル、これから忙しくなるぞ。ベルの面倒見ながら、自分の探索もしなきゃならない」

 

《全能力調整中。制限範囲内での対応、引き続き可能です》

 

「うん、頼りにしてる」

 

夜風が吹き、部屋のカーテンがわずかに揺れた。

 

その中で、銀の髪を月明かりに揺らしながら、リムルは目を閉じた。

 

オラリオでの新たな一歩。それは小さな始まりにすぎない。

 

だが、確かに世界は動き始めていた。

 

 

 

──銀の来訪者と、赤眼の少年。

その出会いが、やがて運命を変える

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