僕のヒーローアカデミア:紅き月の狂宴   作:Dr.Sin

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更新が遅れ、申し訳ありません。
今回台詞多めです。




第6章:助ける資格
第1幕:凶血の帰還


 

《No Side》

 

 

「ありがとう、オールマイト。長きに渡り、君はその身を犠牲に多くを救ってくれた。国民、ヒーロー、そして校長として、感謝してもしきれやしない」

 

 

合宿襲撃事件やオールマイトの引退など、様々な騒動の渦中にある雄英高校。その校長室で、オールマイトや根津校長、イレイザーヘッド、ブラドキングの4人が今後の事についてを話し合っていた。

 

 

「ただ……世間では、君が雄英教師を続けるのに少なからず批判意見も出ている。元はと言えばオールマイトが雄英に赴任したのは問題、戦えなくなった今こそ、再び子供たちが巻き込まれるのでは?と」

 

「みんな不安なのさ。だからこそ今度は、我々で紡ぎ、強くしていかなきゃならない。君が繋ぎ止めてくれた、ヒーローへの信頼をね」

 

「しかし、脅威は拭いきれていない。これからはより強固に、守り育てなければならない。そこで、かねてより考えていた案を実行に移すのさ。よろしく頼むね、家庭訪問」

 

 

そう言って校長が取り出したのは、「雄英高校 全寮制導入検討のお知らせ」と書かれた紙。既に各生徒の家庭にも郵送済みのそれには、生徒たちの安全保障のために雄英高校を全寮制に変更、それに伴って事情説明のために家庭訪問を行うという旨のことが書かれている。

 

 

 

「さて次は……緑谷ん家が近いですね」

 

 

相澤とオールマイトの2人は、雄英から近い順に各生徒の家庭を訪問していた。現時点では殆どの家への説明が順調に進んでおり、爆豪の家への訪問を終えた次は緑谷の家に向かおうとしていたところ、車に乗り込むオールマイトを家から出てきた爆豪が引き止める。

 

 

「オールマイト!」

 

「デクは……あんたにとって何なんだ?」

 

 

「……生徒だよ。君と同様に、前途あるヒーローの卵だ」

(すまない爆豪少年、ここだけは晒せないんだ……!)

 

 

オールマイトにとって緑谷 出久は、ただの生徒の1人ではなく、自らが受け継いだ個性、ワン・フォー・オールの継承者。しかしその事は、彼の師匠であるグラントリノを始めとしたごく一部の者しか知らない秘匿事項であり、当然爆豪にそれを話す訳にはいかない。

 

 

「勝己こら!まだ外出るなって警察に言われてるでしょうが!」

 

「そっか……アンタが言いたくねぇならいいわ……ありがとよ」

 

「勝己ーっ!」

 

「わーってるよ!!」

 

 

親への態度はいつもの粗暴そのものだったが、先生に対して……とりわけオールマイトに対してはやけに大人しい爆豪。そんな彼に対して、秘密を抱えた立場であるオールマイトは、それ以上なんの声もかけられなかった。

 

 

「本当に一人で大丈夫ですか?」

 

「ああ、今日中にクラス全員を回らないといけないんだろう?ここは私が行くから、君は他を急いだ方がいいんじゃないかな……それにほら、次のところは、私が行くと話が拗れそうだし……」

 

「……分かりました」

 

 

ここまで二人で各家庭への訪問を行ってきたが、ここで二手に別れることを提案するオールマイト。クラス全員を回らなければいけない都合上、別れた方が効率がいいと言うのは確かなことである。

 

 

(話が拗れそう、か。確かに、次の行き先は……)

 

 

心の中でそう呟いた相澤の端末に映る、次の訪問先。それは、神野の戦いでオールマイトの盾となり、意識どころか生死も不明となっている生徒、ペルヴェーレ・スネージヴィナの保護者がいる場所……[孤児院 パレ・メルモニア]であった。

 

 

 

「スネージヴィナさんの無事と回復を前提として、事前にお送りした書類の通り、雄英高校の全寮制導入について───」

 

「……場所を変えよう。少し歩いてもいいかい?」

 

「分かりました」

 

 

パレ・メルモニアを訪問した相澤は、院長である水上 振奈と1対1で顔を合わせていた。全寮制導入の説明を切り出そうとした相澤に、振奈は場所を変えようと切り出す。その顔に、いつも子供たちと一緒にいる時のような笑みは一切なく、目の下に隈を作った弱々しいものになっている。

 

 

振奈と相澤が歩くのは、オールマイトとAFOの戦いによって甚大な被害を受けた神野の住宅街。2人が歩いているパレ・メルモニアの周辺は比較的被害が少ないものの、街全体の被害はまさに見るも無惨といった様子である。

 

会話もなく、ただ歩くだけの2人だったが、とあるモノの前で振奈が足を止める。それは、1つの巨大な赤い結晶。中に人が入っているため警察やヒーローも下手に手を出せず、戦闘の中心地であるにも関わらず放置されたままのモノ。

 

 

「……まだ、目を覚まさないんだね。ペルヴェーレ」

 

 

心の底から心配するような声で、赤い結晶を撫でる振奈。その視線は、結晶の中で朧気に見えるうずくまった人影に注がれていた。

 

 

「最初に爆発が起こった時、ペルヴェーレは真っ先に僕や子供たちの心配をしてくれたんだ。パレ・メルモニアに瓦礫が飛んできたり、敵が襲いかかってきたら危ないから、自分が外の様子を観に行く、院長たちは安全な所に隠れていてって」

 

 

「僕たちは、工房っていうパレ・メルモニアの中でも特に頑丈な建物に隠れてたんだ。工房の中にはテレビなんてないから、僕の携帯をみんなでぎゅうぎゅう詰めになりながら見てたんだよ」

 

 

「オールマイトと敵が戦っている中、その間に突然現れた赤いもの。子供たちも、報道のマスコミも、それがなんなのかは分かっていなかったけど……あれを、赤い翼を直接見たことがある僕にはわかった。あれがペルヴェーレだったって」

 

 

「それは正しかったよ。オールマイトが戦いに勝って、戦闘が終結しても、ペルヴェーレは帰ってこなかった。僕たちを守るために、こんなふうになってしまったんだよ……帰ってきてねって、言ったのに……」

 

 

神野の事件が起きた時何があったのかをひとしきり話し終わった振奈は、結晶から視線を逸らし、相澤の方に向き直る。

 

 

「ペルヴェーレがこうなってしまったのは、別に雄英のせいじゃないさ。それはわかってる。僕が心配なのは、彼女をこのまま雄英に通わせて……ううん、ヒーローを目指させていいのかってこと」

 

 

「それは」

 

 

「子供の夢を潰すものじゃないっていうのは、ごもっともさ。それに、この子はすごく強いヒーローになれるんだと思う」

 

「……けど、僕はこの子の保護者だ。1年ちょっとの付き合いかもしれないけど、僕はこの子の保護者なんだよ。この子が無事に大人になるのを、見守る義務がある」

 

 

 

「相澤先生、だっけ。あなたは、ペルヴェーレがどうしてヒーローを志したか知ってる?」

 

 

「……詩透市孤児連続行方不明事件に関わったのをきっかけに、誰も大切なものを失わない世界を作ることを目標にヒーローを目指していると、認識しています」

 

 

「そうだね。この子は連続孤児失踪事件の当事者で、あの事件をきっかけにヒーローを志した……けど、それだけじゃないよ」

 

 

「例の事件で、この子が主犯と戦った日の朝の話さ……この子にとって、唯一無二の親友だった子供が事件の被害者になった」

 

 

「!」

(校長が言っていた、USJに現れた脳無の素体になった子供か)

 

 

「その子を守れなかった罪悪感、贖罪も、この子がヒーローを目指す理由の一つ。故にこの子は自分のことを顧みない、自分を消耗品にすることを厭わない」

 

「希死念慮とか、そういうのではないんだ、多分。ただ、自分の命の優先順位が極端に低いんだよ。1番上はきっと、亡くなってしまった親友。その次に子供たち、罪なき人々、最後に自分」

 

「この子がヒーローになれるかどうか、それは疑ってないよ。けどこの子がヒーローになった後、この子自身が取り返しのつかない事になってしまったらと思うと……僕は、例え目を覚ましたとしても、笑顔でこの子を雄英に送り出してあげることはできない」

 

 

振奈がそう告げると、瓦礫の端から3人の人影が現れる。振奈よりも一回りから2回りほど小さい彼らは、壁炉の家から移籍してきた子供たちだった。

 

 

「……やっぱり、その赤い結晶はお父様」

 

「っ!?リネット……!」

 

「すみません、盗み聞きなんて……でも、僕たちも何となく分かっていたんです」

 

「僕たちも、体育祭であの翼を見ましたから」

 

「リネに、フレミネまで……」

 

「水上院長、彼らは」

 

「……ペルヴェーレと同じ、壁炉の家から移ってきた子供たちだよ。色々あったみたいで、ペルヴェーレのことをお父様って呼んでる」

 

(……体育祭の時、観客席から聞こえてきた声は彼らか)

 

 

「とにかく、ペルヴェーレの意識が戻ってから、キチンと話をしなきゃいけない。雄英の全寮制自体は受け入れるけど、この子を引き続き雄英に通わせるかは別の話だ」

 

 

「院長、お父様は!」

「壁炉の家で、私たちを守ってくれたヒーロー」

「僕たちは、理由が何でも、お父様のことを応援したいです」

 

 

「けど、それで命を無くしてしまったら意味がない!そんなことになるくらいなら、僕は……!」

 

 

「っ!お父様!目を、目を覚ましてください!」

「お父様、まだ作ってない物が、見せたい物が沢山あるんです」

「お父様、まだ生きてるって、信じてる」

 

「君たち……」

 

 

《Side ペルヴェーレ》

 

 

 

───声が、聞こえる。全身が型にはまったように固くなっている中で、私の名前を呼ぶ声が。

 

 

───目を覚ませ。私は、人々の大切なものを守る者(ヒーロー)になるのだから。

 

 

往日の海から、現実に意識が浮上する。私の体は血の結晶で完全に覆われており、外の様子がまるで分からない。どのくらい時間が経過しているのか、そもそも戦いは終わったのか。何にせよ、このまま閉じこもっているわけにはいかない。

 

体を包む凝固した血を操作し、背中側から大きなヒビを入れる。本来なら裂血弾に変化しているほどの濃度に凝縮された血は完全に操作ができる訳ではなく、亀裂を生じさせるのがせいぜいだった。

 

 

(既存の身体強化では抜けきれないな……使うしかないか、凶花の力を)

 

 

往日の海が崩壊した時、凶花が私に譲渡したという力。脳内に声が響くと同時に私の心臓辺りに飛んできた黒い光。存在を意識すると確実にあるそれは、私の胸の中で出番を待ち望んでいるように燃え盛っていた。

 

 

(この力の使い方……いや、考えなくても分かる。この燃え盛る黒い光を、体外に発散するイメージで……!)

 

イメージを具現化するように、胸中のエネルギー源に意識を集中させると、その熱が次第に全身へと拡散していく。

 

まず最初に、背中から発散が起きた。外付けの紅血風翼とは違う、内部から何かが生えてくるイメージと共に、3対6枚の翼が生えてくるのを感じる。

 

次に腕や足といった四肢の筋力が高まっていき、翼の出現によって大きくひび割れた今の結晶なら、全身の力で砕くことができる程のものに。

 

戦闘がまだ終結していなかったことを想定し、右腕で投擲兵装としても使える槍を生成する準備を整えた私は、全身の力を使って結晶を砕き、6枚の翼で一気に飛び上がった。

 

 

《No Side》

 

 

「お父様!」

「帰ってきて、お父様」

「お願いします、お父様……!」

 

 

リネたち3人が、結晶に向けて必死に呼びかける。結晶はその声に対してなんの反応も示さず、1度パレ・メルモニアに帰るよう振奈が3人に告げようとした瞬間……

 

 

バキィッ!!

 

 

と、大きな音と共に結晶がひび割れる。中の人影がぼんやりとした光を放ち始め、それに続いて結晶の上の方から翼のようにも見える6枚の何かが出現した。

 

 

(スネージヴィナが意識を取り戻したか……!?だが、あんな技は見た事ねぇ……まさか!)

 

 

「4人とも下がって!」

 

 

相澤の脳裏を過ぎったのは、USJ襲撃の際に発生したペルヴェーレの暴走。彼自身は暴走の時既に意識を失っていたので実際に何が起きたのかを見た訳では無いが、後の報告で血が霧のように拡散されていたことを知っており、万が一にも4人がその被害を受けないよう、離れるように声を上げた。

 

 

「何が起きて……っ、みんなこっちに!」

 

「「「お父様!」」」

 

 

振奈が強引に3人を結晶から引き剥がす。その間にも更に亀裂は広がっていき、中から発される光も強くなる。6枚の翼はさらに成長し、その見た目はまるで蜘蛛の足が組み合ったような、今までペルヴェーレが使っていた紅血風翼の鳥類的な見た目とは丸っきり違ったものになっていた。

 

 

そして、ついに時が訪れる。結晶の亀裂が全体に広がり、大きな音と衝撃を発しながら一気に砕けたのだ。

 

その中心地から赤い光が空に向かって飛び立っていき、ある程度上昇したところでその6枚の翼を大きく広げる。太陽を背にしたその影は、右手に槍を持ち、黒い瞳とその中に刻まれた赤いバツ印で地表を見つめていた。

 

 

「振奈院長に、リネ達……それに、相澤先生?」

 

 

(スネージヴィナ……!暴走の時は目の中の黒と赤が反転してたらしいが、目はいつも通りか……?)

 

 

「「「お父様!」」」

 

 

「ペルヴェーレ……!」

 

 

想定外の人々の存在に驚くペルヴェーレと、彼女が暴走していないかを慎重に確かめる相澤。その復活を喜ぶパレ・メルモニアのメンバーも合わせて、状況は混沌とし始めていた。

 

 

《Side ペルヴェーレ》

 

 

「……スネージヴィナだな?とりあえず降りてこい」

 

(院長達が外に出られているなら、戦闘は終わっているらしいな……しかし、なぜ相澤先生がここに?)

 

「分かりました」

 

 

何が起きているのか把握できないが、とりあえず戦闘は既に終わっていると判断し、先生の言葉に従って地上に降りる。翼を畳もうと思うと、それはひとりでに背中へ吸い込まれていき、特に異物感などもなく体内に収納された。

 

 

「それで、相澤先生。今はいったいどういう状況なんですか?」

 

「はあ……色々言いたい事はあるが、結論から言う。あの戦いはオールマイトさんの勝ちで終わった。そんで、雄英はセキュリティ強化の観点から全寮制を導入するってことで、今は説明の家庭訪問中だ……」

 

「成程、それで院長たちが。……っ、そうだ、パレ・メルモニアは!」

 

「……無事だよ。神野の街はボロボロだけど、パレ・メルモニアも子供たちも、ほとんど傷ついてない」

 

「そうですか、それはよかっ」

「っ!」

 

 

それはよかったと、そう言いかけたところで、私の頬が院長に叩かれた。わけも分からず院長の顔を見ると、目の下に隈のできた院長の表情は、怒りを露わにしていた。

 

 

「何が……何がよかったって!?」

 

「あっ……すみません、取り消します。被害にあった人々が大勢いるのに」

 

 

院長の怒りを、周囲が甚大な被害に遭っているにも関わらずパレ・メルモニアの無事だけで安易に「よかった」と口に出そうとしていたことだと思った私は発言を取り消したが、どうやら怒りの元はそれではないようで、その顔は怒ったままだった。

 

 

「そうじゃないよ!君が、無事に帰ってくるって言った君が、こんなことになってしまったじゃないか!」

 

「それは……心配をかけて申し訳ない。しかし私はこうして無事に」

 

「無事って……!そりゃ結果的に大丈夫だったのかもしれないけど、君があの赤い結晶に閉じ込められている間、僕たちがどれだけ心配したと思ってるんだい!?」

 

 

院長の怒りの原因は、私が意識を失って結晶に包まれ、帰ってこなかったことにあるらしい。心配をかけた事は申し訳ないと思うが、私1人が意識不明になる程度でパレ・メルモニアが無事で済んだのだし、そこまで目くじらを立てることか……?

 

「……相澤先生、聞いての通りです。この子は自分の命を勘定に入れなさすぎる。この子が最低限、自分の命を大事にしようと思えるまで、雄英でヒーローを目指させるわけにはいかない」

 

「院長!?」

 

「院長、お父様は!」

 

「君たちはパレ・メルモニアに帰っておいて。これからは、僕とペルヴェーレ、それから相澤先生だけの話だ」

 

「「「……はい」」」

 

 

リネ達3人がパレ・メルモニアの方に帰っていく。建物の瓦礫と散らばった赤い結晶が積み重なった場所で、奇妙な三者面談が始まった。

 

 





更新ペースが不安定で本当に申し訳ない……
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