勇者の仲間達は語る。
恐ろしい存在であった。
ただそれだけを残して。
魔王とは何か?
口調合ってるか不安です。
文章として形を成していなかったり設定にも矛盾はあると思いますが、自分の書いた世界ではそういう事になっていると許して頂ければ……
「よくぞ来た。愛しい勇者達よ」
扉を開けた僕達に声を掛けたのは一人の男だった。
魔王。魔人を率いて魔物を統べる王。
目を疑った。優雅に椅子に腰掛けていたのはまるで人間のような何かだったからだ。
レオンもマリアもソロンも等しく驚愕していた。あまりにも予想外の存在に僕達は戸惑いを隠せなかった。
鍛えられた戦士のような逞しい体格。瀟洒なスーツにしか見えない衣服。魔物の皮でも使っているのか魔力をうっすらと感じる外套。
そして山羊のように頭部から伸びている角。農民が使うような麦わら帽子でも被れば隠せそうなサイズだった。
そんな男は──魔王は人間である僕達を、敵対者をにこやかに迎えていた。
「話は部下から聞いていた。人間の中でも強力な一味がいるとな。直に見るのは初めてだが……うん、気に入った。確かにお前達は勇者で、勇者に率いられる仲間だな」
此処に来る前に幾つかの策を考えていた。
城に火を付けるなどの強力な魔物を倒す為の方法。それらは魔王に通じないとすぐに分かった。
僕達を、人間を、勇者を、剣聖を、聖女を、大賢者を、真っ直ぐに見つめていた。その眼が楽しそうに歪められている。
彼は此方を見下していない。侮っていない。油断など全くしていない。
レオンが剣を構えた。身体に力が籠っているがしかし斬りかからない。
マリアが祈る為か後方に下がった。果たしてその動きは戦いに備えてのものだけだっただろうか。
ソロンが攻撃魔法を出す為か手を翳した。その口から詠唱は聞こえなかった。
僕は呆然としていた。構えてすらいなかった。
敵は隙だらけだった。それなのに誰も攻撃に移れない。
巨大な怪物が口を開けて待っているような、そんな圧力。
誰かが動いた瞬間に飲み込まれる。底の無い穴にも等しい闇が人の形をしていた。
「何だ、来ないのか。まあ良いさ。俺も今の所はお前達に攻撃しようと思えん。じっくりと語り合おうではないか、なあ愛し子よ」
側のテーブルに置かれていた葡萄酒を手に取りながら笑う。
僕達の身体を押し潰さんとしていた圧迫感が消えたような気がした。
それでもまだ攻撃の意思を持てない。汗が止まらない。
身体が動く事を脳が拒否していた。
「おいおい。何か喋るぐらいしろよな。お前達の口は飯を食うか呼吸する為にあるのかぁ?立ちっぱなしも疲れるだろ、座れよ」
砕けた口調になりつつある魔王が手を此方に向ける。
その瞬間、僕達の前に椅子が現れる。その数は四つ。
魔法。それなのに魔力は感じなかった。長旅で鍛えられた感覚でもそう受け取った事に戦慄する。
起こった事象から推測するしか出来ないとは、何と静かな魔法の行使なのか……!
これが魔の物を操る頂点だと改めて認識した。実力差に絶望が鎌首をもたげる。
此処に座れと言うのだろうか。罠かもしれない。
そんな風に迷っている僕より先に動いた者がいた。
剣を納め、鎧を着たまま座る。
「貴様、何がしたいのだ」
レオンはすぐ剣を抜けるように構えを崩さず毒づいた。
「そうですね。此処で固まっても何もならないでしょうし」
マリアが腰掛けて、落ち着きのある所作で乱れた裾を直す。
「精々付き合ってやろうぜ。寝首を掻かれても知らんがな」
ソロンが吐き捨てて偉そうに座った。
僕も皆に遅れて座る事にした。不審な所がすぐ分からなかったが、すぐ動けるようにしつつも椅子を引いた。
魔王がぱちんと指を弾く。視界に写る光景が変わる。僕達は椅子に座ったままテーブルを挟んで彼と向き合う形になっていた。位置を変える魔法を使ったらしい。
先程は物を虚空から出現させ、今度は物体の位置を変える。仲間が使っているのを見慣れたはずなのに、迅速で地味な変化は見た事が無いレベルで完成されていた。
同じ魔法を使っているとは思えない。手品で化かされた気分だった。
部屋に入った時から抱えていた疑問がそのまま溢れる。
「お前は、魔王なのか?」
「ああ。俺が魔王だ」
自分が口にした馬鹿げた問いに誇るように返される。
「あらゆる生命の天敵。お前達の神に従わない魔に属する者。生きる天災。それらの王をやっている。えーと、何年ぐらいやってたんだったか……数年か、数百年か、どっちでもいいか」
「何で戦おうとしない」
「面白いから」
年代物であろう葡萄酒の瓶を傾けぐびりと喉を鳴らして飲んだ。グラスを使わずに直で飲むという品が無い行為なのに違和感を覚えなかった。
「人間は面白い。短い命の癖に互いを憎んだり愛し合ったりしながらどんどん縄張りを広げていく。喧嘩したいのか仲良くしたいのかよく分からん。俺達には理解出来ない法則で生きているのか?理解に苦しむ。
だがその訳の分からなさこそが何より恐ろしい。弱いのか強いのかもはっきりしないまま戦って死んで、そして意思を引き継いだ誰かが魔物を殺す。お前達の方がよほど化け物だろう」
笑い声が部屋に反響する。酒盛りをする男達が肩を組んで盛り上がっているのに似ていた。
同胞を殺されているのに、何故こうも楽しそうに語るのだ。
「さっき愛しいとかほざいたな。あれはどういう事だ」
響く大声を貫くようにソロンが鋭く問いかける。
「そのままの意味だが。お前達は俺が育てたようなものだ。だからそう言った」
「はあ?何でそうなるんだ?」
「産んだのは親で育てたのは親を含む周りの人間だという事になっている。お前達の認識ではな。
俺もお前達を育てるのに手を貸していたんだよ。パーティーを結成する前に強く生きられるように適度な困難を用意したり、人格や能力に影響を与える為に周りの人間を動かしたり、俺を倒す為の旅の途中にお前達の実力に合わせて倒せる程度の戦力を置いたりしてな。
その様子では気付いてないのか?まあ目立たないようにさりげなく助けていたから当然だがね」
「巫山戯るな!そんな筈はない!」
とても信じられない事実に立ち上がりながらレオンが叫ぶ。
魔王が勇者達を育てるだと?いったい何の為に?
「俺達が生まれた頃にお前はいなかっただろう!どうやって育てるというのだ!?」
「魔物が人類に攻めていない事で魔物の統率者はいないと勘違いでもしていたのか。お前達が生まれる前にとっくの昔に俺はいたんだよ。魔王という座に着いていなかっただけだ」
再び葡萄酒を飲んだ。
「魔物が攻めなかったのは戦力を蓄えていたからだ。俺達もすぐに纏まったわけじゃない。それぞれの事情があってちょっとした内紛みたいになっててな。終わらせるのは苦労したよ。前の魔王の座は他の奴に押し付けて俺はあちこち駆けずり回ってた。
終わらせたら終わらせたでまた別の問題が出てきてなぁ。今いる場所だけだと魔物が住むにはちょっと狭いって話が出てな。共存出来る種族はそれで良いんだが、食料や体質、文化の違いで一緒になるのは難しい奴らもいるってんで区切りっつーのか、国境かな?そういうのとかどうしたもんかと悩んだよ」
「……まさか。魔物が人類を攻めたのは縄張りを広げたかったから?」
マリアが目を見開く。
「まあな。魔物が人と戦う動機で神だなんだの言われてるようだが、それは関係ない。
単に我々の生存出来る場所が欲しかっただけだ。で、人類が邪魔だった。だから戦いを仕掛けた。お前達も縄張りを広げる為に森を切って家を建てたり害獣を駆除したりするだろ?それと同じだよ」
すぐに飲み込むのは難しかったが、そう考えると納得出来る。
実際に戦った僕達からしても魔物というのは多種多様だった。
馬や虎のように陸を駆ける者。魚のように海や川などの水場で泳ぐ者。鳥のように空を飛ぶ者。
生息地が広く種類の多いスライム。火山の熱に晒されながら動くサラマンダーやゴーレム。宝箱に化けるミミック。例外なく強力なドラゴン。
そして魔人。僕達人間のように言語を使い道具を作る者。
僕達が戦っている相手は、人間と似たような理由で纏まっているだけだった。
どちらも譲れない物があった。だから争った。言ってしまえばそれだけだったのだ。
「……話し合う事は出来ないのか?」
「アレス!?何を言ってる!?」
我ながら馬鹿な事を言っているとは思うが口に出さずにはいられなかった。
レオンは咎めるように叫ぶ。勇者として国に送り出された者が魔物と話し合おうなど信じられないだろう。
「話すねぇ。出来ると思うぞ。休戦はしないがね」
「何故かな」
「人と魔物じゃあ信じる神が違う。文化が違う。価値観が違う。能力が違う。わかるだろ?」
見透かしたように笑う魔王。
そしてその通りである。あまりにも違いすぎるものを人は受け入れられない。今やっているのは血で血を洗う戦争だ。王の駒を取るまで終わらない。
「さっき言っていたな、育てるのに手を貸していたと。何でそんな事をするんだ?」
「勇者一行が俺の所まで来て欲しかったからだな」
「何度も僕達を倒そうと思えば出来たはずだ。倒さない理由は?」
「魔王軍がほぼ壊滅した後に、俺の手でお前達を倒して『魔王を倒した勇者一行』の振りをすれば王国は怪しまないからさ。戦争に勝ったと思い込んで人間は油断するだろう?」
戦慄する。
僕達が魔王に対してやろうとしていた暗殺者紛いの蛮行を、それよりも悪辣な事をコイツは人間にやろうとしていた……!
「後はそうだな、預言者が気になってな。何処にいるのか分からんがお前達に化けてからゆっくり探し出して配下にしようと思ってる」
甘かった。
なまじ会話が出来るから平和的に終わらせようとしてしまった。
コレは駄目だ。倒すしかない……!
戦意を高めた僕達に、魔王は玩具を与えられた幼子のように笑った。
「ははっ、やろうか。精々死ぬなよ勇者共」
椅子を蹴飛ばして駆け出す。
それが開戦の合図だった。
この後は語るまでも無い。
苦しい戦いの末に魔王を倒して勇者一行は国に帰る、それで終わりだ。
魔人を束ねて魔物を率いた魔王については誰も詳しく語らない。
人にとっての恐怖を語り継いではならない。忘れなければならない。
それこそが皆にとって必要な事なのだから。
王国が平和を取り戻し勇者一行の旅路が文献に編纂される際に必ず曖昧にされる物があった。
四年前に人類を脅かし、当時の勇者が倒した魔王である。
どんな外見で、どんな性格で、どんな言葉を話していたのかすら分からない。
剣聖レオン・ミュラーは言った。
「恐ろしい奴だった」
聖女マリア・ローレンは言った。
「恐ろしい獣でした」
大賢者ソロン・バークレイは言った。
「恐ろしい力だった」
それだけが残されて、歴史の闇に葬られる。
続きを書く気力が湧かない……!
短くてすみません
これで大丈夫なのかと不安になりながらも絞り出した文で少しでも暇を潰せたら作者にとってこれほどの喜びはないでしょう