全体的にほむらのINTが低いです。
基本、思いついての一発ネタとなります。
一応、作中の世界は同一の時間軸でのエピソードとしてください。
「もうすぐ見滝原に千秋楽が来るわ」
「なんだって?」
長い黒髪に冷たい瞳をした魔法少女・暁美ほむらの発言に、佐倉杏子は困惑した。
瞬間移動で自身を翻弄し、気配すら察知させずに死角を突いてのけた。百戦錬磨を自負する杏子をして、なお実戦経験において上回ると感じさせる。
そんな相手が、いきなり意味不明なことを口走ってきた。
何しろ、今は10月なのだ。
(千秋楽だって? 正気か、9月場所はとっくに終わってるし、11月場所はまだ先だ。今は休場期間なんだぞ!?)
見滝原の角界は地方場所だが、だからといって10月の末頃に千秋楽など来ない。
ひょっとして歌劇の話だろうか? だったらホームレス中学生な杏子には理解しがたい話になってしまう。
杏子が二の句が告げずにいると、ほむらは少しだけ眉根を寄せた。
「伝説的な魔女よ。結界を用いずに空を飛び回り、一度地上に出現したら街一つを壊滅させる。魔女を認識できない人々は、その存在を巨大な『災害』や『厄災』と誤認するわ」
「……お前、それ……」
ワルプルギスの夜じゃねーか。
そうツッコミを入れるまで、杏子は2秒ほどの時間を要したのだった。
間違いを指摘されたほむらは、クールな表情を崩さないまま「そうだったかしら?」とすっとぼけた。
「言われてみたら、そんな名前だった気もするわ。どっちでもいいけど」
「いや、よくねーだろ。せめてハロウィンとかと間違えろよ。そこからうろ覚えだと、お前の情報の全てにおいて信憑性を欠くぞ」
「それは困るわ。せん……ワルプルなんとかの力は強大すぎるの。私一人のパワーじゃ太刀打ちできない。仲間が必要なのよ」
明朗に語るほむらは、とても魔女の名前があやふやとは思えないぐらい理路整然としている。
その姿に覚えた既視感が、杏子の胸中を激しく掻きむしった。
「ヤツを倒す為には、一人でも多くの戦力が欲しいの。あんなヤツを生かしておいたら、今年の十一月場所は永久に来ないわ」
「相撲好きなのか?」
「ええ、好きよ。だからお願い、全国の力士達の為にも力を貸して」
「趣旨変わってねえか?」
とはいえ、街の平和とか、市民の命とかを守る為、と言われるよりも、今の杏子には共感できる申し出だ。
「ま、あんたの言うことが本当だとして」
「本当だってば」
「あたしにメリットはあるのか?」
「昭和の名力士達の手形コレクションから、好きなのを持っていって。大鵬も初代の若乃花も、大麒麟とかもあるわよ」
「いらねーよ!?」
価値はあるかもしれないが、別に相撲好きでもなんでもない杏子には、ただの紙切れだ。
しかし、ほむらはまるで断られることを微塵も予期していなかったかのように、目を見開いて固まった。
「……平成のがよかった?」
「相撲から離れろ。他にあるだろ、グリーフシードとか、魔女狩りの縄張りの譲渡とか」
「力士の魔女なんていたかしら」
「だから相撲から離れろ」
頭に力士を飼ってるかのようなほむらとの押し問答は30分にも渡り、どうにか前金のグリーフシードと、ワルプルギスの夜が落とすグリーフシードの所有権の譲渡という条件を引き出した杏子であった。
「……本当に、手形の方はいらないのね?」
最後にそう確認してきたほむらが、心底ホッとしていたあたり、彼女にとっては本当に大切なコレクションであったらしい。
「……せいぜい大事にしろよ。失くしちまったら戻ってこないからオタカラなんだ」
ガラにもないくせぇセリフを吐いてしまった気恥ずかしさから、杏子は逃げるようにその場を跳び去ったのだった。