ARMORED CORE6:Re.life in Kivotos   作:トリミングチキン

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日出ずる学園

アビドスの一件から一週間ほどたった。

 

現在。俺は新幹線に揺られながら、とある学園を目指している。

 

キヴォトスは学園都市を名乗るだけはあって、特殊な学園も多々ある。

今向かっているのはそのうちの一つ。

 

各部活や委員会がそれぞれ独立しており、それらが連合を形成することで学園として成り立っている。

各組織間で上下関係は無く、統括する存在がいない。

 

一歩間違えればブラックマーケットの様な無法地帯になりかねないが、その学園は秩序を保ち、観光業で大いににぎわっている。

 

その名は、百鬼夜行連合学院。

 

今回は百鬼夜行のある人物からわざわざ依頼が来た。

 

完全個室席の小窓から、次々と移り変わる景色を眺める。

 

(普段なら時間も交通費もかかる依頼は受けないんだが…)

 

(レッドとブルートゥに拠点を特定されても困るからな)

 

(しばらくは同じ場所に留まるのは控えざるを得ない)

 

(チャティは、ミレニアムの中なら安全だろう。レッドの目当てでもないからな)

 

ふと時計に目をやると、到着予定時刻が近づいてきている。

 

車体の速度が徐々に下がり、慣性で体が揺れる。

どうやら到着したようだ。

 

席を立ち、持ってきたキャリーケースと共に駅を出る。

 

突然、逆風が吹きつけ、咄嗟に顔を手で庇った。

風が落ち着くのを待ち、ゆっくりと腕を下ろす。

 

周囲には、桃色の花びらが舞っていた。

 

そして俺の目線の先には、巨大な桜の木がそびえ立っている。

記憶の中にあるバスキュラープラントを思わせるほどの大きさ。

その枝には、あふれんばかりの花々を咲かせている。

 

静かにただそこに佇んでいるだけだというのに、その存在感に圧倒され、俺は自然と言葉を失っていた。

 

「……ここまで遠出したのは初めてだったが、これだけで来た価値はあったかも知れないな」

 

 

予約していた宿へ向かい、チェックインして部屋に入る。

ケースの中からレイヴンの制服と仮面を取り出し、身に着ける。

 

「早速向かうとするか。依頼人の元へ」

 

持ってきていたスタンニードルランチャーを背負い、コキュレットは懐に仕舞う。

宿から出ると、メールに書かれていた集合場所へ向かう。

 

先程見た桜の木のふもとにある、人影のない小さな公園。

 

木製のベンチに座りながら時間を潰していると、微かに誰かが近寄ってくる気配を感じた。

 

コキュレットを取り出し、振り返らず左後ろにある木に一発撃ち込む。

 

銃声から少し経つと、明るい声が聞こえて来た。

 

「……なんと!イズナの忍び足を見破られるとは!!」

 

振り返ると、先程撃った木の裏から狐耳の少女が出て来た。

 

「聞き及んでいた以上の実力ですね!」

 

紅色のマフラーと花柄の着物が目立っている。

だが、それ以上に太腿のホルスターに収められているクナイに目が行った。

 

装備と服装を眺めている俺に対し、彼女ははつらつと問いかけた。

 

「傭兵のレイヴン殿で間違いないでしょうか?」

 

「あぁ。君が案内人だな」

 

すると、その少女はサブマシンガンを置きながら片膝をついて答えた。

 

「はい!久田(くだ)イズナと申します。ニンニン!」

 

「……ニンニン?」

 

聞きなれない言葉に首を傾げていると、イズナはハッとしたような顔をして慌てて言った。

 

「実はイズナは、キヴォトスで一番の忍者になるのが夢なのです!」

 

「忍者か……」

 

その単語には、少なからず覚えがあった。

ルビコンでそれに関するログを見たことがある。

日系移民文化の中で『ニンジャ』と呼ばれるものがあったそうだ。

 

そして、それに強い影響を受けた独立傭兵も。

 

イズナは、考え耽っている俺の顔を覗き込むと、不安そうに眉を垂らしていた。

 

「………やっぱりこんな夢を持ってるなんて、子供っぽいでしょうか?」

 

キヴォトスではニンジャは空想上の存在だから、そう言っているのだろう。

 

「そんなことは無い。昔のことだが、本物のニンジャと一戦交えたこともあるからな」

 

「本当ですか!!」

 

目を大きく開き、俺の手を握りながら目と鼻の先まで近づいてきた。

 

「その方は、どの様な方だったのですか!?」

 

「あぁ、そいつは六文銭という名でなーーー」

 

俺はルビコンで戦った奇妙なニンジャの話を語り始める。

イズナは目を輝かせ、派手なリアクションをしながら俺の話を聞いた。

 

ふと時計に目をやると、30分以上経っていた。

 

「……そういえば、依頼主が待っているんじゃないか?」

 

イズナは少し考えると、慌てて立ち上がった。

 

「はっ!もう約束の時間でした!!」

 

イズナが俺の腕を掴みながら引き寄せ、抱え上げる。

 

「飛ばしていきますから、しっかり掴まってください!!」

 

両手で俺を支えると、俗にいうお姫様抱っこの様な体勢になる。

すると、イズナの脚が力強く地面を蹴飛ばし、百鬼夜行の街中を颯爽と駆けて行った。

 

人気のない廃墟のような場所にたどり着いた。

イズナはゆっくりと俺を降ろし、右手で汗をぬぐう。

 

「レイヴン殿。体格の割に、随分と体重がおありですね。素晴らしい肉体だと思います!」

 

「…ありがとう」

 

俺の肉体は強化手術で筋肉の密度が極めて高く、場所によっては機械や金属製に置き換わっている。

 

イズナが重いと感じたのは、それだろう。

 

「ここに依頼主がいるのか?」

 

「はい!この先の部屋にで待っているはずです!」

 

イズナが指さした方向へ歩いていくと、奇妙なお面をつけている連中と、椅子に座っている眼帯をした猫市民がいた。

 

「あんたが依頼人か?」

 

するとその猫は立ち上がり、腕を組みながら言った。

 

「いかにも。私がニャテ・マサムニェである」

 

「独立傭兵レイヴンだ。依頼の詳細を聞かせてもらおう」

 

猫市民がお面の奴らに目配せすると、そいつらは俺の後ろに椅子を置いた。

それに座りながら話を聞く。

 

「百花繚乱の委員長。七稜(ななかど)アヤメの相手をしてもらいたい」

 

後ろからついてきたイズナが補足するように話した。

 

「正式名称は百花繚乱紛争調停委員会。百鬼夜行の治安維持を担っている組織のことです!」

 

依頼人は少しため息をつくと、イズナに向かって放った。

 

「…イズナ殿。ここから先の話は重要事項なため、聞かないでもらいたい」

 

「ですが…イズナも作戦に参加するわけですし、お話を聞いていた方が良いのでは?」

 

「立派な忍者は依頼主の指示通りに動くものだと思いますがね」

 

イズナは耳を立て、大きく頷くと、一瞬にしてこの場を去っていった。

依頼人は話を続ける。

 

「便利なものでしょう。それっぽいことを言えば素直に従うからな」

 

「……」

 

猫市民はニヤケながら言った。

周囲の連中からも嘲笑うような声が発せられる。

 

その発言に、つい眉をひそめた。

 

コキュレットを取り出し、天井に一発放つ。

 

周囲が静寂に包まれた。

 

「俺も暇じゃない。くだらない雑談なら後にしろ」

 

依頼の話に戻すため、こちらから問いかける。

 

「俺に依頼した訳を聞かせてもらおう」

 

猫は青ざめた顔のまま、淡々と答えた。

 

「…この依頼の目的はお祭り運営委員会から祭りの運営権を奪い返すことにある。そのためにこいつら、魑魅一座を使って奴らの運営をメチャクチャにするつもりだった」

 

「そうすれば商店街会長の私に運営権が回ってくるからな」

 

「だが、一つイレギュラーな事態が起きた。百花繚乱は全員不在のはずだったが、急遽、委員長と数名が戻ってくることが分かった」

 

「他の委員はともかく、アヤメと副委員長のナグサは頭一つ抜けた実力者だ。どちらか一人だけでも計画が完全に崩壊する恐れがある」

 

「そのために君を呼んだ」

 

「瞬く間に名を上げ、如何なる依頼も完璧にこなす。私が知る限りで最も戦闘能力が高い傭兵である君をだ」

 

依頼人はそう言うと、椅子に腰を下ろした。

 

依頼内容としては、依頼人の計画が終わるまで、目標を動けない状態にさせる事。

下手すれば百鬼夜行そのものに喧嘩を売るような危険な依頼だが…

 

「了解した。その委員長がいつどこに現れるのかは、分かっているのか?」

 

「…これだ」

 

依頼人から手渡された資料に目を通すと、目標の戦闘に関する情報とこちらに来る際の予定ルートが記載されていた。

 

「あとはこちらでやろう。目標を祭りの間だけ拘束すればいいか?」

 

「それで構わないさ。額面以上の仕事を期待しているぞ」

 

席を立ち、この場を後にしようと踵を返す。

すると、依頼主は一言だけ言った

 

「…これはまだ不確かな情報だが、シャーレの先生も今回の祭りに訪れるそうだ」

 

帰路へ就こうとする俺の脚が瞬時に止まる。

ほんの少しの逡巡からすぐに振り返った。

 

「……一つ条件を追加してもいいか?」

 

「何だね?」

 

「アヤメを拘束したら、すぐさま金を払ってもらおう」

 

「…?あぁ。すぐに振り込もう」

 

依頼人は不思議そうに首を傾げた。

俺は駆け足でその場を離れた。

 

(先生が来るならこの計画は頓挫するだろう。金だけは回収しておかなければ)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

日も落ち、周囲もすっかり暗くなった山の中。

 

鮮やかな浅黄色の羽織を身に纏う少女たちが山道を歩いている。

百花繚乱と呼ばれるものたちだ。

 

金髪の生徒を先頭に、計三名で山道を駆けている。

すると、その少女の瞳に、温かい街の光が映り込んだ。

 

「お!そろそろ着きそうだね」

 

そう言いながら振り返ると、他の二人は胸をなでおろした。

 

「すいませんアヤメ委員長。無理を言ってお供させてもらって」

 

「委員長一人なら日が落ちる前に着いたでしょうに…」

 

後輩達が背を丸めながら言うと、金髪の生徒は二人の肩に優しく手を置いた。

 

「大丈夫だよ。私だけでも夜までに着けたかわからないし、せっかく年に一回の桜花祭だもんね!」

 

後輩たちは顔を上げ、満面の笑みを見せた。

 

その視線の先には、一瞬だが、赤い閃光が映った。

 

金髪の生徒は何かの気配を感じ、すぐさま振り返り小銃を構える。

 

次の瞬間、森の中から2.5メートルを超えるロボットが滑り込んで来た。

それは碧色の装甲を身に纏い、右腕にはレールガンの様な大型の銃器を携えていた。

 

「私がアレの脚を止めるから、その隙に二人は陰陽部まで走って。ニヤ様に指示を仰いできて」

 

頷くとともに、二人は全力で走りだす。

彼女らに向かってロボットが腕を伸ばす。その腕を金髪の少女が撃ち弾く。

 

ロボットは一瞬体勢を崩し、後輩達はその場を離脱した。

 

 

 

それから、およそ一時間ほどが経過した。

いつの間にか雨が降り始め、地面はすっかりぬかるんでいる。

 

その泥の上に頭部が潰れたロボットの残骸が転がっていた。

そこに佇む生徒の制服は血と泥で汚れてしまっている。

 

(疲れた。でもようやく止まったみたい)

 

(これで何とかーーー)

 

そう一息ついた瞬間だった。

彼女の背後から、電撃を纏った弾頭が撃ち込まれた。

 

電流が身体を駆け巡り、全身の筋肉が硬直する。

そうして、少女は地面に倒れ込んだ。

 

「……スネイルと同じ戦法を使うのは気に入らないが、強敵との戦闘の後はどうしても気が緩むからな」

 

森の中から、黒い制服とコートを纏った鴉面の生徒が現れた。

彼は壊れたロボットのパーツを拾い上げ、損傷の具合を確認し始める。

 

金髪の少女は朦朧とした意識の中で、その生徒を見上げていた。

 

(…もう、ダメだ。これ以上は意識が保てない)

 

(でも、私は委員長だから…)

 

少女は、銃を握り締めながら立ち上がった。

 

仕事を終えた後はどうしても気が緩んでしまう。

程度の大小はあっても、それは避けられない。

 

そのせいだろうか。もしくは、雨音にかき消されたせいだろうか。

鴉面の生徒は、背後の脅威に反応を示さなかった。

 

一発の銃弾が、放たれた。

それは鴉面の生徒の頭部へ一直線に飛ぶ。

 

瞬間、その生徒は体を捻り、射線上から身を逸らす。

 

だが、ほんの少しだけ、動き出しが遅かった。

弾丸はお面の端を僅かに掠めた。

 

弾かれた仮面が泥の上に転がる。

 

その拍子に、その生徒の素顔が金髪の少女の瞳に映った。

 

少女が二発目を撃とうと銃へ手を掛ける。

だが、その前に後ろ蹴りが少女の腹部へ突き刺さった。

 

既に限界を迎えた体は、これ以上の負担に耐えられなかった。

銃は手から零れ落ち、身体は泥の上に倒れ込む。

 

「見誤ったぞ。百花繚乱の委員長。まだ当てられるだけの余力が残っているとはな…」

 

「まったく。お互い運が悪いな」

 

そう言うと、その生徒は少女に手を伸ばす。

 

そこで彼女の意識は途切れた。




新章開幕って感じです。

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