もしリゼロのヒロインがパンドラだったら   作:はかたマン

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遅くなって申し訳ございません!今回は人気姉妹初登場回になります。



第二章 2話 お嫁にいけない

「ス………」

 

「ス……ま……」

 

「ス……さま……」

 

どこかで、誰かが呼んでいる声がする。

最初は誰が誰を呼んでいるのか分からなかった。

だが少しずつ、確かにそれが“自分”を呼んでいるのだと気づく。

 

「スバル様」

 

「――っ!パンドラ!おっ、お前……起きて大丈夫なのか!?」

 

その声の主が、儚く優しい少女のものだと理解した瞬間、スバルの身体は反射的に椅子から跳ね上がっていた。

 

「ええ……スバル様のおかげで。……本当に、ありがとうございます」

 

「よかった……本当に、よかったぁ……」

 

安堵の涙が、無意識に頬を伝う。

寝息だけでも救われたはずなのに、実際に彼女が目を開け、言葉を返してくれる――それだけで胸の奥が熱くなる。

 

「それより……スバル様のほうこそ、大丈夫なのですか?」

 

「いや、俺は平気。ほら、めっちゃ元気だし」

 

嘘ではなかった。ついさっきまであのドリルロリに体の中をめちゃくちゃにされたはずなのに、なぜか今は十時間ぐっすり寝た後みたいに体が軽い。

また背中には、見覚えの無い毛布がかかっていた。

 

「そうなのですね……でしたら良かったです」

 

パンドラの微笑みを見た瞬間、スバルは心から思った。――あぁ、命懸けでやってきたことは、本当に無駄じゃなかったんだな。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

そうして互いの無事を喜び合い、しばし静かな余韻に浸ってからおよそ十数分後。

落ち着きを取り戻したスバルとパンドラは、改めて現状を整理しようとしていた。

 

「それで、スバル様。このお部屋はいったい……? なぜ盗品蔵にいたはずの私がベッドの上に?」

 

「あー、それはだな……。俺も正直正確なとこは分かんねぇんだけど……」

 

スバルは、彼女が倒れたあとに起きたことをかいつまんで説明した。

 

「……ってわけで、多分ここはエミリアちゃんの家で、つまり安全圏……な、はずだ」

 

「なるほど…?」

 

歯切れの悪いスバルの言葉に、パンドラは小首を傾げる。だが実際、スバル自身もここが安全だという確信を持てていなかった。あのベティとかいう極悪ロリの存在を思えば、簡単には安心できない。

 

「てか、それより気になることがあってな……」

 

「なにか、心配ごとでも?」

 

「いや、心配っていうか……パンドラ、お前、あの時……その……」

 

言いかけて、スバルの言葉が途切れた。

頭の中に浮かんだ疑問を口にしようとした、その瞬間――。

 

キィ、と控えめな音を立てて、部屋の扉が開く。

 

スバルの背筋がわずかに緊張する。

そんな反射的に視線を向けた先に現れたのは

 

「あら、目覚めていたのね、姉様」

 

「そうね、目覚めていたのね、レム」

 

桃色と水色、対になるような髪色の双子の少女。

同じ声質、同じ仕草、そして揃いのメイド服。

 

美しくも、どこか底知れない気品を放つその姿に、スバルは息を呑んで、絞り出す様に言葉を紡いだ。

 

「馬鹿な……この世界には、メイド服が存在するっていうのか!」

 

「大変ですわ。お客様は頭がおかしくなってしまったわしいです。姉様」

 

「大変だわ。今、お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ。レムが」

 

そんなメイドとは思えない言葉を吐く2人だが、その見た目は黒を基調としたエプロンドレスに、頭の上に乗せたホワイトプリム。メイド服としてオーソドックスなクラシックスタイルに身を包む、双子の美少女。――これぞ、メイド理想の体現といえた。

 

「俺のキャパシティを舐めるなよ。二人まとめて妄想の餌食だぜ、姉様方」

 

 両腕を交差して宙で掌をわきわき。無意味な動作にメイド二人の顔に戦慄が浮かび、彼女たちは絡めていた指をほどいて互いを指差し

 

「お許しになって、お客様。レムだけは見逃して、姉様を汚してください」

 

「やめてちょうだい、お客様。ラムは見逃して、レムを凌辱するといいわ」

 

「超麗しくねぇな、この姉妹愛! お互い売るとか、そして俺は超悪役か!」

 

そんな軽口を叩き合いながら、真顔のままきゃーこわーい、と再び手を取り合う双子と、それを変態的な目つきでじっと見つめるスバル。すると

 

「2人とも元気そうでよかった…でも、もっと大人しく目覚めたりできなかったの?」

 

とんとんと、そんな騒ぎを聞きつけて、開いた扉を内側からノックした後に、こちらを見つめて問いかける少女がいた。

 

その長い銀色の髪の美しさは陰りを知らず、今日は結びをほどかれて自然と背中へ流されている。服装は町で見かけたローブ姿ではなく、黒い系統が目立つ細身に似合ったデザインの格好だ。

スカートは膝丈よりやや短く艶やかだが、その領域は腿の上まで届くニーソックスが隠している。

 

そんな彼女の突然の来訪をうけてスバルは、その見る者全てを魅了する美しいお姿(スバル評)に15秒ほど見惚れた後に

 

「わかってる!この服選んだ奴はわかってるぜ、GJ!」

 

などと叫び、それが何の話か理解できないエミリアと、あきれ顔の双子を前に満足げにガッツポーズをしていた。

 

「メイド服といい、エミリアちゃんの服といい、この世界のセンス、マジで神すぎだろ……って、どうした、パンドラ?」

 

だが、そんな浮かれ調子のスバルの袖を、そっと引く手があった。見るとパンドラがわずかに裾を握り、こちらを見つめている。さっきまでの微笑みは消え、どこか不安げな表情をしていた。

 

「スバル様……」

 

小さく、儚い声で呼ぶだけ。

なにかを訴える様に、ただその名を呼ぶ。

 

スバルは戸惑った。理由が分からない。

――俺、なんかやらかしたか?

思い当たる節、特になし!

 

一方その様子を見ていた桃髪のメイドは、とてもメイドとは思えないハッ!という嘲りの言葉を口から吐いた後に

 

「レムレム、お客様ったら女心が分からない、典型的なゲス野郎みたいね」

 

「姉様姉様。浮気性なお客様は、女の敵に違いありません」

 

「えっ、ちょっ……俺、今なんかした!?」

 

困惑するスバルの横で、パンドラはほんの不安な顔を崩さないまま、彼の袖を掴みつづけたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

そこから数十秒ほど、どうにも噛み合わないやり取りが続いた。ラムとレムの毒舌に的確な反論を返せるほど、スバルの理解力は高くなかったのだ。

 

――女心ってやつ、マジで理不尽だな……。

そんな風に感じたスバルは、その居心地の悪さに耐えきれず、話題を逸らすことを決めた。

 

「てか、ここってやっぱエミリアちゃんの家ってことで合ってるよな? いやぁ、なんとなく凄い子だとは思ってたけど、まさかこんなお嬢様だったとはなぁ……」

 

そうやって軽い調子でエミリアに話しかけながらも、スバルは頭の中で情報を整理していた。

そういえばあのラインハルトの野郎――たしか“エミリア様”って呼んでたっけ。ってことは、貴族とか、地主とか、なんかそういうやんごとなき身分の人ってことだよな、と。

 

しかし、そんなスバルの推理はあっさりと否定される。

「あっ、えっとね。実はここは私の家じゃないの。この地域を治める、辺境伯さんのお屋敷なの」

 

「辺境伯?」

 

聞き慣れない言葉を繰り返すスバル。

けれど、今はそんなことどうでもよかった。

 

「そうなのか……いや、てかそんなことより――助けてくれて本当にありがとうな。あのまま放っとかれてたら、俺たち本気で死んでたかもしれないし…」

 

スバルの言葉に、エミリアは少し目を丸くし、それからふわりと微笑んだ。

 

「ううん、お礼を言うのは私の方。あの場所で、ほとんど知らない私のことを命懸けで助けてくれたじゃない。ケガの治療なんて当たり前よ…それにそれを言うならレム達も…」

 

「エミリア様…それは…」

 

「ふふっ、分かったわ…」

 

レムと呼ばれた青髪の少女に遮る様な言葉に少し違和感を感じつつも、真摯な眼差しでストレートに感謝を伝えられたスバルは「あう」と情けない声を漏らすしかできない。

 

もし助けてくれた、という彼女の言に「そうじゃない」と言い返せればどれだけ楽だろうか。

 

スバルとしてはみんなを救ったつもりは無い、むしろ自分の力が、考えが、なにもかもが足りないせいで何度も、エミリアをフェルトをロム爺をそしてパンドラを…何度も何度も何度も死なせてしまったのに。

 

だが、その消えた世界の残骸はスバルの記憶にしか残っておらず、言ったとしても信じて貰えるはずがない、だからこそスバルは

 

「――んじゃ、お互いに助け合ってプラマイゼロってことで、どうよ」

 

「ぷらまい……?」

 

「互いに貸し借りなし! そんなわけで仲良くしようぜ、兄弟!」

 

 貧民街の相手なら、ここで肩のひとつでも気安く組めたのだが、スバルにできたのはこんな風に勢いで羞恥を誤魔化すことだけだった。

 

 そんなスバルの虚勢にエミリアは小さく笑みをこぼすと

 

「私、こんな変な弟はいらないかな」

 

「わりと辛辣なコメントですね!?」

 

しかもさりげなく目下扱いされていることに、少し驚きを感じていると。

 

「持ってきましたわ、お客様」

 

「持ってきたげたわ、お客様」

 

そうこうやっている間に、双子がスバルの服とパンドラの着ていた白い布を持ってくる。

桃色がパンドラの布、水色がスバルのジャージとズボン。幸い、スバルの服についていた鮮血の痕跡は残らず洗濯してもらえたらしい。

 

パッと見、変化のないジャージの帰還に安堵するスバル。と思ったのも束の間、駆け寄ってきた二人はいそいそとスバルの衣服を脱がそうとしてくる。

 

「おいおい! いいって、ひとりでできるもん! ちょっと嬉しいけど」

 

「まあ、恥辱より快楽が勝るなんて本音が出てますわ、姉様」

 

「あら、屈辱より幸福が勝つなんて心底から変態だわ、レム」

 

「微妙に桃髪の方が口悪いよな! 着替えるから、HA・NA・SE!」

 

そうしてスバルはもみくちゃしてくる双子の手を振り払ってジャージを奪還した、すると

 

それに対して桃髪のメイドは、面倒くさそうに髪を整えながら、ため息をひとつ吐き。

 

「はー……まあ確かに、いくらゴミクズとはいっても、そういう人がいる男なんだから、最低限の尊厳は守られるべきね」

 

「おっ、おう……ありがたいけど、なんで急にそんな俺の立場を慮ってくれる感じになってんの? てか、“そういう人がいる男”ってどういう意味よ」

 

問い返すスバルに、桃髪は呆れ顔でレムをちらりと見る。

 

「はぁ……だって、ねぇ、レム」

 

「はい……エミリア様、お客様が着替えてる間、私たちは外に出ましょう」

 

「え?なんで部屋を出る必要があるの?」

 

「いいですから、早く行きましょう。……エミリア様」

 

「……?よく分からないけど、じゃあ着替えたら庭に来てね。パックと一緒に待ってるから」

 

「あ、ああ……?」

 

何がなんだか分からないまま、スバルはその場に取り残された。“パック”という未知の単語。やけに素直に外へ出ていくレムと姉様。そして、よく分かっていないながらも素直に従うエミリア。

 

全員の動きに拍子抜けしながらも、スバルは三人がしっかり部屋を出たのを確認してから小さく息をついた。

 

「さてと……着替えるか、って…」

 

「そうですね。早くエミリア様たちに合流いたしましょう」

 

隣から聞こえた澄んだ声に振り向くと、そこには――当然のようにスバルの横で、自分の寝間着に手をかけているパンドラの姿があった。

 

「えっと……パンドラさん?」

 

「はい、なんでしょうか、スバル様?」

 

「いや、その……なんでエミリアたちと一緒に出ていかなかったの?」

 

「……?仰っている意味が分かりません。盗品蔵で出会ったエミリア様や、さっき初めて会ったお二人よりも、安心できるスバル様と一緒にいるのは当然のことではありませんか?」

 

まるで“何を言ってるの?”と言いたげな表情。

スバルは額に手を当てた。

そして、さっきラムが口にした「そういう人がいる男」という言葉の意味をようやく理解する。

 

「あいつら……俺とパンドラを、そういう関係だと思ってやがるのか……」

 

思い返せば、明らかに兄弟でない男女が共に行動して、互いの無事を泣いて喜びあっている。赤の他人から見れば――恋人同士と誤解されてもおかしくはない。

 

「……まあ、そりゃ誤解されても仕方ねぇか」

 

スバルは苦笑した。そして本来なら彼女と交互で部屋を使うべきなのだろうが、いくら壁を隔てただけの距離とはいえ、この屋敷にはあの極悪ドリルロリがいることを考えれば、彼女を部屋の外に出すのはリスクが高い様に思えた。

となればスバルに残された選択肢は

 

「なあ、パンドラ。俺、ちょっと廊下に出て着替えるわ」

 

「分かりました。それじゃあ私も――」

 

「いや、来ちゃダメだから!」

 

「……?なぜでしょうか」

 

「いや、だからっ……!」

 

意味が通じない。スバルが必死に説明しても、パンドラは首を傾げるばかり。結果、十数分に及ぶ不毛なやり取りの末――スバルは根負けした。

 

結局、彼はパンドラの同席を許すことに。

 

そして先に彼女が着替えている間は、スバルが目を瞑ることでこと無きを得た。

しかし、いざスバルの番になると、パンドラはまるで悪気のない顔で、しっかりその様子を見守っていた。

 

「……パンドラさん、見ないでくれる?」

 

「なぜですか?」

 

もう既に何度も、着替えはじめる前にそのやり取りをしていたスバルにもはや言い返す気力は残っていなかった。そうしてあらゆる所をパンドラにみられる、そんな羞恥に耐えながら着替え終わったスバルは、ジャージ姿でベッドの端に顔から崩れ落ちた。

 

――そして顔からベットに突っ伏した状態でスバルはボヤいた。

 

「もう……お嫁にいけない……」と。




今回もわりと原作2章3話の文章を多めに引用させて頂きました。最後は辱めを受けたスバルですが、これでもレムと姉様に男としての尊厳を完全に破壊された原作よりはマシだったりします。その姿を見たい方は、是非原作2章の同タイトルの話を読んでみてください。
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