「何故、そう思うの?」
それは彼が人生を通して、初めて受けた問であった。
「何故って……だって僕が感じてることは僕の物で、それなのに大人の都合で、誰かに取られたくないって、そう思って……」
女性のきつい言い草に、萎縮しながらも出した答え。思っていることをある程度は伝えられたはずだ。
「そう。確かに、あなたの魂はあなたのものよ。間違いないわ」
そう言って、頬を緩める女性。少し空気が弛緩したように感じられた。
「な、なら――」
「でもね、キミ」
遮られてしまった。きっと本当に言いたいことは、この後にあったのだろう。
「神は、実在するわ。反論の余地なく、ね。そもそも神が、人に何か救済をもたらしてくれるような過干渉な存在だなんて、言ってない。私が言っているのは、私たち人間を作った者。起源である彼らのことを、神だと言っているのよ。何もしてくれない、見て楽しむだけの傍観者。
有難がる必要なんてないけど、必ず何かが発生するのには理由がある。自らの祖を、無下にしてはいけないとは思わないの?」
小難しい話を聞かされて、ツヅレはその場に硬直してしまった。機械がショートしたかのように動かない。
「あら? き、キミ? おかしいわね。私の言っていること、そんなに聞くに耐えなかったかしら……」
ツヅレからの応答がしばらく無かったせいか、女性は少し取り乱した。その様子がおかしかったからか、ツヅレはぷっと吹き出してしまう。
「あ、キミ! 笑ったわね!」
「す、すいません。だって、意外と気にしぃなんだなって……」
筋肉を無理やり強ばらせて、どうにか笑いを収める。これ以上笑っては、失礼だと判断したからだ。
「もう、いいわよ」
「で、でも、お姉さんの言ってることは、何となく分かりました。でも、なんでそんなに神様にこだわるんですか?」
待ってましたと言わんばかりに、女性は腕を組み、得意げに話し始める。
「当然、私は見たからよ。この目で、神を。
あれは、二年ほど前のことだったかしら。私はここからとてと遠くにある、険しい山を登っていた。もちろん、神に会うためよ。私は考古学者をしているの。だから他にも沢山の、神が現れるとされている地を巡っていた。正直、あまり期待はせずにそこを捜索していたわ。
しかし頂上に辿りつこうというその時、眩い光が私を襲ったの。するとそこには、光で出来た龍……のような生物がいた。伝説上のポケモンかと思ったのだけれど、その外見に該当するポケモンは存在しなかった……いや、ある伝承には、それらしきポケモンがいたことが分かっているわ。しかし、それは現代には存在し得ないポケモンなのよ。
そのポケモンの名は『カガヤキサマ』。アローラ地方という、温暖な地域に伝わる伝説上のポケモン。アローラ、もしくはその並行世界の住民は、そのポケモンを神として崇めていた。光のエネルギーをもたらしたとされているわ。しかし、ある時『カガヤキサマ』はその姿を消した。いくつかに分裂したという言説もあるわ。
なんにせよ、壊れてしまった『カガヤキサマ』は、現代に蘇りはしない。むしろ、私は『カガヤキサマ』伝説自体が作り物であるという線も追っていたくらいよ。
しかし、私は目にしてしまった。その姿を。私自身の、あの恐ろしい経験が頭から離れない。だから私は信じている。神は間違いなく、いるわ」
女性の語り草は、とても真剣なものであった。何かを誇張したり、嘘を言っているようには思えない、本当に自分の経験であることが見て取れるほどの緊張感を覚えた。
「そんなことが……『カガヤキサマ』なんて、聞いたこともない。だけど、会ってみたい、かも。
あの、僕、友達が居なくて、持つことすら許されていなかったポケモンのことを考えて、暇な時は気を紛らわしていたんです。
だから、僕は未知のポケモンが神様ってお話に、とても興味があります。どうか僕を……あ、待ってください。お姉さん、お名前を聞いてもいいですか?」
ツヅレは、自分の知らないことに目がない。未知のためなら、知らない人にもついていくのだ。
「ええ、もちろん。私はシロナ。言うのが遅れてしまって申し訳ないわね、ツヅレ君」
「いいえ! 問題ないですよ、シロナさん! ……あれ、そういえば、博士は?」
「あら? そういえば、居ないわね」
ふと、その存在が消えていることに気がつく二人。不可解に思うが、しかしそれより今は大事なことがある。
「まぁいいわ。ところで、あなたさっき、私と旅をしたいって言おうとしていたわね。うん、いいわよ。あなたと共に、神探しの旅をしてあげるわ。着いてこれるかしら?」
「もちろん! 上等です!」
共に旅をすることを決めた二人。しかしそこに、ひとつの謎が残される。
――その日以来、博士が姿を見せない。