ミンダナオ海に浮かぶタウィタウィ島の朝は、いつものように漁師たちの声で始まった。バンカボートのエンジン音が港に響き、女たちが市場への道を急ぐ。ココナッツの香りと塩の匂いが混じり合った風が、高床式の家々の間を吹き抜けていく。
アリス・レイモンドは島の東端にある海洋研究ステーションのテラスで、衛星データとにらめっこしていた。シンガポール海洋研究所から派遣されたこの若い海洋学者は、スルー海の深海流を調査するため、三ヶ月前からこの島に滞在している。
「また異常な潮流データね……」
画面に表示された海流図は、これまでの記録とは明らかに違っていた。深度三千メートルの海流が、まるで巨大な何かに押し上げられるように変化している。しかし、地震計には何の反応もない。
「アリス先生」
振り返ると、地元の漁師の息子で研究助手をしているイスカンダルが立っていた。二十代半ばの青年の顔には、いつもの人懐っこい笑顔がない。
「どうしたの?」
「軍の人たちが来ています。それと、外国人のジャーナリストも」
アリスは眉をひそめた。この小さな島に軍が来るなど、異常事態だった。
テラスから港を見下ろすと、確かに軍用のボートが停泊している。迷彩服を着た兵士たちが、地元の人々と何かを話している。
「サマ・ラウトおばあさんが、先生に会いたがっています」
と、イスカンダルが付け加えた。
サマ・ラウト。島の人々が畏敬の念を込めて語る、バジャウ族最後の「ペンドゥラク・ラウト」─海の歌い手。彼女は島の南端、珊瑚礁に囲まれた浅瀬に一人で住んでいる。現代文明を拒み、伝統的な海上生活を続ける七十歳の老女だった。
「私に?なぜ?」
イスカンダルは困惑した表情で答えた。
「分からないんです。でも、おばあさんは滅多に人に会おうとしない。三年前、僕の祖父が亡くなった時以来です」
港に向かう途中、アリスは軍の一行と遭遇した。
「レイモンド博士ですね」
振り返ると、軍服を着た中年の男性が立っていた。階級章からして、かなりの高官のようだ。
「私はジェネラル・ウィラワン、インドネシア海軍司令官です」
ウィラワンは50代半ばで、威厳のある顔立ちをしていた。しかし、その目には職業軍人特有の鋭さとともに、何かを隠しているような表情があった。
「この島で海洋調査をされていると聞きました。最近、何か異常は観測されていませんか?」
「異常?」
アリスは警戒した。
「どのような?」
「深海からの電磁波の異常放射、未確認の大型海洋生物の目撃情報など」
その時、一人の外国人男性が近づいてきた。
「すみません、私はデイビッド・サン、CNNアジア特派員です」アジア系アメリカ人らしい男性が名刺を差し出した。「この地域で起きている現象について取材をしています」
「どんな現象ですか?」
「一週間前から、この海域で漁師たちが奇妙な目撃証言をしています。海底から光が見える、巨大な影が海中を移動している、など」
ウィラワンが割り込んだ。
「根拠のない噂です。我々は科学的事実に基づいて行動している」
「では、なぜ軍艦を派遣したのですか?」デイビッドが質問した。
「定期的な海域パトロールです」
その時、港の向こうから一隻の豪華なヨットが近づいてきた。白い船体に金色の装飾が施された、明らかに富裕層の所有物だった。
ヨットから降りてきたのは、スーツを着た中年の中国系男性だった。
「リム・ウェイミンです」男性は英語で自己紹介した。「リム海運グループのCEOをしています」
リム海運グループ。東南アジア最大の海運会社の一つで、この海域の物流を一手に担っている企業だった。
「なぜこちらに?」
ウィラワンが警戒した口調で聞いた。
「我が社の船舶がこの海域で航行困難に遭遇しています」
リムは冷静に答えた。
「原因を調査し、損失を最小限に抑える必要がある」
「損失?」デイビッドが食いついた。
「この一週間で、三隻の貨物船が予定コースを大幅に変更せざるを得なくなりました。乗組員たちは『海の異常』を報告している」
アリスは自分のデータを思い出した。確かに、この一週間の海流変化は異常だった。
「具体的にはどのような異常ですか?」
リムは部下からタブレットを受け取った。
「これをご覧ください」
画面には、巨大な渦のような海流が映し出されていた。まるで海底から何かが立ち上がっているような形状だった。
「我が社の最新ソナーシステムで撮影したものです。深度三千メートルから何かが浮上している」
ウィラワンの表情が変わった。
「その画像を軍に提供していただけますか?」
「もちろん。ただし、相応の対価をお支払いいただければ」
デイビッドがカメラを向けると、リムは手で制した。
「申し訳ありませんが、企業秘密に関わる部分もありますので」
その時、イスカンダルが駆け寄ってきた。
「皆さん、ダトゥ・マハムドが話したいと言っています」
ダトゥ・マハムドは島の西端にある小さなモスクで彼らを待っていた。七十歳を超える老人だが、その目には深い知恵と慈愛が宿っていた。
「皆さん、ようこそ」
マハムドは穏やかな英語で挨拶した。
「私はこの島のバンサモロ族の精神的指導者です」
モスクの中は簡素だったが、清潔で心地よい空間だった。古いコーランが大切に保管され、壁にはアラビア語の書が掲げられている。
「あなた方が探しているものについて、お話ししましょう」
ウィラワンが身を乗り出した。
「何をご存知なのですか?」
「我々の祖先から語り継がれてきた物語があります。『海の大いなる御使い』について」
リムが眉をひそめた。
「迷信的な話ですか?」
マハムドは首を振った。
「迷信?そう考える人もいるでしょう。しかし、時として現実は我々の理解を超えています」
デイビッドがレコーダーを取り出した。
「その物語を聞かせていただけますか?」
「昔々、この海には偉大な守護者がいました。アラーが創造された海の意志そのもの。時が来ると、その守護者は深い眠りから目覚め、海を浄化し、秩序を回復する」
「いつ目覚めるのですか?」
アリスが聞いた。
「しるしがある時。海が歌い始める時。魚たちが古い踊りを踊る時」
マハムドは立ち上がると、モスクの外を指差した。
「今朝、私は見ました。イルカたちが円を描いて泳いでいる姿を。それは古い踊り。守護者の帰還を告げる踊りです」
ウィラワンが苛立ったように言った。
「我々は軍事的脅威の可能性を調査している。民間人は安全な場所に避難を――」
その時、島の反対側から地響きのような音が聞こえてきた。
一行は急いで音の方向へ向かった。島の北端にある村では、人々が慌てふためいていた。
「何が起きているの?」
アリスがイスカンダルに聞いた。
「海が光っているんです」
確かに、北側の海が青白く光っていた。昼間だというのに、海面下から不自然な光が放射されている。
村長のカピタン・ハリスが駆け寄ってきた。六十代の男性で、長年この島の住民をまとめてきた人物だった。
「これは一体何なんだ?」
ハリスは困惑していた。
「こんなことは今まで見たことがない」
その時、村の奥からフィリピン人女性が三人の子供を連れて現れた。ニナ・サントスは三十代のシングルマザーで、港で魚の選別の仕事をしている。
「子供たちが変なことを言うんです」
ニナは不安そうに話した。
「『大きな友だちが帰ってくる』って」
最年少の男の子が、リムの方を見上げて言った。
「おじさん、大きな船持ってる?大きな友だちの方が大きいよ」
リムは苦笑いした。
「確かに、私の船は大きいが─」
その時、ウィラワンの無線機が鳴った。
「こちら司令官。状況を報告せよ」
「レーダーに反応あり。巨大な物体が海底から浮上中。推定全長百メートル以上」
全員が息を呑んだ。
デイビッドがカメラを構えた。
「これは歴史的瞬間になるかもしれない」
アリスは自分の測定機器を確認した。確かに、異常な電磁波が検出されている。
「サマ・ラウトのところへ行きましょう」
イスカンダルが提案した。
「おばあさんなら何か知っているかもしれません」
サマ・ラウトの住居へは、全員でバンカボートに分乗して向かった。軍人、企業家、ジャーナリスト、科学者、宗教指導者という異様な組み合わせだった。
珊瑚礁の迷路のような水路を進む間、海底の光はますます強くなっていた。
デイビッドがアリスに聞いた。
「これは何かの生物発光現象ですか?」
「可能性はあります。でも、このスケールは...」
リムがタブレットを確認していた。
「私の会社の船が緊急避難している。この海域は完全に航行不可能になった」
ウィラワンは無線で部下と連絡を取っていた。
「本部に増援を要請する。未確認の巨大生物への対処が必要だ」
マハムドは静かに祈りを捧げていた。
やがて、サマ・ラウトの住居が見えてきた。しかし、老女の姿はない。
「おばあさん?」
イスカンダルが呼びかけた。
住居の奥から、サマ・ラウトが現れた。いつもの穏やかな表情ではなく、深刻な顔をしていた。
「来たわね。みんな」
彼女は全員を見回した。
「軍人、商人、記録者、研究者、祈り人。そして、橋渡し」
最後の言葉は、イスカンダルに向けられた。
「おばあさん、海で何が起きているんですか?」
サマ・ラウトは住居の中から古い木箱を持ち出した。
「レヴィアタン・ダガトが目覚めた」
「何ですか、それは?」
ウィラワンが軍人らしい直接的な口調で聞いた。
「海の大いなる意志。あなた方が『ゴジラ』と呼ぶもの」
全員が凍りついた。リムが冷静に言った。
「仮にそのような生物が存在するとして、我々にできることは何ですか?」
「できること?」
サマ・ラウトは微笑んだ。
「観察すること。理解すること。そして、敬意を払うこと」
ウィラワンが反発した。
「民間人の安全が第一だ。脅威は排除しなければならない」
その時、海中から低い唸り声が響いた。
全員が海の方を振り返った。水平線の向こうから、巨大な影が立ち上がっていた。
最初、それは島のように見えた。しかし、それは動いていた。月光に照らされたその姿を見たとき、全員が理解した。
それは生き物だった。
「神よ……」
マハムドが息を呑んだ。
全長百メートルを超える巨体。竜のような長い首、鰭のような手足、そして背中に並んだ巨大な鱗。海面から突き出た頭部だけでも、島の高床式住居より大きい。
ゴジラ。
デイビッドのカメラが激しく回っていた。
「これは世界最大のニュースになる」
リムは慌てて電話をかけ始めた。
「本社に連絡を。全船舶の緊急避難を指示」
ウィラワンは無線に向かって叫んだ。
「本部、緊急事態発生。巨大な未確認生物が出現。攻撃の許可を求む」
しかし、サマ・ラウトは動じなかった。
「攻撃?」
彼女は首を振った。
「海に攻撃することはできない。風に攻撃することはできない」
アリスは言葉を失っていた。すべてのデータ、すべての異常現象の説明がついた。しかし、理解を超えていた。
イスカンダルが震え声で言った。
「おばあさん、どうすればいいんですか?」
「見ていなさい。レヴィアタン・ダガトは古い道を歩く。数千年前から決まっている道を」
ゴジラは島の北岸に向かって進んでいた。
ゴジラが島に上陸した瞬間、島全体が震撼した。
巨大な足が砂浜を踏みしめるたびに、地面が揺れ、港の建物が倒壊していく。しかし、アリスは気づいた。ゴジラは無差別に破壊しているわけではない。古い木々、珊瑚礁、天然の湧き水など、自然の造形物は避けて通っている。
「あの生物は意図的に人工物だけを破壊している」アリスが驚いて言った。
「そんなはずは……」
ウィラワンが反論しかけたが、実際にその通りだった。
デイビッドがカメラを回しながら実況していた。
「信じられない光景です。この巨大生物は、まるで建造物と自然物を区別しているかのように……」
リムは既に損失計算を始めていた。
「港湾施設の被害は数億ドルに上る。保険会社は『怪獣災害』を免責事項にしているか確認が必要だ」
その時、ニナが子供たちを抱きしめながら言った。
「子供たちが怖がっていない。なぜかしら」
確かに、三人の子供たちはゴジラを見つめているが、恐怖の表情はなかった。むしろ、興味深そうに観察している。
マハムドが静かに言った。
「純粋な心には、真実が見える」
ゴジラは島の中央部に向かって進んでいた。その通り道にあった村が、まるで砂の城のように崩れていく。小学校、教会、市役所。
しかし、住民たちは既に避難していた。まるで、ゴジラの出現を予感していたかのように。
「どうして人々は避難していたんですか?」アリスがカピタン・ハリスに聞いた。
村長は困惑した表情で答えた。
「サマ・ラウトおばあさんが、一週間前から『大いなる客人が来る』と言っていたんです。それで、念のため内陸部に避難していました」
ウィラワンが苛立った。
「なぜ軍に報告しなかった?」
ハリスが答えた。
「誰が信じますか? おばあさんの予言なんて」
ゴジラは島の最高峰、標高五百メートルのマウント・バタに向かっていた。島で唯一の山で、地元の人々が聖なる山として崇めている場所だった。
「あそこで何をするつもりなんでしょう?」
デイビッドが聞いた。
サマ・ラウトは答えなかった。ただ、小舟に乗り込むと櫂を手に取った。
「どこへ行くんですか?」
アリスが聞いた。
「ついてきなさい。あなた方は見なければならない」
全員が舟に分乗してサマ・ラウトに続いた。
夜の海は不思議な静けさに包まれていた。ゴジラの巨体が陸を歩く音は聞こえるが、海面は鏡のように平らかだった。
「見なさい」
サマ・ラウトが指差した先の海底で、巨大な構造物が光っていた。
リムが驚いた。
「あれは何ですか?」
「古い街。レヴィアタン・ダガトの寝床」
アリスは目を凝らした。確かに、それは都市遺跡のように見えた。巨大な石の構造物が、規則正しく配置されている。しかし、どんな人類の文明でも作ることのできない規模だった。
デイビッドが聞いた。
「いつからあそこにあるんですか?」
「始まりから。地球に海ができたときから」
ウィラワンが無線で部下に指示していた。
「海底構造物の座標を記録しろ。詳細な調査が必要だ」
しかし、リムは別のことを考えていた。
「海底都市……観光資源として活用できるかもしれない」
マハムドが静かに言った。
「商売のことしか考えないのですか?これは聖なる場所です」
その時、ゴジラがマウント・バタの頂上に到達した。そして、夜空に向かって咆哮した。
その声は、単なる音ではなかった。全員が全身で感じた。骨の髄まで響く、根源的な何かだった。
デイビッドのカメラが震動で揺れた。
「音だけでこの振動……」
そして、海底の古代都市が、その声に呼応するように光を強めた。
サマ・ラウトが呟いた。
「コミュニケーション。話している」
「何を?」
「古い約束のこと。新しい契約のこと」
ゴジラの咆哮が止むと、海底の光も次第に暗くなっていった。そして、巨大な影が再び動き始めた。今度は海に向かって。
しかし、歩みはゆっくりだった。まるで何かを確認するように、足元を見つめながら歩いている。
イスカンダルが言った。
「戻っていく」
ウィラワンが無線に向かった。
「全艦隊、生物の動向を監視しろ。攻撃の準備を─」
アリスが制した。
「待って。攻撃して何になるの?」
「脅威の排除だ」
「脅威?」
サマ・ラウトが振り返った。
「あの子が何を脅かした?」
確かに、死者は出ていなかった。建物は破壊されたが、人的被害はゼロだった。
リムが考え込んでいた。
「経済的な損失は確かにある。しかし、これを観光資源として活用すれば...」
「また金の話ですか」
マハムドが苦言を呈した。
デイビッドが興奮していた。
「これは人類史上最大の発見です。文明の概念そのものを変える可能性がある」
ゴジラは破壊された村を通り過ぎるとき、立ち止まった。そして、首を下げて何かを見つめている。
「何をしているんでしょう?」
サマ・ラウトは微笑んだ。
「覚えている。この場所を」
やがて、ゴジラは海岸に戻った。波打ち際で再び立ち止まり、島全体を見回した。そのとき、アリスにはゴジラの眼が見えた。
それは獣の眼ではなかった。深い知性と、言い表せない哀しみを湛えた眼だった。
マハムドが呟いた。
「別れの挨拶」
ゴジラは海に入った。巨体が水中に沈んでいくにつれて、島の震動も止んだ。やがて、頭部も波の下に消え、海面には静寂が戻った。
しかし、海底からの光は続いていた。古代都市が、まるで帰還を歓迎するように輝いている。
一週間後、島には国際的な調査団が到着した。
軍の科学者、国連の専門家、メディア関係者。小さな島は一躍、世界の注目の的となった。
しかし、ゴジラの姿は二度と現れなかった。
ウィラワンは軍の会議で報告していた。
「生物の正体は不明。しかし、明らかに知性を持っている。軍事的脅威としては...評価が困難です」
リムは株主会議で損失を発表した後、新たな事業計画を提示していた。
「『ゴジラ・ツーリズム』として、この島を観光地化する計画があります」
デイビッドの記事は世界中で話題になった。しかし、多くの専門家が「フェイクニュース」だと批判していた。
マハムドは信者たちに語りかけていた。
「我々は奇跡を目撃しました。しかし、奇跡の本当の意味を理解するには、謙虚さが必要です」
アリスは新しい研究プロジェクトを立ち上げていた。「未知の海洋現象の学際的研究」という名目で、科学と伝統知識の融合を目指している。
イスカンダルは、島の復興計画に参加していた。今度は、ゴジラの通り道を考慮した都市計画を作成している。
ニナと子供たちは、新しい住居で生活を始めていた。子供たちは時々、海を見つめて「大きな友だちはまた来る?」と尋ねる。
カピタン・ハリスは村の再建を指揮していた。観光地化の提案もあったが、住民たちは「静かな島のままでいたい」と希望していた。
そして、サマ・ラウトは以前と変わらず、珊瑚礁の中で海を見つめていた。
アリスが最後に彼女を訪れたとき、老女は小さな貝殻をくれた。
「これをシンガポールに持って帰りなさい」
「なぜですか?」
「あなたはもう、海の歌を聞いた人。聞いた者には責任がある」
「責任?」
「伝えること。科学の言葉で説明できないことも、ある。それを忘れないこと」
アリスは貝殻を受け取った。手のひらに収まる小さな巻貝だったが、なぜか温かかった。
「この島にまた来ることがあるでしょうか?」
サマ・ラウトは遠い海を見つめた。
「来るときは、呼ばれるとき。レヴィアタン・ダガトがまた目覚めるとき」
「いつですか?」
「海の時間で。百年後か、二百年後か。でも、必ず戻ってくる」
その夜、アリスは研究ステーションで報告書を書いていた。科学的な事実と、説明のつかない体験をどう両立させるか悩んでいた。
結局、彼女は二つの報告書を書いた。
一つは学会向けの科学的報告書。「タウィタウィ島における異常海流現象について」
もう一つは個人的な記録。「海の記憶」というタイトルで。
海には記憶がある。私たちが忘れてしまった古い約束、古い友情、古い畏敬の念。そして時として、その記憶が物理的な現実となって現れる《/i》
科学者として、私は測定できるものだけを信じてきた。しかし、この島で学んだのは、測定できないものを否定してはならないということだった
軍人は脅威として見た。企業家は資源として見た。ジャーナリストは記事として見た。宗教家は奇跡として見た。しかし、海の民は家族として見た
どの視点が正しいのか、私にはわからない。おそらく、すべてが部分的に正しく、すべてが部分的に間違っているのだろう
ただ一つ確実なのは、私たちはもっと謙虚になる必要があるということだ。自然に対して、海に対して、そして理解できないものに対して
レヴィアタン・ダガト─海の大いなる意志は今も海底の古い都市で眠っている。しかし、それは永遠の眠りではない
いつの日か、再び目覚めるときが来るだろう
そのとき、人類は選択を迫られる。畏れ敬って共存するか、対立して滅びるか
私たちには、まだ時間がある。海の歌に耳を傾け、古い約束を思い出す時間が
窓の外では、タウィタウィ島の海が静かに輝いていた。
アリスは貝殻を耳に当てた。確かに海の音が聞こえる。いや、それは単なる血流の音ではない。もっと深い、もっと古い何かの声だった。
レヴィアタン・ダガトの歌声だった。
本編がこんな感じになるとは思わないけど楽しみですね、東南アジアのゴジラ。