逆に非日常的なことが起きるはずがないと考えている奴のところに、
ひょっこりと非日常が顔を表すのだ。
日常の裏に非日常は隠れているわけだ。
「化け狐探すぞ」
「…………」
「返事は」
「ぞー」
嫌々な雰囲気をふんだんに声にぶち込みながら腕を上げてそう声を出すと俺の目の前に立っている黒髪ロングクールめの美少女は学校の制服に何故か虫取り網を持っていた。
化け狐と言っても探すのは人に幸福を与えるとされている白狐……それを探すらしいのだがどうやってそんな伝承上の動物を虫取り網で捕まえるのだろうか。
そんな事よりも俺----葉山聡は猛烈にこのクラブに入部してしまったことを後悔している。
入部してしまったクラブ……それはミステリークラブという名前からして入りたくないクラブだ。
そしてなが机を挟んで俺の向かい側に座っている黒髪でクールな美少女は黒神歩。
この浜崎第二高校の女子の中でも五本の指に入ると言われている美人さん……なのだが、
「今回探すのは前にも言った通り人に幸福を与えると言われている白狐だ。稲荷神社に祭られている狐はほとんどが白狐だ。ちなみに阿部孔明の母親とされている狐も白狐だ」
と、こんな具合に伝承系が大好きな少女なのだ。
もちろん、このミステリークラブの創設者は何を言おう、彼女であり、部長は彼女、
副部長は必然的にこの俺となるわけである。
部員数は俺と彼女の2人だけ、さらにもっと言えば学校から公認されているクラブではないので、
大学で言うサークルのようなものなので予算は降りてこない。
何故、そんなクラブに俺が入ってしまったというとそれは一週間前に遡れば分かる。
……………………………………………
「水泳部に興味ないですかー!?」
「バスケ部なんてどう!?」
あちこちからクラブに勧誘しようと必死に声を上げている人たちの大きな声が聞こえてくる。
入学式の当日、俺は自分自身が考える最高のヘアスタイルで体育館へ向かったのだが入り口で教師らしき女性に呼び止められ、ワックスなどは禁止と言われ、泣く泣く洗い落として元の変な髪形に戻った。
結んでもいないにもかかわらず勝手に結んだような髪型になるやん毛、勝手に七三分けみたいに真っ二つに分かれてしまう前髪周辺……俺はこの髪形が嫌いだったのに。
結局、クラブ活動もやる気でいたのにやる気が覚めてしまい、こうして全部スルーしている。
「くそ。あの先生に見つからなかったら…………ここどこだ」
無心に歩いていたせいか校舎が入り組んだ場所に入ってしまい、入った場所もわからなくなってしまった。
ここって3つくらいの高校が1つの敷地に建てられているから校舎が入り組んでるんだよな……やっべ。
さっさと帰ってゲームしたかったのに……どちらへ行くべきだろうか。
適当に曲がり角を曲がると目の前に曲がり角が二つ現れ、右か左かの二択だった。
「ん~。ゲームならこれまでの行動からヒントが出てくるんだけど生憎、ここは現実。
右か……はたまた裏をかいて左か……左だ!」
理由は俺の利き腕が右であるので反対の左なのである。
左に曲がり、そのまま道をまっすぐ向かうと校舎に囲まれて、
影になっていたところから徐々に明るさが戻ってきた。
「うんうん。やっぱり左であってたな。やっぱり俺っててん…………」
そこまで言いかけたところで喋るのも歩くのも止めてしまった。
「………」
俺の目の前にある日陰に黒髪ロングの美少女が壁に背を向けて手にミステリークラブ入部希望者大募集中! ときれいな字で書かれている旗をもって置いてある椅子に座っていたのだ。
要するに言えばその美貌に目を奪われるついでに口も足も奪われてしまったわけである。
「…………そこの君」
「は、はい! 1年5組の葉山聡であります!」
「ふむ。葉山君か……どういう字を書くのかここに書いてくれないか? あ、フリガナも忘れないように」
「お安いご用であります!」
黒神美少女からペンを受け取り、そのまま俺は人生で一番集中したと言えるほどの集中力を発揮して、
長細い枠に自分の名前とフリガナ、ついでに生年月日と携帯番号まで書いた。
「ほう。葉山聡はこう書くのか」
「はい!」
「おめでとう。今日から君はミステリークラブ副部長だ」
「あ、ありがとうございます! ………………は?」
言われたことにそのまま反射的に礼を言ってしまったがその数秒後に彼女の言ったことが引っ掛かった。
ミステリークラブ副部長ってつまり、そのクラブのNO.2ってことだよな……俺いつこのクラブの入部希望用紙に名前書いた? ていうか貰った記憶が全くないんだが…………ま、まさかっ!
気づいた時にはすでに時遅く、悪魔的な笑みを浮かべた彼女の手に握られた印鑑はポチッと紙に押され、俺の個人情報のほとんどが彼女の懐に入ってしまった。
という感じで俺はこのミステリークラブに入部してしまったわけである。
「さて、白狐といえば稲荷神社だ。というわけで来てみました」
このくそ暑いときに俺は京都府は伏見区にある伏見稲荷大社に来ている。
全国に約3万社あるといわれる稲荷神社の総本社であり、初詣では近畿地方の社寺で最多の参拝者を集めると言われている(ちなみに日本国内第4位である)。
「ぜぇ……ぜぇ」
「どうした? そんなに息を切らして。汗もだくだくじゃないか」
「あんたをのせてここまで自転車を走らせたんでしょうがぁ!」
俺たちの高校がある場所は京都府の周辺にあることはある……だが、なぜ京都府の伏見区まで公共交通機関を使わずに自転車なのだろうか! 否! 公共交通機関を使うべきであります!
しかも部長を後ろに乗せた状態で一体いくつの坂を上ったことやら……。
「ではおさらいだ。我々が今日探す化け狐もとい妖狐とは古くから数多くの言い伝えがある。
中でも白狐というのは人に幸福をもたらすと言われており、その白狐が今日の人のために恩を返す狐の像ができたとされている。よって今日、私たちは白狐を探すぞ!」
「そ、それは分かりましたが……ぜぇ……何で虫取り網なんすか」
「何を言っている。こっちの方が狐は捕まえ安かろう」
この人、とうとう白狐じゃなくてキツネっていっちゃったよ……ちなみに日本では狐は油揚げが好物だとされていて油揚げを狐ともいう。中国なんかはまた別のものらしいけど。
「では出発なり」
「あいさ~」
彼女の後ろをついていくがやる気に満ち溢れている彼女とは違って俺はもうやる気の”や”すらなく、
早速、帰巣本能という名の帰りたい症候群が発症してしまっている始末である。
「おぉぉぉぉ可愛いな~」
「って行くんじゃないんですか!?」
歩いてからわずか数分で部長は傍に偶然いた真っ白の毛をした犬らしき動物に心を奪われたらしく、
虫取り網をわきに挟んでしゃがみ込み、いつものクールな表情のまま犬の頭をなでなでしていた。
あれでニヤニヤしてるなら可愛いんだろうけどいつものクールな表情だからどこか怖い。
「ん? その子、ケガしてますよ。足の方」
「むっ。確かに。どこかで引っかけてしまったんだろう。副部長」
「はいはい」
ため息をつきながらそう言い、肩からかけている小さなポシェットから包帯を取り出してさっき買ってきたばかりの水のキャップを外してハンカチを濡らし、犬の傷口を軽くとんとんと叩くと染みるのか一瞬、体をびくつかせたが部長に頭をなでられているからすぐに落ち着いた。
落ち着いている間に足に包帯を軽く巻いてやった。
「うむ。これで大丈夫だぞ。ポンタよ」
早速名前まで付けてるし。
「探しに行くんでしょ? さっさと行きましょうよ」
「仕方がない奴だ」
いや、それは俺が言いたいセリフだ。
「またな。ポンタ」
そう言い、俺たちは真っ白な毛をした犬らしき動物に別れを告げ、本来の目的である白狐探しへと向かった。
「いない」
「当たり前です」
伏見稲荷大社の中にある茶屋で俺たちはキツネが可愛く皮に描かれた団子を食べながら休んでいた。
あれからお参りをしつつもなまはげの様にいい狐はいねえか!? と言わんばかりの気迫の部長の後ろをただただ追いかけていきながら一番奥まで行くとキツネはあった物のもちろんそれは石造で、
本物のキツネなどいるはずもなかった。
「キツネはいるのに何故、白狐はいないのだ」
「当たり前でしょ。所詮は伝承上の生き物でしかないってことですよ」
「あの」
突然、後ろから声をかけられて振り返ってみると白い着物を着た綺麗な女性が立っており、
その手には10本ほどの串に刺さった団子が俺と部長の分なのか2皿乗っていた。
「これ、よろしかったら召し上がってください。美味しいですよ」
「え、こんな多くの」
「ありがたくいただきます」
「ちょっと部長! さすがにこんな数の団子は……ってあれ? さっきの人は?」
部長が食べようとするのを寸前のところで皿を奪い、女性に返そうとさっきの方向を向くが、
先程の綺麗な白い着物を着た女性の姿は見当たらなかった。
あれ? さっきまで目の前に立っていたのに……。
「んん。なかなかの美味なり」
「あー! 何食べてるんですか! 返すはずだったのに!」
「良いではないか、よいではないか。あの人が暮れると言ったんだ。有難くもらうのが礼儀というものだ」
「それはただ単にあんたが食べたいだけだろ……にしてもさっきの人はどこに行ったんだ」
辺りを見渡してみるが着物を着ている人はいるとはいえ、さっきの真っ白な着物を着ている人はおらず、大体は参拝目的で来ている老夫婦なんかが多かった。
「仕方がない。帰って部活日誌に白狐はいませんでしたと書くか」
「そうですね。俺、会計してきますから」
「ん? なんだその手は」
「いや……お金ですよ。部長のおごりでしょ?」
「何を言っているのだ君は。年上が年下におごるなどもってのほかだ」
「いや、普通です……分かりましたよ。今回は俺が奢りますから待っててください」
部長をその場で待たせ、俺は財布と俺たちで頼んだ分のお皿2皿とさっきの綺麗な白い着物を着た女性から手渡された大き目のお皿2つをもってレジまでもっていった。
ここの店は珍しくレシートは使わずに手計算やそろばんで会計を行っている。
「あの、すみません。お会計お願いしたいんですが」
「は~い。あ、良いですよ。貴方達の分は先程いただきましたから」
「…………え? 誰にですか?」
「白い着物を着た女性でしたよ。部活動か何かできてるんですか?」
「え、ええまあ」
「あんな綺麗な顧問の先生でよかったですね。おおきに」
そう言い、店員さんは俺からお金は貰わずに皿だけもらって中へ戻ってしまった。
「副部長~。そろそろ行くぞ」
「あ、は~い」
確か白狐って良い狐だったよな……それに恩を返すっていうのも聞くし……まさか、あの時遭遇した城井家の動物は犬じゃなくてキツネであの狐が化けたのがあの白い着物の女性…………な、わけないか。
誰か俺たちの知り合いが払ってくれたんだろ……多分。
そう結論付け、俺は部長が待っている場所へと向かった。
その後、伏見稲荷大社の一番奥に置かれている狐の像の足の部分に包帯が巻かれていたそうな。
足と尻尾は生えているがそれらはくっついているので参拝客や、
そこで働いている人たちはどうやってこの包帯を巻いたのか、さぞ不思議に思ったそうな。
貴方も狐に……特に白い狐に遭遇したとき、あまり邪険な扱いはしない方がいいかも……ね。
初めての日常系の作品です。それでは。