にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第9話:説得

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夢を見ていた。

またこの夢だ。

 

『やだ!!セイアちゃんやめて!!痛い!!痛い痛い痛い痛いやだやだやだやだやだやだやだや』

 

『いっ、嫌!待ってくださいセイアさん!ごめんなさい!許してください!ごめんなさい!ごめんなさい!!嫌っ!いやああああああああああ!!!!』

 

「セイアさん!目を覚ましてください!あなたの悲しみを、怒りを、私に分けてください!」

 

「あなたを決して一人になんてさせません!!」

 

そして目が覚めた。

いつもここで終わる。

今日も変わらず、いつも通り。

 

『ふーっ』

 

頑張らなくては。

これ以上大切なものが壊れないように。

 

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そしてついにやってきた。

トリニティへミメシスたちが攻め込んで来ると言われている日の、その朝が。

 

空は厚い雲で覆われており、今にも降り出しそうなほどだった。

二人は学園の出口付近にて迎えを待っている。

 

『ありがとうナギサ。世話になったね』

「いえ、また落ち着いたら遊びに来てくださいね」

『落ち着いたら、ね』

 

模倣セイアは俯いたまま、ナギサは正面を見据えたまま互いに目を合わせずに会話している。

それぞれ思うところはあるが、まずは目前に迫っている危機を退けることが最優先だ。

表情にこそ出さないが、二人の中にあるのは緊張の二文字。

 

 

 

「来ましたね」

 

そして、遠くに二人の人影が見えた。

その姿を確認したナギサと模倣セイアも歩き出し、学園前の広場の中央で向かい合った四人は足を止めた。

 

『おはようございます、ナギサさん、セイアさん』

『二人ともおはよ!セイアちゃん、ちゃんといい子にしてた?』

 

「ミカさん、ナギサさん、おはようございます」

『ミカ、ナギサ、おはよう。大丈夫さ、トリニティには迷惑などかけてはいないよ』

 

ただ会話をするだけで息が切れそうになる。

いつどこで戦いが始まるかわからない。

言葉選びは慎重に。

 

『ナギサさん、この度は本当にセイアさんがお世話になりました』

 

模倣ナギサは深々と頭を下げる。

 

『それと早速ではありますがナギサさん、本日のトリニティ側の戦力はどのように配置なさったのですか?』

 

「まず、一般生徒の皆さんへは休校指示を出しましたので本日は全員自宅待機となります。そして、正義実現委員会とシスターフッドの皆さんは、先日教えていただいた侵攻ルートの途中に待機していただいています」

 

『あれ、そっちのセイアちゃんは?』

「セイアさんは私たちとは別行動で、先生と一緒にトリニティ自治区のパトロールをお願いしました」

 

『そうでしたか。セイアさんがお世話になったお礼をしたかったのですが……残念です』

 

模倣ナギサは視線を落とし、少し残念そうな顔をする。

そして今度は顔を上げ、ナギサの後ろに見えるトリニティ総合学園の、ティーパーティーのテラスをじっと見つめていた。

 

そしてナギサもそれに釣られるように振り返り、同じ場所を見つめる。

 

『守りたいですね。私も、この学園を愛していますから』

「……そうですね」

 

『そのためでしたら、いかなる尽力も惜しみません』

「私も同じ考えです」

 

『ですのでナギサさん』

「何でしょうか」

 

 

 

 

 

『トリニティ総合学園ティーパーティーの席を、私たちにお譲りいただくことはできませんか?』

「……!」

 

模倣ナギサはホルスターから銃を取り出し、ナギサの後頭部に突きつける。

模倣セイアの言った通りだった。

あらかじめ聞かされていたとはいえ、ナギサに緊張が走る。

 

「……お望みであればトリニティへ入学し、一人の生徒として教育を受けられるよう手配することも可能ですが、それではご満足いただけませんか?」

 

振り返らないまま、あくまで冷静にナギサは会話を続ける。

 

『いいわけがないでしょう。同じ容姿に同じ能力なのに、社会的地位において格差が生まれているのはおかしいと思いませんか?』

 

模倣ナギサの語気が強まる。

言葉遣いこそ丁寧なものの、その節々に怒りと憎しみが感じられる。

 

『片やあなたは生徒会長として脚光を浴び、何一つ不自由の無い生活をしていることでしょう。そして私は暗い地下で日の目を見ることなく、紅茶さえも満足に手に入らないような惨めな日々を送り続けてきました』

 

『こんな不条理、到底受け入れることなどできません。ですからナギサさん、交代しましょう?もう十分良い青春を味わったではありませんか』

 

「私は……」

『おおっと〜!変なことしちゃダメだよ、本物ナギちゃん?私だっていつでも撃てるんだからね?』

 

振り返ろうとするナギサを模倣ミカが牽制する。

その銃口はしっかりとナギサへ狙いを定めていた。

 

『ミカさん?これからは私たちが『本物』になるんですよ?その呼び方は改めないといけません』

『それもそっか★』

 

そしてその様子を見ていた模倣セイアが、模倣ナギサの前に両手を広げて立ち塞がる。

 

『セイアさん?どういうおつもりですか?』

 

『ナギサ、ミカ、こんなことはもう止めるんだ!君たちのことは全てトリニティに伝えてある!』

 

すると模倣ナギサは冷め切った目で模倣セイアを一瞥し、ため息をついた。

模倣ミカもそれまでの可愛らしい笑顔から一変、模倣セイアを睨みつけている。

 

『は?何?セイアちゃん裏切ったの?』

『セイアさん、なぜ私たちの邪魔をするのです?』

 

ミカもナギサも怒り心頭といった様子だ。

親友の怒りにたじろぐ模倣セイアだが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 

『道を踏み外した君たちを止めたいからに決まっているだろう。あの日、私が君たちに外の世界を見せたから……』

 

『それは違いますよ、セイアさん』

 

模倣ナギサが模倣セイアの言葉を遮る。

 

『あの日、セイアさんが私たち自身の愚かさに気づかせてくれたからこそ、今があるのです。むしろ感謝しているくらいですよ』

 

『愚かなものか!裕福な暮らしなんていらない!三人一緒に居られればそれで良かったんだ!なのに私は欲張ってしまった。だから、あの悪魔に付け入る隙を与えてしまった……』

 

模倣セイアは距離を詰め、縋るように模倣ナギサと模倣ミカの手を取る。

その顔は今にも泣き出しそうなほど、悲しみでくしゃくしゃに歪んでいた。

 

『私が悪かった!私は本当にわがままばかりの愚か者だ!それでもこれだけは譲れない!一緒に帰ろう!今ならまだ間に合うから!』

 

『お願いだ……まだ、やり直せる……!』

『セイアさん……』

 

模倣ナギサはゆっくりと模倣セイアの手をほどき、優しく微笑んだ。

 

『ナギサ……』

 

 

 

 

 

 

直後、あたりに乾いた破裂音が響き渡った。

それは模倣ナギサが模倣セイアの頬を張った音であった。

 

『っ……!』

「セイアさんっ!」

 

ナギサが模倣セイアに駆け寄り、倒れ込む体を支えた。

頬は赤く腫れ、目尻には涙が浮かんでいる。

 

『正直なところ、あなたが私たちを裏切ることはわかっていました。少し前から私たちに隠れて密告の機会を伺っていたのは気付いていましたよ』

 

模倣ナギサは心底軽蔑するような目線を向けたまま続ける。

 

『やはり外の人間たちに絆されて変わってしまったのですね。以前のセイアさんは違いました。新しいものを次から次へと持ってきて、私たちにそれを分け与えて、希望を見せてくれました』

 

『ですが今のあなたは違うみたいですね。二言目には『帰ろう』だの『裕福な生活はいらない』だの、ずいぶんとつまらない腑抜けに堕ちたものです』

 

『もう結構です。百合園セイア、最早あなたは友人などではありません。私たちの理想の邪魔をする敵として、今日ここで旧トリニティと共に消えていただきましょう』

 

『……』

 

模倣セイアは言葉を発することもなく、ただ茫然とすることしかできなかった。

 

「さっきから黙って聞いていれば……!」

 

友人同士の喧嘩には口を挟まないつもりであったが、ついにナギサの堪忍袋の緒が切れた。

 

「友人に対して何という口の利き方をするのですか!!ここまで親身にあなた方のことを思い遣ってくれる人を張り飛ばすなど、人間の所業ではありません!恥を知りなさい!!」

 

ナギサは理解できなかった。

ミメシスたちがエデン条約の事件の後に生まれている存在であるなら、その時自分たちの身に起こったすれ違いや悲劇の記憶もあるはずだ。

それなのにどうしてここまで利己的な判断しかできないのか。

 

『あなたの言葉など何の重みもありませんよ。おろしたてのような良い服を着て、高いところから人々を見下ろし、権威を振りかざして自分が悪党と断じた者に説教を垂れる。ええ、さぞ気持ちがいいでしょうね』

 

しかしナギサの怒りも虚しく、模倣ナギサはまるで聞く耳を持たなかった。

というより、相手を感情のある一人の人間と認識していないような振る舞いだった。

 

(ダメです、まるで話が通じません。これが本当に私のミメシスなのですか?まるで認知機能が壊れているような……)

 

相手が自分と同じ顔をしているのも相まって、ナギサの頭にも血が上り始める。

もう黙ってはいられない。

銃を抜くためにホルスターに手を伸ばしたところ、模倣セイアが覆い被さるようにしてそれを制した。

 

『待って、待ってくれナギサ。違うんだ!彼女たちは本当はもっと優しい子たちなんだ!ただ今は事情があって……』

 

模倣セイアは頬を腫らしたまま、被害者であるにもかかわらず加害者を庇っている。

しかし模倣ナギサの追い打ちは止まらない。

 

『何です?説得しに来たかと思えば今度は庇って。今更私たちに取り入ろうとしてももう遅いですよ?どっちつかずで煮え切らない。甘く、弱い人間を見ていると虫唾が走りますね』

 

『今はっきりと自覚しました。私はあなたのような人間が……』

 

「やめなさい……!」

 

ダメだ。

それ以上を口にすれば後戻りができなくなる。

ナギサは制するように手を伸ばすが、その善意は届かなかった。

 

 

 

『心の底から大嫌いなのだと』

 

彼女の言葉を聞いた模倣セイアの体がぴくんと、小さく跳ねた。

そしてその直後、まるで糸が切れた人形のようにその場にへたり込んでしまった。

耳は力無く垂れ、魂の抜けたような無表情。

大きく見開いた目からはとめどなく大粒の涙が流れている。

 

それを見た瞬間、ナギサの心は夜の雪原のように冷え込んでいった。

目の前の敵のことなど目もくれず、模倣セイアを優しく抱きしめ、その背を、頭を撫でている。

 

「大丈夫ですよセイアさん。私はあなたのような人、大好きです」

 

ただでさえ小柄な彼女の背中が、ひどく小さく感じられた。

少しでも傷が深くならないように、壊れてしまわないように、ナギサは優しく声をかける。

 

『さてナギサさん、本題に戻りますがいかがいたしましょう?私たちとしては穏便に済ませたいのですが……』

 

そう言うと模倣ナギサはスマホを取り出し、誰かにメッセージを送っている。

 

『もし抵抗されるというのであれば、少々強引ですがこちらも武力を行使させていただきます』

 

模倣ナギサが言い終わると同時に、彼女たちの後ろにいくつもの青黒い光の柱が立ち上がった。

天を貫くような高さのそれは数秒で消え去り、柱があった場所にはユスティナ聖徒会のミメシスが立っていた。

 

青白い肌に修道服、無機質なガスマスク。

賊の私兵へと成り下がった戒律の守護者たちが、静かにナギサを見つめている。

やはりミメシス同士裏で繋がっていた。

数は二百ほどだろうか。

事前にナギサが調査していたミメシスの数と一致する。

 

自分が有利な立場になったと自覚したのか、模倣ナギサは先ほどまでの怒りの表情とは一転、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

『さて、こちらの兵力に対しそちらは主要な戦闘要員を学園の外へ送っているはず。曲がりなりにもティーパーティーのホストであるあなたなら、どのような判断が賢明かはお分かりで……』

 

「お好きにどうぞ」

 

それまでは感情のこもった声色だったのが一変、冷たく分厚い壁のような、相手の一切を拒絶するような意思を感じさせる無機質なものへと変わっていた。

 

「ティーパーティーの席が欲しいのですよね?ええ構いませんよ。学園に編入すれば選挙に立候補する資格を得ることができますから。そこで当選すれば晴れてあなたは学園の長となるでしょう」

 

「そうすればあなたもおろしたてのような良い服を着て、高いところから人々を見下ろし、権威を振りかざして自分が悪党と断じた者に説教を垂れることだってできますよ。ええ、さぞ気持ちがいいでしょうね」

 

これだけの敵を目の前にしようともナギサは決して動揺しなかった。

彼女は淡々と模倣ナギサの質問に答えている。

先ほどまでの自分の言い方をそっくり返すようなもの言いに模倣ナギサは不快感を示すも、ナギサの怒気に気圧され口を挟めずにいる。

 

「ですが、『先代』ティーパーティーとして一つ言わせていただきます。目の前の友人一人大切にできないような者に、生徒たちを纏め上げる事など決してできません」

 

それはナギサのかつての経験から来るものだった。

人を疑い、檻に閉じ込め、虚飾にまみれた城を築いても待っているものは破滅の未来だけである。

 

「あなたには精々、周りに誰もいない空っぽの玉座がお似合いですよ」

 

ナギサが冷ややかな目で模倣ナギサを睨みつける。

 

『ちっ。ねぇナギちゃんほんとコイツうざいんだけど!もう撃っていい?』

 

すると先ほどまで静かにしていた模倣ミカがナギサのもとへ歩み寄り、銃を向ける。

上から目線で言われ続けるのが余程不快だったのだろう。

怒りに歪んだ表情でナギサに向けられている銃口は、今にも火を吹きそうだった。

 

その瞬間、突然模倣セイアが立ち上がり、向けられていた銃に掴み掛かった。

 

『ちょっ、やめてよ!』

「セイアさん!」

 

先ほどとは異なり、その目つきはとても力強いものだった。

 

『ありがとうナギサ。私に優しい言葉をかけてくれて、私のために怒ってくれて……!』

 

そしてそのまま模倣ミカを突き飛ばした。

 

『はあ、はあ……!』

『何なの、弱っちいくせにいきなり突っかかってきて。意味わかんないんだけど』

 

模倣ミカは苛立ち混じりに吐き捨てる。

力では負けていないが、今まで見たこともないような気迫に思うように反撃できずにいる。

 

『もう何を言っても無駄みたいだね、ミカ、ナギサ。やっぱり夢で視た通りになってしまった』

 

『これ以上君たちに罪を重ねさせはしない』

 

模倣セイアは覚悟を決めたように言い放つ。

 

『後ろのミメシスたちが見えませんか?ミカさんだっているのに、あなた一人で私たちをどうにかするなど……』

『できるさ』

 

模倣セイアは目の前の親友の目を見てはっきりと口にした。

その言葉には一切の迷いも、恐怖も感じられなかった。

 

『"私"は以前予知夢を通してソレにほんの少しだが触れている。その時にできた繋がりが私の中にもあるなら、この場に招き入れることだってできるはずだ!』

 

模倣セイアは何かに手を伸ばすように、右手を天へかざした。

 

『なになに?仲間でも呼ぶの?』

 

模倣ミカは笑っているが、模倣ナギサの方は嫌な予感を感じ取り、一筋の冷や汗を流す。

 

(招き入れる?何を?以前接触した……予知夢で……)

 

模倣ナギサは必死で『桐藤ナギサ』の記憶を辿る。

模倣セイアのやっていることはハッタリなどではない。

確実にこの状況をひっくり返すような何か、そう感じさせるほどの気迫があった。

 

そして一つの結論に辿り着く。

 

『まさか……色彩!?』

 

模倣ナギサがその名を出した途端、模倣ミカの顔色も変わる。

そして空を見上げると、分厚い雲の向こう側に何かが浮かび上がっているのがうっすらと見える。

狂気の光がすぐそこまで迫ってきているのがわかった。

 

『そんなものを呼んでどうするつもりですか!?百合園セイアはソレに少し接触しただけで昏倒したというのに!』

 

『そうだね。今からやろうとしていることを考えたら、この戦いが終わった後私は確実に命を落とすだろう』

 

『それでも決めたんだ。ここで君たちを終わらせて、あの悪魔にも引導を渡すと!』

 

『くっ……ミカさん!』

『道連れなんてさせるわけないよね、そんなこと!』

 

模倣ミカが銃を構え、色彩との接触を目論む模倣セイアを狙う。

模倣セイアの反転が先か、模倣ミカの銃撃が先か。

 

 

 

そして、広場に一発の銃声が響き渡った。

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