にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第10話:悪魔が来たりて

『うっ、ぐうぅ……!』

 

模倣セイアは困惑していた。

自分は何もしていない。

ただ突然、目の前で模倣ミカの手から銃が弾き飛ばされたのだ。

彼女はうずくまり手を押さえている。

 

『い、痛い……痛い……!』

 

一体何が起こったのか。

疑問に答えるように、後ろにいたナギサが模倣セイアの掲げられた右手に優しく手を添え、そっと下ろさせた。

 

「やはりご自分の命を犠牲にしようとしましたね。止める算段を立てておいて正解でした」

 

ナギサは左へ顔を向け、遥か遠くの建物へ視線を向ける。

模倣セイアも模倣ナギサもつられて同じ方向を見る。

 

よく見ると建物の上に誰かがいる。

そこにいたのは黒い制服に黒い羽根、黒い長髪を持つ生徒。

 

 

 

「ナギサ様、メミシス聖園ミカの無力化に成功しました。ミメシス桐藤ナギサおよびミメシスユスティナ聖徒会拘束の許可を」

 

正義実現委員会三年生、羽川ハスミである。

彼女は耳元の通信機に手を当て、主へ報告を行った。

 

「許可します。正義実現委員会、任務を開始してください」

 

ナギサの合図と同時に建物の陰や植え込みの後ろなど、様々な場所から次々と正義実現委員会の生徒が飛び出してきた。

 

『なっ!?』

 

模倣ナギサは驚いている間に銃を奪い取られ、地面に押し倒され両手を後ろで拘束されてしまった。

 

『ナ、ナギちゃ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!』

 

模倣ミカも立ち上がらないうちに複数人からテーザー銃を撃ち込まれ、模倣ナギサ同様に拘束された。

ユスティナ信徒たちも抵抗を試みるが、戦闘慣れしていない弊害か次々と無力化されていく。

 

『こ、これは一体どういう……?広場には人を近づけさせないように姉さんには伝えたはずだ!』

 

模倣セイアはナギサの方へ顔を向け、説明を求めた。

 

「はい、確かにセイアさんからはそのように伺っていましたよ。そして、こうも仰っていました」

 

「きっと私の馬鹿な妹は、自分の命と引き換えに事態を収束させようとするはずだ。それだけは阻止してほしい」

「それと妹よ、心配をかけないよう『どこへなりと消える』なんて誤魔化した言い方をしても無駄さ。全てお見通しだ。姉を舐めるなよ」

 

『姉さん……』

 

「ですから私たちは、戦力のほとんどをここトリニティ中央へ集中させました。念のためツルギさんら一部戦力のみ予定通り侵攻ルート上に配置していますが、戻ってきていただいて良さそうですね」

 

『ナギサ……。そうか、ありがとう』

 

話し終わる頃には敵勢力は全て鎮圧されていた。

自分が視ていた夢とは違う未来へ進み始めたのか。

安心感からか、模倣セイアは力が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。

遙か上空に感じていた色彩の気配もすでに消えている。

 

「ナギサ様、ミメシスたちの拘束が完了しました。次の指示を」

 

拘束を完了し、報告のために正義実現委員会生がナギサの元へやってきた。

 

「ありがとうございます。これだけ人数が多いと学園に収容するスペースは無いので、ヴァルキューレにも支援を要請してください」

「了解しました!」

 

「それと今回の事件、犯人を捕まえただけでは終われません。これまでのミメシスとは異なり、彼女たちには意思がある」

 

「そして、恐らく彼女たちの首領であるメフィストフェレスについても取り調べをしないといけませんね……」

 

ナギサは横目で模倣ナギサへ視線を向ける。

彼女はうつ伏せで地面に押し倒されている。

その表情は怒りに歪んでおり、血が上っているのか顔が真っ赤になっていた。

 

『桐藤ナギサ……!!』

 

歯を食いしばり、睨み殺さんばかりの視線をナギサへ向けながら彼女は叫んでいる。

 

『私を見下ろすなァ!!何で、どうしてお前が!!私が、私がティーパーティーのホストになるはずだったのに!!』

 

声は裏返り、顔や服が泥だらけになるのも構わず芋虫のようにもがいている。

そしてその怒りの矛先は模倣セイアへも向かった。

 

『はあ、はあ……セイア!!この裏切り者が!!お前のせいで!!お前のせいで……!!』

『殺す!!お前だけは絶対に許さない!!この売女め!!』

 

「大人しくしなさい!」

『あぐっ!うっ、う"う"う"う"う"う"う"う"!!』

 

正義実現委員会生に頭を押さえつけられ、模倣ナギサは鼻水と涙を流しながら獣のように唸っている。

 

しかしナギサはそれを見てもなんの感情も湧かなかった。

ただ、悪いことをした子どもがみっともなく逆上しているだけ。

それだけだった。

 

「セイアさん、もうじき雨が降りそうです。先に中へ入っていてください」

 

ナギサは優しく声をかけ、模倣セイアの背中に手を添える。

これ以上彼女に親友たちの苦しむ姿を見せたくなかった。

 

『ああ、そうするよ。本当にありがとう、ナギサ』

 

静かな、力の抜けたような声。

全て終わったがゆえの疲労感と、仲間に傷つけられた悲しみ、その仲間を地獄に落とした罪悪感で模倣セイアはすでに限界だった。

 

それでも、いつまでもここに座り込んでいるわけにもいかない。

模倣セイアはよろよろとしながらも立ち上がった。

そんな彼女の体をナギサは支えている。

 

するとそこへ、ミメシスたちと戦闘を行っていた正義実現委員会生の一人、マシロがやってきた。

 

「ナギサ様、ご報告があります。今メフィストフェレスの看守を担当している者から連絡があったのですが、ミメシスたちの計画の中にシャーレの先生を誘拐するというものがあるそうです」

 

「先生を!?それは一体どういう……」

 

「看守曰く、勝手に口を滑らせたとのことです。それと、その内容が嘘である可能性も踏まえた上でナギサ様にお伝えしたいと」

 

「わかりました。先生の方にはミカさん方がついているので大丈夫とは思いますが、早めに戻ってきてもらうように連絡しておきましょう」

 

用件を伝え終わるとマシロは持ち場に戻って行った。

ミメシスたちを拘束した後も、しばらくは後処理などで忙しくなりそうだ。

模倣セイアはそんなナギサを見て申し訳なさを感じていた。

 

『すまないナギサ。作戦の立案や指揮がある君の方がよほど疲れているだろうに』

 

「いえ、今のあなたは精神的にとても疲弊しているはずです。比べられるものではありません。私たちのことは気にせず、ゆっくり休んでください」

 

「それに、先生やセイアさんの協力もあって作戦自体は昨日の夜までにスムーズに決まりました。そのおかげで作戦の展開も日を跨ぐ前に完了し、休息を取ることもできています。ですので、私は平気ですよ」

 

ナギサは本当に疲労を感じていないかのような声色で答える。

きっと疲れているのだろうが、今は彼女の言葉に甘えることにした。

 

『それは良かった。じゃあ、私は先に戻っているよ』

 

模倣セイアはゆっくりと学園の方へ歩きだした。

 

これからどうしようか。

捕まった模倣ミカや模倣ナギサが釈放されるのはいつになるのだろうか。

彼女たちと面会はできるのだろうか。

仮に面会できたとして、また以前のような仲に戻れるのか。

自信がなかった。

 

なにせ予知夢では怪物と化して暴れ回った後、その先どうなるかをこれまで視たことがなかったからだ。

今朝だって同じ夢を視て、同じところで終わった。

 

しかし大半の人はこんな能力は持っていない。

みんな未来が視えない恐怖を乗り越えて日々を過ごし、人間関係を構築しているのだ。

自分も見習わなくては。

 

 

 

 

 

 

『……今朝だ』

 

模倣セイアの足がぴたりと止まる。

 

「?セイアさん、何か仰いましたか?」

『視たんだ、今朝も!あの夢を!!君は日を跨ぐ頃に準備を終えたと言ったな!?私はその後に!今日の朝にトリニティが崩壊する夢を視たんだ!!』

 

「何ですって!?」

 

模倣セイアは急いで駆け戻り、驚くナギサの二の腕を両側から掴んだ。

彼女は状況を整理するべく必死に頭を振り絞りながら叫んでいる。

 

『まだ脅威は去っていない!!終わっていないんだ!!恐らく奴だ!メフィストフェレスだ!奴が絶対に出て来られないよう監視の強化を……!』

 

そこまで言いかけたところで、一人の正義実現委員会生が学園の中から飛び出してきた。

彼女はナギサの元へ駆け寄り、息を切らしながら報告する。

 

『ナギサ様、申し訳ありません!奴が、メフィストフェレスが脱走しました……!!』

 

考え得る限りの最悪の知らせが届いてしまった。

ナギサも模倣セイアも目を見開いたまま、言葉を失う。

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