にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第11話:悪魔の交渉術

時は遡り、模倣ナギサたちがトリニティへ到着した頃。

地下の不良生徒の収容施設にヒフミのミメシス、つまりメフィストフェレスが収容されていた。

物を隠し持てないよう上下ともにスウェットを着用し、両手両足は縛られている。

 

『あ、あの、お手洗いに……』

「さっき行ったばかりでしょう。我慢しなさい」

『う、ううう……』

 

彼女についた看守は一人、先ほど前任者と交代したばかりである。

二時間ごとに他の生徒と交代し、常に誰かが見ていられるようになっている仕組みだ。

そして今ついている看守は最後の一人である。

 

しかし今のところ、メフィストは目立った行動は起こさず大人しくしている。

その振る舞いは本物の阿慈谷ヒフミと変わりなく、ナギサを通して模倣セイアから提供された情報とはあまりにもかけ離れていた。

 

しかしかえってそれが不気味だった。

聞くところによると、彼女は謀略を巡らせ人々の善意を踏みにじり、悪意を煽動するような悪魔だと言う。

それと、看守を引き継ぐ直前に前任者から聞いた言葉がずっと頭の片隅に残り続けている。

 

「気をつけて。彼女、夜の間一睡もしてなかったみたい。横になったり寝転んだりはしていたけど、片時も看守から目を離さなかったわ」

 

決して油断などできない。

もうすぐ模倣ナギサたちがやってきて、ナギサの作戦通りに進むならミメシスたちを拘束できる手筈だった。

その後ヴァルキューレに引き渡すその時まで気は抜けない。

 

『あ、あの、朝ごはんって出ないんでしょうか……?』

「はあ、もうすぐあなたの処遇が決まるから、それまで我慢して」

 

だと言うのに、当の本人は本当に気の抜けたことを言う。

万が一冤罪だった場合は釈放、そうでなければヴァルキューレで朝食を取ることになる。

嘘は言っていない。

 

 

 

 

そんな時、看守の中に一つの疑問が湧いた。

 

(何故、今『朝』だとわかったの?)

 

ここは地下で窓も無く、外の光は入らないうえに時計の類は収容者から見える位置には置いていない。

時間を把握するのは不可能だ。

 

なら看守の誰かが教えたのか?

それは考えにくい。

なぜなら余計な情報を与えないよう事前に通達されていたからだ。

 

だとしたら考えられる可能性は一つ。

メフィスト自身が時間を数え続けていたということ。

そう考えた瞬間、全身に鳥肌が立った。

 

しかし確証があるわけでは無い。

看守は檻の方へ振り返り、メフィストの様子を見る。

 

『朝はパン、パンパパン……』

 

しかしそんな不安をよそに、彼女はベッドに座りとぼけた歌を歌っている。

そんな時、ふいに彼女と目が合った。

それに気付いたのか、彼女はニッと笑って声をかけてきた。

 

『あ、もしかして看守さんパン派ですか?私はもっぱらご飯派だったんですけど、最近味覚が鋭くなってパンの味の違いがわかるようになったんです。それからパン屋さんを巡るのが楽しくなって……』

 

くだらない世間話に付き合うつもりは無かった。

看守は無視して視線を前に戻す。

 

『あ、あれーっ!?もしかしてご飯派でした!?ほら、学園近くのパン屋さん、ちょうど今ぐらいから開店なんですよ!登校前に行けば焼きたてが買えるので最近気に入ってて……って、私学校行ってないんでした……』

 

聞いていた話と違う。

明らかに自分が看守になってから口数が増えた。

何を狙っている?

 

『うーん、どうやらご興味のある話題を提供できていないみたいですね。でしたらこんな話はどうでしょう?』

 

 

 

『どうして私が時計も見ずに今の時間を把握できているか、とか!』

「!!」

 

自分から話を振ってきた。

揺さぶりをかけているのか。

看守に緊張が走り始める。

 

「どうせ、一睡もせずせこせこ時間を数えていたとかでしょ?くだらない」

 

『普通一発で当てますかね!?ドヤ顔で解説しようとしてた私が恥ずかしい人みたいじゃないですか……』

 

『はい、看守さんの言う通りです。私が捕まったのが十七時 五十分、そこから移動、収監の間は数えてました』

 

『で、ここに来てから看守さんは二時間おきに交代していることがわかったので、それを把握してからはちょっと手を抜きましたね』

 

『で、あなたで七人目なので今は八時……十二分とかですかね?』

 

看守は自身の腕時計を確認する。

 

「……残念、八時 二十分よ」

 

『いやもうそこまで当てているなら普通『おお〜』ってなりません!?あれ、ていうかお姉さんも腕時計派なんですね!しかもそれビビアンイーストのやつじゃないですか!わ〜おいいセンス!やっぱりこういう時スマホじゃなくて腕時計出せる女性ってかっこいいですよね〜』

 

こちらが一言話す間に十は喋る、というより捲し立ててくる。

時間や看守の交代間隔を把握しているのも、一方的に話しかけてくる距離感の無さも、呼び方を段々親しげなものに変えてくるのも、いちいち時計のブランドまで見て話を振ってくる様も、全てが気持ち悪かった。

 

何より一番不快だったのは、そんな相手にほんの一瞬『気が合うかも』と思わされたことだった。

自分はパン派で学園近くのパン屋でこの時間よく焼きたてを買うし、腕時計もブランドから自分で見繕ったものだった。

事前にメフィストのことを聞かされていなければ、きっと心を開いてしまっていただろう。

 

こいつは相手の懐に入る術に長けている。

これ以上は喋らせない。

 

「あまり余計なことは言わない方が身のためよ。看守を懐柔しようとしても無駄。あなたたちの計画は全て筒抜けなのだから」

 

『あうう、まるで悪者みたいな扱いですね……。で、でも、それなら私たちの計画を邪魔して、先生を独占しているあなたたちの方がよっぽど悪い人たちなんじゃないですか?』

 

少し反抗的な態度で言い返して来る。

しかし気になったのはそこではない、先生だ。

何故今先生の話が出て来る?

自分たちが聞かされた計画はトリニティを襲撃するというものだった。

 

「……どうして今、先生の話が出てくるのかしら?」

『どうしてって、私たちの計画は…………あっ!』

 

そこまで言いかけてメフィストは口をつぐんだ。

口を滑らせたと確信した看守はすぐさま詰め寄った。

 

「答えなさい!!先生を狙って何をするつもり!?」

 

壁際に逃げようとするメフィストの胸ぐらを掴み、怒鳴りつけるように問いかける。

 

『お、教えません!!私たちだって先生に勉強を教えて欲しいんです!!邪魔しないでください!!』

 

涙目になりながら抵抗するメフィスト。

看守は舌打ちし、掴んでいた手を離した。

 

『うっ、ううううううわあああああん!助けてペロロさまああああああああ!!』

 

我慢の限界だったのか、メフィストはわんわんと泣き出してしまった。

しかしいちいち構ってなどいられない。

看守はスマホを取り出し、ナギサへと電話をかけた。

まだミメシスたちは隠していることがある。

それを伝えなくては。

 

コール音が鳴る。

一回、二回、三回……。

しかしナギサは出ない。

 

ならば、自分の最も信頼できる友にかける。

コール音、一回、二回……。

 

〈もしもし、どうしました?〉

 

その友とは正義実現委員会一年生、静山マシロであった。

 

「よかった、出た!ねえマシロ、近くにナギサ様はいる!?」

 

〈ええ、いますが……確かあなたは今看守の当番でしたよね。何かあったのですか?〉

 

「今メフィストが口を滑らせて、ミメシスの計画でシャーレの先生が狙われている可能性があることがわかったわ。おそらく誘拐でもしようとしているのかも。嘘の可能性もあるけど、それを含めてナギサ様に伝えて欲しいの!」

 

〈わかりました。確かに〉

 

マシロを通してナギサへ計画のことを伝えることはできた。

あとは自分の役目を全うする。

絶対にこいつから目を離さない。

看守は電話を切り、スマホを制服のポケットへ仕舞い込んだ。

 

 

 

 

『オッケーグー◯ル!ヘイ◯リ!電話かけて!番号はXXX-XXXX-XXXX!』

 

さっきまで寝転んで泣いていたメフィストが突然起き上がり、はっきりとした発音で音声アシスタントの起動ワードと電話番号を口にした。

 

「なっ!?」

 

看守は急いで仕舞ったばかりのスマホを取り出す。

すでに電話をかけ始めてしまっていたが、すぐに切った。

 

『あああっ!!切られちゃいました……』

 

メフィストはがっかりした顔で項垂れている。

今度こそ容赦はしない。

看守は再び目の前の罪人へとに詰め寄った。

 

「通話の許可などするわけがないでしょう……!!答えなさい!今誰にかけようとしたか!!」

 

『ん"っ、ん"ーっ!!』

 

メフィストは口を閉じて首を横に振っている。

もう発砲してもいいだろうか。

看守の苛立ちは段々と強くなっていく。

 

(駄目、冷静になって)

 

しかし看守は冷静さを決して失わなかった。

一度深呼吸し、状況を整理する。

 

一体どこに、何故電話をかけようと思ったのか。

救援を呼ぼうにも、自分の状況を一言も話せず切られてしまうという可能性を考慮できなかったのか。

しかしこれまで話していた様子を見るに、そんな当たり前のリスクを考慮できないほど馬鹿である可能性は皆無に等しい。

そこまで考えたところで、看守の中に別の可能性が浮上した。

 

通話をするのが目的なのではなく、電話をかけることそのものが目的だとしたら?

それだけでも多くの情報が相手に伝わる。

 

例えば、メフィストの現在の看守の電話番号だとか。

 

 

 

その瞬間、看守のスマホから着信音が鳴った。

恐る恐る画面を見てみると、そこには『桐藤ナギサ』の名前が表示されている。

間違いない、登録してあるナギサの番号だ。

しかしタイミングが悪すぎる。

看守は警戒を解かずに電話に出る。

 

「もしもし……」

 

〈もしもし、桐藤ナギサです。当番表を確認しましたが、あなたが現在のメフィストフェレスの看守ということでよろしいですか?〉

 

「ええ、そうです」

 

〈今しがたミメシスたちの拘束を完了し、ヴァルキューレへ引き渡す手筈を整えています。ですので、メフィストも同様に引き渡すべく、牢屋から出して正門前まで連れてきていただけますか?〉

 

間違いない。ナギサの声だ。

そしてその内容にも今のところ不審な点は見当たらない。

 

「……承知いたしました」

 

〈ありがとうございます。今そちらへ正義実現委員会の生徒を一人向かわせています。メフィストの拘束は解かなくて大丈夫ですので、その方と二人で連行をお願いしますね〉

 

言葉遣いも物腰柔らかで、特に違和感は感じなかった。

時間的にも計画通り、ヴァルキューレに引き渡す手筈で間違いない。

ミメシスに成り代わられる可能性も考慮して、その合図もナギサから直接行われることになっていた。

全てに辻褄が合う。

 

そしてそれに対し、猛烈に嫌な予感を感じていた。

先ほどメフィストにかけさせられた電話がどうしても気になる。

違和感を拭いきれなかった看守は、再度マシロへ連絡することにした。

 

〈もしもし?今度は何がありました?〉

「ごめんマシロ、何回も。でもどうしても確認したいことがあって。ナギサ様のミメシスってもう拘束された?」

 

〈はい、五分くらい前に。ミカ様やユスティナ信徒のミメシスも同様です。既に戦闘は終了していますよ〉

「その間、誰かと電話してる様子はあった?」

 

〈いえ、ずっと本物のナギサ様やミメシスのセイア様と話していて、スマホを取り出している様子はなかったですね〉

「そっか。あともう一個質問」

 

 

 

「本物のナギサ様って、今まで誰かと電話してた?」

〈ええと、私が知る限りは一回だけ。自治区の警備をしている先生に早めに戻ってきてもらうために連絡したくらいで、あとはスマホに触れてもいません〉

 

答えを聞いた瞬間、看守は血の気が引いていくのを感じた。

決まりだ。先ほどの電話は敵の策略だ。

 

「マシロ!!まだ終わってない!外部に協力者がいる!!誰かがメフィストフェレスを脱獄させようとしてる!今すぐトリニティ校内の警備を……っ!」

 

言い終わらないうちに、背後から近づいていた何者かにスマホを取り上げられてしまった。

通話に夢中で、近づかれていることに気づけなかった。

その生徒は正義実現委員会の制服を着ていて……。

 

『お待たせしました。ナギサ様の指示により伺いました。メフィストフェレスの身柄を移動させましょう』

 

その肌は、薄暗い地下でもわかるほど青白かった。

 

〈もしもし?もしもし!?何かあったんで……〉

 

そして通話を切られてしまった。

看守の腹部には既に銃口が突きつけられている。

最大限警戒したつもりだった。

しかしそれでも詰まされた。

 

看守が絶望感に包まれている時、後ろの牢屋からはくすくすと笑い声が聞こえて来る。

恐る恐る振り返ると、そこには阿慈谷ヒフミの顔とは思えないほどの邪悪な笑みを浮かべた、少女のような何かがいた。

 

『くっくっくっ、楽しかったですよ〜お姉さんとの心理戦!』

 

『いや〜でももっと早くかける予定だったんだけどなぁ、電話。普通時間聞いたらスマホ取り出すと思うじゃん?そこで腕時計見た時は焦ったね』

 

『だから、ありもしない先生誘拐計画の話をでっち上げたら確認の電話かけてくれないかなーって賭けたんですよね。そしたら見事、罠に掛かってくれましたね!電話だけに』

 

『まあ、こんな問答せずに賭けで音声アシスタント起動させても良かったけど、ワンチャンスマホ持ち込んでなかったら詰んじゃいますからね?』

 

「あなた……」

 

『ああいや、確認の電話をするのは正解だと思いますよ?私でもそうします』

 

『そしてお姉さん!あなたの次のセリフはこう!』

 

『あなた、これも計算のうち?』

 

「けい……さん……」

 

『あったりまえよ!このメフィストフェレスは何から何まで計算ずくだぜーっ!』

 

メフィストは得意げな態度で拘束された両腕を高く掲げている。

 

『いや〜しかし発信番号の偽装とAI使ったボイチェンで完全に騙せると思ったのに、最近の子のネットリテラシーの高いこと高いこと……』

 

看守は己の敗北を悟った。

しかしまだトリニティは負けていない。

彼女は最後の反撃に出る。

 

「そう。この短い間でだけど、私はあなたのことが少し理解できたと思うわ。あなた……」

 

『ん〜?言っておきますが時間稼ぎはさせませんよ!対戦相手を称えてお話は聞きますが、一分以内でお願いします!』

 

「感謝するわ。あなた……」

 

 

 

「友達作るの下手なタイプでしょう?一方的に捲し立てたり、会話のテンポと距離感がおかしいもの」

 

『え?』

 

「それと、あなた実年齢相当いってるでしょう。言葉の節々や価値観に古臭さが出ていたもの。対等っぽく話してるくせに微妙に知識マウントを取りたい感が見え隠れしているのが最高に香ばしいわね。若い姿に憧れてヒフミさんの見た目をしているのかもしれないけれど、制服を着てはしゃいでいる痛いおばさんにしか見えないわ。あ、失礼しました。見えない『ですよ』」

 

『……』

 

「多分あれですよね?子どもの頃上手くいかなかったから若い姿を手に入れてやり直そうとしたけど根本的な人間性に問題がありすぎてまた失敗しそうだったから逆らわないお人形作っておままごとに逃げた結果、何者にもなれなさそうだったから大慌てでトリニティを奪う計画を立てて子どもたちの前に立ちはだかるラスボスごっこに縋り付いてるってオチですよね?蛆みたい」

 

「あ、怒りました?怒りましたよね?浮腫みすぎて元気百倍顔パンパンマンですよ。怒りと浮腫みだけが友達だったようですね。これぞ蛆パン本仕込〜♪はい一分ありがとうございました」

 

言ってやった。

この時見たメフィストの怒りに歪んだ顔を、看守の少女は生涯忘れないであろう。

 

 

 

『……モブちゃんやっちゃって』

 

そして数発の銃声の後、看守は意識を手放した。

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