にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第13話:Blue Ark Catastrophe

目の前の絶望的な状況に、ナギサの思考が停止しかける。

その時、それを断ち切るようにナギサのスマホに着信が入る。

相手はマシロだった。

 

「……もしもし」

 

〈ナギサ様!地下牢は既に開け放たれており、近くに看守の生徒が倒れていました!〉

 

電話越しに聞こえる声は酷く動揺しており、事態の深刻さをこれでもかと表していた。

 

〈それと逃走したメフィストが校内を逃げ回っているという情報があり、正義実現委員会でその確保に動き、先ほど成功しました〉

 

〈ですが捕らえた容疑者は阿慈谷ヒフミに変装したミメシスで、本物のメフィストではありませんでした。本物の行方は未だ不明です……!〉

 

「ええ、でしょうね……」

 

 

 

「そのメフィストは今、私の目の前にいるのですから」

 

模倣ナギサの隣で不適な笑みを浮かべている正義実現委員会生。

間違いない。

彼女がメフィストフェレスの正体だ。

 

〈目の前ですか!?すぐに応援に向かいます!〉

 

そう言ってマシロとの通話が切れた。

ナギサは力無くスマホをしまい、目の前の悪魔と向き合う。

 

『いや〜危ない危ない!もうちょっと気付くの早かったら私たち詰んでたね!やってくれたなー看守ちゃん』

 

そうは言いつつも余裕を崩さないメフィスト。

ナギサたちが昨日まで見ていたのは出来の悪いヒフミの演技でしかなかったようだ。

 

『申し訳ありません、メフィスト様。お手を煩わせてしまいました』

 

『ああ、いいよいいよ!言っちゃ悪いけどナギサちゃん失敗するだろうなーって思ってたし、それ込みで作戦考えてたから!』

 

模倣ナギサは悔しそうな顔をしている。

 

『というわけで……おーい!もう入ってきていいよ!』

 

メフィストが後方に向かって声をかける。

すると建物の陰から三人の人影が出てきた。

 

 

 

『『救護』が必要な方はどちらですか?誰一人逃しません』

 

『皆さんに神の『ご加護』があらんことを』

 

『さあ、狩りの時間だ……!!』

 

その顔を、声を、ナギサはよく知っている。

彼女たちは蒼森ミネ、歌住サクラコ、剣先ツルギのミメシスだったからだ。

 

「そんな……。ミネさんにサクラコさん、ツルギさんまで……!」

 

生徒のミメシスはティーパーティーだけではなかった。

しかもよりにもよって、トリニティ内でもとりわけ強い力を持つ生徒ばかり。

 

ミメシスとはいえ大切な仲間たちを玩具にされ、ナギサの中に怒りが湧き上がる。

 

そして模倣サクラコが模倣ミカたちの前に立ち、何かを差し出した。

 

『この銃弾をお使いください。任務の失敗率が大幅に低減します』

 

『それと、私たちが来たからにはもう失敗なんてさせませんよ。あなたたちには荷が重かったようですが、私たちが助けて差し上げましょう』

 

『は、何?いきなり出てきて。私より弱いくせに偉そうにしないでよ』

 

模倣サクラコの物言いに模倣ミカが苛立つ。

それを見ていたメフィストは慌てて仲裁に入る。

 

『もう、サクラコちゃんミカちゃん喧嘩しないでよ!』

 

『ナギサちゃんも、隠しててごめんね?この三人とあと別行動してる一人、今から仲間同士ね!』

 

『はい……』

 

自分の実力を信用されていなかったのがショックだったのか、模倣ナギサは俯き模倣ミカは舌打ちしている。

 

『そんな……こんな未来、ただの一度も視ていない……』

 

模倣セイアの呼吸は浅く、今にもパニックを起こしそうだった。

 

『あー、やっぱり視えてなかったっぽいなぁ。セイアちゃんさ、私が深く関わった部分は予知夢で見られないんでしょ』

 

『!?』

 

『お!その顔やっぱり!』

 

既に気付かれていた。

メフィストはそれに気付いていることを模倣セイアに悟られぬよう作戦を立て、ずっと準備していたのだ。

焦る模倣セイアをよそに、メフィストは模倣サクラコへ声をかけた。

 

『ねえサクラコちゃん、サオリちゃんの身柄ってもう確保できてたんだっけ?』

 

『ええ滞りなく』

 

『いいね!ユスティナ信徒のミメシスを利用してた子が、その後継組織のミメシスに捕まるなんて運命感じちゃうよね』

 

(錠前サオリを?奴らは一体何を狙っている……!?)

 

模倣セイアが思考を巡らせる。

実態は掴めていないが、とてつもなく危険なものであることは間違いない。

 

『あ、そうだ!顔を元に戻さないと……』

 

メフィストは手で顔を覆い、顔を洗うように手を動かす。

 

『よし、戻った!やっぱヒフミちゃんの顔が一番しっくり来るね。それじゃあ我が同胞たちよ、整列!』

 

主の指示に従い、ミメシスたちが横に並ぶ。

そしてその中心、一歩前の位置にメフィストは立った。

 

『あーあー、んん"っ!やば、ちょっと緊張する。でも最初の挨拶って大事だからね』

 

『ヒフミちゃんの記憶の中に眠るこの言葉、すごく素敵なんだよね。だから、使わせてもらうね?』

 

そしてメフィストは深く息を吸い、ナギサたちにも聞こえるように声を張り上げた。

 

『私には、好きなものがあります!』

 

『平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません!』

 

『激情で苦難を踏み倒して』

 

『復讐がきちんと報われて』

 

『辛いことは忘れないで、やられた分は敵にやり返して……!』

 

『苦しいことがあっても……自分が最後は、笑顔になれるような!』

 

『そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!』

 

『誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます!』

 

『私の描くお話は、私が決めるんです!』

 

『邪魔なんてさせません、これから始まるんです!』

 

『私の作る惨劇……』

 

『私の、青春と方舟の惨劇(Blue Ark Catastrophe)を!!』

 

メフィストが右手を高く掲げ、天に向かって指を差す。

 

次の瞬間、広場の至る所から天まで届くような高さの青黒い光の柱が立ち上がった。

否、広場だけではない。

トリニティの敷地の外にある街さえも覆い尽くすように、光の柱が至る所に立っていた。

 

「ぐっ……!」

『な、何が……何が起こっている……!?』

 

光と風圧で目を覆うナギサと模倣セイア。

数秒後、それらが収まり彼女たちは何が起こったのかをその目で確かめる。

 

そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

広場が、街中が大勢のユスティナ信徒で埋め尽くされていたのだ。

その数は今朝攻め込んできたミメシスたちとは比較にならない。

千、万にも届きそうな数の敵兵に、瞬時に陣地を埋め尽くされた。

 

「そ、んな……」

 

ナギサは現状の認識に脳のリソースを全て割かされ、とても次の指示などできる様子ではなかった。

そんな彼女とは対照的に、メフィストは亡者の軍勢を従え、高らかに宣言する。

 

『現世に舞い降りた正義の化身たちよ!!今、内に眠る激情を力に変え、堕天使共からこの聖なる地を共に取り戻しましょう!!』

 

『『『ウォォォォォォォォォォ!!!!』』』

 

ミメシスたちは歓声を上げ、飛び跳ねたり腕を振ったりしている。

まるでそれぞれが生きている人間のような動きだ。

 

『さぁて、何気ない日常が惨劇へと変わり、方舟の乗船権を奪い合う物語。ブルーアークカタストロフ、サービス開始です♪』

 

メフィストの合図と共に、ならず者たちは一斉にトリニティへと攻撃を始めた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

時は少し遡り、トリニティ自治区内の街中を補習授業部の四人はパトロールしていた。

通常、一般生徒は自宅待機の指示が出ているが、只事ではないと判断したアズサの発案により自主的に見回りを行うことになった。

 

現在は二手に分かれ、ヒフミとアズサはビルの立ち並ぶ大通りを歩いている。

 

「アズサちゃん、今日って平日ですよね?なんだかいつもより賑わってませんか?」

 

「ああ、しかもみんなスマホばかり見ている。何かゲームのイベントでもあるのか?」

 

街を見渡せば多くの住人がスマホ片手に歩き回っている。

そしてその中に子どもはほとんどおらず、大人ばかりだった。

 

(それだけじゃない)

 

アズサにはもう一つ気になることがあった。

昨日補習授業部と一緒に遊んだ、ヒフミのミメシスのことである。

 

最初は少し幼いヒフミという印象だったのだが、途中からどんどん本物との区別がつかなくなっていった。

通常のミメシスと異なり、肌の色まで瓜二つなのだから判断材料はかなり少ない。

 

せっかく仲良くなった友人に対し申し訳ないと思いつつ、この時からアズサは内心不気味さを感じていた。

 

特殊部隊の訓練で身についた勘が危険信号を発している。

念のため、買い物途中に入った化粧品店に置いてあった香水のテスターをミメシスのヒフミに振りかけておいた。

マーキング対象をミメシスのヒフミ側にしたのは、人は自分の匂いには気付きにくいという特性を利用して彼女に気付かれにくくするためだった。

 

そして夕方、夕食にしようと店を探していた時に突然正義実現委員会の生徒たちに囲まれた。

どうやらヒフミのミメシスの身柄を拘束するらしい。

 

皆どちらが本物のヒフミか判別できないでいたが、アズサは香水の匂いのない本物のヒフミの手を取った。

 

そうしてミメシスのヒフミは抵抗もせず連行されていった。

ヒフミとコハルがとても動揺していたのは覚えている。

ハナコはある程度事情を知っていたのか、あまり驚いている様子はなかった。

 

しかし何より一番目に焼きついたのは、連行される直前に一瞬、本当に一瞬だけヒフミのミメシスが自分を見て僅かに笑みを浮かべていたのが見えた。

怒りではない、むしろ『やるな』とでも言いたげな表情に見えた。

あれは何だったのか。

 

「わわっ、大丈夫ですか!?」

 

ヒフミの驚いた声で現実に引き戻される。

後ろを振り返ると、ヒフミがボロボロの一人の生徒を介抱しているところだった。

 

「大丈夫、ありがとう」

 

そしてその生徒の姿を見た時、アズサは驚愕した。

その生徒はアズサがかつて所属していた部隊、アリウススクワッドの秤アツコだったからである。

 

「アズサちゃん、この人って確かアズサちゃんの元同僚さんですよね?ふと路地を見たらこの人が倒れてて……」

 

「アツコ!?ひどい怪我……一体何があった!?」

 

「丁度良かった。アズサ、久しぶり……」

 

アツコは満身創痍あるにも関わらず、旧友との再会に思わず笑みが溢れる。

そして体をよろめかせながらアズサの腕を掴む。

 

「サッちゃんが……ミメシスたちに攫われた……!」

 

「何だって!?」

 

「何日か前、スクワッドの前に大人数のミメシスたちが現れて交戦になったの。ただ今まで見たミメシスと違って彼女たちにはまるで意志があるみたいだった」

 

「そして戦闘についてはまるで素人みたいで苦戦はしなかったんだけど、数が多いせいでだんだん押されていって」

 

「そこにサッちゃんが救援に来てくれたんだけど、その瞬間彼女たちは一斉にサッちゃんを狙い始めた」

 

「抵抗したけど止められなくて、サッちゃんは連れ去られて、私たちはこんなになっちゃった」

 

アツコは自重気味に力無く笑っている。

かつて人々を苦しめた報いが返ってきたのだとも言いたげな表情だった。

 

「そして行方を探す中で犯人たちの一人だったユスティナ信徒を捕まえて居場所を吐かせたら、どうやらトリニティ地下のカタコンベ、以前私が囚われた場所に居るって」

 

そこまで話した後、アツコの表情が曇っていく。

 

「でもその時、もっと恐ろしいことを聞いた。奴らの目標は、ミメシスでこの世界を埋め尽くすことだって……」

 

そしてアツコは縋るようにヒフミとアズサの手を取る。

 

「お願い、力を貸して!私たちだけじゃ止められなかった!このまま放っておいたらキヴォトスが滅びる!だから、お願い……!」

 

そんなアツコの手を二人は力強く握り返した。

 

「当たり前です!もしアツコさんの聞いた話が本当なら、絶対に止めないといけません!」

 

「ああ。何よりアツコやサオリを傷つけた奴らを許すわけにはいかない!」

 

「アズサ、ヒフミ……!」

 

「ひとまずハナコたちと合流しよう。この事をトリニティと、そして先生にも伝えないと……」

 

アズサが言いかけたその瞬間、自分たちの周囲含め街中から青黒い光の柱が立ち上がった。

災害はいつも人々の事情など考慮しない。

 

『お、あれトリニティ生じゃない?』

『あの変な鳥のリュック背負ってる子、この間ブラックマーケットで暴れて強盗したらしいじゃない。とんでもない不良生徒よ!』

 

言葉を発し、明確にヒフミたちへ狙いを定めるミメシス。

魔の手はすぐそこまで迫っていた。

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