コハルとハナコが街中を逃げ回っていると、少し離れたところにヒフミとアズサとアツコの姿が見えた。
おそらく自分たちと同じように襲われ、逃げて来たのだろう。
「コハル、こっちはダメだ!別の方向へ逃げろ!」
「こっちも駄目!追い込まれてる!」
五人は合流できたものの、周囲はミメシスに取り囲まれている。
そして後ろには大きな百貨店のビル。
万事休すか、そう思われた時。
突如爆発が起こり、目の前のミメシスたちが同時に十体ほど吹き飛ばされた。
ミサイルが撃ち込まれたのだ。
アズサが飛んできた方向を見ると、そこにはロケットランチャーを担いだ、自分のよく知る人物が立っていた。
「アズサ、アツコ!トリニティの人も!こっちへ来て!」
彼女はアリウススクワッド所属、戒野ミサキであった。
そして彼女の横の路地から、薄水色の髪の少女が顔を出す。
「先生から伝言を預かっています!避難所まで一緒に来てください!」
彼女もアリウスのメンバー、槌永ヒヨリである。
思わぬ救援だったが助かった。
五人はミサキたちの方へ走り出す。
『逃げるぞ!撃て撃て撃て!!』
ミメシスたちも逃すまいと追撃をくり出す。
そしてそのうちの一体がロケットランチャーを構えているのが見えた。
それを見たヒフミが囮にするため、ペロロ人形を射出する円盤型の装置をリュックから取り出した。
「助けて、ペロ……ああっ!」
しかしミメシスの銃弾によって弾き飛ばされてしまった。
そしてロケットランチャーが発射され、ヒフミの目前に迫る。
絶体絶命の危機であるのに、ヒフミにはその弾がとてもゆっくりに見えた。
その時目の前にアツコが立ち塞がったことで弾は彼女に直撃し、大きな爆発を起こした。
「アツコさん!!!!」
『え、当たっちゃったんだけど……』
『ヤバくね?き、救急車呼んだ方がいいのかな?』
大きく後ろに投げ出されるアツコ。
自分がやったことにも関わらず、それを見たミメシスたちも思わずたじろいでいる。
「この……っ!」
ミサキがロケットランチャーをミメシスたちの足元へ放ち、着弾地点で爆風を起こす。
「今のうちに!」
アズサはアツコを抱え、一同は路地の中へ逃げていった。
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どれくらい逃げただろう。
気がつけば雨が降り始めており、皆ずぶ濡れになっていた。
アズサは一度地面にアツコを寝かせ、意識の有無を確かめる。
「アツコ!!アツコッ!!!!」
しかしアズサの叫びにも反応を示さず、姫は眠り続けたままだった。
聞こえてくるのは雨音だけ。
それはまるで、ミメシスたちの勝利を祝う拍手のようであった。
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その頃、本物のセイアはタクシーに乗り街から離れるように移動していた。
表向きは先生とパトロールという体で、誰にも行き先を教えず一人移動を続ける。
みんなが戦っている中で一人逃げるのは気が引けたが、模倣セイアの視た未来を回避するためには仕方がなかった。
(ナギサにはあの子の無茶を止めるように頼んである。大丈夫だとは思うが……ん?)
セイアが不意に違和感を感じ、窓の外に目線を向けた瞬間、おびただしい数の青黒い光の柱が立ち上がった。
そしてそれらが消えたところに、ユスティナ信徒のミメシスが出現した。
「なっ!?」
「な、何なんですかこいつら!?」
セイアだけでなくタクシーの運転手までも驚きの声をあげた。
こんな街の外れまで埋め尽くすほどの数が出現したとなると、学園の方は一体どうなっているのか。
奴らの狙いがトリニティ関係者だとすると、ここで見つかるのはまずい。
セイアは車外から見えないよう身を隠しながらモモッターで現在の状況を調べる。
するとそこには、目を疑うような文章が並んでいた。
"トリニティ総合学園、ついに崩壊か"
"エデン条約調印式襲撃事件の際に被害に遭った一般市民への対応が不十分であるとして、インターネット上でたびたび議論が交わされてきた"
"そしてついに、ティーパーティー解散を求める市民による署名が三万人分集まったとされ、これに応じる様子のないトリニティへ一般市民有志らが実力行使に出る結果となった"
(なんだこれは!?どれもこれもまるで出鱈目だ!)
確かにエデン条約の件で市民から不満が出たことはあったが、トリニティ側は真摯に対応し、和解まで至っている。
それに署名三万人分というのもおかしい。
それだけ大規模な運動ならトリニティの耳に入っているはず。
(悪意のある何者かが、トリニティを陥れるための記事をでっち上げたんだ!それを襲撃のタイミングと合わせて公開してきた……)
おそらくこれもメフィストの策略だろう。
対応策を考えるべく調査を進めていると、さらに恐ろしい投稿が発見された。
"現ティーパーティーのホストである百合園セイア氏は市内を逃走中。ティーパーティー解散に応じず、ほとぼりが冷めるまで責任の追及から逃れる算段か"
"セイアちゃん逃げちゃったwwww"
"ニュース出た途端無言逃亡は闇深すぎ"
"ブルアカのミッションでセイアちゃん捕まえたら表彰と賞金だって!!"
顔も知らない悪意ある一般人たちが自分を狙っている。
それも、街を埋め尽くすほどの大量のミメシスという強力な力を駆使して。
恐怖で呼吸が浅くなり小さく震えていると、運転手が毛布を差し出してくれた。
「お客さん、さっきからずっと隠れようとしてますよね?あの外の黒いシスターのお化けが関係あるんですかね?これ、使ってください」
「あ、ああ、すまない……」
セイアは毛布にくるまり、体を温めたことで少し安心する。
そうだ、何も周囲の人間全員が敵なわけではない。
この運転手のように、暖かい心を持った人もいる。
しかしいつまでもここにはいられない。
タクシーには客とのトラブル防止用に監視カメラが付いているため、その映像をハッキングなどで見られた場合すぐに気付かれる。
自分を匿っている今の状況でさえ危険なのだ。
これ以上善良な市民に迷惑はかけられない。
「……運転手さん、人通りの少ないところへ移動してほしい。そこで降りるよ」
「大丈夫なんですか!?」
「ああ、こう見えて隠密行動は得意でね。とある学園の特殊部隊とも共闘したこともある。だから大丈夫さ」
「……わかりました。もう少し進んだところで、路地の前でドアを開けます。そうしたらすぐに走ってください。お代は後日で構いません。どうかご無事で」
「ありがとう。必ず払いに行くよ」
タクシーが停車し、ドアを開いた途端セイアは飛び出し、そのまま路地に逃げ込む。
まっすぐ進み、人の気配を感じたらより静かな方へ進む、これを繰り返していく。
この辺りは飲食店が多いせいか、生ごみを捨てるためのバケツなどもありとても進みにくい。
(確かここの近くにはナギサのセーフハウスがあったはずだ。そこまで逃げ込めれば……っ!)
後方だけでなく前方の曲がり角の先からも人の声が聞こえる。
挟まれそうになったセイアだが、偶然道端に段ボール箱が落ちているのを見つけ、すかさずそれに潜り込む。
(助かった。まさかこんな所にPC梱包用の大きな箱が落ちているとは)
路地の両側から足音が聞こえ、セイアの方へ近づいてくる。
(……いや待て。なぜ飲食店の多い通りにPCを梱包する箱なんかが落ちている?しかも一つだけ)
これは罠だ。追い詰められた狐が思わぬ反撃や想定外の逃走に出ないための偽物のゴール。
しかしそこまで考えが至ったところで、迫っていた足音が箱の目の前で止まった。
そして外側からホースのようなものを差し込まれ、何かのガスを注入された。
『ハナコ様、百合園セイアの確保が完了しました』
ユスティナ信徒の声を聞き、考え得る限り最も厄介な生徒が敵戦力に加わっていたことを知りながらセイアは意識を落とした。