にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第16話:不可逆の引き金

場所はトリニティ総合学園前中央広場に戻る。

メフィストによる『ブルアカ宣言』の後、ミメシスたちの侵攻によりトリニティはほぼ壊滅状態まで追い込まれていた。

 

戦闘力の高いミカ、ミネ、サクラコ、ツルギのミメシスが暴れ回っているのに加え、ユスティナ信徒のミメシスが数の暴力で押してくる。

 

さすがの正義実現委員会でも厳しい状況だ。

そしてナギサと模倣セイアは、ユスティナ信徒たちに取り押さえられてしまっていた。

 

『なんか、終わってみるとあっけないですね』

 

トリニティが崩されていく様子を見ながら、どこかつまらなさそうにしているメフィスト。

すると彼女の携帯に着信があった。

 

『もしもし、どうしたのハナコちゃん?え、セイアちゃんの確保できたの!?お〜ありがとう!じゃあ早速こっちに連れて来てもらって……既に向かってる!?おぉ、痒いところに手が届く!』

 

「ハナコ……ハナコさんですって!?それにセイアさんまで……彼女に何をしたのですか!!」

 

『ああ、ハナコちゃんのミメシス?作戦立案の補助とか脱獄の手助けとか色々手伝ってもらってますよ。彼女、ビックリするくらい有能なんですよね』

 

『あとセイアちゃんなら大丈夫ですよ、怪我なんてさせてません。ほら、ティーパーティー解散するのに諸々の手続き必要じゃないですか?その書類の場所とか本人に聞かないとわからないだろうなーって♪』

 

外部協力者の正体とは模倣ハナコだったのだ。

得意げに語るメフィストの元へ模倣ナギサが歩み寄る。

 

『メフィスト様、我々が有利な状況ではありますが、あまり悠長なことは言っていられないかと。先ほどこちら側のセイアさんが『色彩』に触れることによる『反転』を目論んでいましたので』

 

『え?それってアビドスのシロコちゃんみたいになって、私たちのこと倒そうとしたってこと?できるのかなぁそんなこと……』

 

模倣ナギサの報告を受けるもメフィストは半信半疑だった。

色彩とはそんな都合の良いパワーアップアイテムではない。

 

確かに模倣セイアは未来を視ることができるが、断片的なシーンを見て勘違いした可能性もある。

もう少し深掘りする必要があるとメフィストは判断した。

 

『そもそも色彩って呼んだら素直に来るような可愛らしいものだっけ?ブラフだったと思うけどなぁ〜私は!』

 

『い、いえ、とてもそうは見えませんでした。セイアさんはその戦力を勘定に入れた戦力配置だと思っていたようですし』

 

その言葉を聞き、メフィストの中で最悪の未来への可能性が生じる。

 

(それ前提の戦力配置?もしセイアが本当に反転している未来を視ているならまずい。手を打たないと逆転どころか詰まされる!)

 

するとメフィストの思考を遮るように、広場の端に一台の車が停まる。

そして二人のユスティナ信徒に連れられ、車の中から本物のセイアが連行されてきた。

自分で指示しておきながら最悪のタイミングになってしまった。

メフィストの中に焦りが生まれ始める。

 

「メフィストフェレス……!この街を混乱の渦に陥れたのはお前の仕業だな!?」

 

『……久しぶりですね、セイアちゃん。どうです?昨日拘束した相手に、今度は追い回される気分は?』

「……」

 

セイアは憎々しげにメフィストを睨みつけている。

 

『気に入ってもらえました?ブルーアークカタストロフ。まあ偉そうなこと言いつつ、半分はハナコちゃんの手柄ですけどね』

「ふざけた真似を……!」

 

メフィストは憤るセイアを横目で見つつ、次の手を考えていた。

 

(とりあえずトリニティは手に入った。次の戦闘の前に一旦兵を増やした方がいいかな?連邦生徒会とシャーレはちょっと準備期間いるだろうし、まあ次の狙いは無難にゲヘナか)

 

(いや、その前に阻止しなくてはいけないのは色彩によって双方壊滅的な被害を受けること!すぐに戦闘を停止させないと……ん?)

 

不意に模倣セイアの方を見ると、彼女はまるでこの世の終わりにでもなったかのような顔でセイアの方を見ていた。

 

『姉さん……!』

 

(動揺している!命は奪わないって言ったのに。彼女が色彩を呼ぶのか……?)

 

(いや、今の彼女に戦う意志は見られない。さすがにこの状況で反転しても味方を大勢巻き込む可能性だってあるし、そういう判断をする子じゃないとは思うけど……)

 

すると模倣セイアは拘束を解こうともがき、周囲へ向かって叫び始めた。

 

『誰か!姉さんを連れて逃げてくれ!早く!どんどん私が視た夢に近づいている!このままでは、トリニティは壊滅的な被害を受ける!』

 

その言葉を聞いた途端、メフィストは身震いした。

 

(セイアを遠ざけようとしている。間違いない、どういう流れかはわからないけど、反転するのはこちら側のセイアじゃない。百合園セイアだ!)

(まずい!セイアを連れてきたのは間違いだった!すぐにでも二人を引き離さないと……)

 

『セイアちゃんうるさい』

 

メフィストが指示を出そうとしたその時、銃を持った模倣ミカが模倣セイアの前に立っているのが見えた。

その銃は模倣セイアの胸元へ突きつけられ、その引き金には指がかかっていた。

 

『……ミカちゃんちょっと待って!!』

 

しかしメフィストの言葉は模倣ミカには届かない。

 

『……ミカ』

 

模倣セイアが消え入りそうな声で友の名を呼ぶ。

 

『私言ったよね、お姫様になりたいって』

『それなのに先生とカラオケとかスイーツビュッフェとか行っちゃってさ。私は遠くから隠れて見ることしかできなかったのに』

『それで先生に色目なんか使っちゃって。あれ、本気で気持ち悪かったんだけど』

 

模倣ミカの目には強い憎悪がこもっていた。

そんなつもりではなかったが、結果的に彼女に強い憎しみの感情を芽生えさせてしまった。

模倣セイアは何も言うことができず、ただ友の目を見つめることしかできなかった。

 

『セイアちゃんなんて大っ嫌い』

 

直後、銃口から発射された弾丸は模倣セイアの胸を貫いた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

セイアは見てしまった。

目の前で妹が撃たれるところを。

撃たれた直後、彼女が糸の切れた人形のように地面に倒れてしまうところを。

 

「セイア!!!!」

 

『え、死んだ?』

『銃で?どういうこと?』

 

セイアを拘束しているミメシスたちも動揺していた。

その隙を突き、セイアは掴まれた手を振り解いて模倣セイアの元へ駆け寄った。

 

「セイア!!セイア!!」

 

模倣セイアへ声をかけ、意識の有無を確かめる。

 

『それでも……愛してる……』

 

焦点の合わない目線に、掠れたような小さな声。

その言葉を最後に、模倣セイアは今にも消えそうな小さな呼吸をゆっくりと繰り返すことしかできなくなっていった。

その胸には穴が空いており、その周囲と背の付いている地面が真っ赤に染まっている。

 

「あ、あああ……何で、どうして……!?」

 

何もすることができず、ただ慌てて周囲を見回すことしかできない。

誰か、救護騎士団の生徒はいないのか。

そもそもなぜ銃弾一発で致命傷になっているのか。

 

その様子を見ていた模倣サクラコが得意げに語る。

 

『いかがですか?数多の技術を取り込んで強化されたシスターフッド特製の弾丸は。裏切り者の処刑などお手のものですよ』

 

「なん……だって……!?」

 

模倣セイアのヘイローが燃え尽きた灰のようにぽろぽろと崩れていく。

その様子を見れば、模倣サクラコの言葉が嘘ではないことがはっきりとわかった。

 

もう助からない。

セイアはただ、妹が苦しくないように頭を撫でてあげることしかできなかった。

 

『ね……さ……』

 

模倣セイアが片手を上げ、何かを探すように空中を手で探っている。

 

「何だい!?私ならここいいるよ!!」

 

セイアがその手を取ると安心したのか、模倣セイアはかすかに微笑む。

そして、ふう、と一回息を吐き出したところで彼女の呼吸は完全に止まった。

 

「ああああああ!!待って、行かないでくれ!まだ話せていないことが沢山あるのに!!」

 

セイアは子どものように喚いているが何もできず、ついに模倣セイアのヘイローが音も無く砕け散り、その目から光が消えた。

 

「あ……」

 

セイアは項垂れ、へたり込んでしまった。

そしてその感情を表すように雨が降り始める。

それはすぐに土砂降りになり、皆ずぶ濡れになっていった。

 

その様子を傘も差さず、少し離れたところから見ていた少女が二人。

 

『……終わりましたね、ミカさん』

『そだね。行こっか、ナギちゃん』

 

彼女たちの顔は達成感というよりは疲労感に満ちている様子だった。

しかし彼女たちにはまだやらねばならないことが山ほどある。

新生ティーパーティーとしてトリニティの建て直しを行う、それが彼女たちの役割だ。

 

模倣ミカに模倣ナギサが寄り添い、より良い未来のため二人はトリニティの校舎を目指して歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこへ行く」

 

静まり返った広場に、シマエナガたちが羽ばたいて飛んでいく音だけが響き渡った。

 

直後、辺りにどっと重たい空気が立ち込める。

セイアだ。セイアの声だった。

決して大声を出していたわけではないのに、その場にいる全員がはっきりとその声を聞き取れた。

 

そしてその直後、先ほどまでそこらで元気に暴れ回っていたミメシスたちが急に地面へと倒れ込んだ。

まるで強い重力に晒され立てなくなっているように。

 

模倣ミカやメフィストさえも例外では無く、片膝立ちするのが精一杯だった。

 

「どうして殺した。記憶にあるはずだ。友を傷つけることがどれだけ罪深いか。知っているはずだ」

 

セイアは言葉を発することこそできるものの、意識が朦朧とし始めていた。

怒りで頭に血が上り、平衡感覚が狂いまともに立っていられない。

地に足をついているのに、上下逆さまにひっくり返されているような感覚。

倒れないようどうにか両手両足で動物のように地に立ち、大きく目を見開き模倣ミカたちを睨みつける。

 

「う、うううう……う"う"う"う"う"う"!!」

 

耳を前方に倒し、眉間に皺を寄せ、歯を剥き出し、獣のような唸り声を上げる。

セイアとは距離が開いているのに、目の前で威嚇されているような強い圧迫感に襲われる。

 

『そんな、これは……!』

『セイアちゃ……っ!ナギちゃん、上!』

 

二人とも恐怖ですくみ上がっている。

そして何かに気づいた模倣ミカと、それに釣られて上を見る模倣ナギサ。

 

彼女たちの視線の先、分厚い雲の向こうに大きな、とても大きな黒い円形が影になって見えていた。

そして雲が少しずつ逸れ、その全貌が明らかになる。

 

まるでブラックホールのような何か。

解釈されず、理解されず、疎通されず、ただ到来するだけの不吉な光。

目的も疎通もできない不可解な観念とも言い表される。

 

『色彩』がすぐそこまで迫っていた。

観測した者を狂わせる光を放つ、正体不明の何か。

 

『あれが『色彩』……!』

 

メフィストもその姿に釘付けになっていた。

しかしそれを見ている自分や模倣ミカたちには特に影響が出ていない。

おそらく色彩はセイアの神秘に惹かれて来たのだ。

それ以外の有象無象など、眼中にも無いのだろう。

 

『妬けちゃうなぁ、こっちも見て欲しいんですけど!?』

 

メフィストはこれまで取り込んできたあらゆる生徒の神秘を右手に集中させ、アンテナのように色彩へ伸ばす。

 

(ほんの少しでもこっちへ注意を向けられれば……っ!?)

 

直後、その右手が先端からひび割れ、亀裂が体の方まで伸びて来た。

危険すぎる。

このままでは保たないと判断したメフィストは急いで右手を引っ込めた。

 

『っはぁ!!はあ、はあ……っ、ぐうぅっ!何これ、とても扱いきれるもんじゃない……!』

 

己の軽率さを呪いながら、メフィストはその場にうずくまる。

一方、セイアは一切苦しむ様子が無い。

根本的な潜在能力の差を、メフィストはこれでもかと見せつけられた。

 

しかしセイアはそんなものに目もくれず、今まで感じたこともないほどの殺意を募らせていく。

 

「償わせる。罪を。殺した。妹。大切。それを。お前たちが。友達。なのに。それを。お前たちが。殺した」

 

お前たちが。

 

 

 

お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。

お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。

お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。

お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。

お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。お前たちが。

 

その直後、暗い大穴に落ちるような感覚を覚えたところでセイアは意識を落とした。

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