にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第1章:見えざる脅威
第1話:必然の出会い


トリニティ自治区の古風なデザインの店が立ち並ぶ通りを、一人の生徒が歩いていた。

百合園セイア、トリニティ総合学園の生徒会「ティーパーティー」のメンバーである。

 

彼女は以前から病弱な体質であったが、それも少しずつではあるが改善の兆候がある。

先のミレニアムEXPOへの参加によって、周囲へもそれが認知されつつあった。

 

「次のニュースです。昨日トリニティ自治区周辺にて、トリニティ総合学園の生徒が人型の怪物に襲撃される事件が発生しました。この事件により二人の怪我人が……」

 

空を飛ぶ飛行船に取り付けられた大型ディスプレイからは、特に重要度の高い最新のニュースが流れている。

 

「ミメシス……」

 

足を止めてニュースを見ていたセイアが呟いたのは、生徒を襲った怪物の呼称。

以前エデン条約調印式が襲撃にあった際、テロリストの兵として召喚されたそれについては連邦生徒会やシャーレ、ゲヘナとも情報が共有され、今はそう呼ばれている。

 

それらは人の意思とは関係なく自然に発生するもののため、今回の事件も念入りには調査されず、市民に警戒を呼びかけて終わりだろう。

しかしセイアの直感はそれだけで終わるとは判断できなかった。

 

(ミメシスがトリニティ自治区に現れたという事実が気になる。それらは本来ならもっと人の少ない場所でぽつぽつと発生する、言わば幽霊のような存在のはず)

 

セイア自身も、彼女と同じ姿をした生徒を見かけたという噂話は聞いたことがあった。

なんでもカフェやケーキ屋でアルバイトをしていたり、学園の近くに現れて校舎を眺めたり写真を撮っていたりだとか。

自分にしてはずいぶん体力に余裕があるなとほんの少し羨ましくも思ったが、所詮噂話とそれ以上考えることはなかった。

 

(人を襲ったということは、顕現したのはユスティナ聖徒会である可能性が高い。念のため帰ったらナギサやミカに相談しよう)

 

セイアは再び歩き始めた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「確かここの角を曲がって……ああ、ここだ」

 

訪れたのは古書店。

エデン条約の事件の時に大きく体調を崩して以来、来るのは久しぶりだった。

 

「いらっしゃいませ」

 

聞き慣れた店員の声に懐かしさを覚える。

人があまり来ない、静かな雰囲気のこの店が好きだった。

以前から売れ残っている本、新しく店頭に並んだ本、懐かしさと新発見に心を躍らせながら、セイアは一冊の本を手に取ろうとした。

 

しかしその時隣の客が同じ本を取ろうとし、軽く手が触れ合う。

 

「ああ、これは失礼。先にそちらが取ってく……れ……」

 

セイアの方から謝罪をしようと客の方を見た時、その姿に思わず言葉を失う。

 

 

 

彼女の姿は、百合園セイアと瓜二つの姿だったのだ。

 

(間違いない、噂に聞くミメシスだ。こんなところで、よりにもよって私のと出会うとは……!)

 

しかし驚いているのは相手も同じで、目を丸く見開き、あんぐりと口を開けてカタカタと震えている。

恐怖に引きつったその顔は、まるで急降下が目前に迫ったジェットコースターの乗客のようだった。

 

「あ、あの君は……」

 

『失礼!!』

 

声をかけようとした瞬間、模倣セイアが走って店を出ていった。

まさか本当に自分のミメシスが存在したとは。

セイアも急いで彼女の後を追った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

『暗く染まった Deep Ocean♪』

 

『何気ない日常が惨劇へと変わり、方舟の乗船権を奪い合う物語。ブルーアークカタストロフ、事前登録受付中』

 

『事前登録で今ならシークレットミッションへ参加可能です。お待ちしております、先生』

 

飛行船のディスプレイが、今度はゲームのCMを流している。

 

(ドッペルゲンガー。同じ顔をした人間に会うと死ぬというのが本当なら、まさに乗船権の奪い合いだ)

 

セイアは模倣セイアを見失わないよう全力で追いかける。

幸いセイアのミメシスなので相手も体力が無く、既に息切れし始めていた。

それに対してセイアはミレニアムEXPOで凄腕のエージェントと共に潜入任務をこなしている。

 

「はあ、はあ。体力勝負なら私に分があるようだね……っ!!」

 

大通りをまっすぐに逃げる模倣セイアに追いつきそうになった時、道の先で突然爆発が起こった。

 

「『な、何だ!?』」

 

爆心地では黒煙が上がり、住民や生徒が逃げ惑っている。

そして目を凝らすと、煙の中からぞろぞろと黒い影が出てくるのが見えた。

 

「あれは、ユスティナ聖徒会……!」

 

数は十体ほどだろうか。

青白い肌に修道服を纏った怪物が周囲を攻撃し始めた。

目の前の偽物を捕らえなければならないが、怪物たちも放ってはおけない。

セイアが思考を巡らせ始めた瞬間。

 

 

 

「はーい、それ以上暴れたらダメっすよー!」

 

建物の陰や路地から次々と黒いセーラー服の生徒たちが現れ、ミメシスへ銃撃を浴びせる。

応戦するミメシスだったが、銃を構えた瞬間どこからか狙撃を受け、その場に倒れる。

 

「イチカ先輩、後方支援部隊位置につきました。いつでも狙撃できます」

 

駆けつけたのは正義実現委員会の生徒たちだった。

そしてその後ろには大人の男性が一人。

 

「イチカ、サポートはマシロに任せて、ここにいる人員を一部住民の避難に回そう」

 

「了解っす、先生!」

 

先生だ。

かつてトリニティの、ひいてはキヴォトスの危機を何度も救ってきた大人。

彼がいるならミメシスの対処も模倣セイアの捕獲も達成できる可能性は高い。

セイアが声をかけようとしたその時。

 

『やあ先生、こんなところで会うなんて必然だね』

 

模倣セイアが先手を打っていた。

 

「セイア!?どうしてここに!!それに必然って……」

 

『説明は後にしよう。それよりも今、私の偽物に追われていてね』

 

模倣セイアが後ろを向き、先生には見えないようほくそ笑む。

入れ替わりを企むとは、なかなかに小賢しい戦法を取るものだ。

 

「先生、偽物はそいつだ!捕まえるのに協力してほしい!」

 

追いついたセイアが割り込む。

 

「なるほどね……よし、本物のセイアなら"私の指揮"に従ってくれるよね?正義実現委員会の援護をお願いできるかな」

 

なるほど、とセイアは感心した。

ミメシスのセイアはユスティナ聖徒会のミメシスたちと仲間である可能性がある。

どちらが偽物かを今判断するのではなく、自身に協力させることでその脅威を一時的に封じておく判断をしたのだ。

 

「もちろんだよ先生。すぐに終わらせよう」

 

『私も従わない理由は無いね』

 

二人のセイアは銃を抜き、事態の鎮圧へと向かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「お疲れ様、みんな」

 

「『ああ、無事に解決できたね』」

 

「被せないでくれたまえ……」

 

『被せたのはそっちの方だろう』

 

数も多くはなかったため、ミメシスとの戦闘はすぐに終わった。

倒れたまま消えずに残っているミメシスたちを捉えるべく、正義実現委員会の生徒が取り囲んでいた。

 

「ハスミ先輩にも電話しないとっすね」

 

そう言ってイチカはミメシスたちの方へ向かっていく。

事態は収束したものの、先生の中には疑問が残っていた。

 

(数も多くなく、場所もトリニティの自治区ど真ん中。なぜこんなところに、しかも人の多い昼の時間に発生した?戦うには分が悪すぎる)

 

(ミメシスが自然発生する条件はある程度決まっていて、今ここでそれは整っていない。誰かの悪意が介在している可能性がある。ゲマトリアか、アリウスの残党か、それとも……)

 

ミメシスの方へ目を視線を移すと、そのうちの一体と目が合う。

誰が彼女たちを動かしているのか、詳しく調べる必要がありそうだ。

 

 

 

 

 

 

『今だ』

 

信じられないことが起こった。

こちらを見ていたミメシスが言葉を発したのだ。

先生の中に、根拠が言語化されるよりも早く恐怖感と危機の予感が湧き上がった。

このミメシスたちを放置してはいけない。絶対にだめだ。

 

「イチカ、今喋っ……」

 

一瞬だった。

囲まれていたミメシスたちが消え、先生の周囲を取り囲むように出現した。

 

イチカが先生の方へ視線を戻した時には、すでに多数の銃口が先生へ向けられていた。

 

「先生!!!!」

 

先生の側を離れ、一人にさせてしまった。

目を見開いたイチカが叫ぶと同時に、ミメシスたちのマシンガンから無数の弾丸が放たれる。

 

「ぐうっ……!」

 

シッテムの箱のOS、アロナとプラナの尽力により先生の周囲には不可視のシールドが貼られている。

しかし銃撃は止まない。

アロナたちの消耗を少しでも抑えられるようシールドの面積を小さくするため、歯を食いしばり体勢を低くする先生。

 

「プ、ラ……逃げ…………」

 

「せん……ぱ……」

 

二人の限界も近い。

しかしマシロたち後方支援部隊がすぐにミメシスへ狙撃を開始したため、徐々に弾丸の雨は止みつつある。

 

「先生!!先輩!!」

 

マシロも歯を食いしばり、必死に撃ち続けた。

そしてミメシスたちが全員消滅すると同時に、先生を囲っていたシールドも消滅した。

シッテムの箱は完全にシャットダウンしており、画面が消えている。

 

「アロナ……プラナ……!」

 

先生が再起動を試みていると、突如正面から青白い手が伸びてシッテムの箱を掴んできた。

顔を上げると、眼前に一人のユスティナ信徒の顔が映る。

 

彼女はまた何も無いところから出現し、こちらのシッテムの箱と胸ぐらを掴んでいる。

 

「ぐうっ!」

 

上着のポケットを弄られ、シッテムの箱と並ぶ先生の武器である大人のカードに手を這わせている。

彼女の両腕を掴んで抵抗するが引き剥がせない。

顔を見ると、勝利を確信したのか彼女はゴーグル越しに目を細めているのがわかった。

 

(これが最良の選択だ!)

 

プライベート用の端末にまで手を伸ばされそうになったその時。

 

 

 

先生は彼女の頬を舌で舐めた。

 

『!?!?!?』

 

彼女の顔が引きつり、動揺したのがマスク越しにも確かにわかった。

そして力が緩んだその隙をイチカは見逃さなかった。

 

「こん、のぉっ!!」

 

思い切りユスティナ信徒の顔を蹴り飛ばし、先生と引き剥がす。

 

「先生、大丈夫っすか!」

「ありがとう、イチカ」

 

ユスティナ信徒へ視線を戻すと、その手にはシッテムの箱と大人のカードがあった。

彼女は恨めしそうにしながらもそれらを大事そうに抱え、まるでPCの電源を切った時のように一瞬で消えていった。

失ってしまったものは大きいが、しかし得られたものもまた大きい。

 

「間違いない」

「? どうしたんすか?」

 

首を傾げるイチカに先生が続ける。

 

「ミメシスは通常、与えられた命令かコピー元の行動を機械的になぞるだけなんだ。でもさっきの奴らには意思があった。そういう個体なのか、はたまたリアルタイムで誰かが操縦しているのか」

 

「それって……」

 

「わからないことが多すぎる。大ピンチだよイチカ。すぐにティーパーティーと話をさせてくれ」

 

そして先生はその代表者であるセイアたちの方へ視線を向ける。

 

「幸い、メンバーに重要参考人がいることだし、ね」

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