にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第2章:トリニティの帰還
第1話:勝者と敗者


皆さんご機嫌よう……と言える状況ではありませんね。

トリニティ総合学園ティーパーティー、桐藤ナギサです。

昨日のミメシスたちによるトリニティへの襲撃から、丸一日が経とうとしていました。

 

ミカさんたちの救援によりどうにかトリニティを脱出した私たちは、皆それぞれバラバラに、ひたすらに逃げ続けました。

一般生徒は自宅待機、直接戦闘に関わった生徒は自宅の他に病院、友人の家、もしくはティーパーティーが極秘に用意した避難所へそれぞれ散って行きました。

 

そして各派閥や部活の代表者、避難場所のあてが無い生徒たちは私の用意した避難所へ集まっている状況です。

廃校を内部のみ改装し、一見すると人のいない廃墟にしか見えないようカモフラージュされたこの避難所は、ミメシスたちから見つかるリスクを大きく低減することができています。

 

さらに先ほど在校生全員の生存が確認できたため、この後代表者を集めて対策会議が開かれる予定となりました。

開始は三時間後、短い間ですが夜通し働いてくださったみなさんには少しでも休む時間を与えたいという想いがありました。

 

そして、生存者については一つ付け加えなければなりません。

"在校生"の生存は確認できましたが、私たちは一人大切な"仲間"を失う結果となりました。

特に彼女と親しかったセイアさんは身体だけでなく心のケアも必須と言わざるを得ない状態です。

 

悔しいですが、私が彼女にしてあげられることはそう多くありません。

少しでも彼女の負担が減らせるよう、ただ目の前の仕事をこなすだけ。

 

ですが今回の事件、その規模はあまりに大きなものでした。

混乱状態にあるのは学園だけでなく、街全体までもがパニックに陥っているような状況。

 

現時点で深刻なダメージを受けているのはまだトリニティ自治区のみですが、既に他の学園周辺でも少しずつミメシスの目撃情報が出ており、そう悠長には構えていられない状況でもあります。

 

果たして敵の狙いは一体何なのでしょうか?

トリニティ総合学園を乗っ取ることが最終目標ではないように思えます。

 

トリニティ襲撃の後、彼女らは現在に至るまで派手な行動は起こしていないようです。

ですが私には、それが嵐の前の静けさのようにしか感じられませんでした。

 

世界の全てを飲み込んでしまうような、とても大きな嵐の。

 

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『にはは、今度こそ開けちゃいますよ!』

 

トリニティ総合学園ティーパーティー専用テラスにて、桃色の髪をツインテールにした少女がタブレット端末を弄っていた。

そして真っ暗な画面を覗き込み、パスワードを入力する。

 

『我々は望む、ジェリコの嘆きを。我々は覚えている、七つの古則を。……う〜ん、ダメでしたか』

『どうやらお困りのようですね。随分可愛らしい見た目のようですが、イメチェンですか?』

 

少女がタブレットを机上に放り出し椅子にもたれかかっていたところ、模倣ハナコが現れ少女の前に紅茶を差し出す。

模倣ハナコに言われ、はっとした少女は手で顔を擦るとその顔はヒフミのものに変わった。

 

『あはは、形から入ってみたんだけど特に効果は無かったよ。パスワードは合ってるとは思うんだけど、何か他にも条件が揃わないと開けられないっぽいなぁ』

 

少女の正体はメフィストで、先生から奪取したシッテムの箱を起動すべく試行錯誤しているところだった。

 

『メフィスト様でも開けられないとなると、これ以上シッテムの箱の解析にリソースを割くのは避けたほうが良さそうですね。クレジットカードの方は大まかな仕組みを解析することはできたのですが……』

 

『でも、色彩の嚮導者が現れた時のデータをもとにある程度はシッテムの箱が何なのかは理解できたんでしょ?サンクトゥムタワーの権限の横取りはできなさそうだけどさ、ミメシスとプレイヤーもとい『先生』を繋ぐインターフェースとしての仕組みはある程度再現できたっぽいし、これで良しとしよう!』

 

『何より、これで先生の行動を大幅に制限することができたのが一番の収穫かな!』

 

『そうですね。今のところブルアカをプレイする分には特に問題は発生していませんし』

 

『上等上等!じゃあ、シッテムの箱とカードはハナコちゃんに預けておくから、ブルアカの運営業務よろしくね?』

 

『承知致しました。それと次のイベントについてですが……』

 

模倣ハナコはメフィストからシッテムの箱を受け取り、今後の方針について相談を持ちかける。

現在世間を騒がせているブルーアークカタストロフはこの二人を中心として作られたものだった。

 

『失礼します。桐藤ナギサ、聖園ミカ両名、本日より復帰致します』

『……失礼します』

 

すると扉が開かれ、模倣ナギサと模倣ミカが入ってきた。

 

『おー、ナギサちゃんミカちゃん!よく戻ったね、もう体調は大丈夫?』

 

『ええ、お陰様で。しかし信じられません、羽根を千切られたミカさんはまだしも、首を失った私まで命を繋げるとは……』

 

模倣ナギサは自身の首を手でなぞる。

特に傷跡も残っておらず、あまりに強い生命力に戸惑っている様子だった。

 

『当然でしょう。メフィスト様の技術と私の医療、双方合わされば『首の飛んだ』あなたを生かすことなど造作もありません』

 

その声は模倣ナギサの後方から聞こえてきた。

そちらへ視線を向けると模倣ミネが入り口に立っていた。

そして彼女に続くように模倣ツルギ、模倣サクラコもテラスへ入る。

 

『随分と含みのある言い方ですね?ご自身の役目を果たしただけでこうも強気に出られるものですか』

 

『私は救護に誇りを持っていますので。お役目を果たせなかったあなたの心中はお察ししますが、セイアさんに襲われてお漏らししたあなたの、文字通り尻拭いをさせられた私の気持ちも少しは慮って欲しいものですね』

 

『っ!自分は人の気持ちを考えないくせに、何が救護ですが馬鹿馬鹿しい。エゴの間違いでしょう!』

 

小馬鹿にするような笑みを浮かべる模倣ミネを模倣ナギサは顔を赤らめつつ睨み、その後集まった全員が席についた。

そして模倣ナギサは気を取り直し、メフィストへ現状の確認を行う。

 

『メフィスト様、ブルーアークカタストロフとは一体何なのです?私たちの知る限りでは人間がミメシスを操作するには大掛かりな装置が必要で、用意できる人数も二百人程度が限界と認識していました』

 

『ブルアカ?まあ、構想自体は結構前からあったね。けど昨日も言った通り、最初から話してたらナギサちゃんこれがある前提の行動をするでしょ?敵を騙すにはまず味方からってね』

 

『とはいえリリースまで本当にギリギリでさぁ、事前に集めていた情報からゲームの下地はできてたものの、先生からカードとシッテムの箱を奪って解析して、CM打って集めた事前登録者を使ってβテストとしてアリウス襲撃させてミメシスの個体数を増やすための『電池』を確保して、みたいな感じで……』

 

『もー本当に大変だった!!サオリちゃん強いから確保するのにミメシスたくさん使わされたし!でもアツコちゃんだと体力的に耐えられそうに無いんだよね〜。大量のミメシスを生み出すとなると』

 

『それと上っ面だけとはいえシッテムの箱を再現して、ミメシスのリモコン小型化するとかできる気しなかったし!この大変さを知っちゃったら世の中のゲーム開発者の皆様には足向けて寝られないわ、本当!』

 

メフィストは嫌な記憶を振り払うように首を振り手足をバタつかせる。

 

『左様でございますか……。至らぬ点も多く、申し訳ございません』

 

模倣ナギサは昨日の失敗への罪悪感もあり、メフィストへ謝罪する。

するとそれを見ていた模倣ハナコがくすくすと笑う。

 

『これまでの内容からお察しできませんか?あなた、あてにならないと言われているんですよ』

 

『口を慎みなさい、日陰者。あなたの役目は暗い部屋で機械とにらめっこをすることでは?頭の良さを認めて欲しいのかもしれませんが、無理やり輪に入ってこようとする姿は滑稽ですよ。私もあなたのような承認欲求の亡者にならぬよう、気を引き締めなければいけませんね』

 

模倣ナギサから予想外の反撃を受け、不機嫌になる模倣ハナコ。

 

『……あなたが引き締めるべきなのは膀胱でしょう』

 

模倣ハナコの反論に、模倣ナギサは怒りと羞恥で顔を真っ赤にしながら銃を向ける。

それを仲裁するようにメフィストが口を挟んだ。

 

『君ら本当仲悪いね〜。ま、でも結果うまくいったでしょ?』

 

結果的には確かにトリニティを奪い取ることができた。

しかし疑問点も多い。

模倣ナギサは銃をしまいつつさらに質問を重ねる。

 

『確かにそうなのですが、ミメシスの操作者に一般市民を選んだのには理由があるのですか?例えば、ヘルメット団などの方が戦闘経験もあり統率しやすいと思うのですが』

 

『うーんまあ、そうっちゃそうだね。けど彼女らには『爆発力』が無い。生活のために仕事として割り切ってるって感じかな』

 

『爆発力、ですか?』

 

模倣ナギサは曖昧な言葉の意味を理解できていない様子だった。

 

『そ、これ個人的には結構重要視しててね?まあつまり、『然るべき時に実力以上の力が出せるかどうか』って意味かな』

 

『んで、私はそれを持つ者として一般市民に目を付けたの。まずそこら中にうじゃうじゃいるし、ヘルメット団の子たちと違って戦いとは無縁の日常で、渋々社会規範を守りながらじっくりと熟成し続けたストレスを抱えている』

 

『そんな人たちの前に『トリニティが悪いことをしました』って情報(エサ)を撒けば、『私が正さなきゃ』って正義感にかこつけて悪者のトリニティを際限なく痛めつける、都合の良い兵士が完成するってわけ』

 

『これは持論だけどね、『悪事を働こう』と呼びかけても人は集まらないし、かろうじて集まった人にも爆発力は無い。悪いことをしているという自覚がどこかにあるわけだからね』

 

『逆に『虐げられている人を救いたい、悪い奴を懲らしめたい』と声をかければ人は山ほど集まるし、一人一人の意志も強い。『正しいことをしている』という免罪符があるからね』

 

『そういう人の枷を外した時の攻撃性と躊躇いの無さには目を見張るものがあるんだよ?それこそ今回のように、ヘルメット団と一般市民、ミメシスという強力な器が平等に与えられた時、より高い成果を出すのは後者だと思ってるんだ』

 

『まあ要約すると、『金で動く傭兵』よりも『正義中毒の一般市民』のほうがコスパいいよねって話!』

 

『……ご丁寧に説明いただきありがとうございます』

 

模倣ナギサは理解した。

メフィストフェレスは本物の悪魔だ。

謀略を巡らせ人々の善意を踏みにじり、悪意を煽動し、この街一つくらい簡単に地獄に変えてしまうだろう。

 

『そんで!その一般市民を選定するメカニズムをハナコちゃん、解説お願いします!』

 

メフィストの指名を受けた模倣ハナコは得意げに解説を始める。

 

『うふふ♡そう複雑なものではありませんが、プレイヤーの皆さんにはチュートリアルの最初に心理テストに回答していただきました』

 

『そこで攻撃性が強いと判断された人は学園近くの前線へ配置し、そうでない人は後方支援に、といった具合で』

 

『ああ、逆に善性が強いと判断された人や登録された個人情報からトリニティ生と特定できた方など、邪魔になりそうなプレイヤーはあらかじめ別のゲームに誘導して本作戦には関わらないようにしていますのでご安心を』

 

『そして現在、後方支援に回された方へは『研修ミッション』の提案を行っています。その内容はスケバンやアリウス残党など『社会のゴミ』と言われている悪い子たちをお仕置きするというもので、そこで成果を出せば晴れて『修行を積んだ勇者』として前線に行けるという仕組みになっています』

 

『研修をクリアした先生にはより強力な武器を持つユスティナ信徒を支給しており、先生方のモチベーション向上にも努めています。このキヴォトスから悪人が淘汰される日はそう遠くはありません』

 

『性格わる。真っ先に淘汰されるのあなたじゃん』

 

模倣ミカの言葉に、自信に満ちていた模倣ハナコの表情が曇る。

 

『も〜、次のイベントの説明に移るよ?でもその前にさ』

 

 

 

『ミカちゃん、なんで昨日私の制止を無視してセイアちゃん撃ったの?』

 

先ほどまでの軽めのトーンから一転、静かに相手を威圧するようなメフィストの気迫に模倣ミカがびくっと震え、メフィストの方を見る。

 

『だ、だって!セイアちゃん私が先生のこと好きなの知ってて先生と仲良くしてたんだもん!』

『そっか、じゃあそのせいで私やナギサちゃんが死にかけても何とも思わないと?』

 

言い訳を聞いているようで、その言い分を一切認めない言い方に模倣ミカは徐々に劣勢に立たされていく。

 

『セイアちゃんが悪いんだもん……』

 

模倣ミカの答えに、メフィストは呆れたようにため息をつく。

 

『はあ。ミカちゃんさ、やっぱり取っちゃおっか。先生との思い出の記憶』

 

『えっ』

 

『だってさ、先生にこだわってるから私の言うこと聞いてくれないんでしょ?そんな悪い子は思い出没収です。それと多分だけどさ、先生は言うこと聞かないような悪い子は嫌いだと思うよ?』

 

『や、やだ!そんなことないもん!』

 

模倣ミカの反論を無視してメフィストは席を立ち、模倣ミカの前まで歩み寄る。

 

『でも等価交換だからね、代わりに好きなものあげる。何がいい?あ、そうだ、ミカちゃんの好きなブランド今度新作のアウター出すらしいけどそれにする?スマホの最新機種でもいいし、それとも歯並び直そっか?目大きくする?鼻小さくする?ウエスト細くしてもいいし、おっぱいおっきくしてもいいよ?』

 

真っ直ぐに模倣ミカの目を見つめながら無表情で話を進めるメフィスト。

そしてゆっくりと右手を模倣ミカの頭へとかざした。

 

『ぐすっ、ひっく、えっええええええええええん!やっ、やだ、やだ!取らないで……!!』

 

先生との大切な思い出を取られてしまうと思った模倣ミカは耐えきれず、思わず泣きだしてしまった。

 

『じゃあごめんなさいは?』

『ご、ごっ、ごめんなさい……!』

『よし!ちゃんと謝れてえらいぞ!じゃ、指切りしよっか。ゆーびきーりげーんまん!』

『げんまん……』

 

メフィストフェレスは契約を重視する存在、この指切りにも当然契約が発生している。

内容は模倣ミカがメフィストの命令に逆らわないこと。

違反すれば無条件でメフィストの指定するものを奪われる。

これまでも何人ものミメシスたちが契約によって大切なものを奪われてきた。

 

そんな恐ろしい契約を目の前で結ばされる様を見て、他のミメシスたちも黙り込んでしまった。

 

『さてと!トリニティ解放作戦も終わって、このまま停滞してるとユーザー離れちゃうからね!次のイベントを打ち出すよ!』

 

『その名も『魔女狩り狩りゲーム』!』

 

『内容はターゲットとなるトリニティ生を粛清することで、その強さと数に応じた経験値や強化アイテムが付与されるゲームだよ』

 

『そしてそのターゲットが、こちら!』

 

メフィストは手元のPCを操作し、プロジェクターを通して映像を映し出す。

そこには二十名ほどの生徒の顔写真と名前が手配書のように掲載されていた。

 

『っ!この子たちは……!』

 

模倣ミカがそれを見て反応する。

 

『気付いたようだね。そう、これは聖園ミカにいじめを働いていた子たちのリストだよ。だから魔女狩り狩りゲーム』

 

メフィストはヒフミが一度もしたことがないであろう邪悪な笑みを浮かべる。

 

『さあ、君たちの好きな正義を存分に振るうといい』

 

こうして、次の地獄が幕を開けた。

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