にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第6話:立ち上がる者たち

「……以上が、トリニティ総合学園へ攻め込む際の戦力配分になります。細かい指示は都度各班リーダーを通して伝達する形としましょう」

 

言いながら内心ナギサは不思議な感覚だった。

まさかトリニティの生徒会長である自分が、トリニティへ攻め込む作戦を指揮する日が来るとは。

 

「そして別動隊として、サオリさん救出班とブルアカの停止班を少数精鋭で編成します」

 

それを聞いて手を挙げたのはアツコだった。

 

「サッちゃんの救出は私とミサキとヒヨリに任せてほしい。カタコンベについても前に利用していた分迷いにくいだろうし」

 

次に発言したのはミネだ。

 

「ではサオリさん救出後、速やかに治療に入れるようハナエにも同行してもらいましょう。彼女の専門は治療ですが、多少の戦闘も問題ありません。足を引っ張ることはないでしょう」

「任せてください!」

 

ミネからの指名にハナエは元気よく返事をする。

 

「あ、あの……カタコンベって毎回道が変わると思うんですがそこはどうしましょう?マダムがいない今、私たちが道を知る術が無くて……」

 

ヒヨリの疑問はもっともだった。

しかし先生は既に対策を調べており、すかさず共有する。

 

「サオリを攫った奴らはどうやって正しい道を把握してるのか調べてたんだけど、どうやらブルアカのプレイヤーには正しい道の情報が共有されてるみたい」

 

「既に有志のプレイヤーが攻略サイトを立ち上げてたから、それを利用させてもらった。これで情報が筒抜けだ。ゲームという特性が仇となったね」

 

先生はナギサへ目配せする。

 

「ではカタコンベの正解ルート把握のため、まず最初にブルアカを管理しているゲーム会社の制圧から行います。目標はゲームを停止しつつカタコンベの情報を奪取すること」

 

「セイアさんが視た予知夢によると、先生のシッテムの箱と大人のカードもMeister社の中にあるそうです」

 

「先生とプラナさんにはそれらの奪還のため、こちら側へ同行していただきましょう。そして先生と共に向かうメンバーですが……」

 

そこで手を挙げたのはハナコだった。

 

「でしたら、そちらは私に任せていただけませんか?以前ウトナピシュティムの本船に乗った際、あまりミレニアムの方々のお力になれず悔しい思いをしたので、あれから少しずつITの勉強を進めているんです」

 

以前は自分の持つ能力だけを見られ、頼られるのに嫌気が差していたが今は違う。

先生のため、友のため、学園のため自らの意思でハナコは立ち上がる。

 

「ありがとうハナコ。システムのハッキングはプラナがメインで頑張ってくれるみたいだから、サポートをお願いね」

 

先生とプラナは、共に頑張ろうと言わんばかりにサムズアップをしている。

 

「だがハナコ。どうやらその目的地には君のミメシスが待ち構えているようだ。彼女、戦闘もこなせるそうじゃないか。誰かが彼女を引きつける必要があるわけだが……」

 

セイアはそこまで言って指名はしなかった。

待っているのだ、本人が名乗り出るのを。

 

「ミメシスのハナコは私が倒します!」

 

立ち上がったのはコハルだった。

 

「コハルちゃん!?大丈夫なの!?」

「ふっ」

 

ミカはとても心配しているようだったが、一方セイアにその様子はなかった。

 

「予知夢で既に視ているが、随分と面白い作戦を考えたね。君の望む物品については既に注文を出してあるよ。今日中には届くだろう」

「っ!?あ、ありがとうございます!」

「未来予知って便利だな〜」

 

先生はスムーズに進む会議を羨ましそうに見ていた。

そして次に手を挙げたのはアズサだ。

 

「だったら私も同行する。道中の敵を片付けるのは任せてほしい。あと、ハナコとコハルの援護もできる」

 

これで補習授業部の三人が揃った。

 

「あ、えっと、わ、私は……」

 

それを見ていたヒフミもそこに加わりたいとは考えているものの、自分にできることが何なのか、未だ見つけられていなかった。

みんなに置いていかれてしまう、そんな不安がヒフミを襲う。

 

しかし、ナギサとセイアは彼女に任せる役目を既に考えていた。

 

「わかったよ、アズサ。だがたった数名徒歩で敵地へ向かって行くのはあまりに危険だ。それにコハルの秘密兵器は人力で運ぶには少々骨が折れる。さて、どうにか移動手段を確保したいのだが……」

 

セイアはハスミの方へ視線を向け、彼女は待ってましたと言わんばかりに応える。

 

「使える足には心当たりがあります」

 

ハスミは窓を開け、ヒフミの方を向き手招きする。

ヒフミは不思議に思いながらもそれに従い、窓の外を見る。

 

するとそこには一台の戦車が、まるで主の搭乗を待っているかのように鎮座していた。

 

「ナギサ様からの指示を受けて、軽量化と操作性の向上のためにメンテナンスに出していたんです。結果的にミメシスたちに奪われずに済んだのは幸運でしたね」

 

ヒフミはその戦車に見覚えがあった。

それは海へ、シャーレへ、敵地へヒフミたちを何度も送り届けてくれた、思い出の詰まった戦車。

ヒフミは友との再会を喜ぶように目を輝かせ、その名を呼ぶ。

 

「クルセイダーちゃん……!」

 

「過去の運用データから、よりヒフミさんが扱いやすいように改修を施した巡航戦車『クルセイダー SpecⅡ』。ですがヒフミさん、いくらあなた向けに調整してあるとはいえ、危険な任務であることには変わりはありません」

 

「ですのでどうか無理はなさらず、操縦は他の方に任せ後方支援に回っていただく事も可能ですが……」

 

心配するような口ぶりではあるが、その実ナギサはヒフミが何と答えるか既に分かっているかのようだった。

そしてヒフミの答えも決まっている。

 

「いいえ、私やります!補習授業部のみんながいて、先生もいて、クルセイダーちゃんもいるんです。もう負ける気がしません!」

 

不安そうだった顔から一転、ヒフミの表情は自信に満ちたものへと変わっていた。

その様子を見て、心配だったミカもコハルたちの決断を尊重することにした。

 

「補習授業部のみんな。今回私はあなたたちと別の所で戦うから助けには行けない。だから祈ることしかできないけど」

 

「必ず無事に帰ってきて」

「ありがとうございます、ミカ様。必ず戻ります!」

 

ミカの想いに応えるべく、コハルも力強く言い切った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

一通り話終えたところでナギサが締めくくりに入る。

 

「では、これで作戦会議は終了といたしましょう。皆さん、お疲れ様で……」

「えーっ!ナギちゃん待って待って!アレやんないの!?」

 

会議を終えようとするナギサに口を挟んだのはミカだった。

 

「な、なんですかいきなり!?さっきまで先輩風吹かせて格好つけて大人しくしてたくせに!」

「う、うるさいなぁ!ていうかナギちゃん、こういう時いっつもくどくど演説するじゃん!」

 

「なっ、私のことを何だと思っているのですか!」

「まあ、士気を上げるという意味では今ほど有効なタイミングは無いね」

「セイアさんまで……」

 

「あえて悪い言葉を選ぶが、理屈を並べて民衆を焚き付け、全員まとめて地獄へ引っ張っていくのが私たちの役割だろう?ミカは政治的に少々アレだが……」

「ああん?」

「はあ、まったく……」

 

「大変だみんな!これを見てくれ!」

 

先生は慌てた様子で自分の画面を会議参加者全体に共有し表示する。

そのタイトルに反応したのはミカだった。

 

「『魔女狩り狩りゲーム』……?」

「ミメシスたちは次の目標を定めたみたいだ。どうやら悪事を働いたた生徒を見つけ出して攻撃して、その生徒の強さや与えたダメージによってレベルアップアイテムや強い武器が手に入るというルールらしい」

 

そして先生は苦々しげな表情で攻撃対象となっている生徒たちが掲載されているリストを表示する。

それを見たミカの表情が強張る。

 

「っ!この子たちは……!」

 

そのリストに掲載されている生徒たちは全員トリニティ生で、かつてミカにいじめを働いていた生徒たちだった。

 

「皆さん聞こえますか!?こちらの方々が現在どこにいるか情報提供をお願いします!また、連絡の取れる方は安否確認を!」

 

ナギサは急いで会議参加者たちへ指示を出す。

セイアは何か有益な情報がないか、ネット上で情報集めをしている。

 

「先生、どうやらこのゲームの目的はブルアカのプレイヤーを増やすことにあるらしい。連動しているキャンペーンで、今登録するとランダムで強い武器が手に入るガチャが無料で回せると広告が出ている」

 

「しかも紹介文には『ターゲットたちはトリニティの生徒会長を追い詰め、退任にまで追いやった極悪人』と書かれている。これを見たプレイヤーは『悪人をこらしめる』という大義名分ができるわけだ」

 

セイアはかつて模倣セイアが言っていたことを思い出していた。

 

『奴はこれまで見てきた大人の中でも桁違いに危険な、悪魔のような存在だ。謀略を巡らせ人々の善意を踏みにじり、悪意を煽動し、この街一つくらい簡単に地獄に変えるだろう』

 

今一度その言葉の意味を理解し、セイアの中に怒りの炎が燃え上がる。

 

「確かにリストに載る彼女たちのしたことは褒められたものではない。けどそれを己の利益のために利用するだなんて、どこまで卑劣なんだ……!」

 

先生はセイアに同調しつつもミカのことが心配だった。

いくらトリニティのためとはいえ、自分に危害を加えた人間を助けることに複雑な思いをさせてしまうのではないか。

そしてミカはそんな先生の気持ちを見透かすように答える。

 

「気を使わなくて大丈夫だよ、先生。これはあくまで私たちの問題で、外の人たちが首を突っ込んでいい話じゃない。この子たちのこと、絶対に助けよう!」

 

先生の心配は杞憂だったようだ。

ミカは一切の迷いも無く敵の悪意をばっさりと切り捨てたのだ。

 

皆の戦意が高まってきている。

そんな中ナギサは少し黙っていたが、意を決したように口を開いた。

 

「……正直なところ私は今、腑が煮え繰り返りそうな気分です」

 

「あるのは大切な場所を、人を、そして、会って間もない私たちを守ってくださった大切な友人を侮辱し、傷つけ、奪っていった者達への怒り……!」

 

ここでナギサは一度呼吸を整え、ゆっくりと話し始める。

 

「先に一つ言わせてください。この戦いに正義はありません。これはあくまで奪われた学園を、尊厳を取り戻すための戦いです。決して自分たちは正しく、メフィストはいざ知らず、一般市民の方々まで悪者だと決めつけてはいけません」

 

「一度正義という免罪符を手にしてしまえば、人はどこまでも過剰な暴力を振るえてしまいます。そうなってしまえば私たちもブルアカのプレイヤーと何ら変わりありません。見方が変われば、我々もまた悪になりますから」

 

ナギサは立ち上がり、ヘッドセットとマイクを外して声を張り上げる。

 

「ですが、だからと言ってこのまま黙っているなど私には到底できません!トリニティの代表として、一人の人間桐藤ナギサとして、私は戦います!」

 

「ですが私一人にできることなど知れています!ですからどうか、皆さんのお力を貸していただきたい!」

 

「どうか、私と共に戦ってください!!」

 

異議を唱える者は誰一人いなかった。

派閥や所属校など関係無く、全員が戦う意志を強く燃え上がらせる。

ナギサの言葉が確かに届いたのだ。

 

「セイアさんの予知の内容に則り、開戦は明日午前九時。それまでに皆さんは各々戦いの準備を進めてください」

 

「必ず無事に、私たちの学園に帰りましょう」

 

普段なら学校から早く帰りたいと思うところだが、その学園に帰るために戦う。

ナギサの言葉を締めくくりに、会議は幕を閉じた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「お疲れ様、ナギサ。立派だったよ」

 

先生がナギサに声をかける。

ナギサは少し疲れたように椅子に腰掛けていた。

 

「ありがとうございます。ですが、これで私は本来であれば戦う義務の無い人々を大勢巻き込んだ罪人です。きっと、死語は地獄へ落ちるのでしょうね」

 

「それを言うのなら私だって同じさ。我を忘れ、敵味方問わず大勢の人を傷つけたのだから」

「私だってそうだよ。外患誘致みたいなことをしたんだから、この中では一番重罪だよ。大丈夫、ナギちゃんを一人になんかさせないから!」

 

セイアとミカはすかさずナギサをフォローする。

ティーパーティーの絆は固かった。

かつてすれ違った過去があるからこそ、その繋がりはより強くなる。

 

「セイアさん、ミカさん、ありがとうございます。今回は三人とも同じ方向を向いて進めそうですね。あの時はできませんでしたが、今度こそ」

 

ナギサは右手を前に出した。

それを見たミカとセイアもナギサに重ねるように手を合わせ、三人は気持ちをひとつにする。

 

「よし、じゃあ私も二人に負けないように頑張らなくっちゃ!アポはもう取れたから、行ってくるね?」

 

そしてナギサが落ち込んでいないことを確認したミカは二人へ背を向け歩き出す。

 

「ミカさん、どうかお気をつけて」

「ミカ、君の無事を祈ってる」

 

ミカはどこかへ用事があるようで、会議室の出口へ向かう。

ミカがドアノブに手をかける直前、先生も彼女に声をかける。

 

「ミカ」

「なに?」

 

「君を信じてる」

「うん、知ってる。『これ』を私に預けてくれたことが、何よりの信頼の証だと思ってるから」

 

ミカは顔を振り向かせそう答える。

その顔つきはかつてのような不安定さの無い、学園の代表に相応しい頼もしさを醸し出していた。

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