にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第7話:蹲る者たち

その頃、ミメシス側も次の侵攻の準備を進めていた。

 

しかし一人の少女は例外で、学園の保健室にて苦しむようにベッドに横たわっていた。

模倣ミカである。

 

彼女は反転したセイアに千切られた羽根の傷の痛みが定期的に再発するようで、時折こうしてもがき苦しむことがあった。

 

『うっ、ううう……痛い、かゆい……!』

『ミカさん、あまり引っ掻いてはまた血が出てしまいますよ』

 

模倣ミカはうずくまりながら羽根の付け根を掻き毟っている。

その隣では彼女を看病するように模倣ナギサが付き添っていた。

 

(ミネさんによると傷は完治しており、痛みが出るのはストレスが原因とのこと。生きたまま羽根を千切られるのは、一体どれほどの苦痛だったのでしょう)

 

(一瞬で意識を失った私は、まだ幸運だったのかもしれませんね)

 

 

 

(いえ、一番苦しかったのはセイアさん……)

 

そこまで考えたところで、模倣ナギサは思考を振り払うように首を振る。

駄目だ、振り返ってはいけない。

これまでは旧トリニティの不正や模倣セイアの裏切りへの怒りで動いてきた。

 

しかしトリニティは既に手に入り、模倣セイアももうこの世にはいない。

模倣ナギサは進むべき道を見失いつつあった。

今は目の前の幼馴染の支えになることが唯一の心の支えであった。

 

『ミカさん、血が出てきました。一度綺麗にしましょうね?』

『はあ、はあ……っ!あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!痛い!痛い!!』

 

模倣ミカは泣きじゃくりながら手足をばたつかせ、近くにあった救急箱を中身ごと床へぶちまける。

その時振りかざした手が模倣ナギサの顔に当たり、彼女は床に倒れ込んでしまった。

 

『あっ、あああっ!ナギちゃん!ナギちゃん!』

『私は大丈夫ですよ』

 

模倣ナギサは優しく微笑む。

しかし、実のところ二人とも既に限界が近かった。

友を手にかけ、夜も眠れず、今のようなやり取りをもう何度も繰り返している。

しかしもう止まれない。

 

そんな時、保健室のドアが開きメフィストが入ってくる。

 

『やっほ、ナギサちゃん。明日の宣戦布告の原稿、もうできてる?』

 

二人の状況など目もくれず、業務の進捗だけを確認する。

 

『ええ、言われた通りの内容で、一応原案は完成しています。それから、色彩を呼べるようになったというのは本当なのでしょうか?』

 

『うん、これはハッタリじゃなくて本当だよ。なんか、一回ソレに触れると自分の中に色彩との繋がりができるんだよね。目で見えるものじゃないし、感覚的にわかるとしか言えないんだけど……』

 

『だから、最終的にはこのキヴォトスから生者は消えて、皆君たちと同じミメシスとして生まれ変わることになる。君たち喧嘩してばっかりだけどさ、もっとたくさん仲間が増えたら中には君たちと気の合う子も出てくると思うよ?』

 

『あと、セイアちゃんのミメシスならまた作ってあげるよ。ちょっと手間かかるからこのゴタゴタが終わった後でだけど。今度は仲良くしなよ〜?』

 

そうして用を済ませたメフィストは模倣ミカに目もくれず部屋を出ていった。

 

模倣ナギサは、模倣セイアを作るという話を聞いても気持ち悪さしか感じなかった。

仮に新しいセイアが来たとして、それを自分たちが殺めた友と同一視することなど到底できない。

二人は完全に疲弊しきっていた。

 

『……ねぇナギちゃん、私もうすぐお姫様になれるんだよね?先生に好きになってもらえるんだよね?』

 

痛みから気を逸らすためか、模倣ミカが要領を得ないことを言い始めた。

彼女の姿はところどころ血に汚れ、とても姫とは言い難い痛々しい姿だった。

 

『……ミカさん、このままメフィスト様に従い続けて、私たちは本当に幸せになれるのでしょうか?お姫様になって先生と結ばれるのに、他の道は無かったのでしょうか……』

 

今までは慰めるように模倣ミカを肯定し続けてきたが、つい本音を口走ってしまった。

 

 

 

『は?なに?急に弱気になって。今更後悔してるの?』

 

模倣ナギサの後悔を聞き、模倣ミカの怒りのボルテージが上がる。

 

『いいよねナギちゃんは!!痛い思いしてなくて、気に入らない人がいれば私をポ○モンみたいにけしかけて、それで後悔しそうになったら『他の道が』って言えばいいんだから!!』

 

『なんでそんな自分勝手なことしか言えないのさ!!しょうがないじゃんもうセイアちゃん殺しちゃったんだから!!これ以上私を怒らせないでよ!!』

 

模倣ミカは模倣ナギサを押し倒し、子どものように喚き散らしながら頭を、体を殴りつけている。

 

『バカ!バカ!ナギちゃんなんか嫌い!!』

 

模倣ナギサは目に涙を浮かべながらどうにか手で頭を守り、団子虫のように丸くなってやり過ごすしかなかった。

模倣ミカも加減はしたものの、模倣ナギサの体はすっかり痣だらけになってしまった。

 

『はあ、はあ……今更止まってもいいことなんか無いよ。だから進もう?ナギちゃん』

 

『セイアちゃんが死んだのは仕方なかったって、その意味を見つけないと、私ただの人殺しになっちゃうじゃん……ね?』

『そう、ですね……』

 

理性というブレーキを壊されている二人にとって、もはや『止まる』という選択肢を取ることなど不可能だった。

 

しかし最終的な判断をしたのは自分自身。

誰にも責任を押し付けられないまま、存在するのかもわからない楽園に向かって突き進むしか選択肢は無いのであった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

翌日

かくして双方の戦いの準備が整った。

本物と偽物どちらが優れているか、互いの威信をかけた戦いの幕が上がる。

 

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トリニティ総合学園、ティーパーティーテラスにトリニティ生のミメシスたちは集合していた。

彼女たちの前には一台のカメラがあり、メフィストがそれを操作している。

 

『はーいみんな整列〜。あ、ツルギちゃんもっと寄って寄って!で、ミネちゃんサクラコちゃんハナコちゃん……おっけ、揃ってるね!』

 

『よし、そしたらナギサちゃんとミカちゃんは前に出て真ん中に立って……いいね、じゃあ放送流すよ?三、二、一……どーぞっ!』

 

メフィストの合図と共にカメラが撮影を開始した。

 

『皆さんご機嫌よう。私はトリニティ総合学園、ティーパーティー現ホスト、桐藤ナギサです。厳密に言えば、その複製であるミメシスですが』

 

模倣ナギサは事前に打ち合わせした通り、台本に沿って話し始める。

言葉だけでなく自分の人生そのものも台本に沿った、もはや役割を果たすだけの人形と成り果てていることを自覚していたが、彼女はそれをおくびにも出さなかった。

 

『この放送は本来予定されていたものではありませんが、火急の問題が迫っているということもあり、公共の電波をお借りして放送しています。番組をお楽しみ中の皆様にはお詫び申し上げます』

 

このトリニティの放送はメフィストと模倣ハナコの根回しにより、電波をジャックして放送されていた。

 

『さて、その問題についてまずはお話しさせていただきます。これはトリニティ独自の情報網にて観測したものですが……』

 

『来たる七日後、このキヴォトスに『色彩』が顕現します。そして人々を狂気に陥れる光を四十日 四十夜、絶えず降り注がせ続けるということがわかりました』

 

『この光を浴びた生物は一部の例外を除き、正気を失い肉体が崩壊してしまいます。つまりは死を意味します』

 

模倣ナギサの言葉に、放送を観ていた市民たちが驚きパニックに陥る。

 

「色彩って何!?」

「わかんないけど、私たち死ぬの!?一部の例外ってどんなの!?」

「流石にデマでしょ……。ネットも大騒ぎだけど、みんなお祭りみたいに騒いでるだけだったよ」

 

中には信じていない者もいたが、情報源が歴史ある名門校のトリニティであるため信じる者も少なくなかった。

 

『そこで私たちは、市民の皆様への避難所としてトリニティ地下のカタコンベを解放するべく、準備を進めています』

 

『しかしカタコンベの収容人数にも限度があり、キヴォトス全土の皆様を収容できるキャパシティはありません』

 

『ですが我々は決して皆様を見殺しになどしません。対策として現在、埋設式の簡易地下シェルターの設置を計画しており、色彩の光が降り注ぐ日までには収容人数を五倍にまで増やせる見込みです』

 

『ですがそれでもまだ土地は足りません。そこで我々はこの度、皆様を救うべく領土拡大のため、ゲヘナ学園へと侵攻を行うことを決定しました!』

 

ゲヘナへの宣戦布告。

色彩のニュースに引けを取らないほどの驚くべきニュースに市民はさらに騒つく。

 

「え、トリニティとゲヘナ戦争するの!?」

「連邦生徒会のコメントは!?」

「どうしよう、友達がトリニティ自治区に住んでる……」

 

『ゲヘナ学園はこれまで自治区内外問わず数多くの悪行を働き、市民の皆様へ恐怖と混沌をもたらしてきました。先のエデン条約調印式へのミサイル爆撃事件も、ゲヘナとテロリストによって仕組まれたものだったのです』

 

『我々は彼女たちを許すことなど決してできません!皆様の安全の保障と、ゲヘナという世界の歪みの排除、これらを実現し、このキヴォトスに真の平和と安全をもたらすことをお約束しましょう!』

 

『いわばこの戦いは正義のためのもの!そのために皆様にもお願いがあります。ゲヘナ学園への侵攻の際、共に戦っていただきたいのです』

 

『戦闘経験の無い方でも問題ありません。現在配信中のアプリ、ブルーアークカタストロフを使えばどなたでも一定以上の戦力となり、戦うことができるのです。ご協力いただければ、学園の生徒でなくとも我らの同胞として迎え入れ、優先的に避難先を手配することも可能です』

 

『しかし、いきなりのことで皆様を困惑させてしまっていることも重々承知しております。私たちトリニティ総合学園も、決して清廉潔白とは言い難いものでした。醜い派閥争い、内輪揉め、数え上げればキリがありません……』

 

『ですがついに、私たちは腐敗した上層部からこのトリニティを取り戻すことに成功したのです!』

 

模倣ナギサは後ろに並ぶミメシスたちがカメラに映るよう、画面中央からずれる。

 

『後ろの生徒たちが見えますか?彼女たちも私と同じミメシスで、学園に湧いた蛆をこのトリニティから排斥するために力を貸してくださいました!』

 

『トリニティはこの勝利によって生まれ変わったのです!よって過去の忌まわしき歴史を捨て、真実の名の下に悪を断罪する者として新たなる一歩を踏み出すことをここに宣言します!』

 

『その第一歩として、学園の名をトリニティから真実を意味するアリーティアへと改めます。新しい学園の名は『アリーティア総合学園』!』

 

『改めて宣言します。我らアリーティア総合学園はゲヘナ学園に対し、宣戦布告を行います!侵攻はこの放送終了後、即時。戦う意思のない周辺住民の方々は、速やかに避難することを強く推奨します』

 

『我々のお伝えする内容はこれにて以上となります。ご清聴ありがとうございました。そして最後はこの言葉で締めくくりましょう』

 

『皆様に神のご加護があらんことを』

 

模倣ナギサの言葉で締めくくられ、放送は終了した。

 

『いや〜お疲れお疲れ!良かったよナギサちゃん』

 

労われる模倣ナギサの顔は無表情で、何の感情も抱いていない様子だった。

 

しかしメフィストは彼女の気持ちなど気にもかけず、室内に置かれた大型ディスプレイでニュース番組を眺めている。

そこにはパニックを起こす市民たちの様子が映し出されており、それを楽しそうに見ながらこの先の展望について考えていた。

 

(まあ、避難所なんて解放しないしシェルターだって作るわけないんだけどね)

 

(これでこのキヴォトスから生者は消えて、私が優位に立てるミメシスだけの世界になる!そうすればこの世界は私にとってより住み良いものになるんだから)

 

(逆らう者がいるならみんな食べちゃえばいい。これでもう誰も私の人生を妨げない……!)

 

 

 

 

 

〈アリーティア総合学園を名乗る諸君、こちらはトリニティ総合学園元ティーパーティー、百合園セイアだ。聞こえるかい?〉

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