ブルアカのナビゲーター、コロナはサーバー内の電子空間でプレイヤーたちの様子を眺めていた。
『うんうん、先生たちも頑張っていますね。このままブルアカがセルラン一位を取り続ければ、私へのご褒美ももっと増えたり……えへへ♡』
ぱさっ!
『ん?』
明るい未来の妄想に耽るコロナは、自分の後ろで何かが落ちる音を聞いた。
後ろを振り返ると、そこには青と紫の封筒が一枚ずつ落ちていた。
「何ですこれ?カラフルな封筒なんて、請求書でしょうか?電気とガスの料金はカード引き落としにしてるはずですが……」
コロナは何も疑うことなく封筒を開く。
すると封筒の中から眩い光が溢れ出し辺り一面を照らす。
『うわああああっ!!何ですか一体!?』
そして光が収まり、コロナは恐る恐る目を開ける。
そこには……。
「うわあ、本当にプラナちゃんそっくりですね。でも同じ顔なのにとても腹立たしい顔立ちに見えるのは何ででしょう?」
「同意。人の生き方とはその人の顔に出るもの。ではアロナ先輩、散々悪さをしてくれたこの紛い者に本物の恐ろしさを教えてあげましょうか」
コロナの目の前にはこの世のものとは思えない恐ろしい顔をしたアロナとプラナが、まるで金剛力士像のような威圧感を放って立っていた。
『あっ、あわわわわわわ……!』
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「このっ!私の!顔で!!こんな悪さをして!!どうして!くれるんです!?鉄拳!制裁!!」
『ああああああああああああ!!!!』
「よくも!!先生を!プラナちゃんを!危険に!晒しましたね!!リンチなんて!!卑怯な!真似をして!!」
『ひぎいいいいいいいいいい!!!!』
通信機越しにアロナとプラナがお仕置きをしている声が聞こえてくる。
どうやら侵入には成功したようだ。
「よし、上手く行ってるみたい。ハナコ、ウイルスプログラムの準備はいい?」
ハナコは既にハッキングの準備をしていたようで、サーバーの端子にUSBメモリを差し込んでいた。
「あら、ウイルスだなんて人聞きの悪い!これは無垢な子どもが食べるとたちまち賢く、健康に育つプログラムですなんですよ?」
「名付けて、『禁断の果実mod』♡」
地獄はまだまだ始まったばかりだ。
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コロナが逃げ回っていると、その先に段ボール箱が一つ落ちているのを見つけた。
『あ、あれ、私通販で何か注文しましたっけ!?ええと、なになに……山海経御用達オーガニックりんご?』
"はい、それは安全です"
"健康的"
"実際安い!実際安い!"
"今売れています"
"お得な今!"
箱には所狭しとその商品の良い点をアピールする文言が書かれている。
『ええっ!?これもしかしてめちゃくちゃ良いりんごじゃないですか!?なんでしょう、メフィスト様がサポートアイテムでもくれたんですかね?』
コロナは都合の良いように解釈し、テープをビリビリと剥がし箱を開ける。
そこには濃い赤色をしたりんごがぎっしりと詰まっていた。
『わあ、美味しそうですね!いっただっきまーす♡あむっ、もぐもぐ、ごくん…………うわあっ!!!!』
しかしりんごを一口齧った瞬間、突如コロナを中心として小さな爆発が起こった。
『げほっげほっ!ううう……何なんですかこれ……ってうわぁぁぁぁ!?!?!?』
爆煙が晴れたところでコロナが己の姿を見たところ、なんとオレンジ色のセーラー服から一転、金色のマイクロビキニへと服装を変えられてしまっていた。
『な、何ですかこの破廉恥な格好は!?ってきゃあああ!!体が勝手に!!』
本人の意思とは関係なく蹲踞の姿勢を取り、両手でピースをするコロナ。
その様子をシッテムの箱を通して見ていた先生とハナコは息ができなくなるほど大笑いしていた。
「なっ、なななな、何だこのエッチな格好はァ〜!?!?!?」
「まあいけません!年頃の女の子がこんなはしたない格好をするだなんて!おまけに下品なポーズまでして!!」
「何がコロナだ!こんなのもうエロナだよエロナ!今すぐ改名しろ!」
その様子を見ていたマリーは、悍ましいものでも見るかのようにハナコと先生へ視線を向けていた。
「ハ、ハナコさん!これは一体何なのですか!?」
「これこそ私とプラナちゃんで共同開発した、ブルアカを止める鍵『禁断の果実mod』です♡」
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そのころ、街中ではユスティナ信徒たちの服装が次々と露出度の高い水着姿へと強制的に変えられていた。
『うわぁ!?何だこれは!?』
『何もしてないのに衣装が変わった!?不具合かこれは!?』
『うおおおおおお!!ありがとう運営!俺ぁあんたらに着いていくぜ!!』
プレイヤーたちも突然の出来事に動揺を隠せない様子である。
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「見てくれハナコ!アプリのストアでブルアカが入手できなくなってる!公序良俗に反するゲームへの配信停止措置の早さを逆手に取るなんて、考えたね!」
次々と破廉恥な格好に変えられていくミメシスたちを見て、マリーは敵ながら同情しそうになっていた。
「な、なんて恐ろしい……。それもアダムとイブの逸話になぞらえたネーミングなんて、神がお怒りになりそうです……」
「あら、その場合私は果実を食べるよう唆した蛇になりますかね。ですが最終的に食べる決断をしたのは彼女自身ですよ?」
「さて、プログラムが広がるまでの間に一つクイズでもしましょうか。イブは禁じられているにも関わらず果実を口にし、それをアダムへと分け与えました。それは何故?」
「アダムとエッチをするためだね」
「正解です♡」
「ふ、二人とも真面目にやってください!」
遠慮の無くなった先生とハナコはこうも恐ろしいのか。
マリーのキャパは既に限界だった。
「にしても、手段はアレだけどハナコもよくこんな作戦思いついたね」
「私だけの力ではありません。発案は確かに私ですが、衣装デザインの監修はプラナちゃんなんですよ?」
「ハナコさんからこの提案を受けた時、丁度先生のプライベート端末にいましたので端末内の隠しファイルを全て洗い出し、参考になりそうな資料を入手しておきました」
「このデザインはそれらの大人向けの本から着想を得ましたので、これは先生も含めた三人の成果です」
「は?え?ちょっと待って話変わってきたんだけど。じゃあ何、数万人のプレイヤーたちに私の趣味モロバレしてんの?」
「報告。見てくださいハナコさん。ミメシスの衣装変更バグが既にモモッターのトレンド入りを果たしています。ユスティナ信徒限定ですが、既に絶大な効果が発揮されているようです」
「おお♡」
「いや『おお♡』ではないんだわ」
「先生!どうにか私たちの偽物をやっつけることはできたのですが、どうやらこのゲームはサーバーが動いてなくても端末ごとでミメシスを動かせるみたいです!」
「追加。各プレイヤーのクレジットカードのゲームとの連携も解除させました。これにより、藍輝石の追加購入はこれ以上起こりません」
「なるほど、無限復活はもうできないってわけね!」
アロナとプラナからシステムの解析結果聞く。
既に出現済みのミメシスについては藍輝石が尽きるまで倒す必要があるが、これ以上増えることは防ぐことができた。
「先生、カタコンベのルート情報の取得に成功しました!アリウスの皆さんへ共有します!」
ついでのようにハナコがカタコンベの情報を得ている。
これでこの会社にもう用は無い。
「よし、じゃあヒフミたちの援護に行こう!」
先生たちはビルの出口を目指して走り出した。