学園の正門前広場ではミカと模倣ミカの激戦が繰り広げられているが、それはともすれば地形すら変えてしまいかねない非常に激しいものだった。
両者一歩も譲らず、撃って躱してを繰り返している。
『ああもう、ちょこまかと逃げ回って、鬱陶しいなぁ!!』
ミカは攻撃を回避するのに重きを置いているのに対し、模倣ミカは攻めに回ることが多かったためその分疲労が蓄積していた。
加えて、ミカを仕留め切れないことに対する苛立ちも募る。
『見えた!』
痺れを切らした模倣ミカは一瞬の隙を見つけ、一気に勝負を決めにいった。
ミカが銃を構えたところで、その弾道から外れるように体勢を屈めながら猛スピードでミカの元へ距離を詰める。
そしてそのまま、下からミカの銃を勢い良く蹴り飛ばした。
『私の勝ち!お姫様に相応しいのは私だよ!』
しかしこの状況でもミカは顔色ひとつ変えなかった。
蹴り飛ばされた銃に目もくれず、即座に後ろ腰に手を回し、二丁のハンドガンを取り出す。
『なっ!?』
この時模倣ミカは、これまでのミカの戦い方が全てこの瞬間のために撒かれた餌であったことに気付く。
模倣ミカを苛立たせるため回避に専念し、一気に勝負を決めさせるため、わざと大きな隙ができるような形で銃を構えていたのだ。
そして銃を蹴り飛ばされるのも織り込み済みで、すぐ次の動作に移れるようあえて緩く握っていた。
しかし気付いてももう遅い。
模倣ミカは怒りに任せて大振りの蹴り上げをしてしまったことで片足立ちとなり、すぐに体勢は立て直せない。
「自分のことしか考えられない悪い子は、お姫様になんてなれないよ!」
ミカは両手の銃で模倣ミカの両膝を撃ち抜いた。
『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』
使われたのは銀の弾丸で、命中した箇所が爆発したことで模倣ミカは両膝から下を失い、バランスを崩してその場に倒れた。
『ぐっ、ああっ……!そんな……わ、私が負ける?』
ミカは油断せず、さらに模倣ミカの両肩を撃ち抜いて腕を奪っていく。
『やだああああああ!!やだ、痛いのやだぁ!!はあ、はあ……げほっげほっ!うぅっ、この……!』
手足を失った模倣ミカは芋虫のように地面に這いつくばることしかできず、隕石を落とそうとするも既にそんな力は残ってない。
戦いはミカの勝利で幕を閉じた。
『ねえ何で!?なんでみんなミカのこといじめるの!?私はただ、お姫様になりたかっただけじゃん!!』
何もできず、負け惜しみのように喚き散らかす模倣ミカ。
自分が不利になった途端被害者面をする様子は、まるで聞き分けのない子どものようであった。
「他の人から大切なものを奪うことが、お姫様のやることなの?」
しかしミカはそれに対しても毅然とした態度で返す。
自分自身が相手だからこそわかる。
悪事を働いたことから目を背けてはいけない。
ミカの言葉には、かつての自分への戒めでもあった。
『っ!?ん゛〜〜〜〜!!うるさいっ!うるさいっ!!ばーか!ブス!ブス!』
『なんで私だけ怒られないといけないの!?自分だって魔女のくせに、偉そうなこと言わないでよ!これまで自分のしてきたことを忘れたの!?』
模倣ミカの言葉に、ミカの目つきが鋭くなる。
しかしそこにあるのは怒りだけでなく、罪に対する苦しみも含まれていた。
「忘れるわけないよ。これ以上同じことを繰り返さないために、私は自分のした事を忘れない」
「だから、あなたも罪を償おう?私が支えにだってなるし、一日も早くあなたの心に平穏が訪れるよう、祈るから」
『うううううう…………』
力でも心でも負かされた模倣ミカはもう何もすることができず、ただ唸ることしかできなかった。
しかし流石は強力な力を持ったミカのミメシス、傷は既に塞がり、数秒前と比べて少しずつ手足が再生しつつあった。
ミメシスの体であれば失った手足は時間が経てば戻る。
どうにかここを切り抜けて、万全の状態になったら今度こそ復讐してやると模倣ミカは意気込む。
その時……。
『っ!メフィスト様!?』
模倣ミカは突如何かに気づいたように天を見上げる。
直後、黒い羽根を生やしたメフィストがまるで堕天使のように天から舞い降りた。
『よかった、まだ無事だった!』
『ねえ助けてよメフィスト様!こいつらが私のこといじめるの!早くやっつけ……』
縋るようにメフィストに助けを求めるも、彼女は模倣ミカの気持ちなど気にも留めていなかった。
メフィストは模倣ミカの元へ一目散に駆け寄り、そのヘイローに牙を突き立てる。
無事だったと安心していたのは、自分が継承する前に模倣ミカが消滅していなかったからだ。
『えっ!?待って!やだ!やだやだやだ!!死にたくない!!助けてナギちゃん!セイアちゃん!せんせ……!』
しかし模倣ミカの言葉は届かず、ヘイローは完全に噛み砕かれた。
『あ……』
模倣ミカが最後に見たのはこちらを助けようと必死な顔でメフィストへ銃を撃ち、手を伸ばすミカたちの姿だった。
皮肉なことに、敵であるはずなのに味方であったメフィストよりも自分を気にかけてくれているように見える。
自分はどこで道を間違えたのか。
最後の最後にそれを考え始めたところで、目の前が真っ暗になった。
『ふーっ』
「ひどい……!味方に何てことを!」
ミカがメフィストへ銃を向けるも、メフィストにはトリニティの面々など視界に入っていないようであった。
『全く、誰も彼も役に立たないんだから。結局、最後に信じられるのは自分だけだね』
メフィストは不満げに独りごちた後、再び羽根を羽ばたかせどこかへと飛び去っていった。
そして残された模倣ミカの遺体は末端からぼろぼろと崩れ、最後には完全に崩れて消えてしまう。
そこにはスマホが一台ぽつんと残されているだけだった。
「これは……」
ミカはスマホのスリープを解除する。
するとロック画面には模倣ミカ、ナギサ、セイアの三人が笑い合って写っている写真が設定されていた。
憎しみに呑まれてしまう前には、ここに写っているように仲の良い三人だったのだろう。
ミカはスマホを胸に当て、死んでいった模倣ミカへ祈りを捧げる。
「許せないよね。あなたの仇、必ず取るから!」
ミカはそのスマホを近くの正実生に預け、メフィストの向かった方へと走り出した。