にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第20話:共闘

『よっと。うん、ここからへんかな』

 

大空を舞っていたメフィストは、トリニティ自治区の外れにある廃墟地帯に降り立った。

広い大通りにはそこかしこに瓦礫が落ちており、周囲には廃墟となったビルがいくつも立ち並んでいる。

そこはかつて、ミメシスたちの拠点としても使われていた場所でもあった。

 

メフィストはここで全てを終わらせるつもりである。

模倣サクラコ、ミネ、ツルギ、ミカに加えてこれまで取り込んできた全てのミメシスの力を総動員し、単身トリニティを制圧する作戦に切り替えたのだ。

 

するとそこへ一台の戦車が到着する。

 

「見つけました、アズサちゃん!これが最後です。気を引き締めましょう!」

「そうだなヒフミ。もう逃さない、覚悟しろメフィストフェレス!」

 

聞こえてきたのはヒフミとアズサの声。

先ほどは不意をついた作戦に遅れをとったが、もうあんな醜態は晒さない。

 

『逃げる?いやいや、街を壊したくないってさっき言ったじゃないですか』

 

そう言うとメフィストは天高く右手を掲げた。

 

『本当は準備を整えてからが良かったんですけどね。けどもう出し惜しみは無しで。全力でぶっ殺してやる……!』

 

すると、突如妖しい光が上空からメフィストへと降り注ぐ。

一体何の光なのか、その正体を確かめるべくヒフミとアズサは空を見上げる。

 

「そんな、これは……!」

「アズサちゃん、あれって……!」

 

二人とも言葉にできない恐怖感を感じていた。

彼女たちの視線の先、分厚い雲の向こうに大きな、とても大きな黒い円形が影になって見えていた。

そして雲が少しずつ逸れ、その全貌が明らかになる。

 

まるでブラックホールのような何か。

解釈されず、理解されず、疎通されず、ただ到来するだけの不吉な光。

目的も疎通もできない不可解な観念とも言い表される。

 

『色彩』がすぐそこまで迫っていた。

観測した者を狂わせる光を放つ、正体不明の何か。

 

「あれが『色彩』……!」

 

他のミメシスを取り込んだだけなら十分戦えると思っていた。

しかし厄介な戦力が上乗せされたことで、アズサは一時退却を視野に入れ始める。

 

『うっ!!ぐっ、おぉ……!あたま、われる……!!やっぱりセイアちゃんみたいにはいかない……か……!それでも!!』

 

狂気の光を浴びたことでメフィストの右手にひび割れが生じ、やがて全身に広がっていく。

しかしメフィストは苦痛に耐えながらその光に身を晒していく。

するとひび割れから白い光が漏れ出し、それが全身を包み込んだ瞬間、辺りには目も開けられないほど眩しい光の爆発が起こった。

 

『テラアアアアァァァァァァァァァァ!!!!』

 

 

 

 

 

目を開けたアズサとヒフミの視界に入ってきたものは、一言で表すなら『天使』であった。

それはヒフミの姿をしていた頃とは異なり成人女性のような体格となり、身長は二百センチを優に超えている。

二人は最初、それがメフィストだと気づくことができなかった。

 

『はあ、はあ……!ようやく物にできた……!破滅の力を!!』

 

背中には白く大きな羽根を生やし、その体は、髪はとても人とは思えないほど真っ白に染まっていた。

例えるなら、美術品として飾られる天使の像。

しかしその顔は天使と表現するには無理があるくらい皺だらけで、まるで童話に出てくる悪い魔女のような醜悪な笑みを浮かべていた。

 

『さて、まずはさんざんな目に遭わせてくれた二人からやっちゃいましょうかね』

 

メフィストはヒフミたちに見せつけるように翼を大きく広げる。

そしてそれを一振り強く羽ばたかせると、辺りに烈風が吹き荒れた。

 

「ぐっ…………あぁっ!」

 

飛ばされないよう必死に耐えていたアズサだったが、あまりの強風に体を取られ、後ろに倒れそうになる。

 

しかし、直前で誰かがよろめくアズサの背を手で支えたことで、彼女は倒れずに済んだ。

助けが来たのか、その正体を確かめるべくアズサは後ろを振り返ると……。

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」

 

そこにはアリウススクワッドの元リーダー、錠前サオリが立っていた。

 

「サオリ……!?」

「奴がメフィストフェレスだな。後は引き継ごう」

 

サオリはアズサを支える手をそっと離し、メフィストの方へ向かっていく。

その時、クルセイダーから顔を出していたヒフミと目が合った。

 

ヒフミからしてみればエデン条約の時には激しく敵対した恐ろしい相手だが、今はとても心強く見える。

 

「阿慈谷ヒフミ、以前姫を介抱してくれたそうだな。礼を言う。すまないがアズサを頼む」

「わ、わかりました!」

 

サオリがこの場に来たことは想定外だったのか、メフィストは心底面倒臭そうな顔をしている。

 

『ああ、そういえばカタコンベの祭壇から脱走したんですっけ?まあ、君一人じゃどう考えても私には勝てないと思いますけど……』

 

 

 

「一人じゃないよ⭐︎」

 

その時サオリの隣に並び立つように、本物の天使のような少女が天から降り立った。

彼女は元ティーパーティー、聖園ミカである。

ミカとサオリは思わぬ再会に顔を見合わせた。

 

「ミカ……」

「……久しぶりだね、サオリ」

 

嬉しい再会、とは言い表せない複雑な感情だった。

エデン条約を巡る争いの時には激しい戦いを繰り広げ、危うく二人とも大切なものを失いかけたが、どうにか和解できたという過去がある。

しかしサオリは、メフィストを倒すにはミカと協力する必要があることを理解していた。

それにできることなら、最初にアリウスへの和解を申し出てくれたミカとだって良い関係を築きたい。

 

「……今ここに私が立っていられるのは、スクワッドの皆が助けに来てくれたことと、名前も知らないトリニティの生徒が血を分け、ハナエが治療を施してくれたお陰だ」

 

「だから私は彼女たちに報いたい。お願いだミカ、私と一緒に戦って欲しい!あの時は叶わなかった、私の心からの願いだ!」

 

断られるかもしれない。

それでもサオリは勇気を出して共闘を申し出る。

 

「断る理由なんか無いよ。むしろ私からもお願い。トリニティを、協力してくれたアリウスのみんなを、この街を守るために、私と一緒に戦って欲しい」

 

「あの時はできなかったことを、今度こそ」

 

ミカは穏やかに、かつ力強い意志を感じさせる目で、声色でその申し出を受け入れる。

心の迷いが晴れたサオリは、帽子を深く被り直しそれに力強く答えた。

 

「ああ、当たり前だ!!」

 

こうして心を一つにしたミカとサオリは、鋭い目つきでメフィストを睨みつける。

 

『ミカちゃんまで……!まあ二人になったところで……』

 

 

 

「仲良きことは美しきかな。もしよろしければ、お二人の『仲』に私も加えてはいただけませんか?」

 

少し遅れてシスターフッド代表、歌住サクラコが到着する。

さらに……。

 

「どうにか間に合いましたね!救護が必要な方はいらっしゃいませんか!?…………おや、目の前に一人♪」

 

続いて救護騎士団団長、蒼森ミネも加わる。

すると今度は上空から、黒い何かが四人の横に勢い良く落ちてきた。

 

「いっちばぁぁぁぁん!!……じゃあなかったか。だが……ケヒッ、イヒヒヒヒャハハァ……!これなら存分に暴れられそうだ……!!」

 

その正体は正義実現委員会委員長、剣先ツルギであった。

 

トリニティ及びアリウスの各組織の代表者がメフィストを打倒すべく、最終決戦の舞台となる廃墟地帯に集結していた。

 

『次から次へと……ん?』

 

羽虫が集ってくるような鬱陶しさを覚えるメフィストだったが、遠くからバイクの走る音が聞こえたためそちらに注意を向ける。

 

「おわああああああああ!!!!」

 

まともに通れる道が無かったのか、途中で崩れてジャンプ台のようになっている橋から一台のバイクが飛んで来るのが見えた。

そして勢いを殺さず着地したバイクはミカたちの横に停車した。

 

「到着しましたよ、先生。お疲れ様でした!」

「はあ……はあ………………オ"ェ"ッ!!!!」

 

バイクを運転していたのはマリーで、そこからよろよろと降りてきたのは先生だった。

彼は膝に手をつき、震える手でヘルメットの留め具を外そうとするが上手くいかず苦戦している。

 

『おや、誰かと思えば先生でしたか!そういえば、メフィストフェレスとしてお話ししたことはありませんでしたね。初めまして!といっても、今日でお別れですがね♪』

 

ゲマトリアでも手を焼く強敵を相手に優位に立てているつもりなのか、メフィストは普段よりもさらに饒舌になる。

 

『ところでいかがです?私の作り出した惨劇、青春と方舟の惨劇(Blue Ark Catastrophe)は。温室育ちのお嬢様たちが泣き叫び、社会に生かされているだけの家畜と成り果てていた市民たちが、一念発起し正義に堕ちる』

 

『ゲマトリアの連中のお遊びとは比べものにならない程、混沌とした美しい様でしょう!?あなたのお噂はかねがね伺っていますが、流石の先生でもこれは……』

 

 

 

 

 

「メフィストフェレス…………!!!!」

 

ヘルメットを脱ぎ、メフィストの方へと向けられた先生の顔を見て、彼女は恐怖で言葉を失う。

その表情はまるで鬼神のように恐ろしく、もはや本当に人間なのかどうかも疑わしいほどであった。

 

〈皆さん聞こえていますか?これで役者は揃いました。これより全員で協力し、メフィストフェレスを討伐します!〉

 

すると、どこからともなくナギサの声が聞こえて来る。

メフィストは周囲を見回すと、ところどころにスピーカーが搭載されたドローンが飛んでいるのが見えた。

 

〈私たちもサポートするよ。ヒフミとアズサは、ナギサの率いる戦車隊と共に周囲の雑兵を片付けて欲しい。それから、マリーは先生の護衛を!〉

「わかりました!」

 

〈そして腕に自信があるであろうミカたち五人は、思う存分メフィストを袋叩きにしてくれたまえ。指揮は先生で、私はサポートを。これでどうだい?〉

 

今度はセイアが分担の指示を行う。

全員、異議は無い様子だった。

その様子を見ていたサオリは、以前のトリニティからは想像もつかないほどの結束力の強さに驚いていた。

 

「すごいな。少し前までのトリニティは内部での派閥争いが絶えない学園という印象だったが、アリウス含め本当に協力し合える日が来るとは……。先生の影響力は凄まじいな」

 

「それは違うよ、サオリ。ここだけの話、実は今回私ほとんど役に立ってないんだよね。それどころか、先生としての商売道具すら奪われる始末」

 

「だからこれは、君たち自身が人の心と真摯に向き合った結果なんだよ」

 

先生は些かほども驕ることなく、生徒たちの選択を、行動を賞賛した。

そうさせたのは先生だろう、サオリはそう口にしかけた言葉を飲み込み、呆れたように尋ねる。

 

「じゃあ、先生は今更何しに来たんだ?」

「そんなの決まってるよ」

 

 

 

 

「あの腐った大人をぶっ飛ばしに来た!!」

 

先生は背広の胸ポケットから大人のカードを取り出し、その力を行使する。

すると、周囲にいた生徒たちの体が暖かな光に包まれた。

 

「なにこれ!?力がみなぎってくる!」

「私も体が軽い……!これなら今までのダメージも気にせず戦えそうだ」

 

先生は大人のカードの力を生徒を呼び出すのではなく、周囲の生徒の力を強化するために使ったのだ。

体が軽くなったことに驚いたミカはぴょんぴょんと跳ね、サオリも調子を確かめるように体を動かしている。

 

『あのカードは……!一体何をしたんです!?』

「このカードにはこういう使い方もあるんだよ。まあ、ブルアカの仕組みやミメシスたちの様子を見るに、この使い方までは解析されなかったみたいだけどね」

 

自身の知る範囲の外にある現象を見せつけられた上、想定外に生徒たちが強化されたことでメフィストに苛立ちが募る。

 

『せっかく作り上げた舞台で、どいつもこいつも私を苛立たせる……!』

 

「アロナ、プラナ。全力でいくよ」

「はい!実は私もあまり活躍できていませんでしたからね。気合い十分です!」

「同意。今回は息をつく暇も無い程の超高速戦闘となることが予想されます。始めましょう、アロナ先輩」

 

「「シッテムの箱、制約解除。プロセス『ペレツ・ウザ』稼働開始!」」

 

かくして、最後の戦いの準備が整った。

辺りはそれまでの騒々しさが嘘のように静まり返っている。

トリニティの精鋭たちとメフィストは、互いに仕掛けるタイミングを見計らっていた。

 

 

 

そして、どこかで瓦礫が崩れ地面に落下した音を合図に、両者は互いを討ち取るべく地面を蹴り、轟音を轟かせながら全速力で飛び出していった。

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