にせティーパーティーの逆襲   作:みかん目薬

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第23話:悪あがき

『マダ……ダ……』

 

再起不能なほどのダメージを受け、もはや立ち上がることなど不可能な状況であるにも関わらず、メフィストはまだ立ちあがろうとしていた。

しかし……。

 

『GYAOOOOOOOOOOOO!!!!』

 

突如メフィストの体がブクブクと膨れ上がり、巨大な怪物へと姿を変えた。

ブヨブヨとした体を引き摺り触手を伸ばし、もはや人としての原型を保っていないそれは蛸の怪物と表現するのが適切だった。

 

「なにあれ!?さすがにしつこすぎない!?」

 

先程の渾身の一撃で沈めたと思っていたミカも驚きの声を上げる。

 

〈これまではメフィストの強い意志で取り込んだ力を抑え込めていたものの、意識を保てなくなったことでその力が暴走した、といったところでしょうか〉

 

通信機からナギサの声が聞こえる。

上空には先程自爆したものとは別の、新たなヘリが飛んで来ていた。

 

 

 

「アズサちゃん、ここからは私一人でいきます。クルセイダーちゃんから降りてください」

「なっ!?どういうことだヒフミ!?」

 

ヒフミは覚悟を決めた目でメフィストを見ながら、アズサへと下車の指示を出す。

 

「セイア様から事前に聞いていたんです。メフィストは最終的に怪物へと姿を変え、それを鎮めるのに私の力が必要だって」

「そんな……いや、わかった。気を付けて、ヒフミ」

 

ヒフミを一人で危険なところへ送り出すのは気が引けたが、セイアがそう言っているならヒフミは無事に帰って来られるはず。

アズサも覚悟を決め、クルセイダーを降りる。

 

「先生、指揮をお願いします!」

「任せて!みんなでヒフミを援護するよ!まずミカとサオリは……」

 

ヒフミはアクセルを全開にして、クルセイダーと共にメフィストの方へと突っ込んでいく。

他の生徒もヒフミの行く手を阻むメフィストの触手へと攻撃を加え、道を切り開いていった。

 

「このまま世界が滅んで、みんなと一緒にいられなくなるのは嫌です」

「そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです!」

 

ヒフミはクルセイダーをオートパイロットに切り替え、車体の上部へ躍り出る。

 

「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!私たちの物語……」

 

「私たちの、青春の物語(Blue Archive)を!!」

 

そしてメフィストの本体へと近づいたところで思い切り跳躍し、真っ黒に染まった海のような胴体へと単身飛び込んでいった。

 

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「……はっ!?」

 

ヒフミが目を覚ますと、そこは何もない真っ暗な空間だった。

ここが現実なのか、それとも夢のような世界なのかはわからなかったが、ともかく最も優先すべきはメフィストを止める手立てを探すこと。

ヒフミは何か手がかりを探すため、周囲を見回す。

すると……。

 

『ぐすっ、ひっく……。みんな、ごめんなさい……』

 

ヒフミのすぐ近くに、一人の少女が座り込んで泣いているのが見えた。

おそらくメフィストに取り込まれたミメシスの一人なのだろう。

ヒフミは彼女を慰めるため、横にしゃがんで優しく声をかける。

 

「こんにちは。どこか痛いのかな?あっ、私はヒフミって言います!あなたは……」

 

ヒフミの声かけに応じるように顔を上げた少女を見て、ヒフミは思わず驚愕した。

 

『ヒフミ……?私も、私の名前もヒフミです……』

 

その少女は何と、ヒフミと同じ姿をしていたのだ。

しかし不思議なことではない。

メフィストはずっとヒフミの姿をしていたことからも、ヒフミのミメシスが既に取り込まれていることはわかっていた。

 

「ヒ、ヒフミ……ちゃん!?そっか、メフィストに取り込まれて、ずっとここに閉じ込められていたんですね」

『はい、もう何ヶ月も、ずっと』

 

模倣ヒフミは沈んだ面持ちだった。

 

『私はここから外の様子をずっと見ていました。私の顔をした人が悪いことをするところを、ずっと』

『けど私では彼女を止められなくて、ただ見てることしかできなくて、たくさんの人を傷つけて……っ!』

 

堰を切ったように涙を流す模倣ヒフミを、ヒフミは優しく抱きしめる。

 

「あなたは何も悪くありません。もう大丈夫ですよ、私がついていますから。それに……」

 

ヒフミは自身の鞄から白い何かを取り出す。

 

『それは……!』

「これ、あなたのですよね?お返しします」

 

それはメフィストがトリニティに拘束された時に持っていたペロロのぬいぐるみだった。

証拠品としての調査が完了したことで役目を終え、処分されようとしていたところを看守の生徒が引き取り、ヒフミへと渡されていたのだ。

 

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「これは……?」

「メフィストから押収したぬいぐるみ。本当は処分される予定だったけど、タグのところにヒフミさんの名前があったから、一応渡しておこうと思って」

 

「今は汚れてるけど、ところどころ手入れをしたような跡があったから、きっと強い思い入れがあったんだと思う。だから、あなたに任せてもいい?」

「もちろんです!」

 

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そのぬいぐるみはヒフミが手入れをしたことで汚れは落ち、新品のように真っ白で美しいペロロへと仕上がっていた。

 

「ペロロ様だってついているんです。あなたは一人なんかじゃありません。だからもう泣かないで?」

 

ぬいぐるみを受け取った模倣ヒフミは、それを大事そうに抱き抱えている。

 

『これは私がメフィストに襲われた時、落としてしまった物なんです。それが返ってくるなんて、それもこんなに綺麗になって……!』

 

『本当に、ありがとうございます……!!』

 

泣かないでと言われたものの、思い入れのあるペロロと再開できたことで模倣ヒフミの涙は止まらなくなってしまう。

ヒフミはそんな彼女の頭を優しく撫でる。

 

『……ご心配をおかけしました。もう大丈夫です』

 

すっかり調子を取り戻した模倣ヒフミは、すくっとその場に立ち上がった。

その様子を見たヒフミも安心し、メフィスト打倒へ思考を切り替える。

すると周囲に自分たち以外の気配がぽつぽつと感じられるようになり、ヒフミが辺りを見回すとそこには何人もの生徒のミメシスがこちらを見て立っていた。

 

「あなたたちは、まさか……!」

『そう、そこのヒフミちゃんと同じくメフィストに取り込まれたミメシスだよ。本当はこんなところさっさと出て行きたかったけど、私たちじゃ何もできなくて』

 

『気持ちだけはしっかり持とうって、お互いを慰め合ってたんだけど、どうしてもヒフミちゃんだけは泣き止んでくれなくて……ずっと心配してたんだ』

『でもあなたが来てくれたお陰で元気になったみたい!本当にありがとう!私たちからもお礼を言わせて!』

 

何ということだ。

捕食されたミメシスたちは皆、意識をメフィストの内部に閉じ込められていたのだ。

こんな暗い空間に、ずっと。

それなのに腐らず、泣いている模倣ヒフミを気にかけていた。

ミメシスたちの立派な生き様を見たヒフミは、彼女たちの助けになりたいという思いがより一層強くなる。

 

「お願いです!皆さんの力を貸してください!今もまだ仲間たちがトリニティを、キヴォトスを守るために戦っているんです!」

 

「一緒にメフィストフェレスをやっつけましょう!」

 

『もちろん!協力は惜しまないわ!』

『にはは!面白くなってきましたね!』

『わ、私も、何もできないゴミ屑で終わるわけにはいきません。協力します……』

『それで、具体的にはどうやって戦うの?こっちからじゃ干渉する方法無さそうだけど』

 

「…………あっ」

 

勢いづいて皆を束ねたまでは良かったものの、具体案を求められてヒフミは固まってしまった。

どうにかなるとはセイアから聞いているものの、その方法まではセイアでも視ることができていない。

 

 

 

『……羨ましいです。誤解なく他者と分かり合える、あの人が』

 

ヒフミたちの様子を少し離れたところから眺めている三人の生徒がいた。

模倣サクラコ、ミネ、ツルギである。

 

『あ、ああ、そうだな……。その、サクラコ、ミネ……』

 

模倣サクラコとミネの命を奪った後ろめたさからか、模倣ツルギは二人と目を合わせられずオドオドしていた。

 

『お気になさらないでください。私たちだって他の方の命を、力を奪ってきたのですから。ツルギ委員長を責めることなどできません』

『そうですよ。自分の行いの結果が自分に返ってきた。それだけです』

 

模倣ツルギの予想に反して、模倣ミネもサクラコも怒ってはいないようだった。

 

『それでも、だ。サクラコ、ミネ、本当にごめん』

 

しかしそれでも罪悪感は消えない。

模倣ツルギは二人の前に立ち、深々と頭を下げる。

 

『苦しい、ですよね。もっと違う道はあったでしょうに、どうしてあんなに自身の欲求を、怒りを抑えられなかったのか』

 

模倣サクラコは己の行いを顧みていた。

どうすればこんな悲劇的な結末を迎えずに済んだのか、これからはどうするべきか、もう遅いというのに。

そんなことを考えていると、隣の模倣ミネがヒフミたちの方へと歩き出す。

 

『ミネ団長、何を……?』

『最後くらい、自分が本当に目指していた姿に恥じない行いをしたいです。本当の意味での『救護』というものを、今度こそ』

 

それを聞いた模倣サクラコとツルギもつられるように後ろをついて行き、三人はヒフミたちの前に立つ。

周囲のミメシスを含め、皆警戒しているようだった。

当然だろう、三人はトリニティを地獄へ叩き落とした主犯なのだから。

しかし、それでも模倣ミネはヒフミの目を見て口を開く。

 

『メフィストフェレスを弱体化させる方法はあります。本人から聞いた話ですが、この空間はヒフミさんのミメシスが中心になっていて、他の取り込まれた方々と見えない糸で繋がっているそうです』

 

『つまり、ヒフミさんを中心に皆でバラバラの方向へと走れば糸は切れ、メフィストの呪縛から逃れることが可能です。最も、そうなったとしても生き返れるわけではなく、いわゆる成仏するという形になりますが……』

 

模倣ミネの言葉を信じてもいいのか、囚われていたミメシスたちは皆不安そうだった。

 

『簡単には信じていただけないことは理解しています。馬鹿は死ななきゃ治らないと言いますが、私は一度死にました。今の私は、こんな恐ろしい目に遭う人が増えることを見過ごすことなどできません!』

 

『だからどうか、私にも手伝わせてください。お願いします……!』

 

模倣ミネは背筋を伸ばし、深く頭を下げる。

それを見ていた模倣サクラコとツルギも同じように頼み込む。

 

『私からもお願いします。彼女の言葉を信じてあげてください!』

『お、お願い……します……!』

 

 

 

『……頭を上げてください。お三方の想いを、私は信じます』

「私も同じ意見です。一緒に私たちの青春を取り戻しましょう!」

 

ヒフミたちは三人の意見を受け入れる選択をした。

周囲のミメシスたちもそうなることがわかっていたのか、やれやれといった顔をしつつも異議を唱えるものはいなかった。

 

「私たちが合図をしたら、みなさん一斉にそれぞれ別の方向へ走り出してください!」

『みなさん、準備はいいですか?それでは、位置について!』

 

「『よーい、どん!!』」

 

ヒフミたちの合図と同時に、ミメシスたちは一斉に走り出す。

 

『これが私の望んでいた、本当の救護!』

『ようやく誤解なく、みなさんと気持ちを一つにすることができました!』

『今度こそ、自分の力で勝つんだ……!』

 

行き先こそ異なるものの、皆同じ想い、同じ目標を持つ仲間であった。

メフィストの手駒だった頃とは違い、未熟な気持ちでも素直に向き合い、今度こそ本当の意味で協力し合えた瞬間だった。

 

『いっちばぁぁぁぁん!!』

 

最初にゴールしたのは模倣ツルギだった。

メフィストの内部も無限に広がっているわけではなく、見えない境界線がある。

そこを超えたミメシスは、思わず目を奪われるほど煌びやかな光の粒子となって消えていく。

 

『GYAOOOOOOOO!!!!』

 

取り込んでいた力を逃すまいとメフィストは外で大暴れしている。

その振動は内側にも伝わってきた。

ヒフミは不意をつかれ転びそうになったところを模倣ヒフミに支えられる。

 

『大丈夫ですか!?これは作戦が上手くいっている証拠です!もうひと頑張りしましょう!』

「ありがとうございます。そうですね、あともう少し……っ!」

 

次々とミメシスたちが天へと昇っていく中、ヒフミはまだ走り出していない一人の少女を見つけた。

 

「ミカ様……」

 

最後に残っていたのは模倣ミカだった。

遠くにぽつんと一人佇み、こちらを羨ましそうに見ている。

その様子はまるで、友達の輪に入れない子どものようであった。

 

「大丈夫です、ミカ様。もう誰も怒ってなんかいませんし、ミカ様をいじめたりもしません。だから、私たちと一緒に戦って……」

『こ、来ないで!!』

 

ヒフミが声をかけたものの、模倣ミカは今にも泣き出しそうな顔で、慌てたように走り去ってしまった。

 

『あ……!』

 

模倣ヒフミはつい引き留めそうになるも、ヒフミはその肩に手を置きそれを制する。

整理のつかない気持ちを無理やり捻じ曲げることはできない。

境遇の違いから、相手に共感することも難しい。

ヒフミはこれ以上の干渉をせず、模倣ミカの心に安寧が訪れることを静かに祈るのであった。

 

一方、模倣ミカは一目見て確信していた。

 

(無理だよ私には……!主人公になるのはああいう子だし、お姫様になるのは本物のミカのような、心が強い子)

 

(私がなれるのはせいぜい意地悪な魔女、脇役、いじめっ子だけなのに、ついにはそれからも逃げちゃった)

 

(私なんて大っ嫌い……!)

 

この期に及んでなお自分の都合でしか考えられないことに嫌気がさしながらも、模倣ミカはヒフミを直視することができずそのまま走り去ってしまった。

そして模倣ミカも他の者と同様、光の粒子となって消えていった。

 

ヒフミを除く全てのミメシスが消えたことでメフィストの抵抗も収まり、周囲の空間が少しずつ灰のようにボロボロと崩れ、晴れた空が見え始める。

ようやく皆の所へ帰れる。

ヒフミが振り向くと、模倣ヒフミも既に光の粒子となり消える寸前だった。

 

『ありがとうございました。辛いことも多かったですけど、最後に……楽しい思い出ができました!ええと、少し不謹慎かもですけど……あはは』

 

「こちらこそありがとうございました!メフィストの中でみなさんに協力していただいたこと、必ず仲間へ伝えます!ミメシスを見る目が少しでも変わるよう、頑張りますから」

 

「ですから、どうか安らかにお眠りください」

 

ヒフミの言葉に安心したのか、模倣ヒフミはペロロのぬいぐるみと共に、笑顔で天へと昇っていった。

そして辺りは光に包まれ、ヒフミは元の世界への帰路についた。

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