『GYAOOOOOOOO!!!!』
一方、外の現実世界ではヒフミがメフィストに飛び込んでいった後、暴れ出した怪物を止めるべく皆が力を尽くしていた。
「あれはツルギの!それにミネ、サクラコまで!それだけじゃない、コユキにミユも……!」
他の生徒には見えていなかったが、先生にはメフィストから次々と剥がれて消えていくミメシスたちのヘイローがはっきりと見えていた。
「手ェ貸すぞ、ミカ!!」
「ぐっ、うううう!!ありがとう、ツルギちゃん……!」
「アズサさん!その戦車では摩擦熱とオーバーロードで自爆するだけです!力仕事は私に任せて、一度離脱を!」
「ありがとうミネ、けどまだ大丈夫!たかがタコ一匹、クルセイダーで押し出してやる!」
「先生、余った爆弾で瓦礫を爆破して生き埋めにする作戦はどうだ?」
「ナイスだよ、サオリ!それでいこう……っ!」
ふと一瞬目を離した隙に、一本の触手が先生や生徒たちの隙間を潜り抜けて伸びていくのが見えた。
その先にはトリニティ自治区がある。
もしも触手が無限に伸びる場合自治区にまでその脅威が迫ることになる。
一瞬の判断ミスへの悔いと、次にどう対応すべきか瞬時に思考を巡らせる先生。
しかし触手は途中でその動きを止めた。
「先生、遅くなりました!この触手を止めれば良いのですよね!?」
トリニティ西側で戦闘をしていたヒナタが駆けつけ、すんでのところで触手を食い止めてくれたのだ。
そしてヒナタに続くようにシスターフッドの生徒が次々と現れ、他の触手へ取り付き動かないように押さえつける。
「ヒナタさん……!皆さんも無事だったのですね!」
部員の無事を確認できたサクラコは安心したようで、険しかった表情がほんの少し緩む。
さらに……。
「こっちも片付いたっすよー!マシロたちとも合流して、正義実現委員会も全員無事っす!」
「私たちも協力します!」
イチカとマシロ率いる正義実現委員会の生徒たちも加わる。
それだけではない。
「皆さん、私たちもお手伝いします!」
「俺も手伝う!トリニティ自治区は俺たちにとっても大切な場所!やらせはしない!」
「軍手を用意しました!これで滑りにくくなるはずです!」
トリニティの一般生徒に加え、今回の件とは無関係の市民まで騒ぎを聞きつけて救援に来てくれた。
「サッちゃん!先生!」
「アツコ!来てたのか!」
さらにアリウススクワッドも駆けつける。
「事情は大体わかってるよ。あの大きな蛸を止めればいいんだよね?私たちも協力する」
「ああ、頼む!」
皆一様に必死な顔で、暴れるメフィストを止めるために食らいついていく。
そして……。
『俺たちにもやらせてくれ!!』
『生身の市民は下がってください!動きの激しい危険なところは私たちが!』
生徒や市民がトリニティを守ろうとする姿に心を打たれ、ミメシスにも協力する者が出始めた。
しかし中には反対する者もいる。
『お前たち諦めるのか!?ここでメフィスト様が勝てばまだ勝機はあるというのに!』
『何がメフィスト様だ!自我を無くして暴れるだけの怪物を、お前たちは信仰するのか!?』
『見てみろこの状況を!トリニティの生徒たちを!彼女たちは悪人なんかじゃない!悪いのは自分の目で人を見ることを忘れた俺たちの方だ!』
一人、また一人と悪魔の呪縛から解き放たれていく。
ついには継承によってユスティナ信徒から進化したバルバラやアンブロジウスまでもが力を貸してくれた。
しかし、アンブロジウスの強力なパワーを持ってしても少しずつ押されていく。
『これだけの力を集めても足りていないというのに、無駄なことを!』
『アンブロジウスは伊達じゃない……!』
『なあ、これって利敵行為にあたるんじゃないか?その場合ルール違反であと十分もしないうちにアカウントが削除されるぞ!』
ミメシスたちが加わってもなお劣勢であり、かつアカウント削除でメフィストを押さえておける人員が減る可能性もある。
何か手段は無いか、皆が頭を悩ませていたその時……。
『プレイヤーの皆さん!お願いがあります!』
聞き覚えのある声にミメシスたちは反応する。
声のする方へ視線を向けると、模倣ハナコが走って来るのが見えていた。
『先程、ブルーアークカタストロフのルールを書き換えました!これにより、運営への利敵行為を行った場合でもアカウント削除措置は取られません!』
『お願いです!トリニティを守るために力を貸してください!!』
必死な顔に掠れかけている声、飾り気のない言葉。
模倣ハナコの様子は、トリニティ解放作戦の説明を行っていた時とはまるで別人のようだった。
『決まりだな』
『ああ、悪事に加担した俺たちが言えたことじゃないけど、子どもが頑張ってるのに大人の俺たちが何もしないわけにはいかないからな』
模倣ハナコの必死な叫びが届いたのか、ほとんどのミメシスがメフィストを止めるのに協力してくれるようになった。
「ぜぇ、ぜぇ……あんた、やっぱりとんでもない体力してるわね……!」
「はい、とても私と同じ存在とは思えません……!でも、嬉しいです」
「そうね。子どもの成長を喜ぶ親ってこんな気分なのかしら」
模倣ハナコの後ろから少し遅れてコハルとハナコが追いついて来る。
二人は息絶え絶えだったが、模倣ハナコの活躍を見て優しい笑みが溢れていた。
そして……。
『GYAOOOOOOOO……!』
「頑張ったね、ミカ、ヒフミ」
模倣ミカと模倣ヒフミのヘイローが消えていったのを最後に、メフィストは動きを止めた。
「止まったのですか……!?」
「待って、まだ生きてるかも。警戒を怠らないで!」
気を緩めかけるマリーを見て周囲の者たちもメフィストを押さえつけていた手を離すが、先生は警戒を解いていなかった。
そこへ、一人のミメシスが駆け寄ってきた。
『おい見てくれ先生!俺たちユーザー用の端末でメフィストのHPを確認したんだが、0になってた!』
「なるほど。ユーザー向けに表示される情報なら、偽装されてはいないってことだね」
すると先生の仮説を裏付けるように、メフィストの体が端からぼろぼろと灰のように崩れ、最終的には塵一つ残らなかった。
「ヒフミ!!」
そしてその中心辺りにヒフミが倒れているのを発見したアズサは、すぐさま彼女の元へ駆けつけた。
「ア、アズサ……ちゃん?」
「もう大丈夫だヒフミ。トリニティ自治区へ被害が出る前にメフィストフェレスを止めることができた」
特にダメージは受けていないようで、アズサの言葉を聞いて安心したヒフミは自力でゆっくりと立ち上がる。
「よかった……です。中で私たちのミメシスがメフィストを止めるのに協力してくれました。そのことを皆さんにも伝えないといけません」
「ああ、ゆっくり聞くよ。頑張ったな、ヒフミ」
ヒフミの無事も確認できた先生は通信機で仲間たちへと連絡を取る。
「メフィストフェレスの沈黙を確認。動ける生徒は怪我人を救護施設や病院に運ぶのを手伝って欲しい」
先生は通信機を外し、生徒、市民、ミメシスたちの方へ向き、この戦いに一区切りをつけるべく声をかける。
「生徒のみんなお疲れ様!市民の方々も、ミメシスのみんなも!おかげでトリニティを取り戻すことができた!」
「連邦捜査部S.C.H.A.L.Eとして、キヴォトスの治安維持にご協力いただいたこと、誠に感謝申し上げます!」
「みんな、本当にありがとう!!」
歓声を上げる一同。
先生はどうにか場を纏められたことに胸を撫で下ろしていた。
「ふう、終わった……な……」
メフィストの脅威が去って気が緩んだのか、芝犬のような市民がその場に倒れ込んでしまう。
それを見た一人のミメシスが慌てて駆け寄っていった。
『おいあんた、大丈夫か!?』
「ああ、問題ないよ。私は貧血持ちでね、いつものことさ。でもやっぱり、生身で無茶はするもんじゃないな。はは……」
市民は自重気味に笑っている。
しかしミメシスはそれを一切笑わず、市民が怪我をしないよう優しくその場に寝かせる。
『ああ、その通りだな……。けど俺はあんたを尊敬するよ。大怪我をするかもしれないのに、それでも生身で立ち向かって。俺とは大違いだ』
「君は敵側だったんだろう?それなのにそっちを切って、街を守るのに協力してくれたじゃないか。自分を省みるのは簡単なことじゃない。君も立派だよ」
市民とミメシスは互いの健闘を讃え合い、握手を交わす。
見た目こそかつて戒律の守護者と恐れられていた存在だが、その中身は、行動は優しさに満ちていた。
『どうする?俺たちが消えればこのゲームは終わるらしいけど、アカウント削除でいいのかな?』
『あっ、wikiに降参の手順載ってる。ここ押せばいいのかな』
『はぁ、ヴァルキューレってどんな取り調べをするんだろう?公安局には『狂犬』ってのもいるらしいし、怖いなぁ……』
『それでも逃げ続けるよりはマシだと思う。こういう言い方はアレだけど、自首した方が罪も軽くなると思うし……』
果たすべき役目を終えたミメシスたちは、プレイヤーが降参を選んだことで次々と消滅していく。
そして……。
DEFEAT
プレイヤーたちのスマホの画面にゲームオーバーとなった画面が表示される。
メフィストおよびすべてのミメシスが消滅したためゲームオーバーとなり、アリーティア総合学園は敗北となった。
だが、そんな中ハナコはどこか不安そうな顔をしていた。
「コハルちゃん!もう一人の私を見ませんでしたか!?」
「えっ!?ハナコ二号が!?どこにいったのよ、あいつまさか……!」
コハルたちが聞いたところによると、アリーティア側の敗北条件は全てのミメシスが消滅すること。
当然、模倣ハナコも含まれているはずだ。
二人が最悪の結末を予感し始めていた時……。
『あらお呼びですか?私ならここにいますが』
二人の心配をよそに、模倣ハナコがひょっこりと現れた。
「きゃあ!?ミメシスは全滅したのではなかったのですか!?」
「どういうこと!?幽霊!?ていうかどこ行ってたのよ!」
『いえ、まあ元々幽霊みたいなものですが……って、違います。私はこの通り死んでなどいません!ちょっと怪我人を運ぶのを手伝っていただけです!』
模倣ハナコは自分が生き残った仕組みについて説明する。
『アプリ内に降参ボタンを新たに用意し、それを押したユーザーは幹部級含めて退場扱いにする、とルールを新たに加えたんです。これなら私たちのような存在も命を失わずに済みますから』
『……もっとも、生き残ったのは私だけのようですが』
模倣ハナコは消えていったかつての仲間たちの顔を思い浮かべていた。
散々いがみあって、もはや仲間と呼べるのかも怪しいほど険悪な関係だったが、思うところはある。
そして、自分が生き残ったのは遊び呆けるためではない。
自分たちの行いを正しく伝え、罪を償いそれを忘れない生き証人としての役割がある。
模倣ハナコは覚悟を決め、ハナコとコハルはそんな彼女の手を取るのだった。
「こっちはもう大丈夫。あとは最後の仕上げだけだね」
「いってらっしゃい、セイア」
そして先生は晴れ渡った空を見上げ、上空を飛ぶヘリコプターに乗っているであろうセイアへとエールを送った。