一瞬、時が止まったようだった。
その中で先生はこれまで模倣セイアと交わしてきた言葉を瞬時に思い出していた。
"やあ先生、こんなところで会うなんて必然だね"
"なっ、一体なぜ!?芸は完璧だったじゃないか!"
"事情を話す前に、私と志を共にする友人を二人呼びたい。いいかな?"
未来が視える、そう感じさせる予兆はあった。
しかし、どこまで視えている?その精度は?
模倣ミカや模倣ナギサもその能力を知った上で行動していた?
なぜ模倣ヒフミが現れた時に驚いた顔をした?
「先生、下がって!!」
セイアの声で意識が現実に引き戻される。
彼女の方を見ると、セイアが模倣セイアを突き飛ばし距離をとっていた。
そしてセイアは先生を庇うように立ち、先程まで妹のように接していた存在に銃を突きつけている。
「セイア!まだ彼女がトリニティに敵対する存在だと決まったわけじゃない!判断が早すぎる!」
「そう言う先生こそ。すぐにその発想が出るということは、可能性の一つとして考慮はしていたのではないかい?」
「……ああ」
先生は苦々しい顔で返事をする。
そんな光景も既に視ていたのか、模倣セイアは悲しそうに微笑んでいる。
『姉さん、私は……』
瞬間、模倣セイアの顔の横を銃弾が通り過ぎる。
耳元を銃弾が通過する音を聞いて、彼女はそれ以上声を発することができなかった。
「それ以上余計なことを言おうものなら次は当てる」
「セイア!」
割り切れない先生をよそに、セイアはスマホを取り出しどこかへ電話をかけ始めた。
「私だ。すぐに百合園セイアのミメシスを拘束してくれ。場所は私のすぐ側だ」
「それと阿慈谷ヒフミのミメシスもだ。今日は補習授業部で出かけている予定のはずだから、ハナコに協力を仰いでくれ。いざという時は協力するよう話は既に伝えてある」
最低限の要件だけ伝えるとセイアは電話を切った。
そしてすぐに正義実現委員会の生徒の運転する車が到着し、模倣セイアを連行していった。
彼女は一言も発さず、ただ悲しげで安らかな表情をしていた。
少しの騒動が終わった後、街並みはこれまで通りの光景に戻っていた。
この程度はキヴォトスでは日常茶飯事であるため、他の市民は誰一人気にしない。
「驚かせてしまったね、先生。これが私の役割だから、必然的にこういう態度になってしまう。少し歩こう」
安心させるような、でも心の底に焦りを感じさせる声。
先生は黙って彼女の隣を歩く。
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人通りのあまり無い道を先生とセイアが歩いている。
街灯で照らされているものの、少し不気味な雰囲気だった。
「先生、詳しいことはトリニティに帰ってから話そう」
「ああ」
小声で話すセイアにつられ、思わず先生も小声になる。
「このまままっすぐ進めば駅に着く。そこでタクシーを拾おう」
「それなら正面に見える交差点を右に曲がった方がいい。そっちの方が駅としては小さいけど、利用者が少ない分タクシーは捕まりやすいから」
「さすが、頼りになるね。じゃあ交差点を曲がって、空車のタクシーが見えたらそこまで全速力だ」
セイアの発言を聞くに、後ろから誰かに追跡されているのだろうか。
気づいていると悟られないよう、あまり周囲を見渡さない方が良さそうだ。
「……了解」
交差点まで50m、25m、5m。
なんてことない距離なのに、今だけはとても長く感じる。
そして交差点を右に曲がり、少し進むとタクシー乗り場が見えた。
二人に緊張が走る。
満車、予約車、予約車……空車。
(見えた!)
最初に発見したのは先生だった。
そしてすぐさまセイアにだけ聞こえるよう合図を出す。
「よーい、どん」
瞬間、二人は全速力で駆け出した。
そしてその勢いのまま、無事タクシーに乗り込むことができた。
「トリニティ総合学園の前までお願いします」
「かしこまりました」
「はあ、はあ……」
先生以上にセイアの方が息が上がっていた。
生まれついての体力のせいか、緊張のせいか。
そうして二人を乗せたタクシーは学園へ向けて発車した。
発車直後、タクシーは自分たちの通ってきた道とすれ違うように進んでいた。
先生は追跡者の確認のため、視線だけを動かしタクシーの窓から外を見る。
するとそこには、先ほど通ったばかりの道の真ん中に聖園ミカのミメシスが佇んでいるのが見えた。
顔までは見えなかったが、体の向きを見るに明らかにこの車を見ている。
タクシーが模倣ミカから離れた後も、ミラー越しに後方を見ても彼女はまだこちらを見ていた。
「……セイア、いつから?」
疲労のあまり、つい雑な聞き方になってしまう。
しかしそれでもセイアは質問の意図を汲み取ってくれたようで、すぐに答えてくれた。
「スイーツビュッフェの時からかな。店の前に白い羽根が落ちていた。実際に彼女だとわかったのは、妹に銃を向けるために後ろを向いた時さ。一瞬だったけど確かに見えた」
「白い羽根、ね。じゃあ、カラオケの時からかな」
「そうか……」
これでほぼ一日中監視されていたことが判明してしまった。
一体どこまで見られ、聞かれていただろうか。
基本的に彼女たちの神経を逆撫でするようなことや重要な機密については話していないが、果たしてどうなることやら。
ひとまず危機は去ったと判断して良さそうだが、それにより疲れがどっと押し寄せてきた。
そうこうしているうちにタクシーは学園へと到着し、二人は重い足取りで校舎へ入っていった。