トリニティ総合学園の地下にある取調室。
ルーツを遡ればユスティナ聖徒会が活動していた頃から存在する部屋であり、現在でこそ非人道的な拷問まがいな行為が行われることは無くなった。
しかし今でも度が過ぎた問題を起こした生徒は脱出が困難なこの部屋で取調べを受けることもある。
セイアと先生は部屋に入り、模倣セイアと再び顔を合わせる。
彼女は事前にこの部屋へと連行されていた。
服は簡素なものに着替えさせられ、両手には手錠が嵌められていた。
『姉さん、先生……』
「まず、手荒な真似をしてすまなかった」
開口一番、セイアは己の対応を謝罪した。
「ショッピングモールで君の背中をさすった時、君の服の襟に盗聴器か発信機、もしくはその両方を併せ持つ機器が取り付けられているのを発見した」
「それと、これはつい先ほど判明したばかりのことだが、私たちは今日一日中君たちの仲間のミカに後をつけられていた」
「恐らく君は、仲間であるミメシス側から信用されてない」
『え……』
「そんな状況であるにも関わらず私たちに未来予知の話をしようとしたこと、そして今のその反応を見るに君は今の会話を予知で知ることができず、ミカの追跡に気付けなかった」
話を聞いていた模倣セイアは項垂れてしまった。
『ああ、そうか……。確かにこの会話は視ていないが、まあ、そんな気はしていたよ。そもそも先に裏切ったのは私の方だけどね』
セイアは冷静に会話を続ける。
「しかし私たちが盗聴や追跡に勘づいたのを悟られたり、君が重大な秘密をあの場で喋っていた場合、ミカや盗聴者から何をされるかわからなかった」
「こっちにはミカに対抗する術はなかったからね。だからあの場では君に黙ってもらっていた」
あくまで事務的に対応するセイアを見て先生は心苦しい気分になったが、それが彼女の仕事である以上余計な口出しはできなかった。
「それでだ、未来が視えることを打ち明けたのには何の意図がある?それと何故あのタイミングだった?直前に打ち明けることで私たちの混乱を誘う意図があったのか?」
『違う!私は姉さんたちの味方だ!信じてほしい!』
何としてでも誤解を避けたかったのだろう。
口数の少なくなっていた模倣セイアが身を乗り出して訴えてくる。
『……明日、トリニティ自治区は戦場になる。こちら側のナギサとミカの裏切りによって』
『その目的は自分たちが新しいティーパーティーになることで、トリニティを完全掌握することだ』
「完全掌握……だって……?」
セイアは驚きを隠せない。
模倣ミカに追跡されていることがわかった時から覚悟はしていたが、やはり彼女たちはトリニティにとっての敵であるようだ。
先生は昨日までの彼女たち会話を思い出し、その胸中に悲しみが広がる。
『同じ能力、同じ容姿、同じ記憶を持っていながら地下でこそこそ隠れながら過ごす日々を惨めに感じたらしい。その時にも説得はしたが応じてはくれなかった……』
昨日先生たちが会った彼女たちは至って普通に見えた。
強いて言うなら模倣ナギサが少し羨ましそうにしていたくらいで、とてもそこまで激しい想いを抱いているような素振りをしていた記憶はない。
『それと彼女たちが事前に説明していたユスティナ聖徒会の侵攻の話だが、恐らくは戦力を分散させるための嘘だ。ただ、私は何も聞かされていないので嘘と断言することはできない』
『私はそれを君たちに伝えたかった。本当ならもっと早くに言うべきだったんだ』
模倣セイアの顔に後悔の色が浮かび始める。
『でも姉さんに遊びに誘ってもらえて、決意が揺らいでしまった。あそこで侵攻の話をしてしまえば、きっとその対応で遊びどころではなくなってしまう』
『私は……自分の都合を優先しました。本当に、ごめんなさい……』
模倣セイアは額を机に擦り付けるように頭を下げ、今にも消え入りそうな声で謝罪した。
「なるほどね。そんな状況で、トリニティの危機と自身の快楽を天秤にかけて出した結論がそれか」
その直後、セイアは両手を強く机に叩きつけた。
「自分の学園ではないからといって、戦場になるとわかっていて!どうしてそんな判断ができるんだ!!人の命を何だと思っているんだ!!」
耳を前方に倒し、目を見開き眉間に皺を寄せ、歯を剥き出しにしながら怒鳴りつけるセイアに先生も思わずたじろぐ。
今まで見たこともないような一面だった。
相手が自分自身だからこそ、より苛烈になるのだろうか。
『ごめんなさい……ごめんなさい……』
模倣セイアは怯えきっており、目線を下に向けながら何度も謝罪の言葉を繰り返す。
ここまできてしまうと、先生としてもう口を挟まないわけにはいかなかった。
「セイア、落ち着いて。怒りをぶつけることが君の仕事じゃないでしょ?」
「っ!すまない……」
ハッとしたセイアは一度目を閉じ、呼吸を整えて椅子に座りなおす。
「私からも質問したい。戦場になって、トリニティはどうなるの?ミメシスたちに奪われる?それとも崩壊する?」
『すまない、そこまではわからないんだ。私はナギサとミカを止めるために戦って、そこで…………その、予知の力を失うらしい』
いまいち歯切れが悪いが、二人は続きを聞くことにした。
『明日、私を迎えにきた彼女たちは同席していたナギサに向けて宣戦布告をする。そして私がそこに割って入って二人を説得するんだ』
『けど私の言葉は彼女たちには届かず、説得に失敗してしまう』
そこまで話したところで模倣セイアは黙りこんでしまった。
次の言葉を発するのを躊躇っている様子だ。
そんな中、沈黙を破るように彼女が口を開いた。
『そして説得が不可能で、かつ力で敵わないと判断した私は最終手段として『色彩』を呼び寄せ、己自身を反転させその力で彼女たちを手にかけることになる』
『特にこの辺りは断片的にしか視ることができず、それらをまとめて推測するとこのような形になる。あまり細かい部分まではあてにしないでくれ』
セイアも先生も言葉を失っていた。
それに触れるとどうなるかをよく知っている二人は、目の前の少女が告げた未来がどれほど恐ろしいものか瞬時に理解していた。
『予知の力を失うのが反転による代償なのか戦闘中の負傷によるものなのか、詳しくはわからないが。まあ、ことが済んだら私はどこへなりと消えるさ』
寂しそうな、しかしどこか諦めたような顔をする模倣セイア。
そんな彼女を見て、セイアはかつて予知によって悲惨な未来を見せられ厭世的になっていた頃の自分を思い出していた。
「駄目だ!そんな未来到底受け入れられるわけがない。他の道を探そう!」
「私としても反対だね。せっかくこれから仲良くやっていけるっていうところなのに」
セイアと先生は説得を試みる。
模倣セイアは一瞬だけ希望を見出した表情をしたが、結局首を縦には振らなかった。
『駄目だよ。仲間を裏切り、人を騙した化け狐がけじめをつける時が来たんだ。それに仮にミカとナギサを退けることができても、メフィストフェレスが黙っていないだろう』
「「メフィストフェレス……?」」
突然出てきた名前に二人とも疑問符が浮かぶ。
「確か、ファウスト博士と契約して望みを叶える代わりに魂をもらったっていう、悪魔のことだっけ?」
先生の問いに対し模倣セイアが頷く。
『ああ。だがその名はあくまでニックネームのようなものらしく本当のことはわからない。メフィストとも呼ばれているようで、私と出会った時最初にそう名乗っていた』
『そして奴はキヴォトスの外から来た存在で、生徒のミメシスを作り、その体を弄り回すことで自由自在に改造できる技術を持っている』
『ただし一方的な干渉はできないようで、改造する側とされる側、それぞれの合意のもとに一対一で価値の等しいものを差し出し合う必要がある』
『奴はこれを『等価交換』と呼んでいて、私の予知の力も奴との取引で手に入れたものだ』
「なるほど、私が予知夢を見られなくなった後に生まれた君がその力を持っていたのはそういうことか。ちなみに、君は代償として何を支払ったんだい?」
『…………』
「いや、答えたくないのならいいんだ。すまなかったね」
「話を聞いている限り、ゲマトリアの関係者である可能性は高そうだね」
キヴォトスの外から来たろくでもない技術を持っている者はだいたい彼らと何かしらの関わりがある。
『実際にゲマトリアと関わりがあるのかはわからないが、厄介さで言うなら彼らと同程度はあるだろう』
「それで、そのメフィストの目的って何なの……?」
『奴もナギサたちと同じでトリニティの征服が目的だと言っていた。だが本当かどうかはわからない。もっと恐ろしいことを考えていてもおかしくないような奴だからね』
模倣セイアは続ける。
『まず奴の生み出したミメシスと奴自身は、他のミメシスのヘイローを食らうことでその記憶を引き継ぎ、身体能力を向上させ、捕食されたミメシスが私の予知能力のような特別な力を持っていた場合、それを奪うことができる』
「食らう……?ヘイローをかじって食べるってこと?」
『ああ、そうだ。そして当然ヘイローを噛み砕かれたミメシスは生命活動を停止し、消滅する』
模倣セイアが悲しそうな微笑みを浮かべセイアの目を見る。
『わかるだろう?裏切った以上のこのこ帰れば奴に食われて予知の力が奪われる。そうなったらいよいよお終いだ。だから明日、確実に奴も仕留めないといけないんだ』
模倣セイアの覚悟は想像以上のものだった。
まるで長い時間ずっとこの時のために戦い続けてきたような、そんな意志の強さを感じさせた。
「だったら、トリニティで君に護衛をつけることだってできる。君が反転しないことで未来が変わり、取り逃す可能性が無いとは言えないが、それでもトリニティの情報網と戦力ならいずれは仕留めることができるはずだ!」
セイアはなおも諦めない。
しかし模倣セイアが次に提示してきた情報はそれらの難易度を跳ね上げるようなものだった。
『さっき、ミメシスを捕食する話をしたね。他のミメシスとは異なり、メフィストは食らった者の元になった生徒の見た目を完璧に再現し、いつでも自由に変身することができる。それも私たちとは異なり、肌の色まで君たちと同じようになる』
『それとどういうわけか私の予知で視た光景の中に、奴の姿を捉えられたことはこれまで一度もなかった。まるでその部分がカメラの画角からはみ出しているように、切り取られているように』
『これは推測だが、体質的に人から注目されにくい生徒を食らったんだと思う。私の観測から逃れるために』
まさかそんな危険な存在の魔の手がトリニティの喉元まで迫っていたとは。
危険すぎる。先生はメフィストの正体を掴むため質問を続ける。
「もし身近な生徒といつの間にか入れ替わっていたとしても気付けるかどうか……。奴は今どこに……っ!」
そこまで言いかけて気付いたのだろう。
身を乗り出していた先生は椅子に座り直し、答え合わせを待つように模倣セイアの方を見た。
セイアも気付いたのだろう、緊張で強張った表情をしている。
『ああ、察しの通りだよ。メフィストは今……』
『阿慈谷ヒフミの姿になって、この学園の牢獄に囚われている。姉さんの指示通り捕まえられていればね』
「やはり、既に近づかれていた……!」
すでに黒幕は捕えられていた。
しかしなぜ?その気になれば他の生徒と入れ替わって潜入することだってできたはずだ。
まだ口に出していない先生の疑問に答えるように模倣セイアは続ける。
『おそらくは私への牽制と監視だろう。私の予知に観測されない体質を利用して、想定外のところで私に接触し、トリニティ側へ情報が流れないよう圧力をかけた』
『奴はこれまで見てきた大人の中でも桁違いに危険な、悪魔のような存在だ。単純な戦闘能力の高さという話ではなく、謀略を巡らせ人々の善意を踏みにじり、悪意を煽動し、この街一つくらい簡単に地獄に変えるだろう』
模倣セイアの答えを聞いて納得したのか、先生は答え合わせをするように語りかける。
「そうか、だからか。君は最初に会った時『必然だね』と言った。『偶然』ではなくだ。その時から君には予知の力があるんじゃないかとほんの少しだけ思っていた」
「だがヒフミのミメシス……メフィストが現れた時に驚いた顔をしていたよね?それを見た時自分の仮説が間違っていたのかと思ったけど、あれは君がトリニティでナギサたちと話しているシーンに奴が映っていなかったから、というわけだね」
『見られていたんだね。その通り、奴は自分の姿を隠すことよりも私の予知で得た情報が君たちに渡るのを防ぎたかったんだ。だが、奴が拘束されている今なら遠慮なくぶちまけられる』
模倣セイアの顔は強い憎しみを感じさせるものだった。
彼女たちに一体何があったのか。
『だから明日は戦闘が激しくなる自治区中央の広場あたりには人を近づけさせないでくれ。君たちに命令する権限など私に無いのは承知の上だが、反転した私が味方まで見境なく巻き込んでしまうことは避けたい』
『それと、万が一反転するのが私ではなく姉さんになるようなことがあっては困る。姉さんだけは明日は学園から離れていて欲しい』
『わがままばかりになってすまない。でも君たちにはこの先も青春を謳歌する権利がある。降りかかった厄災などさっさと退けて、もとの日常を笑って過ごして欲しい……』
「……わかった、このことはナギサにも伝えておくよ。取り調べは終わりだ。横になって休んでくれ」
「行こうか、セイア」
模倣セイアの願いを、思いやりを、彼女の目の前で跳ね除けることはできなかった。
まだ話したいことはあるが彼女の身体的、精神的負担を考え、二人はその場を後にする。
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部屋を出た二人はナギサと話をしに行くため、廊下を歩いていた。
しばらく無言で歩いていた二人だったが、先に口を開いたのはセイアだった。
「先生、ヒフミ……メフィストへの取り調べだが……」
「まあ、今はやめておいた方がいいだろうね。わざわざトリニティに来て、捕まる想定をしていなかったとは思えない。おそらく自分が身動きを取れなくても大丈夫なように、何か手を打っているはずだ」
先生の意見を聞き、判断に間違いがないと確認できたセイアは頷き、そのまま話を続ける。
「まあ、そうだろうね。それと取り調べ中にハナコからメッセージが届いていた。メフィストの拘束には成功したらしい。何でも、抵抗すらしなかったと。それとヒフミ本人の無事も確認できている」
「そっか、良かった」
「あと、メフィストの持ち物の中には盗聴器や受信機の類は見つからなかったそうだ」
「ミメシスセイアに盗聴器を仕掛けたのはメフィストではないってこと?」
「いや、仕掛けたのはおそらくメフィストだろう。先生たちと待ち合わせする前に、メフィストがもう一人の私に『行かないで』と抱きついているのを見た。ずっと見ていたが、それ以外に怪しい人、タイミングが無い」
「ただ、それよりもむしろ受信機が見つからなかったことの方が気になる。メフィストが仕掛けたものの音声を、別の誰かが聞いていると考えるのが妥当だろうか」
「外部に協力者がいる、と……」
想定よりも大事になりそうだ、と先生は指で眉間を押さえる。
トリニティ外部のことはシャーレとして、自身が主体となって調査する必要がある。
そしてその方針は二人だけで決めるべきではない。
「とりあえず、これまでのことをナギサに報告しないとね」
「まあ、まずはそこからだね。私たちが向かうことは既に伝えてある。ナギサも話したいことがあるそうだ」
二人はナギサの待つティーパーティーのテラスへと向かった。
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「お待ちしておりました、先生、セイアさん」
穏やかな声色とは裏腹にその表情は真剣そのものだった。
おそらく重要な情報を掴んでいるのだろう。
「まずは私たちの得た情報を共有しようか。実は……」
それからセイアは今まであったこと、模倣セイアから聞いた話をナギサに伝えた。
模倣ナギサたちの反乱についてはさして驚く様子はなかったが、メフィストに関する話になると緊張の色が強まっていった。
「まさか彼女がそんな恐ろしい存在だったとは……。拘束できているとはいえ、他のミメシスとは違い見た目での判別が不可能なのは厄介ですね」
「ああ。だがそれよりも私はあの子、もう一人の私を助けたい」
「一度反転によって姿が変わってしまうともう戻れなくなる。私の生徒でその後も理性を保ち、以前に近い生活を送れている子もいるけど、避けられるならそれに越したことはない」
二人の真剣な眼差しを見てナギサは頷く。
「私も協力は惜しみません。私も、もう一人の私からいただいた情報について調査を行いましたので、そちらを共有させてください」
「まず一つ目。トリニティを襲撃する予定のミメシスたちが拠点とする二箇所、山岳地帯と小島を正義実現委員会の方々に見て来ていただきました」
「結果、補給地点と思われる施設や設備のようなものは一切見当たりませんでした」
報告を聞いたセイアが問う。
「やはりもう一人のナギサは嘘をついていたということだろうか?」
「その可能性は高いかと。ですが嘘と断定できる情報もまた見つかってはいません。ですので明日はツルギさんに補給地点とトリニティを結ぶ道中、その中間地点にて迎撃できるよう待機をお願いしました」
「二つ目、シスターフッドの皆さんにはトリニティ自治区外れの廃墟地帯の偵察をお願いしました」
「こちらは以前よりもユスティナ聖徒会のミメシスの個体数が増加しており、明日攻め込んでくるミメシスはおそらくこちらに待機しているのでしょう」
「先手を打って廃墟地帯へ攻撃を仕掛けたいものですが、学園全体の評判にも関わるので難しいところではありますね」
「この調査でミメシスの状況はわかったのですが、その数はおおよそ二百体ほどでした」
「二百……侮れない数ではあるが、トリニティの戦力を集めれば十分対抗できそうではあるね」
「はい。おそらくそれを避けるために嘘の情報をながし、トリニティの戦力分散を図ったのかと思われます」
「そして三つ目。トリニティ自警団からの報告で、ヘルメット団やスケバン、アリウス分校の残党がミメシスに襲われているというものがあります」
「アリウスが!?」
「世間では悪党とされている集団ばかりだね。誰が何を意図してそんなことを……」
「わかりません。スズミさんとレイサさんでミメシスを一体捕えることはできたのですが、話を聞こうとした瞬間にまるでスマホの電源を切った時のようにミメシスが突然消えてしまったと」
「その消え方、私を襲ったミメシスたちと同じだ。おそらくスズミたちが見つけたミメシスも誰かの意思が宿ってるはずだ」
「もう一人の私に仕掛けられた盗聴器といい、外部に協力者がいると見て間違いないね」
「先生、アリウススクワッドの方々とは連絡を取れそうですか?」
「一応メッセージは送ったけど、彼女たちは公共の電波を拾えるところでないとメッセージの送受信ができない。夜も遅いし、すぐに返事は返ってこないだろうね……」
先生の表情は心配そうなものだった。
彼女たちは実力者だが、得体の知れない相手が敵となるとどんなイレギュラーが起こるかわからない。
「先生、明日の戦力の配置ですが、学園の周辺は我々トリニティ総合学園で対応します。ですので、トリニティ自治区の警備とインシデント対応を先生にお願いできないでしょうか」
「そうしてもらえると助かる。アリウスのみんなの様子も気になるし」
ナギサの提案はまさしく渡りに船だった。
「それから先生の安全確保のため、明日はボランティア部の方々に同行していただきます。いざという時は彼女たちの指揮をお願いしますね」
「ああ、それは大丈夫だけど……ボランティア部?そんな部活あったっけ?」
「このような事態に備えて新設した部活です。ただし表向きは自警団同様非公認の部活で、ティーパーティーの指示や承認無しに自由に動き回れる言わば特殊部隊のようなものです」
「権限を悪用すれば犯罪行為もできてしまうので、メンバーはもちろん私の信頼する方々で構成されています」
「おお、おお……!なんかスパイみたいでかっこいいね!それで、メンバーは!?」
子どものように興奮する先生を見てナギサはくすりと笑う。
「部員はシスターフッドからマリーさん、自警団のスズミさんとレイサさん、図書委員のシミコさん、救護騎士団のセリナさんです」
「なるほど、確かに!彼女たちなら安心だね!」
「そして、ボランティア部の部長は……ふふっ」
喜ぶ先生にもったいつけるようにナギサは間を置いている。
一体誰なのだろう。
先生は期待に胸を膨らませている。
「ボランティア部部長は我らが問題児、聖園ミカさんです♪」
「ミカ……!」
よく知る生徒の名を聞き、先生の表情はぱぁっと明るくなる。
かつてトリニティを危機に陥れた生徒が、今度はトリニティを守るために活躍している。
こんなに嬉しいことはない。
「任せてよナギサ、セイア。彼女たちがいるなら百人力だから!」
作戦は立てた。
絶対にトリニティを守る。
ナギサもセイアも先生も想いは同じだ。
三人は決意を固め、手を取り合った。