切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第五十五話

 

 

 

 

 

 砂埃の漂う密林。葉の生い茂る木々は薙ぎ倒され、土砂崩れでも起きたかの様な泥と石の混ざった大地に、まるで隕石の墜落現場の様なクレーターの中心で、切島と芦戸の2人は意識を取り戻した。

 

「あ…………芦戸…………!」

 

「き…………切、島ぁ…………!」

 

 ギガントマキアに薙ぎ払われた爪の直撃を受け、数100メートルの距離を吹き飛ばされて岩山に激突して止まったのだ。すでに体力は残っておらず、瓦礫に巻き込まれてコスチュームも半壊している。

 それでも、怪我で血の滲んだ肌を晒しながらも咄嗟に互いを繋いでいた手は、まだ掴んだまま離さない。

 

「ぶ…………無事……か…………?」

 

「ぅ………………う、ん…………」

 

 本来なら即死に等しいギガントマキアの爪を限界まで硬化した切島の体で防ぎ、直撃だけは防いだ。そして、吹き飛ばされた2人の体は芦戸が咄嗟に発した酸で彼と一緒に自身を包み込み、クッション代わりにして木々や瓦礫の激突を受け止めた。

 互いの個性が完璧に噛み合った上に、イレギュラーとの出会いによって能力の底上げがされていたからこそ、2人は生き残る事ができたのだ。

 

 その握っていた手を離して、切島は地面に手の平をついて起き上がろうとする。体に乗っていた瓦礫の破片や土砂が溢れ落ち、上体が起きる事で彼は惨状となった大地を目の当たりにした。

 

「っ! ……酷え…………芦戸、ほら……起こすぞ……」

 

「ぅ…………ぁ………………っ」

 

 これだけ破壊された景色を前に、咄嗟に守ったとは言えよく自分達が生き残ったものだと内心で安渡の息を吐くも、切島はすぐに思考を切り替えて隣の芦戸の背中へとボロボロの腕を回し、髪の毛まで土埃を被った彼女を抱き起こす。

 そして、切島の腕に支えられながら彼女も自身の倒れていた場所を見渡して、その言葉を詰まらせる。

 

「き……切、島……」

 

 彼女は不安げな声を小さく震わせたが、切島はそんな彼女の肌が普段の桃色から白に変色しつつある箇所を発見する。

 

「お前……また……!」

 

「え……ぁ…………っ」

 

 衝撃を受け止めるために限界まで酸を放出した反動が起こり、脱水症状を起こしていた芦戸の腕を引いて自身の背に回し、そのまま彼女の体を背負い上げた。

 

「よいしょっと……!」

 

「あ…………」

 

 彼のされるがままに体を持ち上げられた芦戸に対して、切島は彼女を背負ったまま自分達の吹き飛ばされた方向へと歩み始める。自分と同じ戦場で戦ったクラスメイト達と合流するために。

 だが、蹂躙された森林内は恐ろしいほど静寂に包まれており、あの巨人が暴れている形成はもう感じられない。

 

「イヤな静かさだ……! みんな、無事だよな……」

 

「ね……ねぇ…………」

 

 切島の言葉を聞いて、その視界に広がる惨状を見た芦戸の中に募るのは、抗いようもない不安ばかりであった。

 

「わ……私達の……やった事って…………ムダだったのかな……」

 

 そう、不安を零す彼女に対して切島は迷いなく首を横に振った。

 

「見えてたぜ…………お前がアイツの口に、投げ入れたのをよ……!」

 

「……!」

 

 咄嗟に自分の事を守ってくれた彼の言葉に驚かされた芦戸は瞳を見開き、切島はそんな彼女に対して言葉を続ける。

 

「八百万の薬なら、絶対に完璧だ……! ……祈ろう…………!」

 

「……ぅん……」

 

 土砂と瓦礫の道を歩み続ける切島に励まされた芦戸であったが、脱水症状が進行していた彼女の黒い目が白く染まり、その瞼がゆっくりと閉じられていく。

 

「……芦戸…………芦戸!?」

 

「………………」

 

 違和感に気付いた彼がすぐさま肩を動かして揺すってみるも、彼女からの返事はなくなっていた。

 

「芦戸……! クソっ……待ってろよ……!」

 

 疲労も痛みも忘れて切島は歩みを早める。土砂に足を取られようとも、硬化で地面を踏み締めて彼は歩き続けた。

 八百万の下まで行ければ水を用意してもらえるだろうと、彼はその足を早めながら土砂と化した道を進んだ。

 

 

 

 

 

 無事に生き残っているはずの、仲間達の所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───カムイさんっ!! シンリンカムイさんっ!!!」

 

 一方で、ギガントマキアによる破壊の嵐が過ぎ去った戦場跡地。行手を遮ろうとしたプロヒーロー達を蹂躙し終え、群雅の密林を通過していった土砂と瓦礫の山の中で、八百万はシンリンカムイの体を抱き上げた。

 

「ク……クリエティ……」

 

 彼女の腕に包まれて起こされたシンリンカムイが、破壊された頭部の装甲から露出する彼の髪の毛に値する木の葉がバラバラと散り落ち、炭どころか灰のように白く染まった体が彼女の握った指の先端からボロリと崩れ落ちた。

 

「シンリンカムイさん……! 今、救護班の方を呼んでいます! それまで……もうしばらく……っ!!」

 

「いい…………俺は……もう…………」

 

 八百万は自分の目で見えていた現実に直面しても、なんとかして彼を励まそうとしたが、すでに自身の運命を悟っていた彼は彼女の言葉を跳ね除けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八百万の抱き上げる彼の体の半分以上が、すでに消失していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荼毘の炎で脆くなったシンリンカムイの体に振り下ろされたギガントマキアの兇刃は、彼の体を無慈悲に削り取ってしまった。

 破壊された下半身の行方はもう誰にもわからない。マキアの爪によって分離された彼の体は、頭と右腕しか残っていなかった。

 

 それでも、心残りのあったシンリンカムイは薄れゆく意識を繋ぎ止めて、自分の体を抱き上げた八百万に問い尋ねる。

 

「た……岳山……は…………」

 

「無事です……!」

 

 そう迷いなく告げた彼女の後ろには、全身を包帯で治療されたマウントレディが担架に乗せられたまま目を閉じて倒れていた。

 意識はなかったが、このまま病院へと連れていけば大事には至らない。彼女の周りではインターン生が集まり、後方に向けて運搬の手段を話している様子が見えていた。

 

 自分の行動が無意味ではなかったと察して、彼は最後の力を振り絞る。

 

「そ、そうか……!」

 

 八百万の答えを聞いてシンリンカムイが大きく安堵した直後、彼は崩れゆく自分の指も構わずに彼女の手を力強く掴んで言葉を紡いだ。

 

「な、なあ…………アイツに…………伝えてくれないか…………」

 

「っ!? ダっ、ダメですッ! シンリンカムイさんッ!!!!!!」

 

 その言葉を聞いてしまった瞬間、八百万は彼に諦めさせてはならないと、声を強めて彼の前で必死に声援を叫んだ。

 

 それでも、シンリンカムイは彼らインターン生の成長を祈りながら、マウントレディに向けて言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ、マエ…………のコ……ト……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……キラ、い…………じゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……な………………か………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、彼の声が聞こえる事は、もうなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…………! あぁぁァ───────ッ

ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 すでに物言わぬ屍となったシンリンカムイを前に、八百万は彼を抱き留めながら感情のままに叫んだ。周囲でプロヒーロー達の救出を続けていたインターン生達も、彼女の言葉にならない叫び声を聞いて何が起こったのを察知していた時、無線機を通じて取蔭の声が響き渡る。

 

『八百万……マジェスティックが……!』

 

「……ッ!?」

 

 自分と同じく推薦入試組にして、インターンでも同じ事務所に所属していた彼女の言葉に、八百万は最悪の光景を脳裏に映した。

 その腕の中にシンリンカムイを抱きかかえた彼女の視界は薄暮に染まり、そのまま崩れ落ちる様にユラリと体がブレる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、運命は変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モ……モモちゃん……!』

 

 取蔭の呼びかける無線機の更に奥から聞こえてきた、インターン期間中に聞き慣れた彼の声に、彼女は壊れてしまいそうだった意識を覚醒させた。

 

「マ……マジェスティック……っ!?」

 

「ッ……良かった、モモちゃん…………無事で……!」

 

 普段通りの軽口を叩こうとするマジェスティックだったが、その呼吸からは明らかに負傷した息遣いに加えて、焦燥する口調が読み取れた。

 

『聞こえるかい…………サンイーターとファットガムがマズい状態なんだ……! セツナちゃんが誘導するから、すぐに来てほしい……!!』

 

 だがしかし、安渡はほんの一瞬の束の間。

 

 破壊の嵐が過ぎ去った森林内で救助活動どころか、現在地の把握すら困難と化していた状況で、医薬品から何まで創造する事のできる八百万を無線機と取蔭の個性で合流を試みようとするマジェスティック。混乱が広がる中で冷静な判断ではあったが、その彼女は目の閉じられたシンリンカムイを抱えたまま、助けを求めるかの様に彼へ事実を告げようとする。

 

「マジェスティック…………シンリン、カムイさんが……!」

 

『……ッ!』

 

 今にも消え行ってしまいそうな彼女の声を前にして、取蔭に肩を組まれながら足を引きずって歩くマジェスティックは、無線機越しに彼の全てを悟った。

 元々戦闘向きではない個性を持った彼女は、ひと一倍支援に全力を注いでいた。そんな目の前で、救えなかった命を目の当たりにして大きなショックを受けているのは、マジェスティックには手に取る様に理解してはいた。だが、彼女の力を借りなければ悲劇は更に広がってしまう。

 

『モモちゃん……動くんだ……!』

 

 まだ未熟なインターン生と言えど、彼女達はヒーロー。今ここで動けなくなってしまう事……ただ悲しみに暮れるのは許されなかった。それがどれだけ辛い事であっても、マジェスティックは彼女達をそんなヒーローに育てた覚えはなかったのだから。

 

『君の個性ならっ、まだ助かる命があるんだ! モモちゃん!!!』

 

「……っ!」

 

 今までにない、強く願い求めるマジェスティックの声に押され、八百万は抱き留めていたシンリンカムイの亡骸をゆっくりと地面に離す。

 その行動に、彼女を心配して隣に寄り添っていた耳郎が思わず名前を呼んだ。

 

「ヤオモモ……!」

 

 その瞳からとどめなく涙を溢したまま彼女は立ち上がると、耳元の無線機に手を当てた。

 

「……切奈さん……今からそちらに向かいます…………位置を……ッ!」

 

『ああ……! ちょっと待ってなっ!』

 

 その無線機から聞こえた声に取蔭は驚きつつも、すぐに思考を切り替えながらマジェスティックの肩を貸したまま、頭の半分を分離させて彼女の誘導を始める。

 対して、八百万は無線機で周囲の負傷したプロヒーローの情報をクラスメイト達から集めながら、マジェスティックの元へと走り出した。

 

 まだ救える命を繋ぎ止めるため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その涙も乾かぬ内に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───トガちゃんッ! トガちゃんッ!!」

 

 

 

 

 

 脈はあったんだ。

 

 

 

 

 

 呼吸だってあったんだ。

 

 

 

 

 

 怪我もあるだけの医療道具で処置したんだ。

 

 

 

 

 

 それでも、トガちゃんの瞳はピタリと閉じられたまま動かなくて、俺は彼女の肩を揺すって呼び起こし続ける。

 

「トガちゃん……ッ!」

 

 あの時、瓦礫の向こうで助けを求める彼女の姿が幻覚なんかじゃないと、信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はトガちゃんを攫って逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女を捕まえようとするプロヒーロー達を蹴散らし、ただひたすら逃げ続けて俺はギガントマキアの戦っていた場所から数キロ以上も離れた市街の廃ビルの中へと辿り着いた。

 マキアによる避難指示のニュースが流れていたからか、逃げている時には大通りに一般人の姿は全く残っていなかった。

 唯一、無線か何かで俺と彼女の事を知ったのか、逃げた当初は何人ものプロヒーロー達に待ち伏せを仕掛けられたが、今はもう誰の気配も感じられない。殺してはいないと思うが……追跡されると困るから手加減なく磔にしてしまった。

 

「トガちゃん……ッ!!」

 

 そんな事はもうどうでもよくて、ビルに逃げ込んでようやく極度の緊張感から解放され、腕から下ろした彼女の意識が無い事に気づき、俺はすぐに彼女の怪我を処置した。

 操血刃と自分の体でギガントマキアの爪から彼女を守ったが、圧倒的な質量差から放たれた衝撃までは防げなかった。結局、彼女を手放してしまっていた。

 

「トガちゃんッ!!!」

 

「ぅう……っ!」

 

 何度目の呼びかけになるのかもわからなくなっていた時、不意に彼女の瞼がピクリと動いた。

 

「ト、トガちゃん……!」

 

「ヤ……ヤイバ、くん……?」

 

 その変化に気付いた俺が、もう一度彼女の名前を呼んだ時。瞼は俺の目の前でゆっくりと開き、彼女の金色の瞳が俺を写しながら、牙の覗く口元で辿々しく俺の名前を呼んだ。

 

「ヤイバ……くん……!」

 

「トガちゃん……っ!」

 

 彼女意識を確認したと同時に、全身の力の抜けてしまった俺は四つん這いに近かった身を大きく引いて、ヘナヘナと床に座り込んでしまった。

 涙すら零れ落ちてしまいそうな視界の前で、つかに手を付けて起き上がろうとする彼女の瞳が大きく瞬く。

 

「よか……っ、よかっ……たぁ……っ!」

 

「ヤイバくんっ!!♡」

 

 うわ言の様に感情を晒した俺に対し、そのまま勢い良く飛び起きた彼女に抱きつかれ、体が大きくブレた。

 彼女はひとしきり俺を強く抱きしめると、その状態のまま静寂の広がるビルの中をキョロキョロと見回す。

 

 周囲は壁紙すらない無機質な壁に囲まれて、屋上へと続く壊れたドアから差し込む外の光で、階段の踊り場をスポットライトの様に照らしている。

 そこは彼女と密会していた中学校の……屋上へと続く階段の場所に、よく似ていた。

 

「どこですかココ?」

 

「……わかんね…………マキアに吹っ飛ばされて……ヒーローに追われちまって…………逃げた……!」

 

 とにかく闇雲になって逃げたが、途中で見た青看板から察するに蛇腔市に近いのは確かだ。ギガントマキアを食い止めるつもりだったのに、そこまで接近を許してしまっていたのだ。

 あの足の崩れたマキアがどうなったのかはわからないが、ヤツなら這いずってでも動いてしまいそうではある。急に動きが鈍って、何が起こったのかも謎だが、意識を奪えた……のだろうか?

 

 わからない事が多すぎるが、コレで決定的な事をしてしまった。

 

「ハハっ、もう俺……戻れねえわ……!」

 

 感情のままに、プロヒーロー達を攻撃してしまった。

 

 ただ体の動くままに、トガちゃんを助けてしまった。

 

 そして、その姿を見られた。

 

 すぐにプロヒーロー達に見たまま聞いたままの情報は広がっていくだろう。

 

 雄英にも。

 

 もう少し、冷静になるべきだったんだ。あの時、口で説明するだけでも猶予はあったハズだったんだ。

 

 

 

 

 

 『扇動』に、そんな副作用あっただろうか?

 

 

 

 

 

 様々な疑問や後悔が心の中で入り混ざるが、そんな俺の顔に彼女の頬が擦り寄せられた。

 

「ヤイバくん、やっと……2人きりになれましたね……♡」

 

 ようやく聞く事のできた、全ての緊張から解放されたトガちゃんの声と同時に腕で抱きしめる力が強くなる。

 

 その純粋に喜んでいる声を聞いて、心は更に削がれていく。

 

 こんな場所で聞くハズじゃ、なかったのに。

 

「あぁ……そうだね…………っ!」

 

 もはや、俺達を縛るモノは何もなかった。

 

 彼女が生きれる場所も、俺が壊してしまったのだから。

 

 もう、すぐ目の前にあったハズなのに。

 

「あハハ……ぁハ…………っ!」

 

「ヤイバくん……?」

 

 乾いた笑い声を漏らしてしまった俺に、トガちゃんが心配した様に頬を離して顔を覗き込んでくるが、そんな彼女に俺は目を合わせなかった。

 

「トガちゃん………………ゴメン、約束……守れなかった……」

 

「え……?」

 

 罪悪感に囚われ、抱きついていた彼女を無理矢理離した。

 

「俺、ダメだった……! トガちゃんが明るく生きていける世界に……したかったけど……全部、壊れちまった…………なにもできなかった!!!」

 

 もう、ヒーローとして生きれる道は無くなっていた。

 

 彼女が日の下で生きていける世界は、完全に閉ざされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 史実よりも良い未来を描こうとしたのに……結局、俺がやったのは先延ばしだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構……良い感じだったんだけどなぁ……ッ!!!」

 

 荒々しく言葉を吐いた俺の脳裏に、今までの戦いや……峰田達との記憶が思い返される。

 どれだけ困難を前にしても、極限の状況下で乗り越えてきた。

 

 だが、今はどうだ?

 

 全てが思う様にいかず、ただ被害だけを広げてしまった。

 

 

 

 

 

 所詮、原作知識の無い自分の限界だったのだ。

 

 

 

 

 

 ここまでなんとか上手くいっていたのは、未来がわかっていたからだったんだ。

 

「みんな……みんな、いなくなっちまった…………」

 

 ここに至るまで、どれだけの犠牲を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数えきれないぐらい、見殺しにしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのヘリのパイロットも、救えたハズの民間人も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギガントマキアを止めるハズだった峰田達も、マウントレディも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虎さんも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部俺が原因だった。

 

「もう終わりだ……『間違えた』んだどっかで……ッ!!!!!」

 

 死骸木を倒そうとした俺の行動のせいで、みんな死なせてしまったのだ。

 

「もっと良い方法があったハズなのにッッっ!!!! 俺はッ、俺はぁ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういいんです、ヤイバくん……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って、彼女は俺を両腕で抱きしめた。

 

「ヤイバくんは頑張りました……!」

 

 優しい香りのする胸に包まれた俺を、トガちゃんはヘルメット越しに頭を撫でてくる。耳元で囁かれる彼女の言葉に、全て投げ出してしまいたかった想いが晴れていく。

 

「私もヤイバくんも……こうしてまだ生きてるんです……!」

 

 ギガントマキアに襲われた事も、連合の仲間だった者達に勘当された事にも、彼女は後悔してなどいなかった。

 

「マグ姉や迫さんの覚悟も…………仁さんの願いも、無駄にはしません……!」

 

 自分達の背を押してくれた者達に応えようと、彼女まだ自分の運命を乗り越えようとしている。

 

「どぅ……どうして……?」

 

 そこまで、俺を許そうとしてくる彼女が理解できなくて、俺は彼女の胸の中で辿々しく口を開く。

 

 不意に彼女の腕が離れて、俺の肩を掴んだままの彼女と顔を合わせた。

 

 当たり前みたいに、俺の目の前で彼女は笑っていた。

 

 ずっと見慣れていた、カァイイ笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、ヤイバくんは私を助けてくれたじゃないですか!!♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の手が離れて、その両手は俺の両手を掴んで合わせた。

 

「チウチウしたくてガマンしてた私に、ヤイバくんは血を分けてくれました」

 

 彼女は更に言葉を続けた。

 

「ママにもパパにも怒られて……みんなにも怖がられた私を……ヤイバくんは受け入れてくれました……!」

 

 泣きそうな眼をしているのに、彼女は心の底から喜んでいる様な、そんな気がした。

 

「それからずっと……私の中はヤイバくんだけが、全部なんです!」

 

 彼女は俺と手を握ったまま、大きく胸を張ってみせる。

 

「明るくて優しい世界がなくても……ヤイバくんと一緒なら大丈夫です!」

 

 そう大きな声で告げた彼女は、少しだけ頬を染めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤイバくんはもう、私のヒーローですからっ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えないように、していたんだけれども……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと……俺に必要だったのは、トガちゃんだけだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女のヒーローになれた時点で、当たり前のハズだった事を置いていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1人だった彼女の側にいる選択を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明るくて優しい世界は、俺の自己満足でしかなかったんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無駄な遠回りをしてしまったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうなる結末が、もしも運命として定まっていたとするのならば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんの少しだけ、甘えてもいいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トガ……ちぁ……っ!」

 

 揺らいだ想いは、もう止められない。

 

「トガちゃ……あッ、トガちゃぁ…………ッ!」

 

 限界を超えた感情のまま、俺は崩れる様に彼女の中へと倒れ込み……

 

「ぁぁあ゛ァ──────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 子供みたいに、泣きついていた。

 

「はい……ヤイバくん♡」

 

 そんな俺を、トガちゃんは優しい声で受け止めた。

 

「……トガちゃん……!」

 

「ヤイバくん♡」

 

 彼女の手が、俺の頭を包み込む。

 

「トガちゃぁん!」

 

「ヤイバくんっ!♡」

 

 俺は腕を回して、彼女を抱きしめる。

 

「トガちゃん!!♡」

 

「ヤイバくん!♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、何度も彼女の名前を呼んだ。

 

 彼女は、何回でも返事をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」「トガちゃん♡」「ヤイバくん♡」

 

 今まで呼べなかった分まで……遠く離れていようとも同じ夜空を見上げて呟いていた分まで……

 

 彼女の名前を呼ぶのが心地良くて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、どうでもよくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本能の赴くままに彼女を床へ押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の可愛らしい悲鳴が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉から差し込む光が視界を入り乱らせ、彼女のカァイイ口元が笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レンズの割れたゴーグル付きのヘルメットを放り投げ、汗と血に染まったフェイスマスクも脱ぎ捨てて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま彼女と唇を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は落ち着いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも荒々しく、情熱的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の体温を、確かめる様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舌を合わせても、お互いの名前を呼び合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トガちゃんの手が俺の迷彩服のボタンに伸びて、俺は身に纏っていた装具を外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャンと重たい音と同時に、操血刃を放つ脚絆が転がり、小手が階段から転がり落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに続いて俺が彼女の服を掴み、指を刃にして下着ごと衣類を引き裂く。後の事なんて考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 口付けしたまま笑った彼女の声に、理性は簡単に壊される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただずっと、守りたい彼女の全てに触れていたくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身につけている全てを、外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いに剥き身のまま、コンクリートの地面を転がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スポットライトの様に差し込む光で、仰向けにされた俺の上に跨る彼女の裸体が、綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺を見下ろす彼女の白い牙が光って、上体を倒しながら首元に食らいつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 硬化していない俺の肌は、彼女の鋭い犬歯を安易と受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈍い痛みに続いて、彼女の口元から真っ赤な血が溢れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その感覚すら、心地良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血と彼女の香りを感じながら抱きしめる俺の体へ、トガちゃんは更に噛みついてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは首元から肩へ、肩から腕へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度も、何度も……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トガちゃん……♡」

 

「ヤイバくん……♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トガちゃんと触れているだけで、その思いが満たされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、ずっと続けば良いと思える……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠の様な時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1度はゴールが見えたはずなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、なにも見えなくなってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部、壊れてしまったけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作り上げたのに、零れ落ちてしまったけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんな、失ってしまったけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トガちゃんだけは、守れたんだよな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……今、幸せだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───警視庁、作戦本部───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『現時点の情報を纏めろッ!!』

 

 

 

 

 

『《トガヒミコ》は超常解放戦線から個性破壊弾と血清を強奪し、組織から脱退という名の逃走! その協力者に《ブレイズ》がいたんだ!!』

 

 

 

 

 

『で、でもいったい何故彼がッ!!? 何の為にッ!!!?』

 

 

 

 

 

『前々から問題になっていた、雄英の《内通者》だったのではッ!?』

 

 

 

 

 

『今はそんな事はどうでもいいッ!!! 個性破壊弾を持って逃走された今……死柄木の次に危険な連中だッ!!!」

 

 

 

 

 

『エンデヴァーの情報流出も止められなかった……彼の所業まで流れたら……ッ!!!』

 

 

 

 

 

『プロヒーローに箝口令を敷けッ!!! これ以上、民間人に不安を煽らせるなッ!!!!!』

 

 

 

 

 

『2名とも未成年だが……状況が状況だッ!!!! 彼女の情報も全てヒーローネットワーク(HN)に流せッ!』

 

 

 

 

 

『現時刻をもって、雄英高校1年A組、仮免インターン生《切裂 刃》 ヒーロー名《イレギュラーヒーロー・ブレイズ》を(ヴィラン)と断定!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『以上2名を超常解放戦線重要参考人として、全国指名手配する!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『極々々、地獄』




次の投稿日は土曜日です
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