呪術師と茘の者たち   作:有苑

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久々の謎解き、行ってみましょう。


第18話 小火騒ぎ

(昨日のあれ、何だったんだろうな?)

 

執務室にて、雅彦(まさひこ)は昨夜聞こえた爆発音について考えていた。そんな雅彦に、壬氏(じんし)は声をかける。

 

「雅彦、書類の処分を薬屋と行ってくれ。」

 

「分かりました………どうして猫猫(マオマオ)と?」

 

「ゴミ焼き場は軍部の近くにあるが、薬屋もまだ覚えきれていないだろう。案内がてら行ってくれ。」

 

「承知致しました。」

 

快く承諾した雅彦と違い、猫猫は少し神妙な顔で考え事をしていた。高順(ガオシュン)はそんな猫猫に綿入れを掛ける。

 

小猫(シャオマオ)、外は寒いので。」

 

(流石高順様、気配りが上手い。)

 

「ありがとうございます。」

 

その2人を壬氏は何かもの言いたげな表情で、特に高順を睨んでいた。

 

「うっ!」

 

「む~~~っ。」

 

その視線を感じ、高順は少し焦った口調で弁明する。

 

「うっ、あっ……これは、壬氏様からの物ですので!私はただ、渡しただけにすぎませんので!」

 

その言葉を猫猫は易々と了承し、感謝を告げる相手を変える。

 

「そうですか、ありがとうございます。壬氏様。」

 

「気にするな。」ニコニコ

 

(なんか……最近露骨になってきませんか?……高順様も大変だなあ)

 

そんなことを考えながら、雅彦は猫猫と共に執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴミ焼き場に向かい、2人は肩を並べて歩く。しかし、猫猫は顎に手を当て黙り込んでいるため会話はない。

 

(さっきからずっと黙り込んで………何か考え事でもしているのか?)

 

雅彦がそんなことを考えた直後、猫猫は足を止めて脇の通りに目をやる。

 

(ん?急にどうし「あっ!」へ?)

 

猫猫は何かに反応したかに見えた次の瞬間、雅彦を置いて道端に生えた草を採りに走り出す。

 

「あっ!曼珠沙華(マンジュシャゲ)!ここにも!……あそこにも!」

 

「え……あ……おっ、おい!ちょっ、とっ、取り敢えず止まれ!」

 

猫猫はそんな言葉などお構いなしに収穫し、何やらぶつぶつ喋っていた。

 

「球根を水に晒すと美味いんだよなあ。毒抜きを失敗すると、腹痛で苦しむ羽目になるけど。」グヘヘ

 

「そんな軽々と怖いことをぶつぶつ言うなよ………。」

 

またしても雅彦の言うことに耳を傾けない猫猫は、蔵が立ち並ぶ通りに目をやる。

 

「ん?あ……李白(りはく)様だ。帯の色が以前とは違う、ということは出世したのか?」

 

(李白……ああ、猫猫が簪を貰って里帰りの時の身元保証人にしたっていう………あの時は大変だった。)

 

李白も猫猫たちに気付き、手を振って来る。

 

「ん?おお、嬢ちゃんと……ああ、思い出した!園遊会の時、大臣を吐かせてた宦官か。」

 

雅彦と猫猫は李白のもとへ歩いて行く。

 

「李白様。」

 

「お久しぶりで御座います。改めまして、高順様の部下をしている雅彦という者です。以後、お見知りおきを。」

 

「ああ、よろしくな。…にしても珍しいな、嬢ちゃんが後宮から出てくるなんて。妃の付き添いか何かか?」

 

雅彦はそんな会話を聞きながらも、火事か何かがあったであろう2軒の蔵に意識を向ける。

 

(ん?猫猫が解雇されて、壬氏様の下女になったことを知らないのか。にしても、この焼け跡………取り込み中だったか?)

 

その後、数秒間の謎の沈黙が続いたが、その沈黙は李白によって断ち切られた。

 

「ん?何だ?」

 

「いえ…今は後宮勤めから、とある御仁の部屋付きになりましたので。」

 

「部屋付き?…誰だ?そんなもの好きは。」

 

「ええ、物好きですよね。」

 

(言いたい放題過ぎるだろ、特に猫猫。まあ、仕方ないか……話題を変えよう、壬氏様が言いたい放題されているのが本人にバレるのは困るし。)

 

雅彦は蔵の方を見ながら口を開く。

 

「お話し中大変恐縮ですが、お取込み中では?」

 

「ああ、そうなんだよ。この季節には珍しくもない小火なんだが、右側の蔵が出火元でもう片方は燃え移ったらしいんだが、火元が分からないらしくてな。それで駆り出されたんだ。」

 

(原因不明……昨夜の爆発音はこれか。)

 

事情を聞いた猫猫は李白に1つ質問をした後、出火元の蔵に入っていく。

 

「怪我人は?」

 

「倉庫番だけだ、命に別状はないが……って、おい!あんまり近づくなよ。」

 

李白の忠告を猫猫は適当に聞き流す。

 

「わかりました。」

 

(…絶対わかってない、まあいいか。んじゃ、俺も首を突っ込むとしますか。)

 

雅彦は背負っていた籠を置き、燃え移ったという左側の蔵に近づく。

 

 

 

 

(右側が全焼に対してこっちの蔵は半焼。あっちが出火元っていう予想も分かる。)

 

雅彦はまず最初に2つの蔵の間にある通り道に足を踏み入れ、観察する。

 

 

(2つの蔵の距離は両手を広げた俺の6人分ぐらいだから32尺(約10m)…煤や出火元の木片が飛び散った様子から、16尺(約5m)ぐらいなら延焼の可能性が高いだろうが、ここまで遠いと火が届くのかすら怪しい。)

 

雅彦はさらに奥へ歩を進める。

 

(燃え移ったのなら、燃え移った蔵は主に左側が燃えている筈……にもかかわらず主に燃えているのは出入り口側で奥に行けば行くほど焼け跡は見当たらない。)

 

雅彦は引き返して通り道を抜ける、そして蔵の中へ入って行く。すると、何か黒いものが大量に落ちていることに気付く。

 

(ん?なんだこれ……芋、じゃあここは食料庫…………それにしても芋ばっかだなあ、他の食糧が見当たらない……まあ、芋は腹持ちもいいし悪いことじゃないが。)

 

雅彦は1度蔵から出て、その外観に目をやる。

 

(左側が完全に燃え移る前に消火されたのなら筋は通るが……それにしては出入り口側は出火元から遠い方にまで火が行き渡っている、燃え移ってからすぐに消火されたとは思えない。だが、その場合は最初に燃え移ったであろう左側が完全に燃えていないことが引っ掛かる。そして何より、外よりも内側の方が被害がでかい。)

 

ずっと思考し続ける雅彦に、李白の横にいた李白の部下が声をかける。

 

「あの、すいません。」

 

「ん?どうかしましたか?」

 

「下女の方が、手伝ってほしいと。」

 

「…分かりました。」

 

雅彦と李白の部下は猫猫たちのところへ歩いて行く。

 

「で、何を手伝ってほしいんだ?」

 

「木箱を作りたいので、板材を鋸で切ってもらえますか?」

 

「何作る気だよ……まあ分かった、木箱だろ?」

 

雅彦が板材を切り、猫猫が釘を打ち箱を木箱を作る。猫猫はそこに白い粉末状の何かを入れ、角を正方形に切り取った板で蓋をする

そこに、李白が口を挟む。

 

「それ、小麦粉だよな?」

 

「はい、倉庫にあったものです。」

 

(しれっと盗ってきてるやん。)

 

そこに、井戸から水をくみ上げてきた李白の部下がやってきた。

 

「これでいいですか?」

 

「それと、お願いした火種は?」

 

李白の部下は懐から火打ち石と縄を取り出し、猫猫に手渡す。

 

「こちらに。」

 

「ありがとうございます。」

 

猫猫は火打石を使って縄に火を点ける。李白はまだ納得のいっていない様子であった。

 

「訳が分からん。」

 

「準備できました。危ないので離れていてください。」

 

李白の部下はそれに従い、灯籠の後ろに隠れる。が、李白と雅彦は一向に動かない。

 

「李白様、危ないですよ。それに雅彦も。」

 

「何が危ないんだ。嬢ちゃんが何しようと、武官の俺が危ないものか。」

 

「ああ、まあうん。俺も多分大丈夫。」

 

2人のその返答に猫猫は溜息を吐き、再度忠告する

 

「はあ、分かりました。危険なので、重々気を付けてください。すぐに逃げてくださいね。」

 

猫猫は一応の忠告をした後、猫猫は火の点いた縄を木箱に放り込み、一目散に逃げる。

 

(まあ実際、何が起こるのかはなんとなく分かる。隣の蔵付近まで届いた煤や蔵の残骸。『何故届いたのか?』その理由を猫猫が疑似的に再現しているというならば、理屈は後回しにしてこの結末は………爆発。)

 

「はあ?逃げるって何がだよ?」

 

次の瞬間、木箱は雅彦の予想通り爆発する。爆発に巻き込まれた雅彦と李白の服や帽子が燃える。だが、雅彦は冷静に対処する。

 

「あっ、やべ。」パンパン

 

一方、予想外の出来事で混乱している李白は叫びながら慌てふためくことしかできなかった。

 

「うっ、あっ、あっ………消してく"れ"え"!」

 

猫猫と李白の部下は2人に用意しておいた水をかける。

 

バシャアァンッ!

 

バシャアァンッ!

 

「だから、言ったのに………。」

 

「なあ、猫猫。俺に水ぶっかける意味あったか?」

 

「まあ、燃えていたので。」

 

「そうか………。」

 

(冬場に水ぶっかけられるのバカ寒いんですけど。)

 

それでも一見飄々としている雅彦と違い、李白は完全に凍え切っていた。

 

「だっ、だれか……布を………頼む……。」ブルブル

 

猫猫は用意しておいた布を李白に手渡す。

 

「分かってますよ。はい、これ使ってください。」

 

「ああ、すまん。……ブェクシュンッ!……それで、何がどうなって爆発したって?」ブルブル

 

猫猫は地面に散らばった小麦粉を握り、李白に見せる。

 

「原因はこれです。」

 

「小麦粉?」ブルブル

 

「はい。小麦粉やそばといった粉は燃えやすく空中に舞うと、火が点くことがあるんです。……火種はこれかと。」

 

そう言って、猫猫は懐から煙管(キセル)を取り出す。

 

「煙管?」ブルブル

 

(出火元の蔵にあったのか、良く見つけたな……。)

 

「人目を盗んで一服するために中に入ると、外気が流れ込んで粉が舞います。そこで煙管に火を点けると……倉庫内に充満した小麦粉に着火して、結果爆発が起こります。倉庫番の方に『倉庫での煙草はおやめください』とお伝え願えますか?」

 

「んなことよく知ってるな。」

 

(本当にその通り……まさかこいつ………。)

 

「以前、緑青館で間借りしていた部屋を吹っ飛ばしたことがありまして……。」

 

「お前………。」

 

(………当たって欲しくなかったよ………。)

 

李白は立ち上がりながら言葉を紡ぐ。

 

「しかし…粉が爆発とは不思議なもんだ…………ハックショオォンッ!」

 

(不思議ねえ……不思議というのは、知らないからこそ感じるものだ。人が行方不明になるのは呪霊がその人を喰ったからであるように、原因があるから結果がある。)

 

「風邪を引かぬよう気を付けてください。引いたら、花街の羅門(ルォメン)の薬がよく効きますよ。」

 

「おお、分かった。」

 

「では、仕事に戻りますので。」

 

「ああ、私もこれで失礼します。」

 

「分かった、じゃあな。」

 

「はい。」

 

「では。」

 

(………ちょっと待て、こっちの問題は何も解決してなくないか?確かに出火元になった蔵の火元は分かった、でも燃え移った方の蔵は未だにはっきりしてない。それに、昨夜爆発音は重なっていて気付きにくいが2度聞こえた。1度は猫猫が見せてくれた煙管が原因だったとして、2度目は何だ?燃え移った時に爆発したのなら早すぎる、それにあの蔵は芋がほとんど…燃え移った程度であの爆発が起きるとは考えられない。)

 

結局、夜になってもその疑問が解決することは無かった。

雅彦が床に就き寝る直前、脳裏に“術式”という2文字が過ったが、深く考えず寝てしまった。




終わったーーーーー。
いやー、やっぱり謎解きは慣れませんね。
皆さんも考察してみてください。

次回もお楽しみに。
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