宇宙世紀0081年11月上旬。
ユニウスセブン落下テロの余波は、ついに地球圏を再び全面戦争の炎へと突き落とした。
大西洋連邦は「テロリストの全滅」というプラント側の報告を反故にし、武装解除、賠償金の支払い、さらには監査員の派遣という事実上の自治権剥奪を要求。これをプラントが拒絶したことで、大西洋連邦は宣戦布告と共にプラント制圧作戦を発動した。
L5宙域で一進一退の攻防を繰り広げる中、地球艦隊の主力はザフトを拘束しつつ、ネタニヤフを旗艦とする奇襲艦隊「クルセイダーズ」を極軌道上の暗礁宙域に秘匿。多数の核ミサイルを搭載した最新鋭MSウィンダムを射出し、プラントを一気に殲滅する計画を実行に移した。
しかし、プラントの切り札である「ニュートロンスタンピーダー」が起動。核ミサイルはすべて自爆し、クルセイダーズの艦隊は消滅。プラントへの核攻撃は未然に防がれ、戦局は膠着状態へと陥った。
この一戦の失敗を受け、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、安全保障を名目に地上への降下作戦「オペレーション・スピア・オブ・トワイライト」を発動。これに東アジア共和国のティターンズがプラントへ宣戦布告し、ユーラシア連邦も非難声明を発表。共栄圏議会連合は、この第二次大戦に対してあくまで「観客席」に留まる構えを見せた。
時を同じくして、オーブ連合首長国の首長会議。
大西洋連邦との同盟案に、カガリ・ユラ・アスハ代表は断固たる反対の声を上げていた。
「駄目だ駄目だ駄目だッ! 冗談ではない! 大西洋連邦が何をしたか、お前たちもその目で見ただろう! 一方的な宣戦布告、それに核攻撃だぞ! なぜそんな国と手を取り合わねばならない!」
しかし、ユウナ・ロマ・セイランは冷ややかに言い放つ。
「その様な子供じみた主張はおやめいただきたい。……我が国はネオジャパンとも関係を悪くしている。この同盟をはねのけ、四方を悪関係国に囲まれて遠く離れたプラントを友と呼び、この星の上で孤立しようと言う気ですか?」
(※オーブに流出した旧日本の伝統文化の起源を巡りネオジャパンと国民感情が悪化しており、共栄圏の東南アジア諸国とも国際救助隊の介入を巡って禍根を残していた)
他の首長たちからも野次が飛び、孤立無援のカガリは圧倒的な政治的敗北へと追い込まれていた。
0081年11月5日。ジオン公国公王庁マップルーム。
地球軌道上のザフト艦隊を映し出すモニターを眺めながら、ギレンは静かに席についていた。その隣には、ダークな雰囲気を漂わせる愛娘ノーマが寄り添っている。参戦国ではないジオンにとって、この大戦はあくまで「他国の争い」に過ぎなかった。
「正直、先の大戦で核を乱射した連中と、ジェネシスを乱射した連中だ。滑稽だな」
「血の気が多いのでしょう? コーディネーターは」
淡々と呟く士官の横で、マップルームの通信官が報告を入れる。
「閣下、プラントと大西洋連邦が開戦しました。ネオジャパンからの映像を回します」
同日、ネオジャパン軍司令部。
「オーブより脱出した艦あり。『ミネルバ』です」
「ふん、あの国は正義面がお得意だが、自国の国家元首を送り届けてもらって厚顔無恥な連中だ」
軍高官たちがざわめく中、ウルベ・イシカワは沈黙を保ったままモニターを見つめていた。映し出されたのは、オーブと連邦の挟撃作戦を受け、絶体絶命の窮地に陥るプラントの新鋭艦ミネルバの姿だった。
ジオン公国公王庁マップルーム。
連邦が投入した大型モビルアーマー「ザムザザー」が、ミネルバの陽電子砲を圧倒的なバリアで防ぎきる。その映像を見たノーマが、傍らのギニアス・サハリンに問いかけた。
「ギニアス技術少将。あれは?」
「恐らく、我が国のアッザムの様なミノフスキークラフトを積んだMAに、強力なバリア装置を搭載した兵器かと」
「要するに、小さな空飛ぶビグザム?」
「概ねその認識でよろしいかと」
「そう」
その傍らで、エギーユ・デラーズとロバート・ギリアムが眉をひそめる。
「いくらザフトの新鋭艦とはいえ、ここまでか」
「1隻の船と1個艦隊、数が違い過ぎる」
「それはどうかしら?」
ノーマが冷ややかに呟いた直後、ミネルバに搭載されていたガンダム(インパルス)が獅子奮迅の機動を見せ、ザムザザーを撃墜して連邦艦隊を壊滅へと追い込んだ。
その予言じみた言動と現実の合致に、デラーズらは言葉を失い、ただノーマを見つめる。ギレンは、その愛娘の異様な才覚に満足げな笑みを深くした。
0081年11月7日。ジオン公国宣伝相ナツメ・ユーリシアは、オーブの地にいた。
ユウナ・ロマ・セイランとカガリ・ユラ・アスハの政略結婚式に、ジオン側の賓客として参列するためである。表敬訪問を早々に切り上げ、式場に陣取ったナツメは冷ややかな目を向けていた。
「ユウナ・ロマもかわいそうに……政治家の嫁が腹芸を苦手とはね。あれじゃあ、見る人が見たらすぐに解るのです。アスハ家も、主家が弱っていれば分家がすべて強いわけじゃない。いずれ、割れるかもしれないのですわね」
だが、彼女の冷めた予想を遥かに超越する事態が、この結婚式場で発生する。
突如として乱入したフリーダムガンダムが式場を襲撃し、新婦であるカガリを文字通り連れ去って、アークエンジェルと共に逃亡したのだ。
式場の混乱を冷ややかに眺めながら、ナツメは小さく吹き出した。
「ぷっくく……まさか、オーブが三流国家以下に成り下がる瞬間に居合わせることになるとはなのです。帰りますよ、こんな茶番、これ以上の滞在は時間の無駄なのです」