【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
――リッジラインが、爆ぜた。
空気が裏返るような衝撃。
閃光が視界を焼き、爆風が地面を這うように広がった。
車体が跳ねるように吹き飛び、金属片が四方に飛び散る。
火球が夜空を照らし、土煙と熱気が一気に押し寄せた。
ジョージはワラビーとジェシカを抱き込むように覆い、全身で盾になった。
けれど、ワラビーの体は大きすぎた。
ジョージの腕の中に収まりきらず、肩がわずかに外へはみ出していた。
その瞬間、金属の破片がワラビーの肩口に直撃した。
鈍く、重い音。皮膚を裂く感触が空気を裂く。
「っ、いって……!」
呻きが漏れたが、ワラビーは崩れなかった。
ジョージは、腕に伝わるわずかな震えを感じながら、さらに力を込めた。
焼けた鉄の匂い、火薬、土。
熱と血のような風が、背中を叩いていた。
爆風が過ぎ去ると、ジョージはワラビーの傷を確認した。
裂けたシャツの隙間から、血がじわりとにじんでいた。
深くはない。
ジョージはベルトポーチから包帯と止血帯を取り出す。
素早く出血部位を圧迫し、布を巻いた。
動きは冷静で、正確だった。
「……擦り傷っす。たぶん、大丈夫っす……」
ワラビーは強がるように言ったが、顔はわずかにゆがんでいた。
そのとき、ジョージの耳がかすかな砂利音を捉えた。
風上から、複数の足音。敵が迫っている。
ジョージは風向きを読むと、すぐに風下を指さした。
「ワラビー、ジェシカ。あっちだ。風下へ逃げろ。
身を低くし、鼻と口を覆え。人のいる場所まで出ろ」
「ジョージは?!」「ジョージさん!!」
ふたりの悲鳴のような声に、ジョージは顔を向けず、低く叫んだ。
「俺が足止めする。
待つな。振り返るな。行け。行くんだ!!」
そう言うと、ジョージはワラビーの胸に、ジェシカの体を強引に押し込んだ。
「行け!!!」
叫ぶと同時に、ワラビーの背中を力任せに叩いた。
大柄な体がつんのめり、反射的にバランスを取るように走り出す。
そのまま、ジェシカとともに、煙の向こうに消えていった。
◇
煙の中、ジョージは息を潜めた。
風下に向かって、微かな足音が近づいてくる。
しゃがんでいる音ではない。
立ったまま、踏みしめるような重さ。
3人。
視界はまだ白く濁っている。
だが、彼にとってそれは意味を持たなかった。
左手が、脇腹に仕込んでいたタントーナイフを抜いた。
黒光りを吸い込んだような刃が、煙の中に無音で現れる。
刃渡りは13センチ。突きを極めた、直線の造形。
日本刀の切っ先を切り出したようなそのフォルムは、生き死にの境を一瞬で分かつための刃だった。
迷いも誇示もない。ただ、終わらせるために研がれた線。
一歩。
音も呼吸も殺して、足元の小石を避ける。
最初の1人は、まだ銃を構える前に、喉を裂かれていた。
反射的に手を添え、ゆっくりと倒れる音すら消すように地面へ伏せさせる。
わずかな気配の変化に、残る2人が気づく。
銃を持ち上げようとした――その一瞬が、生と死の分岐だった。
ジョージは滑るように踏み込み、水平の刃を突き出す。
2人目の腹に食い込んだ刃は、骨を避けて臓腑を切り裂き、空気を押し出すような声を漏らさせた。
3人目が背後に回り、引き金に指をかけたとき――
すでに、ジョージの肘が顎を砕いていた。
落ちた銃に目を向ける暇もなく、喉元に静かに刃が走った。
呼吸ひとつ。
音もなく、3人の命が断たれた。
ジョージはナイフを素早く拭い、伏せたまま前方の影を見据えた。
――廃教会。
崩れた壁が、まるで呼吸するように夜気を吸っていた。
そこにいる。
気のせいではない。臭い、重さ、空気の振動。
“生”とは異質な何かが、その奥で息を潜めている。
(外での打ち合いはだめだ。
流れ弾があいつらに当たるリスクあり。
なら、中で終わらせる)
判断は即決。
ジョージは裏手に回り、崩れた窓から滑り込んだ。
黒い影が、闇へと溶けていく。
次の戦場は、静寂の中に待っていた。
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