【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
一瞬だった。
ジョージの体が風を切り、影から飛び出す。
その動きはあまりにも唐突で、あまりにも速かった。
「撃てッ!」
誰かが叫ぶより先に、銃声が響く。
複数の閃光が交差し、教会内に火花が散る。
だがその弾道は、狙い定まらぬまま宙を裂いた。
パニックに陥った部下たちは、半ば反射的にトリガーを引き合う。
お互いを打ち合うクロスファイアが始まった。
「やめろ! バカども、撃つな!!」
キングスリーの怒声が響いた。
だがそれは、止まるには遅すぎた。
1人、2人、3人……と味方の銃弾に倒れていく。
その混乱の中――
ジョージはすでに地を滑るように動き、柱の陰に滑り込んでいた。
その胸元で、パキンという金属音。
閃光弾のピンを引き抜く音だ。
「……ちょっと騒がしくなるぞ」
自嘲気味に呟き、教会の中央――かつて聖水を満たしていた洗礼盤の裏にそれを転がす。
次の瞬間――
世界が焼けた。
白い閃光が教会内の闇を裂き、爆音が鼓膜を殴る。
その一撃で視界も聴覚も奪われ、敵は完全に混乱した。
ジョージはすかさず飛び出し、転がるようにして駆け抜けた。
敵は十分減らした。
これなら、ジェシカとワラビーに追っ手が掛かることはない。
それを確信しながら、ジョージはただ、教会の外に飛び出した。
呼吸が荒い。
防弾チョッキ越しに受けた二発の衝撃が、骨の芯まで鈍痛を残していた。
一瞬、膝を着きかけたが、踏みとどまる。
その時、埃混じりの風が吹き抜けた。
廃教会の前、砂煙の向こうから、白いセダンが飛び出してくる。
車体は小刻みに揺れ、助手席側のフロントバンパーは大きくへこんでいた。
右前輪もわずかに傾いで見える。
ぶつけたのは明白だ。
急ブレーキと共に車体が斜めに止まる。
助手席のドアが半開きになり、ジェシカが身を乗り出して叫んだ。
「ジョージ!! 乗って!!」
隣のワラビーはハンドルを握ったまま、顔が真っ青だった。
膝が震えているのが、遠目でも分かる。
ジョージは運転席側へ回り込むと、ワラビーと目が合いドアを開けた。
「……運転、代われ。
2人とも、後部座席に乗れ」
ジョージはドアを開け、ワラビーを引きずり出すようにして運転席に座った。
「す、す、すみませんっ!
あの……これ、たぶん敵の車で……!
でも他に、動かせる車、なくて!
でもコレだけ、鍵が刺さっててっ……」
ワラビーは早口でまくしたてる。
「運転したことなくて……!
アクセル踏んだら勝手に動いて、で、あそこの柱に……!
なんか、右前の方からすごい音して……ぶつけちゃって……っ!」
先に後部座席に移動していたジェシカが、「落ち着いて!」と肩を叩く。
しかし、ワラビーはほぼ呼吸困難だった。
「ほ、ほんとすみません、でも動かさなきゃって思って……!」
ジョージはハンドルを握ったまま、ちらりとワラビーを見て、低く言う。
「……よくやった。ベルトしろ」
その一言に、ワラビーの肩が脱力する。
ジェシカも、ぎゅっと口元を結んでシートベルトを締めた。
「姿勢は低く。目は閉じてろ。少し荒れる」
ジョージはサイドミラーで背後を確認し、短く息を吸ってアクセルを踏み込んだ。
タイヤが土を跳ね上げ、白いセダンは戦場を抜けるように、夜の闇へと滑り出した。
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