【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
未舗装の山道を、白いセダンが跳ねながら突き進む。
タイヤが砕けた砂利を噛み、ボディが軋む。
ステアリングを握るジョージの腕には、一切の迷いがなかった。
前輪のバランスが狂っている。振動が掌に伝わる。
だが、気にしない。アクセルを増す。車体が右に流れる。
後部座席で、ジェシカの肩がわずかに縮こまる。
数十秒後、道が舗装に切り替わる。
一瞬だけ静寂が戻るが、街はまだ遠い。
街灯が間隔をあけて、ひとつ、またひとつと通り過ぎる。
光が窓をかすめ、小さな商店や朽ちかけた民家を切り取っては後ろへ流していった。
いくつかの家に灯りはある。だが、そのどれもが眠たげで、無関心だった。
ルームミラーに、異物が揺れた。
地を這うような二つのヘッドライト。
ジョージはアクセルを一段深く踏み込む。
ギアを蹴り上げる。エンジンが唸る。
追跡者がいた。速度を合わせてくる。
「追ってきたな」
低く、誰にも聞かせない声で呟いた。
ミラーの角度を微調整する。
車種は不明だが、動きで分かる。
アクセルを、怒りのままに踏みつけている。
「ワラビー」
「はい!」
「何度もやった受け身の方法、覚えてるか」
「は、はい……! 覚えてます! たぶん!」
「たぶんは要らん。思い出せ。もう一度はない」
声音が少しだけ変わった。
命令ではなく、信頼のトーン。
任せる側の声だった。
「減速したら合図を送る。そしたらジェシカを抱えてドアから降りろ。
丁寧にやる余裕はない。衝撃を逃せ」
ワラビーの喉が鳴る。
隣のジェシカが、小さく息を呑んだ。
「降りたら、誰か助けを乞え。
通行人でも、民家でも、何でもいい。
警察に保護してもらえ。顔を見せれば、本気だってわかる」
「でも、それじゃあ……」
ジェシカが言いかけた。
けれど、次の瞬間。
ルームミラー越しに見えたジョージの目が、言葉を呑ませた。
感情も、迷いも押し込めた目だった。
迷いは行動を鈍らせる。子供でも、それは感じ取れる。
ワラビーが震える手で、ジェシカの肩に触れる。
互いに視線がぶつかる。
顔は強ばっていた。だが、声はまっすぐだった。
「やります……」
短く、吐き出すように言った。
ジェシカも頷く。
拳を固く握りしめた。
年齢よりも一歩、前に出た目をしていた。
「ジョージ……戻ってきてくれるよね」
小さな声。
答えを怖れる声だった。
ジョージは答えなかった。
ルームミラーを、わずかに傾けた。
二人の顔が視界から外れる角度に。
そして、前を見据えたまま言った。
「少しだけ寄り道する」
再びアクセルが踏み込まれる。
白いセダンが、アスファルトを蹴り飛ばす。
背後のヘッドライトが、地を這うように距離を詰めてくる。
後部座席で、二人の子供は黙っていた。
その沈黙には、確かなものが宿っていた。
――自分の判断が、誰かの命を左右する。
その現実を、二人はもう知っていた。
車は夜の田舎道を走り続ける。
誰にも見られていない。だが、確かにそこには芽があった。
戦う者の「覚悟」が、静かに息をし始めていた。
あなたの年代と性別を教えてください。(読者の傾向を知りたい)
-
~20代男性
-
30~50代男性
-
60代~男性
-
~20代女性
-
30~50代女性
-
60代~女性