【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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【111話番外編】SNS戦略:情報戦:印象操作

8:45

 

 ΩRMの窓から見える空は、倉庫の片隅で忘れられた梱包材のような、分厚い雲に覆われていた。

 

 部屋の片隅。会議卓の上に置かれたノートPCの画面には、ヒースロー空港のラウンジで足を組むチャットの姿。

 イヤホンを片耳に差し、手には紙コップのコーヒー。遠巻きに出発アナウンスが響く。

 

『ビーンズ、また使うか?

 お前の相棒がスプーンで世界を救ったって話、今度はマジで全米が泣くぞ?』

 

 ヴィンセントは資料を閉じ、額を指で押さえた。

 そのまま長く息を吐き、しばらく無言で立ち尽くす。

 

「……やるしかねぇな」

 

 「言うと思った」と言いたげに、チャットが肩をすくめる。

 

『SNS展開、タイミングは指示くれ。

 “ビーンズ・ヒーロー再臨”、いけるぞ。

 “銃を捨てて豆を選んだ男”、お涙ちょうだいコースで――』

 

「“銃を捨てた”んじゃねぇ、“最初から使ってねぇ”んだよ」

 

 ヴィンセントが、ぼそりと呟く。

 そして立ち上がり、ホワイトボードに向かってマーカーを走らせた。

 

「“銃も撃たず、命懸けで少女を救った元兵士”

 “ビーンズで戦争を終わらせた男”

 “沈黙が語る正義”」

 

『……やべぇ、ヴィンちゃんが詩人モード入ってる』

 

「うるせぇ」

 

 ヴィンセントはボードを叩くように振り返る。

 

「相手は“車爆破・血痕・武器”って並べて、ジョージを犯罪者に仕立てる気だ。

 だがな、あいつの血を流させたのは、誰だ?」

 

 チャットの顔から笑みが消える。

 画面越しでも、空気が変わったのが分かった。

 

「俺たちは、“命懸けで子どもを救った”って事実を持ってる。

 しかも、銃も撃ってねぇ。素手とナイフでやった。

 崖から這い上がってきた。

 ……あれが正義じゃなきゃ、何なんだよ」

 

『OK、こっちで映像クリップまとめる。“#BeansNotBullets”で行くか?』

 

「主軸にしろ。

 サブは“#SilenceOfPeace”、“#豆の黙示録”。

 とにかく“感情”で押し切る。ロジックじゃなく、泣かせにいけ」

 

『……お前がそれ言うと、怖いんだよな』

 

「“子どもを守った英雄を、警察が追い詰めてる”って空気を、先に作る。

 警察が強硬に動けば動くほど、“正義の敵”になるように仕込め。

 タイミングは、俺が決める」

 

 チャットの姿が、空港の雑踏のなかでゆるく頷く。

 

『素材あるか?』

 

「ある。あのダイナーで、豆をすくってるあいつの映像。

 俺がナレーション入れる。“……油が悪い”だけでいい」

 

『“黙って豆を食ってただけの男が、少女を救った”ってやつか。

 やれやれ、ホント皮肉な時代だな、ヴィンちゃん』

 

 ヴィンセントはPCを閉じながら、ぽつりと返す。

 

「……皮肉が効いてるから、刺さるんだよ」

 

 雨が、外のガラスを叩き始めた。

 静かな戦争が、幕を開ける音だった。

 

「感情は武器だ。

 正義ってのは、先に叫んだ奴のもんなんだよ――世間じゃな」

 

 

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