【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
8:45
ΩRMの窓から見える空は、倉庫の片隅で忘れられた梱包材のような、分厚い雲に覆われていた。
部屋の片隅。会議卓の上に置かれたノートPCの画面には、ヒースロー空港のラウンジで足を組むチャットの姿。
イヤホンを片耳に差し、手には紙コップのコーヒー。遠巻きに出発アナウンスが響く。
『ビーンズ、また使うか?
お前の相棒がスプーンで世界を救ったって話、今度はマジで全米が泣くぞ?』
ヴィンセントは資料を閉じ、額を指で押さえた。
そのまま長く息を吐き、しばらく無言で立ち尽くす。
「……やるしかねぇな」
「言うと思った」と言いたげに、チャットが肩をすくめる。
『SNS展開、タイミングは指示くれ。
“ビーンズ・ヒーロー再臨”、いけるぞ。
“銃を捨てて豆を選んだ男”、お涙ちょうだいコースで――』
「“銃を捨てた”んじゃねぇ、“最初から使ってねぇ”んだよ」
ヴィンセントが、ぼそりと呟く。
そして立ち上がり、ホワイトボードに向かってマーカーを走らせた。
「“銃も撃たず、命懸けで少女を救った元兵士”
“ビーンズで戦争を終わらせた男”
“沈黙が語る正義”」
『……やべぇ、ヴィンちゃんが詩人モード入ってる』
「うるせぇ」
ヴィンセントはボードを叩くように振り返る。
「相手は“車爆破・血痕・武器”って並べて、ジョージを犯罪者に仕立てる気だ。
だがな、あいつの血を流させたのは、誰だ?」
チャットの顔から笑みが消える。
画面越しでも、空気が変わったのが分かった。
「俺たちは、“命懸けで子どもを救った”って事実を持ってる。
しかも、銃も撃ってねぇ。素手とナイフでやった。
崖から這い上がってきた。
……あれが正義じゃなきゃ、何なんだよ」
『OK、こっちで映像クリップまとめる。“#BeansNotBullets”で行くか?』
「主軸にしろ。
サブは“#SilenceOfPeace”、“#豆の黙示録”。
とにかく“感情”で押し切る。ロジックじゃなく、泣かせにいけ」
『……お前がそれ言うと、怖いんだよな』
「“子どもを守った英雄を、警察が追い詰めてる”って空気を、先に作る。
警察が強硬に動けば動くほど、“正義の敵”になるように仕込め。
タイミングは、俺が決める」
チャットの姿が、空港の雑踏のなかでゆるく頷く。
『素材あるか?』
「ある。あのダイナーで、豆をすくってるあいつの映像。
俺がナレーション入れる。“……油が悪い”だけでいい」
『“黙って豆を食ってただけの男が、少女を救った”ってやつか。
やれやれ、ホント皮肉な時代だな、ヴィンちゃん』
ヴィンセントはPCを閉じながら、ぽつりと返す。
「……皮肉が効いてるから、刺さるんだよ」
雨が、外のガラスを叩き始めた。
静かな戦争が、幕を開ける音だった。
「感情は武器だ。
正義ってのは、先に叫んだ奴のもんなんだよ――世間じゃな」
あなたの年代と性別を教えてください。(読者の傾向を知りたい)
-
~20代男性
-
30~50代男性
-
60代~男性
-
~20代女性
-
30~50代女性
-
60代~女性