【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
サムが無言のままファイルを一つ開いた。
モニターに、古びたJPEGデータが映し出される。
「……あー、これだけ残ってた。兄貴の写真」
サムはエナジードリンクを片手に、目を細めた。
「コーイチ(剛一)
MITの学生。これ、たぶん学生時代のスナップだな。
――まあ、見るからに“理系の勝ち組”って感じだな」
画面に映っていたのは、高身長で精悍な青年。
白いシャツをラフに着て、誰かに向かって優しく笑っている。
その笑顔は、どこか――別の世界線でまっすぐ育った“もしものジョージ”を思わせた。
チャットが、息を呑んだように目を細める。
「……似てるな。目の形と、口元の癖……ジョージが真っ当に育ってたら、ああなってたのかもな」
サムは缶をトン、と机に置いた。
「うん。でも現実には、親も兄貴も死んで、
自分の名前すら奪われて、“ウガジン”っていう借り物で生きてるわけで。
で、本人はそれすら気にしてないっていう」
チャットが低く呟く。
「……皮肉にも程があるな」
「皮肉じゃなくて、仕様だろ。
生き延びるって、たいてい“望んだ結果”じゃなくて“残った選択肢”の中で決まるもんだし」
サムは最後に一つファイルを開いた。
「ちなみに、“ジョージ・ウガジン”って名前の記録は、8歳から突然出てくる。
それ以前の足跡はゼロ。
仮名で施設入り、その後は転々としてる」
チャットが目を細める。
「8歳で死んだはずの“誠”と、8歳から現れた“ジョージ”……」
「つながってるでしょ、これ。見たまんま」
サムはモニターの電源を落とした。
画面が黒くなり、部屋の空気がひときわ冷たくなる。
ヴィンセントは、深く目を伏せた。
「……消された名前の代わりに、偽名を与えられて生き延びた。
それが“ジョージ・ウガジン”ってわけか」
サムは答えず、エナジードリンクの缶をカシャンと軽く転がした。
その音だけが、ブリーフィングルームに残った。
直後、サムは笑いともつかない息が漏れた。
喉が引きつり、肩が不規則に震える。
そして――静かに、涙がこぼれた。
「……あー、来たな。……またか」
そう言いながら、眉一つ動かさずに自分の頬を拭う。
笑っているのか泣いているのか、自分でも判断がつかない顔で。
チャットは無言でティッシュを差し出した。
ヴィンセントが咽せかけたサムの背中を、どん、と軽く叩く。
「お前な……流石に飲みすぎだろ。
また脳みそ詰まってぶっ倒れるぞ。
今度は“感情失禁”の後遺症だけじゃ済まねぇぞ」
山になったエナジードリンクの空き缶を見て、ヴィンセントが半ば呆れながら吐き出す。
サムは目を拭きながら、ぼそっと返す。
「そんときはさ、こいつを点滴で流し込んどいてくれ。
カフェインで魂だけ動くかもしんねぇから」
自嘲でも開き直りでもなく、ただの事務的な返答。
チャットは小さくため息をついた。
「……そのうちマジで死ぬぞ」
「そしたら楽でいいじゃん。
感情も発作も止まるし」
チャットは呆れ顔で空き缶を見つめ、ヴィンセントはその様子を無言で眺めていたが――
やがて天を仰ぎ、ぽつりと吐き出した。
「……なんでウチには、こんなヤツばっかりなんだ……」
その一言に、間髪入れず――
「社長の人徳だろ?」
「選球眼の問題じゃね?」
チャットとサムが、同時に、別のことを言った。
一瞬の沈黙。
ヴィンセントが口を開く。
「……お前ら、示し合わせてやってんのか」
「いや、だって真実ってたいてい複数あるじゃん」
と、サムが無表情で缶を片付けながら言った。
「ところで、敵は何だ?」
チャットが問うた。
その声音は、仲間としての問いではなく――責任者としての判断確認。
「組織か? 国家か?」
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