【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
「組織か? 国家か?」
ヴィンセントが口を開いた。
「どっちかっていうと、“どっちも”だろ。
家族ごと消すのに、民間の力だけでできるわけがねぇ」
「うん。個人じゃなくて“構造”の問題だな」
サムは冷静に続ける。
「“どこかの誰か”がやったんじゃなくて、あのとき“そういう構造”が機能してた。
それだけ。
殺す意思がなくても、殺せる構造。
そういうのが一番タチ悪いんだよ」
チャットは深く息を吐いた。
「……つまり、“ぶつかる相手”が明確じゃねぇってわけか」
返答はなかった。
だが全員が、その意味を理解していた。
“敵が見えない”――それは戦闘において、最悪の状況だ。
殴り返すべき相手が不在のまま、ただ一方的に擦り潰される。
ヴィンセントは、やがてゆっくりと姿勢を正し、仲間たちを順に見渡した。
「……方針を変える」
その言葉に、チャットが眉をひそめる。
「会社の?」
「ああ。これまでは“関わらず、巻き込まれず”でやってきた。
でも、ジョージの件でそれも終わりだ。
もう、安全圏にはいない」
サムが静かに尋ねる。
「で、どうすんの?
敵に正面から殴りかかるわけ?」
ヴィンセントは微かに笑った。
その目は、冷静にして強い。
「殴り合いはしない。
が、目を逸らしもしない。
国家でも組織でも、向こうが仕事を頼むなら受ける。
だが、首輪はつけさせねぇ。
こっちも情報を取る。
深入りはせず、ただし目は離さない」
チャットが口笛を吹いた。
「……言うようになったな、“社長”」
「言うようになったのはお前らのせいだ。
“こんなヤツらばっかり”なんだから、俺も強くならなきゃな」
ヴィンセントはそう言って立ち上がった。
サムがぼそりと漏らす。
「……まぁ、“普通の会社”じゃなくなったな。完全に」
チャットが肩をすくめて同意する。
「――降りるなら、今だぞ」
部屋が静まる。
チャットは肩越しに彼を見て、ふっと鼻で笑った。
「いやー、今降りたら静かで長生きできたろうに。
惜しいなぁ、俺。
でも性に合わないんだよ、安定ってやつは。
トラブル?
上等。
地雷原でステップ踏むのが俺の人生だ」
サムは椅子の背に身を預け、エナジードリンクの空き缶をひとつ転がす。
「……まあ、好きにやらせてくれるし、余計な口出しもねぇから悪くないよ。
ただ、給料止まったら即バックれるけど。
つーかさ、国家と組織に喧嘩売る会社ってさ、普通に考えて経営破綻してるよね。
……存続のプラン、あんの? マジで」
チャットが笑う。
「心配すんな。“うちの社長”は筋肉と義理で生きてるタイプだ」
ヴィンセントは少しだけ表情を緩めた。
「お前ら……ほんと、まともなの一人もいねぇな」
チャットとサムが、同時に言った。
「「お前が言うな」よ」
一瞬、場がゆるむ。
だが笑いにはならなかった。
空気の奥に、澱《おり》のような重さが残っていた。
――ふと、ヴィンセントの脳裏に、あの日の食堂の風景がよみがえる。
10年前。軍の食堂。
金属製のトレイに乗ったミートローフ。
ひとけのない隅の席。
小柄な新兵が、無表情のままスプーンを口に運んでいた。
「命に、所有感がないんです」
あのときの声は、抑揚がなかった。
それでも耳に焼き付いて離れない。
――命に、所有感がないんです。
生きてるというより、“生かされてる”感じが強い。
だからせめて、使い道ぐらいは自分で決めたいと思った。
なんか意味を持たせないと……借り物にしては雑だなって――
思い出しながら、ヴィンセントは静かに言った。
「……ジョージがな。昔、言ってた」
チャットとサムがゆっくりと彼を見た。
「“自分の命は、借り物だ”って。
だからせめて、“どう使うか”くらいは自分で決めるって。
何か意味を持たせたいってな」
誰も言葉を返さなかった。
ただ、その言葉だけが、空気を深く沈ませた。
サムがふと缶を指で突きながら言う。
「あいつさ、自分の命を“誰かの残りカス”くらいに思ってんじゃねぇの?
そりゃ、死ぬのも惜しくねぇ顔するわけだよな。
もう使い道なんて、護衛くらいしか残ってねぇんだから」
チャットの表情が変わった。
無言のまま、椅子をぐっと押しのけて立ち上がる。
「……あんまり調子に乗るなよ、サム」
声は低い。怒鳴りもしない。
それが逆に、研ぎ澄まされていた。
「オイラは事実を言っただけだ」
サムは視線をモニターから外さないまま、即答する。
「本人だって気づいてる。
“自分にはそれくらいしか価値がない”ってな」
「それをお前の口で断言する筋合いはねぇだろ」
チャットの目が細まる。
一瞬、部屋の空気が凍りつく。
言葉の奥で拳が握られる気配があった。
そのとき――
ヴィンセントの声が、低く、鋭く空気を裂いた。
「……やめろ。今ここで、ジョージの“何を語るか”で争うな」
2人とも、わずかに目線をそらす。
その声には、理屈ではなく“止められねぇ力”があった。
「ジョージが何を考えてるかなんて、あいつ以外にわかるわけがねぇ。
分かったような口きいて、仲間割れするな。……くだらねぇ」
チャットが舌打ちし、サムは静かに息を吐いた。
そして何も言わず、元の姿勢に戻る。
静けさだけが、再び部屋を支配した。
あなたの年代と性別を教えてください。(読者の傾向を知りたい)
-
~20代男性
-
30~50代男性
-
60代~男性
-
~20代女性
-
30~50代女性
-
60代~女性