【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
「SERE-Cを受ける」
その瞬間、ヴィンセントの顔が変わった。
「……は?」
「ΩRMの契約先経由でPMC向けのSERE-Cを手配できる。俺は受ける」
「待て待て待て待て」
ヴィンセントは額を押さえ、深く座り直した。
「お前、今なんつった?」
「SERE-Cを受けると言った」
「いや、それは聞こえたよ!」
ヴィンセントはじっとジョージの目を見た。
(……こいつ、今の自分を“壊さなきゃいけない”と思ってるな)
どこか焦点が合っていない。
普段のジョージなら、こんな「意味のない選択」はしない。
だが、今のこいつは「生き残ったこと」に納得していない。
それが分かった瞬間、ヴィンセントは舌打ちした。
(クソが……)
横で黙って聞いていたチャットが、軽く手を挙げた。
「はいはい出ました略称祭り。
SERE-C?
新しいFPSのチートコードか?
なぁジョージ、たまには“ふつうの言葉”で会話してくれ。
俺の脳、もう軍用語でメモリオーバーしてるんだわ」
ヴィンセントが「マジか」って顔をした後、大きく息を吐く。
ジョージからチャットへと目線を移した。
「……お前、本気で知らねぇのか?
社則に書いてあったろ?」
「ん? SERE-C?」
チャットは悪びれた様子もなく、鼻先で笑った。
「“SERE-C訓練を過去に受けた者、もしくはUREXを受ければハイリスク任務にも就けます”って文言は見たぜ?
でも、中身はご丁寧に伏せてあったよな。
『精神的負荷が強い可能性があります』って注意書き付きでさ。
ああいうのって大体ヤバいやつだろ?」
「……ああ、ヤバいなんてもんじゃねぇ」
ヴィンセントが、溜め息交じりに額を押さえる。
「まず、SERE-Cってのは、
“Survival, Evasion, Resistance, and Escape”。
レベルCは、その中でも最高難度の実地訓練だ。
ざっくり言えば、“敵に捕まったとき、どうやって生き延びるか”を体で叩き込まれる」
「ふむふむ……で?」
チャットが顎を撫でながら、気の抜けた声を返す。
「もっとわかりやすく言ってやるよ」
ヴィンセントの声色が低くなった。
「捕虜になることを前提にした、拷問と尋問への耐性訓練だ」
ピクリと、チャットの眉が動いた。
「……拷問?」
「ああ。監禁、絶食、睡眠剥奪、精神的圧迫。
何日も“敵役”に追い詰められ続ける。しかも本気でな。
ようやく脱出できたら終了――それまでは、人間として扱われる保証すらない」
チャットは口笛を吹いた。
「おいおい、それって“訓練”じゃなくて合法の人権侵害じゃねぇのか?
やりすぎだろ、それ。なんだよ、“敵役”って。誰がその役やるんだ」
「軍の中でも選ばれた教官だ。
で、死人が出るのも珍しくねぇ」
ヴィンセントが淡々と言い切る。
「だからこそ、特殊部隊とか、パイロットとか――“落ちたら終わり”な連中しか受けない。
普通は一度受ければ、それで一生分。
もう二度とやりたくねぇ、ってなる類のものだ」
「なるほどね……」
チャットは腕を組み、椅子にもたれながらジョージをちらりと見る。
その目には、いつもの軽口の奥に、どこか計算された警戒心が宿っていた。
「……なあジョージ、お前さ。拷問耐性って意味じゃ、もうプロ級だろ?
俺の知ってる限りじゃ、地獄ツアーはもう済んだんじゃないのか?」
「2回だ」
ジョージは、まるで天気を告げるような口調で返した。
「……はぁぁ? 2回?」
チャットの眉が跳ね上がる。
「1度目は軍で。2度目は……ΩRMの立ち上げ時に」
チャットが思わずヴィンセントに振り返る。
ヴィンセントは、すでに渋い顔で腕を組んでいた。
「……おいおい、SERE-Cって“人生で1度で充分”な訓練じゃなかったか?」
「ああ、普通はな。
でも、あのときは“必要だった”。」
ヴィンセントが腕を組み、息を吐きながらもどこか誇らしげに言った。
「ΩRMを立ち上げた時に決めたんだ。
“SERE-C相当の訓練を受けた者を、ハイリスク案件に投入する”ってルールをな。
ΩRMアレンジ版。
Urban Resistance & Escape Exercise。
通称
市街地を想定した“都市型サバイバル訓練”。
本来のSERE-Cよりも“実運用に即した内容”に改良したんだ。
SERE-Cをそのまま輸入すりゃ、死人が出る。
だから拷問を削り、都市に合わせて作り直した。
でもな――甘くしたつもりはねぇ
尋問と心理戦は……まぁ、そこそこキツい設定だ」
チャットが半笑いで眉を上げる。
「で、自分たちも巻き込んだってわけか?」
ヴィンセントは鼻で笑った。
「当然だろ。部下に課す以上、設立者である俺たちが身を張らなきゃ、誰が信じる?」
その目には、創業者としての覚悟と信念が宿っていた。
「“やらせるなら、自分もやれ”。それが俺たちのやり方だ。
――中途半端な命令なんざ、命張る現場じゃ通用しねぇからな。
説得力を持たせるには、まず俺たち創業メンバーが身を張るしかなかった。
受けたのは俺と、ジョージ、そして、お前が入る前に抜けたもう1人の3人だ」
「うわぁ……。精神ヤバくなりそう……」
「なる」
ヴィンセントは即答した。
「……俺はな、2回目のあと、寝言が止まらなかったんだよ。
夜中に叫んで、夢の中で『降伏しねえ!』って暴れて……彼女に殴られた。マジで」
肩をすくめて、少しだけ笑う。
「1ヶ月くらい、物音に過敏になってさ。
電子レンジの“チン”でシャドーパンチ出るくらいにはヤバかった」
「お前、それPTSDってやつじゃねぇの?」
チャットは呻くように言った。
「……まぁな。でもよ、それでも“まし”な方だ。
――こいつは、何っにも喋んなくなった」
ヴィンセントはジョージを指さした。
「感情も、言葉も、全部“口の外”に出てこねぇ。
命令されれば動く。
だけど、自分からは一切、何もしなかった。
メシさえも俺の許可がなきゃ食わねぇ。
あの時ジョージは、人間じゃなかった」
チャットは目を細めてジョージを見た。
「で、お前は今さらもう一発、それを受けたいと?」
「ああ、しかも、UREXじゃ無くて、SERE-Cの方な」
ジョージは沈黙のまま、わずかに視線を外すだけだった。
チャットはジョージをまっすぐ見た。
「なあ、ジョージ」
チャットの声は、いつになく静かだった。
ジョージは無言で視線を返す。
「……お前ってさ、昔から“スパルタ式・俺磨き”好きだよな。
で、今回は何だ?
“拷問ダイエット”ってか」
ヴィンセントが眉をひそめる。
「……は?」
「いやいや違ぇよ、ヴィンちゃん。
これはもう“訓練”の枠超えてる。“自己罰”だ。
錯乱状態になった自分を恥じている」
ジョージの指がわずかに動いた。目は伏せたまま。
「……」
「折れねぇヤツほど、ある日ポッキリいくんだよ」
チャットは指を組み、深く息をつく。
「……イソップ寓話、知ってるか?」
「また昔ばなしかよ」
ヴィンセントがうめくように言うと、チャットが即座に返した。
「うるせぇ、黙って聞け。今は俺のターンだ」
一拍の沈黙の後、チャットは語り出す。
「“アシとオリーブの木”って話がある。
オリーブは頑丈で、強くて、絶対に折れねぇって威張ってた。
でも嵐が来た時、風に逆らって――ボキッと折れた。
……一方のアシは、風に合わせて揺れた。流されるまま。
でも、嵐が過ぎたら、ちゃんと立ってた
……どっちが生き残ったと思う?」
ジョージは目を伏せたまま、何も言わない。
チャットは笑みを浮かべながら、ぽつりと言った。
「お前さ、今オリーブの木になろうとしてる。
でも、もうそれやめねぇか?」
その言葉に、ジョージの指が、また小さく動いた。
嵐に耐える強さ――それは、ただ“折れない”ことじゃない。
(……俺は、何に抗おうとしてる?)
チャットは少しだけ声をやわらげる。
「次は……アシになれよ。」
室内の空気が、静かに沈んだ。
ジョージはベッドの上で、ただ天井を見つめていた。
誰の目も見ず、誰にも答えず。
けれどその声だけが、確かに――胸の奥に届いていた。
控えめに、ドアがノックされた。
間を置かずに、前室の弁護士がそっと顔を覗かせる。
「……申し訳ない。どうしても“面会を希望する”人物が来ています」
ヴィンセントの視線が鋭くなる。
「誰だ? メディアか? それとも……連邦の犬どもか?」
「いえ……日本人です。名乗りは――」
その声を遮るようにして1人の男が入ってきた。
あなたの年代と性別を教えてください。(読者の傾向を知りたい)
-
~20代男性
-
30~50代男性
-
60代~男性
-
~20代女性
-
30~50代女性
-
60代~女性