【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
控えめに、ドアがノックされた。
間を置かずに、前室の弁護士がそっと顔を覗かせる。
「……申し訳ない。どうしても“面会を希望する”人物が来ています」
ヴィンセントの視線が鋭くなる。
「誰だ? メディアか?
それとも……連邦の犬どもか?」
「いえ……日本人です。名乗りは――」
その声を遮るようにして1人の男が入ってきた。
スーツを着た初老の男。
黒髪に白が混じり、額には深い皺。
髪はきっちり撫でつけられ、日焼けした肌に無精髭が浮いている。
派手さはないが、空気に沈むような重みがあった。
感情は読めない。だが、目だけが異様に静かだった。
その男を見た瞬間、ヴィンセントの体が反応した。
椅子が軋む。表情が変わる。驚き、警戒、そして記憶のざわめきが交錯する。
弁護士に視線を飛ばし、退室を促す。
扉が閉まる音が遠く感じられた。
「……カタギリ・シューイチ? どうしてお前がここに」
チャットが眉をひそめる。
「なんて言った? 今」
男は微かに顎を引き、静かに応じた。
「片桐修一だ」
チャットの目つきが変わる。
皮肉と軽口の奥に隠れていた何かが、一瞬だけ剥き出しになる。
「……マジかよ。実在したのか。
都市伝説だと思ってたぜ。
半分は幽霊、半分は神話だろ、お前」
その名は、ただの名乗りではなかった。
まるでコードネームのように、部屋の空気を変える。
ジョージは黙ってそのやり取りを見ていたが、反応は薄い。
“知らない名前”を聞いた時のように、ただ瞬きをしただけだった。
片桐がゆっくりとジョージを見やる。
正面から、目を逸らさず。
「……兄貴に瓜二つだな。
だが、口元は母親似だ。
目の奥の強情さは、父親譲りか」
言葉は英語だったが、日本語話者特有の訛りが残っている。
ジョージは何も言わない。ただ、じっと見返す。
その奥でわずかに何かが軋んだ。ヴィンセントだけが、それを察した。
ヴィンセントが前に出る。声が低い。
「……何しに来た」
片桐は、まっすぐに言った。
「忠告だ」
空気が一段、冷える。
チャットは黙ったまま、わずかに首を傾けた。
「……どういう意味だ」
片桐は視線を動かさないまま続ける。
「“ジョージ・ウガジン”が政府で危険人物扱いされ始めてる」
チャットが顔を上げた。口はまだ開かない。
「命令はまだ出ていない。
だが、あいつの情報に複数のアクセスがある。
正規ルートじゃない。裏から、誰かが探ってる」
ヴィンセントが低く訊く。
「誰がやってる?」
片桐はほんの少しだけ目線を落とす。
「断定はできん。
だが、内部の誰かが外国と繋がっている可能性がある。
金の流れも、情報もおかしい。
その手が、ΩRMにまで伸びてきている」
チャットがようやく口を開いた。
「……つまり、俺たちの周りにレンズが向いてるってわけだ。
望遠で、じわじわ狙ってきてる」
片桐が頷く。
「そうだ。
しかも、ジョージを“中心にいるように”仕向けている。
本人が動かなくても、“危険”というラベルを貼られた瞬間、排除対象になる。
この世界は、そういう仕組みだ。
お前たちなら分かるはずだ」
ヴィンセントは唇を噛んだまま、ジョージに目をやる。
ジョージは動かない。表情も変わらない。
ヴィンセントが再び片桐に向き直る。
「――目的はなんだ。どうして今ここに来た」
片桐の答えは、ぶれなかった。
「間に合ううちに、警告を出しに来た。それだけだ。
……あんたらが、動くかどうかは別としてな」
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