【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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119:片桐修一

 控えめに、ドアがノックされた。

 間を置かずに、前室の弁護士がそっと顔を覗かせる。

 

「……申し訳ない。どうしても“面会を希望する”人物が来ています」

 

 ヴィンセントの視線が鋭くなる。

 

「誰だ? メディアか?

 それとも……連邦の犬どもか?」

「いえ……日本人です。名乗りは――」

 

 その声を遮るようにして1人の男が入ってきた。

 

 スーツを着た初老の男。

 黒髪に白が混じり、額には深い皺。

 髪はきっちり撫でつけられ、日焼けした肌に無精髭が浮いている。

 派手さはないが、空気に沈むような重みがあった。

 

 感情は読めない。だが、目だけが異様に静かだった。

 その男を見た瞬間、ヴィンセントの体が反応した。

 椅子が軋む。表情が変わる。驚き、警戒、そして記憶のざわめきが交錯する。

 

 弁護士に視線を飛ばし、退室を促す。

 扉が閉まる音が遠く感じられた。

 

「……カタギリ・シューイチ? どうしてお前がここに」

 

 チャットが眉をひそめる。

 

「なんて言った? 今」

 

 男は微かに顎を引き、静かに応じた。

 

「片桐修一だ」

 

 チャットの目つきが変わる。

 皮肉と軽口の奥に隠れていた何かが、一瞬だけ剥き出しになる。

 

「……マジかよ。実在したのか。

 都市伝説だと思ってたぜ。

 半分は幽霊、半分は神話だろ、お前」

 

 その名は、ただの名乗りではなかった。

 まるでコードネームのように、部屋の空気を変える。

 

 ジョージは黙ってそのやり取りを見ていたが、反応は薄い。

“知らない名前”を聞いた時のように、ただ瞬きをしただけだった。

 

 片桐がゆっくりとジョージを見やる。

 正面から、目を逸らさず。

 

「……兄貴に瓜二つだな。

 だが、口元は母親似だ。

 目の奥の強情さは、父親譲りか」

 

 言葉は英語だったが、日本語話者特有の訛りが残っている。

 ジョージは何も言わない。ただ、じっと見返す。

 その奥でわずかに何かが軋んだ。ヴィンセントだけが、それを察した。

 

 ヴィンセントが前に出る。声が低い。

 

「……何しに来た」

 

 片桐は、まっすぐに言った。

 

「忠告だ」

 

 空気が一段、冷える。

 チャットは黙ったまま、わずかに首を傾けた。

 

「……どういう意味だ」

 

 片桐は視線を動かさないまま続ける。

 

「“ジョージ・ウガジン”が政府で危険人物扱いされ始めてる」

 

 チャットが顔を上げた。口はまだ開かない。

 

「命令はまだ出ていない。

 だが、あいつの情報に複数のアクセスがある。

 正規ルートじゃない。裏から、誰かが探ってる」

 

 ヴィンセントが低く訊く。

 

「誰がやってる?」

 

 片桐はほんの少しだけ目線を落とす。

 

「断定はできん。

 だが、内部の誰かが外国と繋がっている可能性がある。

 金の流れも、情報もおかしい。

 その手が、ΩRMにまで伸びてきている」

 

 チャットがようやく口を開いた。

 

「……つまり、俺たちの周りにレンズが向いてるってわけだ。

 望遠で、じわじわ狙ってきてる」

 

 片桐が頷く。

 

「そうだ。

 しかも、ジョージを“中心にいるように”仕向けている。

 本人が動かなくても、“危険”というラベルを貼られた瞬間、排除対象になる。

 この世界は、そういう仕組みだ。

 お前たちなら分かるはずだ」

 

 ヴィンセントは唇を噛んだまま、ジョージに目をやる。

 ジョージは動かない。表情も変わらない。

 

 ヴィンセントが再び片桐に向き直る。

 

「――目的はなんだ。どうして今ここに来た」

 

 片桐の答えは、ぶれなかった。

 

「間に合ううちに、警告を出しに来た。それだけだ。

 ……あんたらが、動くかどうかは別としてな」

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