【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
「目的は?」
ヴィンセントの問いに、男は正面から応じた。
「敵じゃない。政府の使いでもない。
ただの民間人だ。
……名は片桐修一。
元・内閣情報調査室所属。
今は肩書きも権限もない」
静かな間。
事実だけを並べたが、それがすべてではないことも分かる声だった。
チャットが乾いた口調で割り込む。
「“ただの民間人”が、政府のアクセス履歴を漁れるってのか。
退職官僚ってのはそんな便利機能ついてんのかよ」
片桐は答えず、吐息だけ漏らした。
「……20年前の話をしよう」
空気が変わる。
ジョージの視線がかすかに揺れた。
ヴィンセントとチャットも、次の言葉を待つ姿勢に切り替える。
「ある少年がいた。エリート一家の末子。
日本生まれ。
家族はオハイオに駐在していた。
ある国家プロジェクトに関わっていた――だが」
声が低く落ちる。
「一家ごと、消された。
生き残ったのは8歳の少年だけだ」
ジョージの眉がわずかに動く。
それでも、彼は黙ったままだ。
「日本政府は、前代未聞の異例の措置を取った。
少年の日本国籍を消し、アメリカ国籍を与えられた。
名前も戸籍も抹消された。
“もういない子ども”にされた」
片桐は淡々と告げる。
「……その処理に、俺は加担した。
見て見ぬふりをした。
つまり――見捨てた」
チャットが何か言いかけたが、ヴィンセントが手を上げて制した。
片桐の視線はまっすぐ、ジョージを貫いていた。
「……別に、お前の話じゃない」
そう言いながらも、目はごまかしていなかった。
試していた。導こうとしていた。
だが、ジョージの反応はない。
ただ、目を細めただけだった。
片桐は一息ついた。
「俺は、あのときの罪をまだ背負っている。
だから来た。
――ジョージ・ウガジン。
お前を消させないために」
重い沈黙が落ちる。
誰もが、それぞれのやり方で言葉の意味を咀嚼していた。
ヴィンセントが問う。
「……で、俺たちにどうしろと?」
片桐の目が、再びジョージを見据える。
「こちらに貸しを作ってほしい」
場が張り詰めた。
「公に出る必要はない。
名前も顔も出さなくていい。
ただ、“味方にいる”という前提を、俺たちに与えてくれ」
チャットが鼻で笑う。
「……聞いたか?
ヴィン。貸しを作れ、だとよ」
片桐の表情は動かない。
「これは命令じゃない。契約でもない。
だが、政府が表に出せない案件には、お前のような存在が必要だ。
そのときが来たら動いてくれ。
それだけでいい。
見返りとして――お前とΩRMには、手を出させない」
ヴィンセントが少し顔をしかめる。
「つまり、ジョージを“いじれない存在”にしたいってことか」
片桐が即答する。
「そうだ。“利用価値”があると認識させる。
それが最強の防御になる。
敵は、“面倒な駒”には簡単に手を出さない」
ジョージの目が微かに揺れた。
表情ではない。感覚のスイッチが入るような、冷静な視線の変化だった。
片桐は、声を落として続けた。
「……安心しろ。首輪はつけない。
命令も出さない。
俺自身、何度も裏切られた。
信用などしていない。
だからこそ、お前たちには自由でいてもらいたい。
だが――必要なときには、互いに手を貸し合いたい。それだけだ」
深い静寂が場を包んだ。
ジョージはまだ何も言わなかった。
だがひとつだけ、明確だった。
――目を、逸らさなかった。
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