【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
沈黙が落ちたまま、数秒。
ジョージは片桐の視線を正面から受け止めたまま、低く言った。
「……条件がある」
片桐の眉がわずかに動いた。
「命令は受けない。契約もしない。
必要だと判断したときだけ、動く」
その声音は、杭を打つように一定で冷静だった。
「……だから、お前らも俺に首輪をつけるな。
“飼う”つもりなら、今すぐ引け」
片桐はしばし無言。
やがて短く息を吐いて、うなずいた。
ジョージはゆっくりと身を起こす。
傷のある体をまっすぐにし、言葉を継いだ。
「これは“協力”じゃない。
生き延びるための交渉だ。必要なら貸す。……ただし」
声の温度が、少しだけ上がる。
「命の線を越えたら、こちらも変わる。
――それだけは忘れるな」
空気が一瞬、張り詰めた。
チャットがため息混じりに苦笑する。
「……あーあ。やっぱ乗るのかよ、お前。
いつもそうだな。地雷原でも、平気で入ってくタイプ」
軽い口ぶりとは裏腹に、声には焦りがにじんでいた。
ジョージは何も返さない。ただ、チャットを一瞥する。
それを見て、チャットが片手を上げる。
「OK、OK。了解。
お前が決めたなら――
俺らの仕事は、“お前を壊させない”ってだけだ」
ヴィンセントが頷いた。
「それでいい。俺たちは誰の犬でもない。
だが、仲間のためなら牙は貸す」
片桐が静かに言葉を置く。
「……それで十分だ。
それ以上の信頼は求めない」
その声に、かつての官僚の傲慢さはなかった。
ただ、ひとりの人間が、傷の記憶ごと差し出す掌のようだった。
病室が静まる。
ジョージは簡素なベッドの上で身を起こしたまま、動かなかった。
視線は片桐に向けられたままだったが――
瞳の奥が、ゆっくりとにじみ始めていた。
ヴィンセントが無言で背もたれを倒してやる。
身体が沈む。まぶたが下りる。
「……限界だな。よく耐えた」
それは、労わりであり、戦友への敬意だった。
ジョージが小さく唇を動かす。
「……もう……話したくない……」
それは声というより、ただの呼気だった。
けれど、それで充分だった。
術後2週間――ようやく、“ジョージ・ウガジン”が戻ってきた。
チャットがベッドの端に腰を下ろす。
「おかえり。……しばらくは、寝ぼけた患者でいいさ」
片桐はベッドから半歩下がり、頭を深く下げた。
「今日は、これで退く。
続きは……また起きてからでいい」
誰も引き留めなかった。
ヴィンセントが無言でブランケットを胸元までかける。
その動きに迷いはない。
ジョージはまぶたをわずかに開き、天井を見ていた。
その視線が、微かに揺れる。
「……寝る。起きたら……また決める」
それが最後だった。
まぶたが落ち、呼吸が深くなる。
照明は落とされない。
ただ、静かに。“守る者たち”だけが残された。
片桐が出ていったドアのほうを、ヴィンセントはしばらく見つめていた。
やがて、低く呟く。
「……案外、悪いタイミングじゃなかったな」
チャットが片眉を上げる。
「気に入ったのか? あのおっさん」
ヴィンセントは肩をすくめる。
「信用してるわけじゃねぇ。
だが、“情報は出す、命令はしない”。
今の俺たちには、悪くない条件だ」
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