【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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 読んでくださっている人が少しずつ増えているようで、とてもうれしいです。
 数ある作品の中から、本作「潜誠(せんせい)の盾」を選んでくださってありがとうございます。

 本編は番外編を含め完結済みの作品のため、未完のままで終わることはありません。
 完結は9月23日予定。
 どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。


【番外編】ジョージの休日① –落ち着かない男

 

■午前 – そわそわの始まり

 

 朝4時――

 

 ジョージはベッドの上で目を覚ました。

 天井を見つめながら、しばらく動かない。

 

(……今日、明日、何もない)

 

 それはつまり、「やることがない」ということだ。

 

 体がなんとなく落ち着かない。

 ベッドに横になったまま、時計の秒針の音だけが耳に入る。

 

 5秒。10秒。30秒……

 

 長く感じる。

 

 結局、10分ほどで寝ていられなくなり、布団を跳ねのける。

 

(……とりあえず、コーヒーだ)

 

 タバコに火をつけた。

 

■午前 – 目的のない散歩

 

 コーヒーを淹れながら、ふとスマホを見る。

 新しい依頼の通知はない。

 

(まぁ、休みだから当然か)

 

 コーヒーを飲みながら、2本目のタバコを吸いながらリビングをウロウロする。

 ソファに座ったかと思えば、すぐに立ち上がり、窓の外を眺める。

 

(……散歩でもするか)

 

 ジョージは無意識にジャケットを手に取り、部屋を出た。

 

■昼 – 無意味な外出

 

 気づけば街を歩いていた。

 特に目的もなく、何時間も。ただ歩く。

 

 カフェの前を通りかかると、目が合った店員が「ヘイ!」と手を振ってきた。

 ジョージは軽く頷き、なんとなく店に入る。

 

「何にします?」

 

「アイスコーヒー」

 

「フードは?」

 

「……いらない」

 

 店内の隅に座り、ぼんやりと外を眺める。

 カップル、家族連れ、友人同士――楽しそうに話している人々を眺めながら、ジョージは無意識に指先でコップをなぞった。

 

(……なぜ俺にはこういうことができない?)

 

 コーヒーを飲み終わると、特に何をするでもなく店を出る。

 

■午後 – もう限界

 

 帰宅。

 

 しかし、部屋に入った途端、落ち着かなさが爆発する。

 

 タバコに火をつける。

 

 ソファに座る。

 30秒で立ち上がる。

 窓を開ける。

 閉める。

 床を軽く叩いてみる。意味はない。

 

(ダメだ)

 

 じっとしていられない。

 

(……ジム、行くか)

 

 ジョージはジャケットを掴み、再び部屋を出た。

 

■夕方 – ようやく落ち着く

 

 ジムに到着。

 

 黙々とサンドバッグを打つ。

 無駄な動きを削り、リズム良く拳を繰り出す。

 

(これだ)

 

 体を動かしている間だけは、何も考えなくて済む。

 依頼がない日でも、ジムに来るのは結局こういうことだ。

 

■夜 – ヴィンセントの電話

 

 シャワーを浴び、濡れた髪を無造作に拭きながら、冷蔵庫を開ける。

 そこには買い置きのプロテインバーと、数日前のサンドイッチ。

 

 ジョージはサンドイッチを手に取り、一口食べる。

 ……パサついているが、気にせず冷蔵庫の前で食べ終えた。

 

 その時――

 

 スマホが鳴った。

 

 画面には「ヴィンセント・モロー」の文字。

 ジョージは眉をひそめ、通話ボタンを押す。

 

「……何だ?」

 

「何だ、じゃねぇよ」

 

 ヴィンセントの声は呆れと苛立ちが混じっている。

 

「お前、今日休みだったろ?」

 

「ああ」

 

「何してた?」

 

「別に……コーヒー飲んで、街歩いて、ジム行っただけだ」

 

「……だと思ったわ」

 

 ヴィンセントが深いため息をつくのが分かった。

 

「で?何食った?」

 

「……ん?」

 

「朝は?」

 

「コーヒー」

 

「昼は?」

 

「コーヒー」

 

「夜は?」

 

「……サンドイッチ」

 

「それだけかよ!!」

 

 ヴィンセントの怒鳴り声に、ジョージはスマホを耳から少し離した。

 

「別に問題ねぇだろ」

 

「あるわ!! お前なぁ、なんで休暇になるとそんな食わなくなるんだよ!

 普通逆だろうが!」

 

「サンドイッチに……チキン入ってた」

 

「クソみてぇな言い訳してんじゃねぇ!」

 

「プロテインバーもある」

 

「それは食事じゃなくて間食だ!!」

 

「クッキーもあったが、食わなかった」

 

「なんでそこで減点方式になるんだよ!!」

 

 ヴィンセントの声がますます苛立っていく。

 

「いいか、ジョージ。

 腹がいてぇのは分かる。

 が、お前がクソみたいな食事してると、次の依頼入る前に倒れるぞ。

 ボディーガードが倒れたら話になんねぇんだよ!」

 

「……考えとく」

 

「ジョージ、お前さぁ……仕事入れたほうがいいか?」

 

「……別に、どっちでもいい」

 

「お前な……」

 

 ヴィンセントの声に呆れが滲む。

 

「お前が暇すると、俺の胃に悪いんだよ」

 

「知らん」

 

「いや、知れ。

 いいか、あと数日こんな生活続けたら、“お前は絶対にどっかで暴れたくなる”

 もうパターン読めてんだよ」

 

「……それで?」

 

「明日、マジでクソくだらねぇ案件がある」

 

「……どれくらいくだらねぇ?」

 

「ペットの散歩」

 

 ジョージは少し黙った。

 

「……なんのペットだ?」

 

「ピットブル」

 

「……大きいか?」

 

「50キロはある」

 

「……」

 

「やる?」

 

「……まあ、いい」

 

「オーケー、よし! 今から飯行くぞ。俺が奢る」

 

「いらねぇ〜」

 

「黙れ、決定事項だ。迎えに行くからそこで待ってろ」

 

 通話が切れた。

 

 ジョージはスマホをテーブルに置き、ふっと息をつく。

 

(……休みって、なんだろうな)

 

 結局、落ち着かずに動き回り、ヴィンセントに説教された一日だった。

 いや、むしろ余計に疲れた気がする。

 

 ふと、ジッポライターを取り出し、無意識に開け閉めしながら、ぼんやりと思った。

 

(……まぁ、飯くらい食いに行ってもいいか)

 

 火を灯し、そして消す。

 

 カチ、カチ――

 

 その音だけが、闇に小さく響いていた。

 

 

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