【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
「……また犬か?」
ジョージはΩRMのオフィスで、ヴィンセントから渡された書類を見つめた。
依頼内容:ハスキーの散歩(要注意)
依頼人:地元の不動産王(名前非公開)
犬の名前:アークティカ(約45kg)
注意事項:エネルギーが有り余っている
「……お前、俺を何の仕事人だと思ってる?」
「いや、俺だってこんな仕事持ってくるつもりなかったんだけどよ……」
ヴィンセントはタブレットをスクロールしながらため息をつく。
「最近、お前が犬に懐かれまくってるって話が犬好きの間で広まってな。『あの男に任せれば、どんな犬でも大人しくなる』って評判になってるらしい」
「……だからって、また犬の散歩か」
「今回の依頼主はマフィアじゃねぇから安心しろ。地元の不動産王だ」
「それが何の安心材料になるんだ?」
「……まあ、確かに」
ジョージは無言でメモを折りたたんだ。
どうやら、今日の予定は決まったらしい。
●初対面 – アークティカ(暴走機関車)
ジョージが指定された豪邸の前に立つと、すぐにスーツ姿の執事らしき男が出迎えた。
「ようこそお越しくださいました。アークティカは庭におります」
「……」
ジョージは庭へと案内された。
そして、目の前に現れたのは——
「……デカいな」
白とグレーの毛並みを持つ巨大なシベリアン・ハスキー。
体重は45kg超え、見た目はほぼオオカミ。
ハスキー特有の青い瞳でジョージをじっと見つめている。
そして——
「ウオオオオオオオオ!!!!!」
猛ダッシュで突っ込んできた。
ジョージは一瞬で状況を把握し、軽く足を踏み出すと、アークティカの動きを正面から受け止める形でリードを握った。
「……おい」
アークティカはピタリと止まり、ジョージの手元を見つめる。
「はしゃぎすぎだ」
ジョージが軽くリードを引くと、アークティカは一瞬キョトンとした後——
しっぽを振り始めた。
「……また懐かれた?」
執事が目を丸くする。
「お、おかしいですね……アークティカはいつも全力で暴れ回るのですが……」
「……」
ジョージはしっぽをブンブン振るアークティカを見つめる。
(……これは、もう流れが分かった)
「散歩に行くぞ」
ジョージがリードを引くと、アークティカはすぐに横についた。
暴れん坊と言われていたはずのハスキーが、完全に従順になっている。
「……信じられません」
執事が驚愕しながら見送る中、ジョージはアークティカを連れて屋敷を後にした。
◇
散歩中 – エネルギーの塊
「……」
ジョージは静かに歩きながら、アークティカを観察する。
ピットブルのブルータスとは違い、アークティカはとにかくエネルギッシュだ。
「走りたい!」という欲求が全身からにじみ出ている。
(……ハスキーは走るための犬だからな)
ジョージはしばらく考えた後、リードを少し緩めた。
「よし、走るか」
その瞬間——
「ウオオオオオオ!!!」
アークティカは大喜びで全力疾走を始めた。
(……やはりか)
ジョージはリードを握ったまま、一緒に走る。
ハスキーの足は速い。
普通の人間なら、引きずられるように転倒するだろう。
だが、ジョージは違った。
むしろ、アークティカと完全に同じペースで走る。
スムーズな足運び、無駄のないフォーム。
彼は軍のトレーニングで培った走力で、ハスキーのスピードについていっていた。
(……久しぶりにいい運動だな)
しばらく走ると、アークティカも満足したのか、ようやく落ち着いた。
ジョージの横にぴたりと寄り添い、ハァハァと息をつきながらシッポを振っている。
◇
帰還 – 不動産王の驚愕
「おかえり」
屋敷の門で待っていたのは、不動産王本人だった。
白髪でスーツを着た威厳ある男。
だが、彼の目は完全にアークティカに釘付けだった。
「……信じられんな」
「何がだ」
「アークティカが……こんなに大人しくなっているとは」
不動産王はジョージと並ぶアークティカを見下ろし、呆気にとられたような声を出した。
「いつもは興奮して飛びついてくるのに、お前の隣では完璧な散歩スタイルだ」
ジョージはアークティカを見つめる。
「……単に走らせればよかっただけだ」
「なるほどな」
不動産王は満足そうに頷くと、ポケットから札束を取り出し、ジョージに差し出した。
「いい仕事をした。報酬だ」
ジョージは札束を見て、一瞬黙る。
「……多いな」
「その価値はある。アークティカがこんなに従順になったのは初めてだ」
「……」
ジョージは札束を受け取り、不動産王に軽く会釈した。
「また頼んでもいいか?」
「……考えとく」
ジョージはそう言いながら、アークティカの頭を軽く撫でた。
アークティカは嬉しそうに、もう一度シッポを振った。
◇
ΩRM – ヴィンセントのツッコミ
「……お前、また犬に懐かれたのか?」
オフィスに戻るなり、ヴィンセントがツッコミを入れる。
「……そうなるな」
「どうなってんだよ……マフィアのピットブルに続いて、不動産王のハスキーまで……お前、もはや『犬のプロ』じゃねぇか」
「やめろ」
ジョージはため息をつきながら、無言で札束をテーブルに置いた。
「……まあ、稼ぎはいいみてぇだな」
ヴィンセントは苦笑しながら札束を見つめた。
ジョージはポケットのジッポを弄りながら、ぼそっと呟いた。
「……次は猫だったりしてな」
「マジでありそうだからやめろ」
ヴィンセントは本気で嫌な顔をした。
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