【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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【番外編】ジョージの休日③– ハスキー王

「……また犬か?」

 

 ジョージはΩRMのオフィスで、ヴィンセントから渡された書類を見つめた。

 

 依頼内容:ハスキーの散歩(要注意)

 依頼人:地元の不動産王(名前非公開)

 犬の名前:アークティカ(約45kg)

 注意事項:エネルギーが有り余っている

 

「……お前、俺を何の仕事人だと思ってる?」

 

「いや、俺だってこんな仕事持ってくるつもりなかったんだけどよ……」

 

 ヴィンセントはタブレットをスクロールしながらため息をつく。

 

「最近、お前が犬に懐かれまくってるって話が犬好きの間で広まってな。『あの男に任せれば、どんな犬でも大人しくなる』って評判になってるらしい」

 

「……だからって、また犬の散歩か」

 

「今回の依頼主はマフィアじゃねぇから安心しろ。地元の不動産王だ」

 

「それが何の安心材料になるんだ?」

 

「……まあ、確かに」

 

 ジョージは無言でメモを折りたたんだ。

 どうやら、今日の予定は決まったらしい。

 

 ●初対面 – アークティカ(暴走機関車)

 

 ジョージが指定された豪邸の前に立つと、すぐにスーツ姿の執事らしき男が出迎えた。

 

「ようこそお越しくださいました。アークティカは庭におります」

 

「……」

 

 ジョージは庭へと案内された。

 そして、目の前に現れたのは——

 

「……デカいな」

 

 白とグレーの毛並みを持つ巨大なシベリアン・ハスキー。

 体重は45kg超え、見た目はほぼオオカミ。

 

 ハスキー特有の青い瞳でジョージをじっと見つめている。

 そして——

 

「ウオオオオオオオオ!!!!!」

 

 猛ダッシュで突っ込んできた。

 ジョージは一瞬で状況を把握し、軽く足を踏み出すと、アークティカの動きを正面から受け止める形でリードを握った。

 

「……おい」

 

 アークティカはピタリと止まり、ジョージの手元を見つめる。

 

「はしゃぎすぎだ」

 

 ジョージが軽くリードを引くと、アークティカは一瞬キョトンとした後——

 しっぽを振り始めた。

 

「……また懐かれた?」

 

 執事が目を丸くする。

 

「お、おかしいですね……アークティカはいつも全力で暴れ回るのですが……」

 

「……」

 

 ジョージはしっぽをブンブン振るアークティカを見つめる。

 

(……これは、もう流れが分かった)

 

「散歩に行くぞ」

 

 ジョージがリードを引くと、アークティカはすぐに横についた。

 暴れん坊と言われていたはずのハスキーが、完全に従順になっている。

 

「……信じられません」

 

 執事が驚愕しながら見送る中、ジョージはアークティカを連れて屋敷を後にした。

 

 

 散歩中 – エネルギーの塊

 

「……」

 

 ジョージは静かに歩きながら、アークティカを観察する。

 

 ピットブルのブルータスとは違い、アークティカはとにかくエネルギッシュだ。

「走りたい!」という欲求が全身からにじみ出ている。

 

(……ハスキーは走るための犬だからな)

 

 ジョージはしばらく考えた後、リードを少し緩めた。

 

「よし、走るか」

 

 その瞬間——

 

「ウオオオオオオ!!!」

 

 アークティカは大喜びで全力疾走を始めた。

 

(……やはりか)

 

 ジョージはリードを握ったまま、一緒に走る。

 ハスキーの足は速い。

 普通の人間なら、引きずられるように転倒するだろう。

 

 だが、ジョージは違った。

 

 むしろ、アークティカと完全に同じペースで走る。

 スムーズな足運び、無駄のないフォーム。

 彼は軍のトレーニングで培った走力で、ハスキーのスピードについていっていた。

 

(……久しぶりにいい運動だな)

 

 しばらく走ると、アークティカも満足したのか、ようやく落ち着いた。

 ジョージの横にぴたりと寄り添い、ハァハァと息をつきながらシッポを振っている。

 

 

 帰還 – 不動産王の驚愕

 

「おかえり」

 

 屋敷の門で待っていたのは、不動産王本人だった。

 

 白髪でスーツを着た威厳ある男。

 だが、彼の目は完全にアークティカに釘付けだった。

 

「……信じられんな」

 

「何がだ」

 

「アークティカが……こんなに大人しくなっているとは」

 

 不動産王はジョージと並ぶアークティカを見下ろし、呆気にとられたような声を出した。

 

「いつもは興奮して飛びついてくるのに、お前の隣では完璧な散歩スタイルだ」

 

 ジョージはアークティカを見つめる。

 

「……単に走らせればよかっただけだ」

 

「なるほどな」

 

 不動産王は満足そうに頷くと、ポケットから札束を取り出し、ジョージに差し出した。

 

「いい仕事をした。報酬だ」

 

 ジョージは札束を見て、一瞬黙る。

 

「……多いな」

 

「その価値はある。アークティカがこんなに従順になったのは初めてだ」

 

「……」

 

 ジョージは札束を受け取り、不動産王に軽く会釈した。

 

「また頼んでもいいか?」

 

「……考えとく」

 

 ジョージはそう言いながら、アークティカの頭を軽く撫でた。

 アークティカは嬉しそうに、もう一度シッポを振った。

 

 

 ΩRM – ヴィンセントのツッコミ

 

「……お前、また犬に懐かれたのか?」

 

 オフィスに戻るなり、ヴィンセントがツッコミを入れる。

 

「……そうなるな」

 

「どうなってんだよ……マフィアのピットブルに続いて、不動産王のハスキーまで……お前、もはや『犬のプロ』じゃねぇか」

 

「やめろ」

 

 ジョージはため息をつきながら、無言で札束をテーブルに置いた。

 

「……まあ、稼ぎはいいみてぇだな」

 

 ヴィンセントは苦笑しながら札束を見つめた。

 

 ジョージはポケットのジッポを弄りながら、ぼそっと呟いた。

 

「……次は猫だったりしてな」

 

「マジでありそうだからやめろ」

 

 ヴィンセントは本気で嫌な顔をした。

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