【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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【番外編】ジョージの休日④ – セレブ猫

 

 

 午前 – ヴィンセントの怒り

 

 ΩRMのオフィス。

 ヴィンセントは朝からイライラしていた。

 

「おいジョージ! お前また妙な依頼が来てんぞ!」

 

 ジョージは無言でコーヒーを飲みながら、ヴィンセントの怒鳴り声を聞き流していた。

 休暇中だった。

 

 デスクの上には、依頼の詳細が書かれた書類が置かれている。

 

「……猫の世話?」

 

 ジョージが書類を拾い上げ、淡々と確認する。

 そこには 「高級ペルシャ猫・ルナのシッターをお願いします」 と書かれていた。

 

「お前のせいでΩRMがペットシッター会社になりかけてんだよ!」

 

「別に、仕事ならなんでもいい」

 

「それがダメなんだよ!!

 しかも今回の相手は、不動産王でもマフィアでもねぇぞ」

 

 ヴィンセントは書類を指でトントンと叩いた。

 

「依頼主は、『アマンダ・ル・ブラン』。お前、知ってるか?」

 

 ジョージは少し考えてから首を振る。

 

「知らない」

 

「ハリウッドのセレブだ。

 モデルで女優、ファッションブランドのオーナー、SNSのフォロワー1000万人越え……とにかく派手な女だ」

 

「……なるほど」

 

「今、仕事で国外に行ってるらしくて、ペットシッターも辞めてしまって……

 次を探す繋ぎの間、飼ってる猫の世話をしてほしいんだとよ。

 金は出すから、贅沢に世話しろってさ。マジでバカバカしいぜ……」

 

 ジョージは書類を読みながら、ふと眉をひそめた。

 

「……猫の名前、『ルナ・ル・ブラン』?」

 

「そうだ。飼い主と同じ名字ついてんのがまた痛いな……」

 

「……」

 

 ジョージは少し考えたあと、書類をテーブルに戻した。

 

「……まぁ、やるか」

 

「やっぱりかよォォォォォ!!!」

 

 ヴィンセントの絶叫がオフィスに響いた。

 

 

 午後 – セレブの猫と対峙

 

 ジョージは高級マンションの最上階にいた。

 エレベーターのドアが開くと、目の前には広々とした大理石のフロアと、ガラス張りのリビングが広がっていた。

 

(……これはまた豪勢な)

 

 依頼主の アマンダ・ル・ブラン は仕事で海外に行っており、彼女の秘書がジョージを迎えた。

 スーツ姿のスマートな女性が、丁寧に微笑む。

 

「ようこそ、ウガジン様。こちらがルナ・ル・ブラン様です」

「様?」

 

 ジョージが眉をひそめた瞬間、秘書が手を広げるように指し示した。

 そこにいたのは、白く長い毛をたなびかせた、見るからに気位の高そうなペルシャ猫だった。

 

「……」

 

 猫はジョージを一瞥すると、「フンッ」 という感じで顔を背けた。

 

「……こいつ、俺を見下してるな」

 

「当然です。ルナ様は選ばれた者しか信用なさいません」

 

 秘書は当然のように言った。

 ジョージはじっとルナを見つめる。

 ルナもジョージを見つめる。

 

(……この猫とは、相性が悪い)

 

 直感的にそう思った。

 

「ルナ様の食事は、フランス産のオーガニックチキンを使用した特別製キャットフード です」

 

 秘書が高級そうな缶詰を指さしながら説明を続ける。

 

「お水は、アルプスの天然水をミネラル調整した特注のもの しかお飲みになりません」

 

「……」

 

「お昼寝の時間は午後2時から4時の間。

 その間は決して騒音を立てないでください」

 

「……」

 

「そして、毎晩8時にはマッサージをして差し上げてください。

 特に背中の部分を優しく撫でると、とてもご機嫌になります」

 

「……」

 

 ジョージは目を閉じ、深く息を吐いた。

 

(……ヴィンセントがキレるわけだ)

 

 

 夜 – 最初の試練

 

 ジョージはルナの寝床の前で座り込み、猫と睨み合っていた。

 

「お前、俺のことを完全に舐めてるな」

 

 ルナはジョージの視線に気づくと、フンッとそっぽを向き、優雅に毛づくろいを始める。

 

(……こいつ、意図的にやってるな)

 

 ジョージは仕方なく、手元のキャットフードを皿に開けた。

 すると、ルナはチラリとそれを見たあと、「ニャッ」 という短い鳴き声を上げてから、プイッと背を向けた。

 

「……食わねぇのか?」

 

 ルナはチラッとジョージを見て、明らかに「違う」と言わんばかりに前足を揃えた。

 

「……は?」

 

 秘書が言っていたことを思い出す。

 

『ルナ様は気分が乗らないと召し上がりません。

 その場合は、手で直接差し上げてください』

 

「……マジか」

 

 ジョージは心底うんざりしながら、指でキャットフードをすくい、ルナの目の前に差し出した。

 ルナはしばらくジッと見つめた後……

 

「ニャッ(まぁ、仕方ないわね)」

 

 と言わんばかりに、ようやくペロッと舐めた。

 

(……なんだこの試練)

 

 ジョージは遠い目をしながら、次の一口を差し出した。

 

 

 ヴィンセントの爆笑

 

 数日後、ジョージがオフィスに戻ると、ヴィンセントが待ち構えていた。

 

「どうだったよ、セレブの猫は?」

 

 ジョージは無言でヴィンセントを睨んだ。

 だが、その表情から全てを察したのか、ヴィンセントはニヤリと笑う。

 

「お前、もしかして……手で食わせた?」

 

 ジョージの沈黙。

 

「……マジかよ!!

  ハハハハ!!!

 お前、ペルシャ猫に仕える下僕になってんじゃねぇか!!」

 

 ヴィンセントは腹を抱えて笑い崩れた。

 ジョージは心底どうでもよさそうに、コーヒーを一口飲んだ。

 

「……二度とやらねぇ」

 

「まぁ、次は犬の散歩の方がいいか?」

 

 ジョージは静かにコーヒーを置いた。

 

「……考えとく」

 

 ヴィンセントの笑い声が、オフィスに響いていた。

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