【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

28 / 161
016: 出資者キングスリーと、もう一つの顔

 ジョージはリッジラインの運転席に身を沈めた。

 さっきのやり取りが、まだ胸の奥に残っている。

 

 フロントガラスの向こう。

 ジムの出入り口を、無言で見つめた。

 

 キングスリーは、まるで自分の縄張りでも歩くように振舞っていた。

 スタッフも客も、彼を避けるように動いている。

 空気はどこか、張り詰めていた。

 

 ナンシーは笑顔を崩さなかった。

 だがその奥で、何かを押し殺しているのが見てとれた。

 

 キングスリーは、子のジムの出資者。

 だからナンシーは強く出られない。

 それは分かる。……だが。

 それだけで、あの圧にはならない。

 

 ――本当に、ただの出資者か?

 

 ジョージは頭の中で仮説を立てていた。

 

 ジムは都合がいい。

 金の出入りが自由で、深夜まで開けられる。

 目も届きにくい。

 

 そしてナンシーは偶然、その現場を目撃した。

 証言したのは、直接見た3人の顔だけ。

 

 だがもし、4人目がいたとしたら?

 

 それが、仮に、キングスリーだとしたら?

 

 ジョージの脳裏に、キングスリーの横柄な態度がよみがえる。

 ジムでの“俺の場所だ”という空気。

 ナンシーへの、あの歪んだ距離感。

 好きだと言いながら、支配しようとする男の目。

 

 執着と憎悪。その両方を、ジョージは見た。

 

(あの夜、キングスリーは現場にいた。

 そして、ナンシーの姿を見ていた。

 だがナンシーは、キングスリーに気づかなかった。

 彼女が法廷で証言したことを、裏切りと受け取った)

 

 表では恩人を演じ、裏では静かに圧をかける。

 ナンシーを“落とす”気など初めからない。

 

 ――飼い慣らすつもりだ。

 

 ジョージはスマホを取り出し、ヴィンセント宛に短く打ち込む。

 

 [キングスリーという男を調べてくれ]

 [ナンシーのジムに出資している。フロントの可能性あり]

 [麻薬案件と繋がってるかもしれない]

 

 送信。

 

 ジョージは車内で煙草を探しかけた。

 しかし、指が空を切る。舌打ちをした。禁煙中ということ忘れかけていた。

 代わりにジッポライターを取り出した。

 カチッ、カチッと無意味に弾く。

 

 キングスリーの態度。

 ナンシーの反応。

 ジムでの一件が、ただの前触れだとしたら――

 彼の“支配”は、まだ始まったばかりということになる。

 

 ナンシーと子供たちは、思っている以上に危うい場所に立たされているのかもしれない。

 

 

 仮眠をとっていた。

 10分ほど経ったころ、スマホが短く震えた。

 ヴィンセントからの返信だった。

 

[キングスリー、フルネームはビル・キングスリー]

[表向きは不動産業をやってるが、もう一つの顔がある]

[ナイトクラブ ・ドミニオンのオーナーだ]

 

 ジョージは画面を睨んだ。

 クラブ・ドミニオン。

 

 聞き覚えはない。

 しかし、嫌な予感はする。

 

 ナイトクラブがクリーンな顔でいられるのは、表向きだけ。

 ドラッグ、売春、洗浄済みのカネが行き交いがちだ。

 地下に染み込んだ闇は、そう簡単に洗い流せない。

 だが、今必要なのは勘じゃない。

 

 確証だ。

 

[クラブにドラッグの噂は?]

 

 送信。

 すぐさまヴィンセントからの返信。

 

[クラブ・ドミニオンでは薬物が出回ってるって話はあるが、証拠はなし]

[警察もマークしてるが、今のところ決定打はないみたいだな]

[ただ、あのクラブの内装、異様なほど豪華らしいぜ]

 

 ジョージは、口の中で言葉を反芻する。

 

「異様なほど豪華、か。

 収益だけじゃ届かないレベルの金が流れているな」

 

[それ以上の情報は?]

 

 ヴィンセントから

 

[今のところはここまでだ]

[お前、クラブに潜るつもりか?]

 

 ジョージは画面を見つめ、考えた。

 

 キングスリーがナンシーに執着している理由。

 彼のジムへの出資が、単なる“親切”ではない。

 別の意図がある。

 

 線の輪郭が見えてきた。

 

 本来なら、ここまで首を突っ込む必要はない。

 だが、この依頼は境界線が曖昧だった。

 

[しばらく様子を見る]

[だが、必要なら動く]

 

 ヴィンセントから、短く「了解」と返ってきた。

 

 ジョージはスマホを閉じ、シートに背を預けた。

 クラブ・ドミニオン。

 グレナンズ・フィットネスジム。

 

 仮説が確証に変わるのは、時間の問題だ。

 

 ジョージは時計に視線を滑らせ、エンジンをかける。

 リリーとジェシカの迎えに向けて車を走らせた。

 

 次の一手は、慎重に選ぶ必要がある。

 

 

あなたの年代と性別を教えてください。(読者の傾向を知りたい)

  • ~20代男性
  • 30~50代男性
  • 60代~男性
  • ~20代女性
  • 30~50代女性
  • 60代~女性
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。