【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
ジョージはリッジラインの運転席に身を沈めた。
さっきのやり取りが、まだ胸の奥に残っている。
フロントガラスの向こう。
ジムの出入り口を、無言で見つめた。
キングスリーは、まるで自分の縄張りでも歩くように振舞っていた。
スタッフも客も、彼を避けるように動いている。
空気はどこか、張り詰めていた。
ナンシーは笑顔を崩さなかった。
だがその奥で、何かを押し殺しているのが見てとれた。
キングスリーは、子のジムの出資者。
だからナンシーは強く出られない。
それは分かる。……だが。
それだけで、あの圧にはならない。
――本当に、ただの出資者か?
ジョージは頭の中で仮説を立てていた。
ジムは都合がいい。
金の出入りが自由で、深夜まで開けられる。
目も届きにくい。
そしてナンシーは偶然、その現場を目撃した。
証言したのは、直接見た3人の顔だけ。
だがもし、4人目がいたとしたら?
それが、仮に、キングスリーだとしたら?
ジョージの脳裏に、キングスリーの横柄な態度がよみがえる。
ジムでの“俺の場所だ”という空気。
ナンシーへの、あの歪んだ距離感。
好きだと言いながら、支配しようとする男の目。
執着と憎悪。その両方を、ジョージは見た。
(あの夜、キングスリーは現場にいた。
そして、ナンシーの姿を見ていた。
だがナンシーは、キングスリーに気づかなかった。
彼女が法廷で証言したことを、裏切りと受け取った)
表では恩人を演じ、裏では静かに圧をかける。
ナンシーを“落とす”気など初めからない。
――飼い慣らすつもりだ。
ジョージはスマホを取り出し、ヴィンセント宛に短く打ち込む。
[キングスリーという男を調べてくれ]
[ナンシーのジムに出資している。フロントの可能性あり]
[麻薬案件と繋がってるかもしれない]
送信。
ジョージは車内で煙草を探しかけた。
しかし、指が空を切る。舌打ちをした。禁煙中ということ忘れかけていた。
代わりにジッポライターを取り出した。
カチッ、カチッと無意味に弾く。
キングスリーの態度。
ナンシーの反応。
ジムでの一件が、ただの前触れだとしたら――
彼の“支配”は、まだ始まったばかりということになる。
ナンシーと子供たちは、思っている以上に危うい場所に立たされているのかもしれない。
仮眠をとっていた。
10分ほど経ったころ、スマホが短く震えた。
ヴィンセントからの返信だった。
[キングスリー、フルネームはビル・キングスリー]
[表向きは不動産業をやってるが、もう一つの顔がある]
[ナイトクラブ ・ドミニオンのオーナーだ]
ジョージは画面を睨んだ。
クラブ・ドミニオン。
聞き覚えはない。
しかし、嫌な予感はする。
ナイトクラブがクリーンな顔でいられるのは、表向きだけ。
ドラッグ、売春、洗浄済みのカネが行き交いがちだ。
地下に染み込んだ闇は、そう簡単に洗い流せない。
だが、今必要なのは勘じゃない。
確証だ。
[クラブにドラッグの噂は?]
送信。
すぐさまヴィンセントからの返信。
[クラブ・ドミニオンでは薬物が出回ってるって話はあるが、証拠はなし]
[警察もマークしてるが、今のところ決定打はないみたいだな]
[ただ、あのクラブの内装、異様なほど豪華らしいぜ]
ジョージは、口の中で言葉を反芻する。
「異様なほど豪華、か。
収益だけじゃ届かないレベルの金が流れているな」
[それ以上の情報は?]
ヴィンセントから
[今のところはここまでだ]
[お前、クラブに潜るつもりか?]
ジョージは画面を見つめ、考えた。
キングスリーがナンシーに執着している理由。
彼のジムへの出資が、単なる“親切”ではない。
別の意図がある。
線の輪郭が見えてきた。
本来なら、ここまで首を突っ込む必要はない。
だが、この依頼は境界線が曖昧だった。
[しばらく様子を見る]
[だが、必要なら動く]
ヴィンセントから、短く「了解」と返ってきた。
ジョージはスマホを閉じ、シートに背を預けた。
クラブ・ドミニオン。
グレナンズ・フィットネスジム。
仮説が確証に変わるのは、時間の問題だ。
ジョージは時計に視線を滑らせ、エンジンをかける。
リリーとジェシカの迎えに向けて車を走らせた。
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