【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

30 / 161
017:ジムに現れた“異物”を排除せよ

 ジムを出た後、キングスリーは苛立ちを隠せなかった。

 東洋系の小柄な男。

 名前も知らない。だが、あの無言の態度と「客だ」という一言だけで、自分の腕を押し返したことが、どうにも気に入らなかった。

 

 「……チッ」

 

 舌打ちしながら、ジムの前に停めていた黒いSUVへと向かう。

 運転席で待機していた手下が、スマホをいじっていたが、キングスリーの表情を見てすぐに姿勢を正した。

 

 「どうでした?」

 

 「……ナンシーのところに、妙な男がいた。目つきの悪い東洋系で、チビ」

 

 ドアを開けて後部座席に乗り込み、シートに深く沈み込む。

 手下がエンジンをかけながら、バックミラー越しに伺うような視線を向けた。

 

「ナンシーの男ってことですか?」

「……さあな。だが、ジムにいたし、俺の邪魔をした」

 

 キングスリーは眉間にシワを寄せ、拳を握りしめた。

 邪魔をされた――それが何より気に入らない。

 自分が手を伸ばせば、誰でも思い通りに動くのが当然だった。

 ナンシーも、例外ではない。

 彼女は最終的には、自分のものになる女だと決めつけていた。

 

 だが、あの男は何の感情も見せず、ただ静かに、あまりに自然に拒絶した。

 圧をかけても、動じる気配がない。

 怒鳴ってもいないのに、なぜかこちらが“下に立たされた”ような気分にさせられた。

 

 「怖いのか?」「お前は何者だ?」と問い詰めたくなるほど、あの無表情は――癪に障る。

 

「……調べろ」

「調べる?」

「今すぐだ。手を回せ」

「は、はい……で、でも、どうやって?」

「まずはジムの連中に聞け。あの東洋系の男が誰か、知ってる奴がいるはずだ」

 

 手下はすぐにスマホを取り出し、数人に連絡を入れ始めた。

 キングスリーはイライラと指で肘掛けをタップし続けながら、ジムを睨む。

 

「……もし、あの男がナンシーの味方なら?」

 

 口に出した瞬間、胸の奥でじりじりとした怒りが広がった。

 ありえない。ナンシーは自分に逆らえる女ではないはずだ。

 だが、もし――あの小柄な男がナンシーに力を貸しているのだとしたら?

 

(……いい度胸だ)

 

 キングスリーはニヤリと口元を歪めた。

 

 邪魔するなら、どうなるか教えてやる。

 女も、そのガキも、その周りにいる奴らも――

 すべて思い通りに動かせることを、骨の髄まで教えてやる。

 

「キングスリーさん、連絡つきました。

 ジムのスタッフによると、あの東洋系の男、名前はジョージ・ウガジンと言うそうです」

 

 手下が振り向きながら報告する。

 

「ΩRMの人間だそうです」

「ΩRM?」

 

 キングスリーは眉毛を上げた。

 

「聞かねぇ名前だな。民間軍事会社(PMC)か?」

 

「いえ、民間の護衛屋です。そこそこ腕は立つって噂ですが……」

 

 助手席の手下はスマホを見ながら、どこかおずおずと続けた。

 

「4年前に設立したばかりで、規模は小さいようです。

 代表はヴィンセント・モローという名前が……」

 

 キングスリーは冷たく睨んだ。

 

「……知らねぇな」

 

 吐き捨てるように言いながら、シートに深く背を沈める。

 SUVの中に、ピリピリとした空気が満ちた。

 

(無名の護衛屋……? 舐めた真似を……)

 

 心の中で煮えたぎる怒りに、指先がかすかに震える。

 

「で? そいつらが俺の邪魔をする理由は何だ」

「え、えっと……詳しくはわかりませんが、おそらく、ナンシー・グレナン個人が、依頼した可能性が高い、そういう情報が……」

 

 手下はビクビクしながら答えた。

 

「……ナンシーが、俺に刃向かうために、護衛を雇ったってわけか」

 

 キングスリーの声が一段低くなる。

 言葉に鋭い毒が混じった。

 手下は言葉を返せず、ただ小さく肩をすくめる。

 

 キングスリーはゆっくりと目を閉じた。

 深く、長い呼吸。

 

 だが――

 胸の内側では、爆発寸前の怒りが渦巻いていた。

 

(俺を、誰だと思ってる)

 

 金も、女も、力も――

 これまでは、欲しいと思えば手に入ってきた。

 だが今、初めて“届かない”感触があった。

 それを邪魔しようというのか、あの女と、得体の知れない護衛屋が。

 

 ……潰す。

 

 キングスリーはセンターコンソールをバンッ、と平手で叩いた。

 手下がビクリと身を縮める。

 

「……連中の情報を、徹底的に洗え」

 

 抑えた声だった。

 だが、銃の安全装置が外れる音よりも、不穏だった。

 

「家族、友人、恋人、金の流れ、過去の揉め事……全部だ。

 引っかかるネタがあれば、引きずり出して叩き潰す」

 

 手下は慌ててスマホを持ち直し、震えた声で答えた。

 

「……か、かしこまりました!」

 

 キングスリーは口の端をゆがめた。

 笑ったのではない。

 それは、殺意を押し殺すための、歪な動きだった。

 

(逆らった代償がどれだけ重いか――嫌というほど教えてやる)

 

あなたの年代と性別を教えてください。(読者の傾向を知りたい)

  • ~20代男性
  • 30~50代男性
  • 60代~男性
  • ~20代女性
  • 30~50代女性
  • 60代~女性
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。