【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
ヴィンセントは以前、ジョージに2週間の特別長期休暇を強制的に与えたことがある。
普段から激務をこなし、常に緊張感の中で生きているジョージを心配し、たまには休ませようとしたのだ。
「お前は働きすぎなんだよ! ちょっとはリラックスしろ!」
ヴィンセントはそう言いながら、半ば無理やりジョージのスケジュールを空白にした。
「休暇ってのは、仕事も世の中の喧騒も忘れてのんびりするもんだ。分かったか?
ハワイかどっかの南の島でも行って、ぼーっとのんびり過ごしてこい」
「……ああ」
ジョージは渋々頷いたが――
4日目、ヴィンセントの電話が鳴る。チャットだ。
「ヴィンセント・モローだ」
『やぁヴィン、お前の相棒、捕まってるぞ』
「……は?」
『逮捕だよ、逮捕。ポリスの中。カンカンよ』
「はぁぁぁ!?」
ヴィンセントは勢いよく立ち上がった。
「てめぇ、何の冗談だ!? どこで何があった!?」
『いや、こっちが聞きたいよ……』
チャットの声が、いつもの軽薄な調子で続く。
『俺も最初は耳を疑ったぜ? “ΩRMのジョージ・ウガジン、暴行の疑いで拘束” って報告が来た時はな』
ヴィンセントは頭を抱えた。
ジョージが、暴行で、拘束??
「任務中じゃねぇよな?」
『残念ながら、バリバリのオフだね。完全なる休暇モード』
ヴィンセントの眉間に深い皺が寄る。
「……で、何があった?」
『ざっくり言うと、アイツ暇すぎて治安の悪い地区をフラついて、絡んできた連中を片っ端からのしたらしい』
「……は?」
『チンピラ相手に10人KO。全員病院送り。
で、警察が駆けつけたら、アイツ普通に現場に座ってて、「お前もやるか?」みたいな顔してたってさ』
「Putain de merde!!(ふざけるな!!)」
ヴィンセントは思わず机を叩いた。
「アイツ何考えてんだ!!
休暇ってのはな、静かに過ごすもんだろうが!!」
『俺もそう思うよ。けどな、ヴィン……』
チャットの声が、少し真剣なトーンに変わる。
『これ、ただの喧嘩じゃねぇよ。アイツ、地下格闘技にまで手ぇ出してた』
ヴィンセントの動きが止まった。
「……何?」
『違法ファイトクラブ。金が目的じゃねぇ。アイツ、“戦うこと” が目的だった』
沈黙。
ヴィンセントは奥歯を噛みしめ、額を押さえた。
「……Putain(クソが)……」
『なあヴィン、俺たち、休ませる方がヤバいんじゃねぇか?』
ヴィンセントは受話器を握りしめたまま、どっか遠い目をした。
◇
警察署に駆けつけたヴィンセントが見たものは――
留置所のベンチに座り、ガリガリに痩せこけたジョージ。
服はボロボロ、目はやたらギラつき、顎には無精ヒゲ。
「おいおい……なんでこんな短期間でここまで落ちぶれるんだ?」
ヴィンセントが呆れながら話を聞くと、ジョージの言い分はこうだった。
「……暇だったんだよ」
「は?」
「暇でやることがない。だから、適当に治安の悪いところを歩いてたら、向こうから絡んできたんだ」
「……で、応戦した?」
「ああ」
「何人?」
「……10人くらい?」
「Putain de merde!!(ふざけるな!!)」
ヴィンセントは頭を抱えた。
「てめぇ、何でガラにねぇことしてんだよ」
「向こうから仕掛けてきたんだ」
「だからって普通10人ものすわけねえだろがぁぁ!!」
ヴィンセントはフランス語で罵詈雑言を吐き出した。
「俺が見つけなかったら、そのうち死んでたんじゃねえか……?」
ヴィンセントはジョージのやつれた姿を見て、背筋が寒くなった。
ろくに食べていないせいで痩せ、目はギラつき、様子は完全に獣。
「お前、休むとマジでヤバいことになるな」
「……」
◇
ΩRM社内、大騒ぎ。
ヴィンセントがジョージの逮捕を知った瞬間から、ΩRMは大混乱に陥った。
「ジョージが逮捕!?」
「えっ!? なんで!? どこで!? 何やったの!?」
「まさか任務中に!? いや、休暇中じゃなかったか?」
社員たちはパニック状態。
普段から冷静沈着で、「トラブルを未然に防ぐ側の男」 であるジョージがまさか逮捕されるとは誰も思っていなかった。
「ヴィンセント、何があったんだ?」
「オメーの相棒、まさかヤバいことしてねぇよな?」
ΩRMのオフィスは緊急事態モードに突入し、ヴィンセントはため息をつきながら事情を説明する。
「……休ませたら、暇すぎてわざと治安の悪い場所に突っ込んで、襲ってきたチンピラを10人ほどのしたらしい」
「……え?」
「……は?」
「いや、何してんのあの人……?」
「えっ、仕事じゃなくて……? 休暇中に?」
「野生化したの??」
「自主トレかな?」
「自主トレで警察に捕まるのか!?」
全員が頭を抱えた。
さらに話を聞くと、ジョージは地下格闘技にまで手を出していたことが判明。もちろん、違法だ。
ΩRMの社員たちは一斉にヴィンセントを見る。
「ボス……俺らの会社、違法ファイトクラブ運営してましたっけ?」
「してねぇよ!」
ΩRMはボディーガード会社であり、喧嘩屋ではない。
にも関わらず、そのトップクラスのエージェントが勝手にストリートファイトして、警察に捕まるという前代未聞の事態。
「何してんのよ、あの人……」
「ジョージさんって、普段はちゃんとしてるのに……
休ませると暴走するタイプだったのか……」
「野生化だな」
「ヤバい、ボス、これ会社の評判に響かねえ?」
「すでに手を回して釈放させる手筈は整えた。
んなぁこったぁーどうでもいい。問題はそこじゃねえ」
ヴィンセントは疲れた顔で続ける。
「もう二度とあいつに長期休暇は与えねえ。」
社員たちは深く頷いた。
ΩRMのオフィスには、一つの新たな社内ルールが追加された。
「ジョージに長期休暇を与えてはならない」
――そして、この事件は「ジョージの強制長期休暇事件」として、ΩRMの伝説の一つになった。
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