【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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019:お前どこの国の新兵だよ

 深夜。

 家の中が静まり返る。

 ジョージはその静寂の中で、自分の時間に移ることにした。

 

 台所の奥にあるガレージドアを開ける。

 暗闇が広がり、ほんのりと油の匂いが鼻をかすめた。

 壁際には工具箱と棚。

 ナンシーが使わなくなった雑貨が並んでいる。

 

 天井の蛍光灯を点ける。

 冷たい青白い光がガレージ内を照らした。

 ローグの横に置かれた小さな折り畳み椅子に腰を下ろし、ジョージは静かに息を吐いた。

 夜は冷えているが、それがちょうどいい。

 

 ゆっくりと背中に手を回す。

 ホルスターからHK P30SKを抜く。

 次に、胸元のホルスターからタクティカルナイフを取り出した。

 

 ジョージは、無言のままそれらを木製の作業台に並べ、静かに見下ろしていた。

 

 ◇

 

 ――10年前。ジョージ・ウガジン新兵時代。

 

 訓練場には、乾いた砂が舞い上がる。標的までの距離は50メートル。

 新兵たちが息を殺し、次々と引き金を引いていく。

 規則正しく響く銃声。

 撃つたびに「ターゲット、ヒット!」の声が飛ぶ。

 

 だが——

 

「ターゲット、ミス!」

 

 ジョージの射撃だけが、ことごとく外れていた。

 スコープ越しにターゲットを確認していた教官の軍曹が、露骨に眉をひそめる。

 銃のボルトを引きながら、ジョージは表情を変えない。

 

「おい、ウガジン……お前、ちゃんと撃ったか?」

 

「撃ちました」

 

「いや、どこにも当たってねぇんだけど?」

 

 横にいた兵士の一人が、こらえきれずに咳払いで誤魔化す。

 50メートルのターゲットをことごとく外す新兵なんて、ほぼ都市伝説レベルだった。

 

 軍曹が、ジョージの背後にズカズカと歩み寄る。

 

「……なぁ、お前の弾、どこ行った?」

「……たぶん外れました」

「フザけんな!!」

 

 怒声が訓練場に響く。

 ジョージは特に動じず、ただ銃を整える。

 兵士たちがヒソヒソと話す声が聞こえてくる。

 

「なぁ、こいつマジでどこ狙ってんの?」

「弾、別の次元に飛んでったんじゃね?」

「いや、ひょっとして警告射撃のつもりだったのか?」

 

 軍曹は深いため息をつき、額を押さえた。

 

「お前は日本人か? アメリカ人か?」

「……アメリカ人です」

「なら何でこんなに射撃が下手なんだ!?

 お前の家、銃禁止のヒッピー族か!?」

「いいえ」

 

 軍曹の苛立ちが加速する。

 

「お前の問題点をまとめてやる! 聞け!

 呼吸のタイミングがクソ!

 トリガーの引き方がクソ!

 構え方がクソ!

 狙い方もクソ!

 つまり、お前の射撃は——」

 

 ジョージは無表情のまま補足した。

 

「……クソ?」

「そうだ!!!」

 

 訓練場のあちこちで、必死に笑いをこらえる兵士たちの肩が震える。

 軍曹は拳を握りしめ、ジョージの肩をがっしり掴んだ。

 

「いいか、お前みたいなのは初めてだ……

 イチから叩き込んでやる!!」

「お願いします」

「ありがたく思え、クソ新兵!!」

 

 軍曹は屈み込み、ジョージの肩をガッと掴んだ。

 

「まず構えろ!!

  肩のラインをターゲットにまっすぐ合わせる!!

  クソが、何だそのフォームは!?

  俺の祖母でももっとマシな構えをするぞ!!」

「祖母さんも、軍人でしたか?」

「黙れ!!!」

 

 誰かが大笑いし、膝をついて崩れた。

 軍曹が、苛立たしげにジョージのライフルを正しく構え直させる。

 

「いいか……息を整えろ……

 トリガーは引くんじゃなく、押し込むように……」

 

 ジョージは指示通りに呼吸を整え、トリガーを引く。

 

 乾いた音が一発。

 

「……ターゲット、ヒット!」

 

 軍曹が腕を組み、深く息を吐く。

 

「ったく……お前、なんでこんなに不器用なんだ?」

 

 ジョージは無言のまま立ち上がり、ズボンに着いた砂埃を払った。

 

「僕、近接戦の方が得意でして」

「はぁ?」

 

 軍曹が目を細める。

 

「距離を詰めた方が、確実に仕留められるので」

 

 ジョージの声は淡々としている。

 だが、その発言を聞いた瞬間、兵士たちの表情が変わった。

 

「……え?」

「え、なに? こいつ距離詰めるのが好きなの?」

「ちょっと待って、それって……」

 

 軍曹の顔に、一瞬だけ 「マジで理解不能」 という表情が浮かんだ。

 

「……お前、もしかして……

 銃撃つより、ナイフのが好きとか言わねぇよな?」

「好きか嫌いかで言えば……

 そっちの方が慣れてます」

 

 軍曹は絶句した。

 訓練場が、不自然な静寂に包まれる。

 軍曹はしばらく沈黙し、ジョージの顔をじっと睨みつけた。

 そして、ゆっくりと腕を組み、口元を歪めた。

 

「……面白ぇ」

 

 ジョージは軽く眉を上げた。

 

 軍曹は口を閉じたまま、数秒間ジョージを睨んだ。

 空気が張り詰める。

 

「……今、ここで、接近戦が得意って証明してみろ」

 

 

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