【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る   作:冬蜂

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020:どこの時代から来たんだよ

 

「……今ここで、接近戦が得意って証明してみろ」

 

 訓練場の空気が変わった。

 射撃訓練をしていた兵士たちが、一斉にこちらを振り向く。

 

「軍曹、それマジっすか?」

「また始まったぞ……新兵がボコられるやつだ」

「接近戦で軍曹に勝てた奴、まだ誰もいないよな」

 

 兵士たちはヒソヒソと話しながらも、興味津々な様子で周囲を囲み始めた。

 

「ルールは簡単だ」

 

 軍曹はジョージの前に歩み寄り、ベルトからゴム製のナイフを抜いた。

 

「お前が俺に一本取れたら、お前の言い分を認めてやる。

 俺が勝ったら、お前は今後一切、口答えせず射撃訓練に集中しろ」

 

 ジョージはそのルールを聞いても、何の感情も示さなかった。

 ただ、淡々とゴムナイフを受け取る。

 

「どちらかが完全に制圧するか、俺が終わりと判断したら終了だ。いいな?」

「了解しました」

 

 ジョージが短く答えた瞬間、軍曹が仕掛けた。

 素早い踏み込みから、鋭いナイフの突き。

 新兵ならまず反応できないはずだったが——

 

「……お?」

 

 軍曹の攻撃は、紙一重でジョージに避けられた。

 

 ジョージは無駄な動きを一切せず、上半身だけをわずかにひねって刃を回避する。

 そして、そのまま軍曹の腕を掴み、流れるように体を入れ替えた。

 

「……ほぉ」

 

 軍曹の目がわずかに細められる。

 

 しかし、すぐさま態勢を立て直し、ジョージの肘を押し返すようにして距離を取る。

(反応が速い……だが、まだ新兵の動きだ)

 軍曹はそう判断し、次の一撃に移った。

 

 低い姿勢からのフェイント。

 ナイフを左に振ると見せかけて、素早く右のボディーブロー。

 

 普通の新兵なら、これで動きを止められる。

 ——だが、ジョージは動かなかった。

 むしろ、目を輝かせていた。

 

 軍曹の拳が迫る。

 その瞬間、ジョージの表情がふっとわずかに緩んだ。

 

 一泊、軍曹の視界が揺れる。

 ジョージはその隙に躊躇なく踏み込んだ。

 腕を取り、力の流れを崩す。

 重心を奪った。

 

「お、おぉっ!?」「マジか!」

 

 周囲の兵士たちがざわつく。

 軍曹の巨体が地面に倒れる。

 その直前、ジョージは腕を捻った。

 ラバーナイフの切っ先が喉に。

 

 ピタリと止まる動き。

 

「……」

 

 軍曹は仰向けになりながら、ジョージの表情をじっと見つめた。

 息一つ乱さず、冷静に軍曹を見下ろしている。

 

 ……いや、よく見れば、少し口角が上がっている。

 

「……楽しいか?」

 

 軍曹が低い声で問うと、ジョージは僅かに肩をすくめた。

 

「……まあ、嫌いじゃないですね」

 

 軍曹は呆れたように短く息を吐いた。

 

「クソが……お前、マジで新兵か?」

「はい」

「……」

 

 周囲の声が響く。

 

「やべぇな、チビのくせに……」

「いや、あのサイズだから逆に動きが読めねぇんだよ」

「しかも左利きだろ。タイミングずらされるんだ、あれ」

「芯がブレねぇんだよな……あんな細身でよ……」

 

 軍曹はジョージをにらみつけた。

 諦めたように大きく息を吐き、ゴムナイフを地面に叩きつけた。

 そのまま頭を抱えた。

 

「……クソ、ヤバいのがきちまったな……」

 

 ヒソヒソ声が聞こえてくる。

 

「マジで新兵か? こいつ……」

「近接戦が楽しい? え、そういう人いるんだ……」

「……どこの時代から来たんだよ、あいつ」

 

 軍曹は大きくため息をつき、ジョージの胸倉を掴んだ。

 

「いいかウガジン……近接戦が得意なのは、もう分かった」

「……」

「でもな、それとこれは別問題だ」

「……はあ」

 

 軍曹は額を押さえ、ひと呼吸ついてから叫んだ。

 

「お前は今日から、射撃訓練百発追加だ!

 毎日だ! 日課にしろ! 飯より先に撃て!!」

 

 ジョージは微動だにせず、ただ短く答えた。

 

「了解しました」

 

 その一言で、軍曹のこめかみがピクリと動いた。

 

「……お前なぁ……“了解しました”って言えば全部済むと思ってんのか!?」

「……いえ」

「じゃあ何か言え!!」

「…………感謝、してます?」

 

 兵士たちが肩を震わせ、誰かが吹いた。

 

「……クソがぁああああッ!!」

 

 ヴィンセントはそのやり取りを遠目に見ていた。

 唇と肩を小刻みに揺らしていた。

 

「……面白ぇ奴が入ってきたな」

 

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