【完結】潜誠の盾:元“処刑人”のボディーガード。シングルマザーを守る 作:冬蜂
食堂の喧騒は、ジョージにとって遠くで響く雑音に過ぎなかった。
金属製のトレイに乗せられた食事――ミートローフ、マッシュポテト、缶詰の豆――を淡々と口に運ぶ。
通路側の端。
左利きの肘が誰にもぶつからない場所。
それが、いつの間にか“落ち着く場所”になっていた。
味気ないが、別に味わおうとも思わない。
ただ、エネルギーを補給するための行為。
誰も寄り付かない場所。
それがジョージにはちょうどよかった。
だが、今日は違った。
周囲のざわめきの中に、確実に自分の名前が混じっていた。
それも、ひそひそとした囁きではなく、明らかに話題の中心になっている。
「あのちっこい新兵、軍曹をのしたらしい」
「マジかよ? あのバーンズ軍曹をか?」
「なんか柔道っぽい動きだったってよ」
聞こうとしなくても、耳に入ってくる。
ジョージは気にする素振りも見せず、黙々と食事を続ける。
スプーンを口に運んだその時、目の前に影が落ちた。
ジョージは視線を上げる。
そこにいたのは、大柄な黒人の男だった。
190センチ前後だろう。
ジョージの脳内で、警告音が鳴った。
本能的に背筋が強張り、皮膚の奥がざわつく。
圧倒的な体格。影が落ちるだけで、全身が反射的にこわばった。
喉が引きつりそうになるのを、無理やり飲み込む。
息を吐くふりをしながら、どうにか表情を崩さないようにした。
食堂の蛍光灯が、彼の肌をほんのり照らしている。
アフリカ系としてはやや明るめの褐色。
南部の陽射しを受けて熟れた土のような色合いだった。
瞳は黒に近いが、光の角度によってかすかにヘーゼルの混じる色がのぞき、目元の印象を柔らげていた。
軍服の上からでもわかる分厚い胸板と、無駄のない筋肉の流れ。
ただ、その体格に見合わぬほど、彼の動きにはゆとりと余裕があった。
周囲の兵士たちがざわめく中、彼は食堂の空気に流されることなく、自分のリズムだけでそこに“いた”。
他の兵士たちと違い、彼は驚いた様子もなく――ただ、興味深そうにジョージを見ていた。
「俺はヴィンセント・モロー」
ヴィンセントという男はお構いなく続ける。
「今日のアレ、見てたぞ。
すげぇな、新兵ジョージ・ウガジン」
ジョージは軽く眉を動かしたが、それ以上の反応は見せなかった。
「……どこで俺の名前を?」
「そりゃ聞いたさ。面白い奴の名前くらい、な」
ヴィンセントはそう言うと、迷いなくジョージの向かいに腰を下ろした。
トレイには、大量の食事。肉もポテトも、ジョージの3倍はある量だった。
ヴィンセントは、ジョージを見つめながら、ゆっくりと肉を頬張った。
そして、ジョージの小さな食事量を見て、眉をひそめる。
「おいおい、なんだその量。お前、鳥のエサか?」
ジョージはスプーンを止めたが、特に反応せずに答えた。
「食べる量は足りてます」
「嘘つけ。そんなもんで足りるわけねぇだろ」
ヴィンセントは豪快にポテトをかき込みながら、楽しそうに笑った。
「もしかして、味が気に入らねぇ?」
「……食に興味がないだけです」
ジョージの淡々とした返答に、ヴィンセントは目を丸くする。
「おいおい、軍にいる限り、メシは唯一の楽しみだぞ?」
「そうですか」
ジョージはまたスプーンを口に運ぶ。
ヴィンセントは目を細めた。
「つまんねぇ奴だな」
「よく言われます」
即答するジョージ。
その反応に、ヴィンセントはますます面白そうな顔をした。
「なぁジョージ、お前さ……何者なんだ?」
ジョージはスプーンを置き、無表情のままヴィンセントを見つめた。
「何者……?」
「そうだ。お前、ちっこい新兵なのに、やることがいちいちズレてんだよ」
「ズレてますかね」
「ズレてるな」
ヴィンセントは笑いながら、水を飲んだ。
「射撃はクソ、だけどチビのくせに近接戦は軍曹を転がすレベル。
しかも、メシはほとんど食わねぇし、話してても感情が読めねぇ」
ヴィンセントはジョージをじっと見つめた。
「俺の知ってる新兵とは、ぜんっぜん違うな」
ジョージは少しだけ目を細める。
「あなたは?」
「ん?」
「あなたは……普通の新兵ですか?」
ジョージの問いに、ヴィンセントは少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに破顔した。
「俺か? 俺は普通の軍人だよ。
——ただ、普通じゃない奴を見分ける目は持ってる」
ジョージは無言で視線を下げ、水を一口飲む。
ヴィンセントは、ジョージの微細な仕草を見逃さなかった。
「お前、過去に何があった?」
「……」
「いや、言いたくないならいい。
別に深掘りするつもりはねぇ」
ヴィンセントは大きく伸びをした。
「ただな——」
ジョージが視線を戻す。
「お前、なんか抱えてるよな?」
ヴィンセントの声は、どこか確信を持っていた。
ジョージは少しだけ、表情を引き締めた。
「……それは、関係ありますか?」
ヴィンセントは肩をすくめた。
「ないな。ただ、俺は面白い奴が好きなだけだ」
その言葉を聞いて、ジョージは再びスプーンを動かす。
「……変な人ですね」
「よく言われる」
ヴィンセントはケラケラと笑い、トレイの肉をまた一口頬張った。
「まあ、お前みたいな変わり者が軍にいるのも悪くねぇ」
ヴィンセントは少し目を細め、満足そうに笑った。
ジョージは呟くように言った。
「命に、所有感がないんです。
生きてるというより、“生かされてる”感じが強い。
だからせめて、使い道ぐらいは自分で決めたいと思った。
なんか意味を持たせないと……借り物にしては雑だなって」
ジョージは視線をコップの水に落とした。
「軍隊がたまたま最適解だっただけです」
ヴィンセントは一瞬だけ無言になった。
次の瞬間、声を出して笑った。
「ははっ!
お前頭良さそうに見えて、結構拗らせてんなー。哲学者かよ。
ますます面白れぇ!
気に入った!!」
ヴィンセントは笑いながら、ふと手を動かした。
親指と中指で、胸のあたりを軽くつまみ、それをジョージの方に押し出した。
ジョージは何も言わなかった。
それ以上、ヴィンセントは詮索しなかった。
しかし、その日の会話を、
あなたの年代と性別を教えてください。(読者の傾向を知りたい)
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~20代男性
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60代~男性
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30~50代女性
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60代~女性